2015年2月2日時点での主要市場見通し

著者:馬渕 治好
投稿:2015/02/03 10:44

2015年2月2日時点での主要市場見通し

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基本シナリオと見通し数値について

世界経済等の投資環境、およびそれを踏まえた市場展望の大枠に、変わりはない。
引き続き世界経済は、国ごとによる格差が顕著なまま、全体としては緩やかな回復を続けている。こうした実体経済の動きに沿った、内外株高、外貨高・円安基調が見込まれる。一方長期金利については、足元はECBの量的緩和や短期的な米国経済指標の揺らぎ、およびそれに伴う米株の調整を受けて、さらなる利回りの低迷が長引いている。しかし、足元の国内長期国債市場で小波乱が起きたように、今年のどこかで内外長期国債相場の下落が生じた場合、かえって大きな相場変動になるリスクを一段とはらんでいる。前月号で挙げた3つのリスク(産油国経済への打撃、米長期金利急上昇の可能性、日銀の金融政策を巡る現実と市場の期待のギャップが拡大する恐れ)も、引き続き注視する必要があると考える。このため、株価や外貨に対する強気を維持しながらも、一点買いではなく、時間分散した形での買いポジション積み上げを推奨する(短期的な株価や外貨の上振れがあれば、一旦部分的に換金売りを行なってもよいだろう)。

具体的な予想レンジの修正については、2015年6月までの予想レンジについて、ユーロや豪ドルの下振れが想定より大幅になったため、それに合わせてレンジ下限のみを下方修正する(流れとしてのユーロ・豪ドル高・円安の予想に変更はない)。他に修正はない。

すなわち、2015年6月までの予想レンジを、前号(1月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.25~1.5 ⇒ 変更なし
米ドル(対円) 105~122 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 135~150 ⇒ 127~150
豪ドル(対円) 95~120 ⇒ 88~120

2015年12月までの予想レンジについては、前号からの修正は一切ない。

シナリオの背景

・大枠の世界の経済環境及び市場動向の考え方については、前号(1月号、1/5付)と変わりがない。1月号では、各分野(各地域、市場等)について詳細に述べたので、今2月号では、繰り返さない。1月号を未読の方は、ご参照ください。
・1月号以降の変化、新たなあるいは強調したい注目点についてのみ、下記で述べる。

・まず米国については、足元の株価の調整や、12月の耐久財受注、10~12月のGDP統計などを受けて、米景気や企業収益に対する警戒感が広がっている。このため、連銀の利上げのタイミングが後ずれするのではないか、との行き過ぎた観測まで台頭しているようだ。
・確かに米国の企業経営が「警戒モード」入りしていることは事実だと推察される。企業マインドを反映するISM指数を見ると、製造業指数は昨年8月の58.1を直近ピークとして12月は55.1まで低下している(1/29(木)に発表された年間補正後のデータ、本稿は2/2(月)の1月分の数値発表前に執筆している)(※1)。
・こうした企業経営者の心理萎縮は、昨年から欧州経済の低迷や、いわゆる「イスラム国」の先進国におけるテロの可能性、原油価格下落のマイナス面(ロシア経済の苦境や米シェール業者に対する悪影響)ばかりを取りざたする市場動向、といった諸要因を踏まえると、致し方ないように思われる。

※1 ISM非製造業指数は、昨年11月の59.3がピークで、12月は56.2まで低下。

(図表1)
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(図表2)
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・ここで、米雇用統計から、週当たりの雇用諸総賃金を、非農業部門雇用者数×一人当たり週当たり労働時間×時間当たり平均賃金、で代用変数として求めてみると、総賃金は堅調な伸びを続けている(図表1)。このため、企業経営者の慎重化にもかかわらず、総賃金の順調な伸びが米国の個人消費を支えている状況がうかがえ、米景気の先行きについて過度な悲観は当たらないと思われる。
・さらに企業経営の慎重化が雇用に影響を与えているかみるため、この雇用総賃金の前年比を対数化し、要因分解してみよう(図表2)。するとまず、リーマンショックによる落ち込み(グラフの折れ線がマイナスで推移した時期)からの立ち上がりの局面では、労働時間の伸びが総賃金の押し上げに寄与していた。これは、リーマンショックという大きな不況により、企業経営の間に先行き不透明感が強かったので、仕事量が増えても雇用増ではなく、既に雇用している従業員の労働時間延長でカバーしていたためだ。
・ところが最近でも、労働時間の伸びの寄与が高まっている。この背景には、前述のような(ISM製造業指数の軟化に表れているような)経営の慎重化があると推察される。経営が慎重なため、雇用者数の伸びを抑制し、そのため労働需給が緩んで、時間当たり賃金の伸びが鈍化しているわけだ。
・これは逆に言うと、経営の慎重化で雇用を抑制しても、その慎重な見通しを裏切って米国経済の活況が続き仕事量の増大が止まらないため、やむなく労働時間増で仕事をやりくりしている状況にあると考えられる。すると、様々なリスク要因が沈静化し経営マインドが改善するか、実際の米国経済の増加に伴う仕事量増加が慎重なマインドを押し出せば、再度雇用増が加速する展開になると期待できる。

・このため、米国株価は短期的に心理的な下振れが持続したとしても、それほど先行きを懸念していないが、米ドルは次第に頭が重くなってきており、もう少し対円でも調整(米ドル安・円高)がありそうだ(長期的には米ドル高・円安を予想している)。
・その背景は、①当レポート1月号で述べたように、購買力平価を用いた分析などによれば、米ドルの現在位置がやや高すぎると判断できる、②世界のなかで米国経済が最も堅調さが目立つため、「米ドルしか買うものがない」との米ドル買いが行き過ぎた懸念がある、③足元の米国企業の決算発表において、米ドル高を収益圧迫要因として挙げる企業が増えてきている、④筆者のように、日銀が原油安によるインフレ率低下を受けても追加緩和しない、と考える向きが徐々に広がりつつある、である。
・米ドル安が一歩進んだ場合、他通貨も下落して円の独歩高商状になるかどうかだが、主要な通貨ではユーロや豪ドルの下落が目立つ。ただし欧州についての悪材料は(まだロシア経済の悪化がユーロ圏諸国に与える影響などが残ってはいるが)かなり場に出ている。豪ドルについても、原油価格下落で、産油国でない資源国までも全て不振であるかのような、「決めつけ売り」が嵩んだ感が強い(※2)。したがって、懸念しているような米ドル安・円高が生じれば、それは円高ではなく米ドル安の様相が強いものになるだろう。

・ちなみに国内経済では、最近では消費増税時と昨秋の二回、消費マインドや他の経済指標が悪化し、「二点底」を形成した(図表3)。これが再回復のような動意を見せ始め、12月分の経済統計では失業率や有効求人倍率、鉱工業生産などが堅調さを示した。

(図表3)
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・足元の12月期までの国内企業の決算発表も好調で、現時点で発表企業のうち6割ほどが経常増益を示している。原油安、円安がフルに企業収益に寄与するのは今年1月以降であると考えられる(為替先物によるヘッジなどのため)ので、先行きの企業収益に対する期待はさらに高まりうる。
・国内株式相場の焦点は、海外要因から国内企業増益へと移っていくだろう。

以上、シナリオの背景。

このあと、前月号(2015年1月号)見通しのレビュー。

※2 あるいは、豪州のLNGプロジェクトなど、豪州についてのエネルギー関連の材料を無理矢理持ち出して、豪ドルを売ろうとの動きが強すぎたとも言える。

前月号見通し(2015/1/5時点)のレビュー

日経平均株価
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・1月の日経平均株価は、海外要因(原油価格下落の悪影響に対する過度の懸念、欧州経済の低迷・ギリシャ政局不安など)から軟化する局面もあったが、予想レンジ下限は良く機能した。今後は、徐々に国内企業収益の実態改善に目を向けた上昇基調に入っていこう。

②国内長期金利
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・国内長期金利は「官製相場」で動意に乏しい。ただし1月後半の波乱は、今後「何か」金利上昇要因が表れた場合に、国債市場が混乱に見舞われる恐れを示唆していると考える。
③外国為替相場
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・米ドルはレンジ上限に近い推移となったが、徐々に上値が重くなっている。やはり今の米ドルの水準は高過ぎることが、表れ始めているのだろう(中長期的には米ドル高・円安を予想)。また、最近の米国企業の決算では、米ドル高が収益の圧迫要因だと指摘され始めた。
・ユーロの130円台突入は、予想していたため全く意外感はないが、下落は想定以上に急速で大幅であった。欧州に関する悪材料はかなり場に出ており、ユーロの一段の大幅安は予想しないが、予想レンジ下限を下方修正する。
・豪ドルは、目先の利下げ思惑などにより、引き続き売られ過ぎである。予想レンジ下限を足元の相場に合わせて引き下げるが、中長期的な豪ドル高基調を予想する。

(以上)

配信元: みんかぶ株式コラム