花の一里塚~市場見通しサマリー
2015年6月1日時点での主要市場見通し
基本シナリオと見通し数値について
結論として、中長期楽観、短期警戒を変更しない。
大枠として、世界的に景気は持ち直しを持続している。米国の1~3月期のGDPが下方修正されるなど、過去のデータは厳冬・大雪や港湾ストの悪影響が表れているが、米国経済は徐々にそうした一時的な落ち込みから持ち直している。日本経済も、徐々にではあるが、昨年の消費増税の影響から脱却してきており、企業収益も増益だ(ただし中国の経済動向については懸念している)。
市場動向については、米国株価の買われ過ぎを指摘してきた。実際、徐々に欧米等主要国の株価が天井圏を形成しつつある。日本株はそうした海外株の動向を無視するように上がり続けているが、物色面でも材料面でも危うさが募るばかりとなっており、かえって当面の国内株価動向を悲観視している。
米ドルも対円で急伸した。まだ日米政府等による相場牽制は穏やかなものにとどまっているが、米国は足元で米ドル高を容認しがたい状況にあり、いずれ米ドル相場の重石となってくるだろう。
こうした点から、中長期的には内外株価や外貨の対円相場が、実体経済に沿って上昇すると予想する(その結果、今年末の日経平均株価や米ドル円相場が、現時点より高くてもおかしくないと考える)が、短期的には一旦の株安・円高局面を経由すると見込んでいる。
具体的な予想レンジの修正については、2015年6月末までの予想については、予想期間末までの時間が短くなった(6月末まであと1か月を切った)ため、日経平均、米ドル、豪ドルについて、予想レンジの幅を縮小した。また、米ドルについては、これまでの予想レンジ上限を上抜けてしまったため、それに応じた修正も行なった。
すなわち、2015年6月までの予想レンジを、前号(5月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 18500~21000
10年国債利回り(%) 0.25~0.7 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 105~122 ⇒ 115~125
ユーロ(対円) 127~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 88~110 ⇒ 88~105
2015年12月までの予想レンジについては、大きな修正は行なわない。足元の相場水準に合わせて、国内長期金利、ユーロ、豪ドルの下限を若干下方修正する(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.5~1.7 ⇒ 0.3~1.7
米ドル(対円) 105~125 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 135~160 ⇒ 130~160
豪ドル(対円) 95~120 ⇒ 90~120
シナリオの背景
・世界の主要市場の動向について、短期警戒(世界的な株安、円高)、中長期楽観(世界的な株高、円安・外貨高)を予想する。
・世界的には、景気は持ち直しを持続している。米国では、1~3月期の実質成長率(前期比ベース)がマイナスに修正されるなど、足元の景気の強さについて疑念が生じている。しかしこれは、昨年と同様の厳冬・大雪による経済活動の停滞や、西海岸の港湾ストの影響(※1)が大きいと推察されている。米国の主要な経済指標のなかでは、鉱工業生産はもたついているが、他の指標は底入れとも見える動きを示している(図表1)。
(図表1)
・日本国内も、昨年最大の悪材料は、消費増税による国内消費の冷え込みであった。消費者心理を表す消費者態度指数は、増税直後の2014年4月に加えて、11月も「二番底」の様相を示し、消費者心理改善の遅れを示していた(図表2)。しかしようやく心理改善が徐々に明確になってきている。この背景にはベースアップが力を貸していると推察され、2015年、2016年と、消費増税なしのベア2回を経由して、内需の緩やかな回復基調が持続しよう。
・一方で、円安が進展している割には輸出数量の伸びが相変わらずはかばかしくない(図表3)。ただし輸出企業は、数量が伸びなくとも採算面では円安のプラス効果を享受していると考えられる。企業業績は、今年度(2016年3月期)も10%強の増益が見込まれるため、こうした企業収益の改善が中長期的な国内株価の支持要因として働くと期待できる。
※1 西海岸の港湾ストについては、労使双方が、新しい労働協約に5月20日に合意し、現在では荷役作業も正常化している。なお、荷役の正常化は、労使の暫定合意が結ばれた2月20日から、ゆっくりと進んではいた。
(図表2)
(図表3)
・ただし主要国で、中国経済の動向は懸念している。中国景気悪化の表れとして、豪州から中国向けの輸出が不振となっていることは、当レポートでも何度か指摘してきた(図表4)。
(図表4)
・なお、中国のGDP統計については、多くのエコノミストから信頼性に対して疑義が唱えられている。李克強首相も、遼寧省党委員会書記を務めていた2007年に、中国のGDP統計は人為的であるため参考用に過ぎないと語ったとされている。これは米国のラント駐中大使との食事の席での発言であり、どの程度本気だったのかはわからないが、李氏はその際、経済の実際の状況を推し量るうえで重要なデータは3つあり、それは電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資額だ、とも語ったそうだ。
・このエピソードを踏まえて、トムソンロイター社と英国の調査会社であるファゾムコンサルティング社が、電力生産量(李氏が語ったのは消費量のようだが)、鉄道貨物輸送量、銀行融資額に重み付けをして平均をとり、それをチャイナ・モニター・インディケーターという指標として計算している(※2)。その指標と実質GDPの前年比を比較すると、大まかな傾向としては両者は概ね合致していたものの、最近になって、同指標の減速が大幅で、今年1~3月期は2.5%にまで低下しているとのことだ(実質GDPの前年比は7.0%)。
※2 チャイナ・モニター・インディケーターについては、下記の5/14付のトムソンロイター社のホームページ(英文)を参照されたい。
http://alphanow.thomsonreuters.com/2015/05/news-in-charts-cmi-drops-to-2-5-in-march/
・こうした点から、中国を除く主要国については、中長期的には株高、通貨高(対円)、緩やかな長期金利上昇を見込んでよいと考えている。
・ただし短期的な市場動向に関しては、懸念している。特に米国株は、1)米国の経済ファンダメンタルズが良好なことを背景とした「米国だけが投資対象として安心だ」というシナリオが行き過ぎている、2)世界的にまだ流動性が豊富(カネ余り気味)である、という期待が行き過ぎている、という2点から、買われ過ぎだと考えている。それは、米国株価のPERが近年ではかなり高水準となっていることに表れている(図表5、直近5/29のPERは17.7倍、グラフの期間の平均値は14.9倍で、19%割高と言える)。
(図表5)
・また、上記の1)については、米ドルも買われ過ぎの領域にはいっており、直近の米ドル相場の購買力平価からの乖離率は2割を超えている(図表6)。過去2割を超えてピークをつけたのは、1982年10月と1985年3月であり、1985年9月のプラザ合意(米ドル高の国際協調による修正)を引き起こした。もちろん、今回国際協調による米ドル安誘導などはありえないし、5月に行なわれたG7財務相・中央銀行総裁会議でも、全体として為替は議論されなかったが、米国から緩やかな牽制球が米ドル相場に対して投げかけられてもおかしくはない。
(図表6)
・実際、このところ米国のみならず、ドイツ等主要先進国の株価が、徐々に天井圏を形成して、反落の動きを示しつつある。こうした海外主要国の株価調整はさらに進展すると見込んでいるが、日本株は何があろうと無視して上昇する展開を続けており、6/1(月)までで日経平均株価は12連騰を記録した。
・日本株が上昇している理由として、海外の株価が調整色を強めているため、海外市場から日本市場に投資資金が移動しているからだ、という声が聞こえてくる。しかしこれは、海外株が調整して日本株の相対的な魅力が強まっているが、日本株を押し下げるほどは海外株が下がっていないという、「ほどほどでちょうどよい」といった危うさを感じる理屈であり、かえって先行き日本株が海外株と歩調を合わせて下落することを暗示しているのではないだろうか。
・日本株の物色動向についても、電力株や銀行株といった、業績の裏付けが薄い業種が盛んに物色されている。これは単に株価出遅れだけに着目した買いとも言え、持続性に疑問符が付く。
・以上の点から、短期的には世界的な株価調整や、米ドル安方向への揺り戻しを予想する(主に円高というより米ドル安なので、ユーロや豪ドルがつれ安しても、対円での下げ幅は限定的と見込む)。
・ただしこうした市況の暗転は、経済実態が悪くなることによるのではなく、市場の行き過ぎの揺り戻しが本質だ。足元特に日本株については、楽観が行き過ぎているため、今後の市況の反落がかえって大幅になる可能性が強まってしまったが、たとえそうした深い調整になったとしても、大きく下げた局面では株式の売りではなく、買いで臨むべきだろう。
・また、経済実態からは、中長期的には内外株価の上昇基調を見込むので、数年単位で投資を考える長期投資家は、特にポジションを大きく動かす必要は少ないと考える。これは、たとえば毎月積立でファンド等に投資を行なっている投資家についても、同様に何かあわててしなければならないことはないだろう。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2015年5月号)見通しのレビュー。
前月号見通し(2015/5/1時点)のレビュー
・5月の日経平均株価は、予想レンジ内での推移となった。ただし、どちらかと言えばレンジ下限に向かっての下落を予想していたところ、上昇が持続する展開であった。今後当面は、こうした強調展開の反動が大きく表れると懸念している。
②国内長期金利
・国内長期金利は、レンジ内での推移となった。ただし金利の上昇力が予想ほどではなかった。ただし足元の株高や円安が反映されておらず、金利が上振れするリスクを想定する。
③外国為替相場
・5月は、ユーロや豪ドルは予想レンジ内での推移となったが、米ドルは上抜けた。
・米ドルは現在の水準に合わせて予想レンジを上方修正するが、現在の米ドルが買われ過ぎで、短期的に一旦反落する、との見通しは維持する。
・豪ドルは、利下げ思惑が強く残り、想定に比べ上昇力が弱かった。このため、6月末までの予想レンジ上限と12月末までの予想レンジ下限を引き下げるが、修正は小幅にとどめる。
◆関連サイト
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