アルゼンチンに次いで、トルコはIMFに支援を要請するか

著者:西田明弘
投稿:2018/09/07 18:27

年初から大幅下落となったペソとリラ

今年に入って、新興国経済の困難が目立っている。経済政策の失敗から今年100万%に達するとされるハイパーインフレに苦しみ、8月に95%の通貨切り下げと10万分の1のデノミに踏み切ったベネズエラはさすがに例外的かもしれないが、ほとんどの新興国通貨が米ドルに対して下落している。
米国で利上げが続けられるなど主要国で金融政策の正常化が進められるなか、新興国からの資金流出が懸念され、あるいは実際に資金が流出しているからだ。

とりわけ、下落幅の大きい通貨がアルゼンチンペソとトルコリラだ。ペソは対米ドルで年初から50%超下落し、リラも同じく40%超下落している(9月5日時点)。経常赤字や高インフレに対する懸念に加えて、財政規律や中央銀行の独立性が疑問視されていることも、両国からの資金流出に拍車をかけているようだ。

アルゼンチンは6月にIMF(国際通貨基金)と500億ドルの支援で合意した。それでも、通貨安に歯止めがかかっていない。8月末にアルゼンチンがIMF融資の前倒し実行を要請、さらには中央銀行が政策金利を60%まで引き上げるなど、依然として予断を許さない状況だ。

「アルゼンチンの次はトルコ」?

アルゼンチンに次いで、トルコへのIMF支援が不可避との指摘もある。トルコでは、インフレ高騰にもかかわらずエルドアン大統領の圧力によって中央銀行が思い切った利上げに踏み切れず(少なくとも市場はそう理解している)、それがリラ安をもたらし、一段のインフレ圧力を生むという悪循環が続いている。

今後もトルコリラ安が続けば、外貨建て債務を多く抱える企業の債務問題が噴出しかねない。当然、トルコの金融システムにも大きな打撃となる可能性がある。そして、仮にリラを買い支えようとしても、政府の外貨準備は十分ではない。

トルコとIMFの確執

トルコは1947年にIMFに加盟した。そして、1960年にIMFから融資を受けて「スタンバイ取り決め(*)」も交わした。その後も「スタンバイ取り決め」は順次更新されて、最終的にトルコはIMFから総額466億ドルの融資を受けている。
(*)不測の事態に備えて予め融資の額や条件を決めておくこと。

この間、トルコはIMFから「コンディショナリティ(支援の条件)」として緊縮政策や通貨切り下げなどを求められ、経済的な困窮が続いた。
そうした状況下で数度のクーデターを経験しており、当時を知る政府関係者は「失われた時代」として苦々しく記憶しているようだ。

2008年には、当時のエルドアン首相が第20次の「スタンバイ取り決め」を拒否して、IMFとの関係はいったん終了した。エルドアン首相はその前後から独自の経済政策によってトルコ経済の発展をもたらした。

したがって、トルコにIMFの支援が必要な状況だとしても、IMFに支援を要請することや、緊縮政策を条件とされることに対して、エルドアン大統領は強い拒絶反応を示しそうだ。

結局はリラ次第?

8月15日、エルドアン大統領はカタールのタミム首長と会談し、150億ドルの直接投資の約束を取り付けた。さらに、同20日には両国の中央銀行が30億ドルの通貨スワップ協定を締結した。やはり、エルドアン大統領にIMFに駆け込むつもりは毛頭ないようだ。
9月3日には、エルドアン大統領の娘婿にあたるアルバイラク財務相が、IMFに支援を要請しないと明言している。トルコは、中国やロシアにも支援を求めている可能性がある。

それでも、トルコが今後IMFの支援を必要とするかどうかは、最終的にリラ次第ではないか。米国との関係が改善に向かう、中央銀行が積極果敢な利上げを行う(中央銀行が利上げを示唆した9月13日の金融政策会合は要注目!)、あるいは緊縮的な財政政策へと舵を切る。それらによってトルコが市場の信認を取り戻すことができれば、リラは反発に向かい、IMFの支援は必要なくなるだろう。残念ながら、今のところそうなる可能性は高くない。
西田明弘
マネ―スクエア チーフエコノミスト
配信元: 達人の予想