【Alox分析】今年の倒産を予測する – 2016年 –

著者:塙 大輔
投稿:2016/01/26 14:59

2015年の倒産動向を振り返り、2016年の倒産について予測する。

【2015年の倒産件数(上場企業)】
倒産件数:3社〔2014年:0社〕 <前年比*倍(計算不可)>

昨年倒産した上場企業は下記の通りである。

01月28日 スカイマーク(9204) 空運業
04月30日 江守グループホールディングス(9963) 卸売業
09月29日 第一中央汽船(9132) 海運業

倒産件数は、2014年の0件から3件と増加したが、依然として低水準であることには変わりがない。

ちなみに、スカイマークは全日本空輸、江守グループホールディングスは興和グループがスポンサーとなった。第一中央汽船については、「スポンサーが決まった」というリリースはない。

【2015年の倒産件数(全企業)】
倒産件数:8,812社   〔2014年:9,731社〕   <前年比0.90倍>
負債総額:2兆1,123億円  〔2014年:1兆8,740億円〕 <前年比1.12倍>

昨年と同様に10,000件以下の低水準である。
東京商工リサーチによると、25年ぶりに9,000件を割り込んだという話だ。

“異例”の事態であることは間違いない。

金融機関は、金融庁の指導のもと、中小企業金融円滑化法を実質的に延長しており、中小企業の資金繰り援助に前向きな対応をした。

昨年も指摘したが、現在の倒産件数は、バブル景気と同等、いやそれ以上に少ない。

政府(金融庁)、日本銀行の政策によって、倒産件数が抑制されているのは間違いなく、その反動を考えると恐ろしい。(倒産ではなく、休廃業・解散した企業の数は2万6,699件も存在することを付け加えておく。)

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http://alox.jp/dcms_media/other/160114_kensuu.pdf

【今年は?】
上場企業、全企業ともに、倒産件数は増加へ転じる。

ネガティブ要因

(1)米国の利上げ
米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)は、9年半ぶりとなる金利の引き上げを決めた。

米国は、“全開だった蛇口”を少し閉めた。堅調な国内景気を背景に、FRBは「金利を上下させる手段」を再び手にしたかったのだろう。

「蛇口が閉まれば、水を飲めない人々(資金調達難の企業)」が出てくるのは、至極当然のなりゆきだ。

FRBは、「好景気ゆえに、蛇口が少しぐらい閉まっても大丈夫だろう」と高を括ったわけだが、年初から世界の政治経済は大混乱であり、「水が飲めない、つまり資金調達できない企業」が出てくる可能性は高い。

最も倒産リスクの高い企業は、原油安によって採算割れのシェールオイル関連企業である。

これらの企業は、資金調達手段として、金利の高い債券(ハイイールド債)を発行している。

原油の下落によって、シェールオイル関連企業の信用リスクが増大し、ハイイールド債は大幅に下落した。

2015年12月には、ハイイールド債の運用を行っていたファンドが破綻するといった事態も発生している。

日本企業においても、シェールオイルに参入している企業が存在する。
おそらく、それらの企業は減損会計の適用を“必須の要件”と考えているだろう(すでに減損会計を適用している企業もある)。

米国の利上げは、世界中の企業の資金調達に影響を与える事象であることは間違いない。

(2)「公的な金融支援の縮小」と銀行の再編
中小企業再生支援協議会では、中小企業金融円滑化法終了後の支援措置として、3年間の暫定リスケという手法で中小企業の再生支援を行なっている。それが2016年3月31日で終了する。

また、経済産業省は2015年12月10日、資金繰り円滑化を支えている信用保証制度の見直しに向けた方向性を固めた。

一律で融資の8割を保証する一般保証(責任共有制度)の仕組みを、企業のライフステージや業況、業歴などの状況に応じて保証割合を弾力化する。セーフティーネット保証(100%保証)制度も見直される予定という話である。

この結果、銀行は融資先企業が破綻した場合、実損は2割だったものがケースによっては5割になるということである。

一方、地銀は、金融庁の指導によって、合従連衡を画策せざるを得ない状況のため、合併・提携先よりも、良い資産(貸出先)を確保するというモチベーションは高い。

つまり、融資先の選別を行い、不良懸念先は子会社への付け替え等の措置が取られる可能性がある。

信用保証制度が変わった場合、銀行は今までよりも融資姿勢が厳しくなるのは当たり前である。

そのしわ寄せが、既存の融資先評価にも波及する可能性がある。

また、銀行は営業上・もしくは同じグループという理由に基づき、上場会社の株を保有しているが、昨今の株価暴落で有価証券の価値は下がっている。

有価証券評価損を抱えた銀行は、損失を減らすべく優良取引先の開拓とともに、「不良取引先の精査」を行うことが予想される。

(3)原油安と中東の混乱
サウジアラビアとイランの対立は、シーア派とスンニ派の宗教対立である。イスラエルとアラブ諸国の関係を見れば分かるとおり、宗教対立は一朝一夕で解決することはない。

通常、地政学リスクの高まりによって、原油価格は上昇する。だが、サウジアラビアはアメリカのシェールオイル企業とチキンレース中※のため、原油価格は下がり続けている。

下がり続ける原油価格によって、アベノミクスの掲げる「2%の物価安定の上昇」は、静かにフェードアウトした。

政府は、円安・株高・物価上昇・減税の“見返り”として、企業に対して賃金アップの協力を求めているが、昨今の報道を見る限り、企業は及び腰のようだ。

賃金が上がらなければ、消費が伸びないのは自明であって、中国の景気が軟調に転じたため、爆買いにも期待はできない。

耳をすますと、遠くからデフレの足音が聞こえてきそうだ。


OPECの盟主であるサウジアラビアが、原油下落に対応するために「原油を減産する」といった措置をせず、シェアを維持することを優先し、薄利となることを承知の上で、原油を増産し続けていること。

その結果、手元資金が少なくなったため、中東の政府系ファンドは2016年になってから日本株の売却を実施したという。

また、チキンレースの煽りを受けた原油依存度の高いロシア経済が、急減速していることを付け加えておく。


(4)円高と株安
ドルに対して円が1円上昇するだけで、輸出企業の利益は減少する。

最も影響の大きい自動車メーカーは、数百億円の為替差損を計上しなければならない。

輸出企業の利益が少なくなれば、税収も下がるため、アベノミクスにも大打撃となる。

また、冒頭にも記載した通り、株安によって有価証券評価損の多発が避けられない情勢だ。

株安によって、企業が保有する資産価値は減少している。

保有する有価証券を担保に資金を借りている企業や投資を行っている企業は、苦境に陥ることが予想される。

(5)排他主義の台頭
当初、過激な発言をするフランスのル・ペン氏、アメリカのトランプ氏は、国民から相手にされなかった。

しかし、今は両氏ともに、テロの脅威や難民問題に対して過激な発言を行っても、受け入れられており、国民が聞く耳を持っている。

かつて、大混乱から国民の支持を急速に集めて、ナチス政権が誕生した。

昨今の国際社会のつながりが強固になった西側世界において、ナチス政権のような“怪物”が誕生することはないだろう。

しかし、当初は“ギャグ”として扱われていたトランプ氏が、有力な大統領候補となっていることは、一抹の不安を覚える。

同調圧力の強い日本では、極左や極右の発言するだけで異端扱いされるため、トランプ氏のような人が政治家になれる可能性は低い。

排他主義が日本企業の倒産件数を左右するものではないが、排他主義者の増加に比例して、世界は緊張状態を増すことになる。

サウジアラビアとイラン、韓国と北朝鮮のような一触即発の関係が増えることは、景気に良い影響を与えない。


さすがに、トランプ氏が共和党の大統領候補者になることは考えにくい。
ただ、私は、トランプ氏以外の共和党候補者の顔と名前が、瞬時に浮かばない。

(6)中国経済の軟調と南シナ海における軋轢
中国は、「工業中心の産業構造」から、「サービス業中心の産業構造」へ移行中である。

しかし、“世界の工場”から“世界の消費者”へ移行するにあたって、大量に余る工業系人材がいる。

おそらく、中国政府は、それらの人々の仕事場をアジアインフラ投資銀行(AIIB)の紐付きで営業を行っている海外のインフラ輸出を充てるつもりだろう。

日本は高速鉄道計画をインドネシアへ提案したが、格安提案の中国に負けた※。今後も、このような事態が、アジアで起こる可能性がある。

また、中国は、南シナ海において、米国・フィリピン・マレーシア・ベトナムと対立している。

米国は「航行の自由作戦」を実施したが、この「航行の自由」が本当に妨げられる事態が発生した場合、原油価格へのインパクトのみならず、リーマンショック並の影響をマーケットに与えることになるだろう。


中国が、受注した高速鉄道計画などを無事に完工し、保守サポートができるかどうかは別の話として存在する。

ポジティブ!?要因

(1)参議院選挙と消費税10%への対応
2016年7月頃、参議院選挙が実施される予定である。(衆参同時選挙の可能性もあり)

選挙前の6月ぐらいまでに、自民党安倍政権としては、アベノミクスの成果をアピールできる環境を整えておかなければ、選挙を戦えない。

また、2017年4月から実施予定の消費税10%に対応するためには、何としても、景気を良くしなければならない。

つまり、選挙や増税前に、アベノミクスがいかに効果を上げてきたか、アピールする必要がある。

それゆえ、このまま株価が低迷すれば、躊躇なく日本銀行による国債、上場投資信託(ETF)、不動産投資信託(REIT)等の巨額購入(黒田バズーカ)が発射されるだろう。

(2)異次元緩和の継続
日本銀行の黒田総裁は、事あるごとに、「必要と判断すればさらに思い切った対応を取る用意がある」と発言している。

それゆえ、今年も黒田バズーカが発射されるだろう。

しかし、異次元緩和の代表格である黒田バズーカも、何度も何度も発射された結果、すでに異次元の効果は期待できない。

また、「発射されるだろう」と市場関係者は思っているため、市場関係者の予想を超えるような大盤振る舞いでなければ、バズーカではなく、“水鉄砲レベル”の効果となる可能性がある。

ちなみに、異次元緩和を続けた結果、日本銀行の総資産は、164兆円(2013年3月期)から366兆円(2015年9月期)へと2.2倍となった。

増加要因の大半は、国債の約184兆円、上場投資信託(ETF)の5兆円増加である。

この数値を見る限り、アベノミクスを支えているのは、日本銀行であることは間違いない。

〔参考〕
『上場倒産件数と日経平均株価【大納会終値】の推移』

大納会終値 上場企業倒産件数
1999年 18,934 6
2000年 13,786 12
2001年 10,543 14
2002年 8,579 29
2003年 10,677 19
2004年 11,489 11
2005年 16,111 8
2006年 17,226 2
2007年 15,308 6
2008年 8,860 33
2009年 10,546 20
2010年 10,228 10
2011年 8,455 4
2012年 10,395 6
2013年 16,291 3
2014年 17,450 0
2015年 19,033 3
2016年

 
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http://alox.jp/dcms_media/other/160114_stockkensuu.pdf
 
 
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http://alox.jp/dcms_media/other/160114_relation.pdf
 
 
(3)新キーワード分野とリオ五輪
ドローン、フィンテック、人口知能、マイナンバー、電力自由化、ハラールに関連する企業は、時流を掴んで飛躍する。

ただし、ITや太陽光バブルと同様に、玉石混交の企業が乱立するため、いずれは各キーワードごとに数社の会社に収斂するだろう。

また、スーチー氏が実権を握ったミャンマー、8月のリオ五輪も、日本経済に好影響を与えるものと思われる。

【総括】
新規上場企業が増えていることは、日本経済にとって喜ばしい。
歴史を振り返ると、直近ではITバブルの頃に、急増した。
しかし、その後、ITバブルがはじけ、IT企業の粉飾や倒産が相次いだのは周知の事実である。

特に、ライブドア、アイ・エックス・アイ、平成電電(非上場)の倒産は話題になった。

当時、よく耳にした「上場ゴール」といった言葉を、昨今も耳にするようになった。
月並みだが、歴史は繰り返す。

上記の要因や過去からの推移、ポジティブ要因の少なさから、今年は下記の倒産件数を予想する。

<倒産件数>
〔上 場〕    →  6(±1)
〔全企業〕    →  10,000(±1000)

 
※ 参照資料
・東京商工リサーチ 『2015年(平成27年)の全国企業倒産8,812件』
http://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2015_2nd.html
・週刊東洋経済   『2016年大予測』
・日経ビジネス    『徹底予測2016』
・週刊ダイヤモンド  『2016総予測』
・週刊エコノミスト  『世界経済総予測2016』
・世界経済のネタ帳 『原油価格の推移』
http://ecodb.net/pcp/imf_group_oil.html
・世界経済のネタ帳 『世界の石油輸出額ランキング』
http://ecodb.net/ranking/ts_oile.html
・モーニングスター 株式指標
http://www.morningstar.co.jp/RankingWeb/IndicesTable.do
 

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配信元: みんかぶ株式コラム