景気と、税収と、株価

著者:矢口 新
投稿:2015/02/23 11:43

・消費増税前、駆け込み需要の反動減が長引いている?

先日、テレビの市場報道番組で、司会者がゲスト解説者に「消費増税の景気への悪影響は予想以上に長く続いていますね」と、問い掛けていた。ゲスト解説者の答えは失念したが、読者の皆さんが「駆け込み需要の反動減が長引いている」と考えているなら、的外れかと思う。

日本景気の最大のエンジンは個人消費だ。国内総生産の約6割を占める。1997年に消費税率が引き上げられるまで、このエンジンはいわば97%の出力を出すことができた。最大パワーが100%だとすれば、税率3%の負荷をかけられていたのだ。それで景気拡大期には税収が60兆円台に達し、その後の縮小期には51兆円に落ち込んでいた。

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消費税率が引き上げられてからは、エンジンの負荷は5%となり、個人消費というエンジンは95%の力しか出せなくなった。それで、景気の拡大期でさえ、税収は51兆円止まりとなり、縮小期には38兆円台にまで落ち込むことになった。

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2014年度からは92%の出力しか出せていない。公共投資を含めた巨額の歳出や異次元緩和で刺激し、消費増税分を上乗せしても税収は51兆円台で、国家経営が機能しているとは言い難い。つまり、景気回復が遅れているのは、反動減などではなく、パワーそのものが不足しているといえるのだ。それでも税収は増えているが、私は増税しなければもっと増えていたのではないかと考えている。海外からの観光客に免税枠を広げると消費が拡大するように、日本人相手にも減税を行えば消費が拡大する可能性が高い。結果的に政府の税収も60兆円を超えて増加する期待が持てるようになる。


・「株価=業績」という固定観念

20日の日経平均株価は1万8332円30銭で引け、2007年7月9日につけた第1次安倍晋三政権時の高値を上回り、連日で2000年以来15年ぶりの高値を付けた。

財政再建の目処が立たず、「消費増税の景気への悪影響が予想以上に長く続いている」状況で、今後も株価は上昇し続けることができるのだろうか?

実は米株に対しても同じような懸念を抱く人たちがいて、2009年2月の底入れ以来、事あるごとに株価上昇に懸念を表明してきた。2月17日付けのマーケットウォッチにも、「米株価の上昇が間違いであることを示唆する7つのチャート」と題するコメントが載っていた。
参照:識者が米株上昇に乗り遅れ、ベアで居続ける7つの理由
http://fx.minkabu.jp/hikaku/fxbeginner/bearish-of-us-stocks/

実際に株価が上げているのに、それを間違いだと指摘することは、コメントを書いた識者が株価の上昇要因だと見ているものが的外れであることを示している。つまり、株価は成長率や、景気、企業業績、物価などに連動すべきだという思い込みがあるのだ。米株は6年間上げていて、3倍以上にもなっている。こういった識者たちはいつになれば「株価=業績」の固定観念の束縛から抜け出せるのだろうか?

米株が最高値を更新している一番大きな要因は、米連銀の量的緩和で増やした資金が株価を押し上げているからだ。ドイツ株が最高値を更新してきたのは、ユーロ安と、キプロス、ギリシャ問題などを受けたドイツへの資金流入に加え、欧州中銀が量的緩和を始めたからだ。同じように、日銀の資産は前回の高値2007年7月9日時点から3.1倍となり、日本でもカネ余りが債券価格や株価を押し上げている。

・インフレ政策で最も価格が上がるもの

日銀のインフレ政策とは何か? 消費者物価指数を2%程度に押し上げ、そのレベルで安定させる(毎年2%程度ずつ上昇させる)ことだ。では、消費者物価指数とは何か?

「消費者物価指数は、全国の世帯が購入する各種の商品(財・サービス)の価格の平均的な変動を測定するものです。すなわち、ある時点の世帯の消費構造を基準に、これと同等のものを購入した場合に必要な費用がどのように変動したかを指数値で表しています。」
参照:消費者物価指数の概要について
http://www.stat.go.jp/data/cpi/4-1.htm

全国の世帯が購入する各種の商品(財・サービス)の価格を2%上げるために、日銀が行っているのが量的緩和だ。つまり、これまでの超低金利に加え、資金供給量を増やすことで、モノやサービスの価格を上げようとしているのだ。

価格とは、カネで測ったモノやサービスの価値なので、カネの量を増やせば、物価は上がる。インフレ政策として物価が上がるまでカネの量を増やし続ければ、いつかは上がる。問題は、価格の上昇が一律ではないことだ。工業製品のように供給力の強いものは、なかなか価格が上がらない。鶏卵やバナナも、何十年もそれほど価格が変わらない。供給量が増えれば、原油価格でさえ急落する。

では、何の価格が上げやすいのだろうか? 難しく考えることはない。日銀が資金供給のために買っているものが、素直に考えて最も価格上昇が見込めるはずだ。日銀の量的緩和とは、以下のように説明されている。

1、長期国債の保有残高を年間約80兆円増加させる。保有国債の残存期間を最大3年間延長する。

2、ETF保有残高を年間約3兆円、J-REITを年間約900億円増加させる。新に日経400連動ETFの買い入れを行う。

つまり、長期国債と株式、不動産といった資産価格が最も利上がりする可能性が高い。その限られた資産価格の値上がりが、全国の世帯が購入する各種の商品(財・サービス)価格の2%上昇に繋がるまで、上がり続けるのだ。

一方、これも素直に考えれば、政策当局が消費者物価指数を2%程度に押し上げようとしている時に、2%以下の金利しかつかないもので資金を保有していては、実質的に資金は目減りする。値上がり期待でそんな債券を保有するとすれば、償還を待つことなく、値上がりしたところで確実に売り抜けないと、実質的に損をすることになる。値上がり期待が持てるからといって、1%も金利が得られない日本国債を買うことは、実は非常に投機的な行為なのだ。そんな高度な投機は、一部の専門家でしか行えない。

となると、政府のインフレ政策に対して、一般の人々が自分の資産を守るために最適な方法は、株式か不動産を保有することだということになる。米国の量的緩和では購入したのは債券関連だけで、ETFもREITも買わなかったが、これらも債券同様最も値を上げた。日本の場合では、これらを買うことによって、消費者物価を上げようとしているのだ。そして、当局が買い続ける株式(ETF)と不動産(REIT)のうち、買い易くて、供給量の限られたものが、より大きく上げると考えられる。

配信元: みんかぶ株式コラム