2016年の倒産動向を振り返り、2017年の倒産について予測する。
【2016年の倒産件数(上場企業)】
倒産件数:0社〔2015年:3社〕 <前年比*倍(計算不可)>
直近10年間の上場企業の倒産件数と日経平均株価の推移は、下記の通りである。
『上場倒産件数と日経平均株価【大納会終値】の推移』
http://alox.jp/dcms_media/other/170118_stockkensuu.pdf
http://alox.jp/dcms_media/other/170118_relation.pdf
第2次安倍内閣が始まったのは、2012年12月26日である。
2013年以降、日本政府(日本銀行も含む)の施策により、株価は上昇し、上場企業の倒産件数は「極限」まで抑制されている。
【2016年の倒産件数(全企業)】
倒産件数:8,446社 〔2015年:8,812社〕 <前年比0.96倍>
負債総額:2兆61億円 〔2015年:2兆1,123億円〕 <前年比0.95倍>
全企業の倒産件数は、3年連続で10,000件以下である。
倒産件数という点では、“底にある”と言える。
中小企業は、金融機関の支払猶予(リスク)や保証付き融資によって、資金繰りがサポートされている。
昨年も指摘したが、現在の倒産件数は、バブル景気と同等、いやそれ以上に少ない。
(倒産ではなく、休廃業・解散した企業の数は2万9,500件以上も存在することを付け加えておく。)
http://alox.jp/dcms_media/other/170118_kensuu.pdf
【今年は?】
上場企業、全企業ともに、倒産件数は増加する。
〔ネガティブ要因〕
(1)トランプ大統領
トランプ大統領の誕生により、世界の秩序(あるいは常識)は揺らいでおり、正に「VUCA(ブーカ)※」と言え、きわめて予測困難な情勢だ。
※
Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)、の頭文字をつなぎ合わせた造語で現在の社会経済環境がきわめて予測困難な状況に直面しているという時代認識を表す言葉。
(参照元:日本の人事部 https://jinjibu.jp/keyword/detl/830/)
トランプ大統領の影響は、多岐に渡るため、3つに分けて掲載する。
No.1 トランプ第一(Trump first)
端的に言えば、トランプ氏の思考の優先順位は下記である。
トランプ > トランプ家族 > 米国 > その他
とにかく、主語はトランプである。
自分が勝つためには、民主党員にもなれば、無所属にもなれば、共和党員にもなったという経歴の持ち主であり、イデロギーや根本的な軸となる思想はない。
利益相反の批判を受けながらも自らの事業は息子に委ね、慣例とされていた納税申告書も開示しなかった。
「トランプにとって良い悪い」、それが判断基準である。
今は、米国のために動くことがトランプ氏にとっても最もメリットがあるだけに過ぎない。
ロシアのため、ドイツのために動くことが、トランプ氏にとって最上であれば、躊躇無く方針変更するだろう。
各国の首領、企業家がトランプ詣でに忙しいが、トランプ氏にとって好ましい国であり、人物でなければ会うこともできないだろう。
日本の米国向け輸出企業は、現時点ではトランプ氏にとって“悪”のため、徹底した情報収集とリスク管理が必要だ。
No.2 大統領令のTwitter化
大統領になる前はTwitterで発言していたが、就任後は、大統領令がTwitter化しており、矢継ぎ早に大統領令が発表されている。
<大統領令の一部(大統領覚書も含む)>
・オバマケア見直し
・TPPからの離脱
・パイプラインの建設プロジェクト
・中絶支援への補助金禁止
・連邦政府の採用凍結
・メキシコ国境に壁
・入国審査厳格化
米国がTPPに戻る可能性は低く、TPPは実質的に終わった。
日本がいくら説得しても、米国が「Yes,we can」と返答することはない。
日本政府の成長戦略は見直しが必須となった。
ベルリンの壁を想起させるメキシコ国境の壁については、信じ難いことだが、本当に大統領令が発せられた。
今後も、軋轢を生む大統領令が発せられる可能性は高く、監視が必要だ。
No.3 保護主義 - Buy American and Hire American -
トランプ大統領の基本方針は、「米国製品を買い、米国人を雇う」である。
簡単に言えば保護主義であり、極端に言えば、準鎖国政策と言える。
この実現のため、タブー視されていた「一つの中国」の原則の見直しに言及し、中国へ揺さぶりをかけている。
対中国向けの貿易赤字を削減するために、人民元安の是正を図るつもりだ。
当然、南シナ海の人工島も揺さぶるカードの1つとして利用されている。
中国人民元をターゲットにした「プラザ合意」※的な儀式がなされても不思議ではない。
中国以外では、日本やメキシコの貿易赤字やメキシコ経由米国向け製品も批判対象となっている。
日本の製造業や商社にとって、2017年の米国市場は、コストアップ要因となり利益を圧迫する可能性が高い。
※プラザ合意
1985年9月22日に合意された為替レート安定化の通称。ドル円レートは、235円から半年後には150円台で取引されるようになった。つまり、円安から超円高へ移行した。
(2)EUの斜陽
英国の離脱や米国のトランプ大統領の誕生によって、強烈な保護主義のトレンドが発生している。
この余波はEU諸国へ波及しており、イタリアやフランスでは移民制限を掲げる党が勢力を伸ばしている。
3月のオランダ総選挙や5月フランス大統領選は注目を集めており、特にフランスの大統領候補者であるマリーヌ・ルペン氏は、トランプ氏と同様の泡沫候補から、過激な発言が支持を得て有力候補となった。
2016年11月には、ルペン氏は「トランプ、プーチン、ルペンが組めば世界が平和になる」という発言をしており、反EUともいうべき連合ができる可能性がある。
移民対策に苦労しているドイツのメルケル首相の影響力が低下している中、EUの結束を強める人材はいない。
世界最強の米国のトランプ大統領が「二国間自由貿易協定を推進する」と表明していることから、TPPなどのようなグループや連合間の協定は、行き詰まっている。
EUという最強のグループも、かつてない危機に直面するかもしれない。
EU(イギリスを含む)に関連会社や提携企業のある企業は、戦略見直しを迫られる可能性がある。
(3)世界のパワーバランスの変調
南シナ海や台湾を巡る米中の小競り合い、ロシアが米国(トランプ氏)やフランス(ルペン氏)と接近、イスラエルの米国大使館移転に絡む米国・イスラエル対中東諸国など、火の手が上がっている。
全ての紛争の監督兼主演は、トランプ大統領であることが特筆すべき点だ。
ちなみに、米中の争いには、フィリピンのドゥテルテ大統領が助演する可能性が高く、一触即発の事態が起きかねない。
日本にとっては、南シナ海周辺の海路の確保がなければ安定した貿易ができないのは言うまでも無く、大国の動きに右往左往することとなるだろう。
(4)人口減の日本
何年前から言われていることだが、日本の人口減少に歯止めがかからない。
ほぼ単一民族国家でることに拘りがあるため、移民の受け入れ予定もない。
日本は、先進国の中でも最も人口が減るスピードが速く、2100年には8500万人(現在は1億2600万人)という推計もある。
ちなみに、日本はGDPの85%が内需である。
もちろん、85%の全てが純粋な内需という訳ではないが、国内向けに製品販売で事業を成りたたせている企業が多数存在するのは間違いない。
人口の減少は、事業の担い手や消費者の不在を意味することから、国内の消費に依存する企業は、衰退の道を辿る事となるだろう。
一方、「イノベーションによって、日本は人口が減少しても経済成長する」という説がある。
しかし、イノベーションの多くは、人が行っていることをロボット(AIも含む)が代替したり、効率化するものであり、企業にとっては従業員を少なくできるというメリットがある一方、その結果として失業となる人も増え、消費活動の低迷を招くものでもある。
人口減少でも経済成長を実現するには、外需の比率を増やすことが必須だが、内需が減り続ければ日本の国柄の維持も難しい。
とくかく、即効性もありつつ長期的な人口増プランが必要なのは言うまでもない。
内需に依存している企業は、消費者1人当たりの売上高を増やすか、コスト削減を行わなければ利益の計上が難しくなるのは自明だ。
また、多くのアルバイトやパートを活用している小売業は、「同一労働同一賃金」が社会通年となった場合、かなり厳しい立場に陥ることも付け加えておく。
(参照元:世界経済のネタ帳 日本の人口の推移(2012~2021年)>
http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=LP&s=2012&e=2021&c1=JP
〔ポジティブ!?要因〕
(1)盤石の安倍政権
今の野党に安倍政権を覆す力は皆無のため、日本の政治はほぼ無風状態となる。
年の途中で衆議院の解散総選挙となる可能性は高いが、自民党が負けることは考えにくい。
恒例ではあるが、円安や企業業績を背景に、安倍政権は経団連等へ個人の給与・賞与のアップを要請する。
大手企業の従業員の給与や賞与はアップするため、若干、個人消費が少しだけ上向くかもしれない。
(2)日本銀行による6兆円のETF購入
日本銀行は、いわゆる「黒田バズーカ」と言われた国債買い入れや資金供給量の増加を止め、長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」へ政策転換した。
しかし、ETFの購入は継続して行うこととなっており、マーケットへ年間6兆円も投入する。
隠れ大株主の日本銀行によるETF購入によって、株価は一定の維持がなされることになるだろう。
(3)規制緩和や新技術
「統合型リゾート(IR)整備推進法」や「2017年4月からのガスの自由化」、VR(バーチャルリアリティ)・ AR(拡張現実)の分野、仮想通貨(ブロックチェーンを絡めたフィンテックなども含む)に関わる企業は、上げ潮と言っても良いだろう。
【総括】
トランプ大統領の言動や政策は、トランプ第一(Trump first)であり、米国第一(America first)である。
交渉相手の立場は二の次三の次のため、多くの敵を生む。
それゆえ、世界はギスギスとして、暗殺やテロ、戦争が跋扈する時代となる可能性を秘めている。
残念ながら、日本は独自の政策や手段で世界を動かす力はないため、世界のトレンドに合わせるしかない。
つまりは、トランプ大統領の政策に合わせて、踊らざるをえない。
受動態である日本は、トランプ大統領次第という点であることを考慮すると、今年は下記の倒産件数を予想する。
(調整幅については、トランプ大統領の影響が良い悪いのどちらに傾くのか不明のため、例年より広くさせて頂いた。)
<倒産件数>
〔上 場〕 → 4(±3)
〔全企業〕 → 8,500(±1500)
※ 参照資料
・東京商工リサーチ 『2016年(平成28年)の全国企業倒産8,446件』
http://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2016_2nd.html
・週刊東洋経済 『2017年大予測』
・日経ビジネス 『徹底予測2017』
・週刊ダイヤモンド 『2017総予測』
・週刊エコノミスト 『世界経済総予測2017』
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