2015年5月1日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2015/05/01 16:24

花の一里塚~市場見通しサマリー

2015年5月1日時点での主要市場見通し

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基本シナリオと見通し数値について

引き続き、長期シナリオとしては、内外経済の緩やかな持ち直しに伴い、主要国の株価、長期金利、外貨の対円相場が、上昇基調にある、という考え方を変えない。したがって、たとえば現時点と今年末で、どちらが内外株価、長期金利、外貨相場が高いかと言えば、今年末である可能性が高いと予想する。ただし、前号でも指摘していたように、一旦世界市場に波乱が引き起こる展開を見込んでいる。その波乱は、主として米国発であると考えているが、米国経済に深刻な悪化が生じるとは考えていない。波乱の主因は、「米国一人勝ちシナリオ」の行き過ぎに対するちゃぶ台返しであり、特に米連銀の利上げを口実とした米長期債価格の大幅な下落と、それが世界市場に与える悪影響である。投資姿勢については、前号の記述をそのまま繰り返したい。「衝撃に備える投資姿勢が適切であろう。短期的な目先の利益を欲張らず、一旦現金比率を高めることも一つの手段だ(波乱の正確な時期、程度、波乱に入る前の株価等上振れの有無など、不透明要因が多いので、空売りを積み上げることは薦めない)。」

具体的な予想レンジの修正については、2015年6月末までの予想については、本来は予想期間末までの時間が短くなっている(6月末まであと2か月しかない)ため、一律に予想レンジの幅を狭めるところだ。しかし、迫っている(あるいは既に始まりかかっているかもしれない)世界市場の波乱の程度が、全く読みにくい。このため、今回は、国内10年国債利回りのレンジを狭めるにとどめ、他資産については据え置きとする。

すなわち、2015年6月までの予想レンジを、前号(4月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.25~1.0 ⇒ 0.25~0.7
米ドル(対円) 105~122 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 127~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 88~115 ⇒ 変更なし

2015年12月までの予想レンジについては、修正は全くない。こちらも、目先の波乱がどの程度進むかがわからないと、年後半の相場の「発射台」のメドがつかない。年後半の予想レンジの修正は、次号6月号か、7月号で行ないたい。

シナリオの背景

・大枠として、長期的な内外景気の持ち直し基調を、引き続き予想する。
・こうした景気持ち直しシナリオに対して、足元まず疑念が生じたのは、米国だろう。ただし、2月までの景気指標の不調は、厳冬・大雪の影響が大きい。主要指標については、3月分から持ち直しを示したものも多い(※1)(図表1)。
・雇用統計において、非農業部門雇用者数の前月比の伸びが、4月分が冴えなかった(12.6万人増と、これまでの20万人超のペースに比べ減速)ことが、景気に対する警戒感を産んだ。一方、雇用関連統計の一つである、新規失業保険申請件数をみると、基調として減少(雇用の改善)が続いている。新規失業保険申請件数(毎月の平均値)の雇用者への当てはめを行なってみると(図表2)、最近の雇用者数の伸びの低下は、一時的な下振れの可能性があるように見える(※2)。

※1 ただし鉱工業生産は2月より3月分が低下。
※2 失業保険申請件数による推計値は、4月の雇用者数前月比が、32万人増程度であることを示唆している。

(図表1)
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(図表2)
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・以上から、今後発表される米国の経済指標が、上振れする可能性が十分あるように思われる。それは、米国景気の強さを示しているということで、米国株価や米ドルを支える方向で働くのか、それとも連銀の利上げが早まるという憶測を呼び、米国株価の下振れ要因となるのか、短期的な市場動向について、判断は難しい。ただ、中期的(年央に向けて)は、金利上昇懸念が勝り、米国株価の波乱要因になると懸念している。


・もう一つ疑念が生じているのは、中国経済だろう。「世界で一番早く発表されるGDP」(このこと自体、大変怪しいのだが)については、1~3月期の前年比ベースの実質経済成長率が、7.0%まで低下した(昨年10~12月期は7.3%)。
・中国の経済統計を信じないとすると、豪州から中国向けの輸出額から中国の景気を推し量ることが有効だと考えている(図表3)。輸出額そのものは落ち込み続けてはいないが底ばいといった状況であり、前年比はマイナス圏に沈んでいる。

(図表3)
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・一方、中国本土株は、概ね一本調子の上昇を続けている。中国では、4/17(金)に、機関投資家が空売りのための株式貸し出しを行なってもよい、と発表されたため、中国H株(香港上場の中国企業株)指数先物はこの日は前日比で4.77%もの下落をみせた。これに泡を食ったのか、中国の証券監督当局は、4/18(土)には、前述の措置は「空売りを推奨することが目的ではない」とのコメントを発表し、4/19(日)には預金準備率を1%幅引き下げると発表した。この経緯自体が全くのドタバタ騒ぎに見えるが、金融緩和期待から、中国本土株の株価上昇がまだ続いている。
・ただ、AIIB(アジアインフラ投資銀行)創設や預金準備率引き下げ以外の景気対策も含め、この背景には中国当局の景気動向に対する危機感があると考えるべきだろう。中国株は、「経済対策が打たれる→中国経済は良くなる→株価上昇」というシナリオに沿っているように見えるが、いずれ「経済対策が打たれる→それでも景気が持ち直さない→失望し、株価下落」というシナリオに転ずるリスクが高いと懸念する。
・そのように、シナリオがいつドロンと化けるかは、見通しにくく、予断を許さない。

・最近の市場動向について述べると、大半の市場参加者にとっての驚きは、ユーロ相場と原油価格の持ち直しだろう(※3)。
・ユーロについては、市場参加者は、次のような理由から、ユーロ安を見込む向きが圧倒的であった。①欧州経済の悪化。②ECB(欧州中央銀行)の一段の量的緩和。③ギリシャ財政問題の悪化。
・しかし欧州経済は、一段と悪化しているというよりは、これまでのECBの緩和政策などを受けて、底ばい状態にあると言える。また、ECBは量的緩和に踏み切ったが、緩和を加速させるというより、その効果をまず見守ろう、という姿勢だ。
・ギリシャについては、「俺たちは何もしないが、金を貸せ」「いや、それでは貸せない」という村芝居を、ギリシャ側とEU(欧州連合)側が繰り返している(そして今後も繰り返す)だけだろう。どちらも、崩壊に至って構わない、とは考えているまい。お灸をすえるため、EU側がギリシャ国債の一部デフォルトを放置するリスクはあり、それが短期的にユーロ相場を下振れさせる恐れはあるが、それとギリシャがユーロを離脱するかどうかは、全く別の話だ。ギリシャもユーロ圏を離れて信用力を維持できるとは考えていないだろうから、ユーロ離脱シナリオは、現実性が薄いと見込むべきだろう。
・そして何よりも、①~③のユーロ安要因は、既に場に晒されてしまっているという点が大きい。今以上のユーロ安が本格的に進むには、①~③以外の悪材料がのしかかる必要があり、それはさしあたって見当たらない。
・一時はユーロが対米ドルでちょうど1.0ドルまで下落する、といった、典型的に相場の大底で登場する悲観論が囁かれたが、この「いかにも」といったユーロ下落説を信じた投資家たちが、逆に1.12ドルを超えるようなユーロの上昇で、泣きながらユーロを買い戻しているところだろう。こうした損切りが一巡すると、短期的にはユーロの上昇が止まる可能性があるが、いたずらなユーロ悲観論は一旦矛を収めた感がある。

※3 筆者は、2/2付当レポート2月号で、ユーロ円の下値予想を127円に修正して以降、ずっと据え置いているので、一時127円を小幅割れたユーロが、その後上昇してきたことは、驚きでも何でもないが。


・このユーロの動きと並行して、原油価格の持ち直しが進み始め、WTI原油先物価格は、1バレル60ドルに迫る動きを見せている(図表4)。とりわけ原油価格を押し上げるような材料があったわけではない(どうしても上昇の理由が欲しければ、専門家に聞けば、いっぱい後付けの材料を思いついてくれるだろう)。このユーロ高と原油高の共通要因は、米ドルがずるずると下がり始めたことだと考えている。つまり、対円では米ドルは、120円を超えては落ちる動きが目立ち始めたが、対ユーロでも対原油でも、米ドルの下落がじわじわと始まっている、と考えられるわけだ。

(図表4)
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・こうした米ドルの地すべりも含め、今後世界市場に波乱を起こす主因は、米国市場の「ちゃぶ台返し」だと予想している。これは、前述のように、特に米国経済が悪化するというわけではなく、逆に米経済は堅調であると考える。ではなぜ波乱を予想しているかというと、これまで「世界で安心して投資できるのは米国しかない」という米国一人勝ちシナリオが行き過ぎて、米国株、米国国債、米ドルが、ことごとく買われ過ぎになってしまったためだ。
・具体的には、米国株はPERで見て(図表5)、米国国債はISM指数など経済指標の動向と比較して(図表6)、米ドルは購買力平価で考えて(図表7)、いずれも買われ過ぎと言える。

(図表5)
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(図表6)
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(図表7)
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・こうした買われ過ぎからの調整は、まず米ドルの頭の重さとなって表れた。この背景には、4月になって、米当局が、米財務省による半期為替報告書、あるいは米連銀の地区連銀経済報告書で、米ドルが景気などの重石となっている点や、日欧の金融緩和政策(およびそれによる通貨安)に対する牽制を打ち出したこともあるだろう。
・続いて、これまでナスダック指数中心に盛り返しを見せていた米国株にも、調整色が忍び寄り始めている。最も価格調整と縁遠かった米国長期国債も、4月末にかけて、10年国債利回りが、じわりと2%を超えてきている(国債価格は下落)。

・こうした米株、米国債、米ドルのトリプル安がさらに進展すれば、「米国しか買うものがない」シナリオが、「米国も買えない」シナリオとなり、世界市場が混乱に陥る可能性が懸念される。
・特に米国国債の本格的な利回り上昇が、どういった形で起こってしまうか、ということだが、いつ実際に利上げをするか、ということよりも、いつ利上げがあると市場が思ってしまうか、ということによるだろう。このため、最終的に9月利上げが実現したとしても、好調な経済指標の発表が続き、市場が9月利上げではなく6月利上げの可能性が高まったと考えてしまうと、そうした思惑が最終的に外れるとしても、6月利上げを5月に織り込んで、今月から長期金利が跳ね上がる、という展開も否定できない。

・現時点までは、米国の低い長期金利を利用しようと、非米国企業も米国から借り入れを行なう、あるいは米国市場で社債を発行する、という形で、資金調達を増やしてきた。ここで長期金利が跳ね上がると、非米国企業の新規の資金調達が止まってしまうだけではなく、過去分の借り換えに支障が生じる恐れが強まり、米国以外の経済に与える悪影響が無視できなくなり得る。

・もし懸念しているような、米国でのトリプル安が実現した場合、まず国内長期金利については、どのような影響が生じるかは見極めにくい。米国長期金利の上昇は、国内金利についても上昇要因であるが、米株安やそれにつれての国内株安、加えて米ドル安円高は、金利低下要因だ。日本株の下落や、米ドル安円高が著しく進行した場合、それを受けて(事前に、ではない)日銀が追加緩和に踏み切る可能性もあろう。こうした点を鍋に入れると、どちらかといえば国内長期金利には押し下げ圧力が働くものと考える。

・米ドルについては、独歩安のイメージだ。米国の長短金利が上昇するのに、何故米ドル安になるのか、という疑問があるかもしれないが、穏やかな長短金利上昇であれば、上昇した後の高利回りを享受しようと、米国債への投資が膨らみ、米ドルが買われる展開になるだろう。しかし、米国金利の上昇、すなわち米国長期債の価格下落が急速であると、かえって米国市場からの資金逃避が連想され、米ドル安を引き起こすと見込まれる。とりわけ、米国株と米国債の価格下落が、手に手を取ってやってくる場合は、米ドル安の進行が想定される。
・このような米ドルだけの下落を見込んでいるため、ユーロや豪ドルの対円相場は、それほど大きくは崩れにくいと予想している。ただし、少なくとも短期的には外貨全般に米ドルに連れ安する局面は否定できない。短期的に、非米ドルの対円相場が、大きく上下に振れることがあるだろう。
・特に豪ドルについては、中国の実体経済が悪化し、豪州から中国向けの輸出が抑えられる、という点はマイナスだが、世界的な波乱が生じた際に、豪ドルの金利の高さを求めて資金が豪ドル資産に避難する、という要因はプラスだ。豪ドルの一方的な下落は、可能性が薄いと考えている。

・以上述べたように、米国発の世界市場の波乱を警戒しているが、その波乱の根本は、米国一人勝ちシナリオで買われ過ぎた米国市場が、適正な価値まで調整する、ということであって、繰り返しになるが、米国経済が根本的におかしくなるわけではない。米国市場の価格調整が終わってしまえば、世界的な混乱も収束に向かうだろう。したがって、世界市場が大幅な調整に見舞われれば、かえって買いのチャンスである。

・しかし、買いのチャンスが来たときに、買える現金を持っていなければならない。このため、引き続き、現局面は投資ポジションを抑制し、現金を用意する時であると考えている。

以上、シナリオの背景。
このあと、前月号(2015年4月号)見通しのレビュー。

前月号見通し(2015/4/1時点)のレビュー

日経平均株価
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・4月の日経平均株価は、予想レンジ上限を超えることなく、徐々に頭の重さを示し始めた。今後年央に向けて想定している調整が、正直言って、どの程度進むか正確には予想しがたい。ただし、予想レンジ下限に向かって、いくばくか進行するものと懸念している。

②国内長期金利
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・国内長期金利は、引き続き予想レンジ下限に近い位置で推移した。6月末までの時間が短くなったことも踏まえ、予想レンジ上限を下方修正した。

③外国為替相場
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・4月の3通貨の相場(対円)については、ほぼ予想レンジ内で推移した。特に米ドルの上限、ユーロと豪ドルの下限は、良く機能したと考えている。
・今後は、基本的に米ドルの独歩安を予想している。ただし短期的には、どの通貨も大きく上下に振れる局面があるだろう。

(以上)

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配信元: みんかぶ株式コラム