(1)確実な企業収益急伸、貿易赤字一掃、超金融緩和継続
Splendid 2015
かつてない、おそらく二度とない好環境が現出している。円安・大幅原油安は1981年から85年までの日本の最盛期と類似しているが、米国経済の力強さ、政策の全面的成長支援(超金融緩和を軸とするアベノミクス)、超低金利(実質金利は世界最低かつマイナス)は当時にもなかった好条件である。企業の交易条件の改善が著しい。円安による売値の増加、原油安によるコスト低下、生産数量の拡大の三拍子が揃い2015年度の企業利益は2014年度の史上最高からさらに大幅続伸する可能性は極めて大きい。日本を急迫してきた韓国、中国企業の苦境は一段深刻化し、日本企業の圧倒的強みを思い知らせる年となることは、ほぼ確実である。
空前の企業による価値創造、ダムには水が満々と蓄えられている
確かにアベノミクスの成果が見えないとの現状認識は正しい。①輸出数量が増えずこれまでの景気回復期のような生産誘発が起きていないことに加えて、②円安と消費税増税による物価上昇に賃金上昇が追い付かず実質賃金が下落している、ためである。しかしだからと言ってアベノミクスは息切れだ、誤りだ等と言う批判は間違いである。アベノミクスの成果は着実に企業収益の劇的改善として蓄えられている。いわばダムには水が満々と蓄えられているが、下流は依然カラカラと言う状態なのである。いずれ蓄えられたダムの水が下流を大きく潤すことは確実である。
貿易構造激変をもたらした日本企業のビジネスモデル転換
アベノミクスの成果つまり円安のプラス効果が見えていないのは、日本企業の貿易構造が大きく変わっているからである。かつての円安の景気浮揚効果は、円安によって輸出数量が増えて国内の生産が増加し、それが連鎖的な好影響をもたらすという形で、国内経済を押し上げた。図表1は前回の円安局面(2000年以降)での輸出数量と輸出単価の推移であるが、円安が始まっても輸出価格はあまり上昇せず(つまりドル建て値下げがなされ)、輸出数量が大きく増加していることが分かる。しかし今回の円安局面では図表2に見るように、輸出価格が大幅に上昇している一方輸出数量が低迷を続けている。円安局面での輸出企業の対応が10年間で180度変わっているのである。
もはや日本の企業は価格競争をしていないので、円安になってもドル建ての値下げをする必要がなく、円ベースでの輸出単価が大幅に上昇している。円安になっても値下げにより価格競争を挑まないのであるから、輸出数量も増えない。企業のビジネスモデルが著しく変わったことが明確である。価格競争によりシェアを拡大し近隣窮乏化をもたらすビジネスモデルから、技術品質優位品に特化し、競争を回避すると言うモデルに完全にシフトしたのである。それは貿易摩擦どころか、海外諸国が自国の発展に不可欠の日本の技術・品質を求めて日本製品を渇望すると言う状況をもたらす。政治的に対日批判をしてやまない中国習近平政権の安倍政権への接近は、日本の技術に対する渇望があるために他ならない。
もっとも2014年春先以降、対中輸入数量が年率2%程度の減少に転じており国内生産代替の進行がうかがわれる。実際中国と競合してきた中小企業向けの設備資金貸し出しが増勢を強め、工作機械受注も過去ピークに迫っている(図表5、6)。東芝、マイクロンテクノロジー(エルピーダメモリー)の国内拠点拡充などの工場の国内回帰もあり貿易数量も今後大きく改善しよう。円建て輸出単価の大幅上昇に加えて数量が改善することで、貿易は価格数量の両面で大幅に増加すると見込まれる。それは日本の高度成長期を彷彿とさせるものとなろう。
2015年は下流が潤う
以上のすべては一段の大幅な企業収益の向上に帰結するだろう。すでに2014年度は20%近い増益となり過去ピークを更新すると予想されるが、2015年度はさらに企業利益が水準を切り上げる。それは今後、企業の賃金引上げや配当の増加、あるいは投資やM&Aの活発化ということによって、経済に好影響を与えるはずである。言ってみれば、ダムに満々とたくわえられている企業利益という水が、これからいよいよ現実経済に配分されるということが起こる。これが来年の前半に期待できることである。
そのような円安メリットの顕在化に、アベノミクスの更なる推進と一段の株高が起こり、来年から再来年にかけて日本の景気は極めて力強い活力を得るだろう。そうした状況の下で、更なる2%の消費税増税を行うとしても、5兆円程度の負担であれば難なく吸収できるだろう。日本のデフレ脱却はいよいよ確かであると見えてくることが、消費税増税延期と総選挙による安倍政権信任がもたらす2015年の展望ではないだろうか。
(2)日本株高のシナリオ
フルスロットルの成長軌道に入ったとみられる米国にけん引され世界的好投資環境が続くと予想される。また全世界が需要創造政策でベクトルが揃えられつつある。①一斉金融緩和、②財政緊縮の一巡、③原油安・低金利・低労賃による企業の高収益、は世界株高をもたらすだろう。米国の利上げ開始はごくマイルドなものとなり、市場かく乱には至らないだろう。
日本株3つのプラスアルファ
世界株高の中でも最も注目すべきなのが日本株である。日本株式には他のどこの国にもない3つの大きなプラスアルファ上昇要因がある。第一はアベノミクスによる円高デフレからの脱却である。リーマン・ショック後の大底比で米・ドイツ株式は2.5倍の上昇となっているのに、日本株は2012年11月まで大底を這ったままであった(現在でも1.7倍)。それは欧米中央銀行が量的金融緩和を推し進めた中で、白川前総裁の下で日銀だけが消極的な金融政策を取り、円が独歩高となったからである。急激な円高は一気に日本企業の輸出競争力を低下させた。また、世界で唯一日本だけをデフレに陥れた。円は韓国のウォンに対して2倍になったため、日本企業は賃金を半分に引き下げることを迫られたのである。デフレ(=売価の低下)はコスト引き下げの余地が乏しい内需型サービス産業を著しく損なった。こうして円高デフレが日本の産業全体を弱体化させ、日本経済の一人負けを招来したのであるが、その根本原因がアベノミクスによって是正されつつある。
第二のプラスアルファ要因は、日本株の割安さの度合が古今東西、史上空前であるが、これが是正されるということである。今、日本株式の益回りは7%、つまり100円の株で7円の利益を上げている(配当だけで1.8円程度)が、他方100円で債券を買ったら利回りは0.6%、60銭、両者には10倍もの開きがある。言うまでもなく預貯金の利回りはゼロである。にもかかわらず、これまで日本では株にお金が向かわなかった。それが是正される大きなうねりが起きつつある。
朝鮮戦争以来の地政学局面に
第三のプラスアルファ要因は「地政学」である。バブル崩壊後23年間に及ぶ日本の長期停滞の根本的要因は、米国による“日本封じ込め策”である。日本の1990年までの繁栄、自動車やエレクトロニクスなど著しい産業競争力の向上は、米国発技術の導入改善と米国市場における顕著なシェア獲得によって可能となった。しかし日本のそうしたオーバープレゼンスは覇権国である米国の産業基盤を脅かし、米国国益を損なうものとなった。このため貿易摩擦、超円高等々ジャパン・バッシングが起きて叩かれた。それが今、反転している。なぜなら、日本経済の復活がアメリカの国益にとって決定的に重要だから。これ以上、日本が弱くなったらアジア全域が中国の支配下に入ってしまう。強い日本経済こそがアジアにおいて中国を封じ込め、アメリカのプレゼンスを維持する必要条件となった。つまり、日本経済に対する地政学的な逆風が順風に変わったのである。戦後の日本繁栄(1950~1990年)の起点は1950年の朝鮮戦争勃発、それにより日本経済の早急なる復活は必至となった。それから60年後、再度地政学リスクが高まっている。今後不可避と思われる、北朝鮮の崩壊、中国の民主化を推進していくうえで、日本経済プレゼンスの高まりが不可欠である。日本は対米追随から「世界共和国」(世界新秩序)の担い手へと昇華していくことが望まれる。
(3)日本株式投資のポイント
日本企業が獲得した成長のばね
よく考えれば、失われた20年とは発展の条件を蓄積した20年とも言える。日本企業は逆風の中で、
①世界最高のスリム化・コスト削減、
②先端技術開発とソリューション提供型(サービス一体型)ビジネスモデルの開発、
③グローバルネットワークの確立、世界市民化、
④潤沢な資本の蓄積(空前の投資余力=富士フィルムの成功体験を見るまでもなく潤沢な資本蓄積は、飛躍の決定的条件)、を成し遂げた。
これらが円高・デフレ脱却の環境下で、大きな収益増加となって顕在化する、今はその前夜にあると言ってよいだろう。
日本株、空前の好需給
日本株式で始まっている(と当社が想定する)世紀の相場の、第二波に入ったと思われる。空前の好バリュエーションと好需給が想定される。当局によるあからさまな株への資金誘導はパワフルである。①日銀による追加金融緩和(ETF購入増加)、②GPIFの改革で株式比率が引き上げ(12%から25%へ)、③年金保険など機関投資家は、株高→リスクテイク能力の高まりで株式比率引き上げへ押し出される、④外国人の日本株投資は、長期と短期双方で進展しよう。短期投資家はファンディングコストゼロ、配当利回り1.7%と言う異常なキャリーのメリットを追求しポジションを積み上げるだろう。
2015年中に円安止まる、いよいよドルベースの日本株高顕著に
年率換算11兆円の貿易赤字急減が見えてきた。原油・LNG価格の下落を3割と予想すれば年間26兆円の化石燃料輸入代金は8兆円減る。また円安により対中輸入数量が減少しており国内生産代替の進行がうかがわれる。工場の国内回帰もあり貿易数量は大きく改善しよう。加えて円安下でドル建て値下げが回避されてきたため円建て輸出単価が大幅上昇し輸出金額を増幅させている。貿易赤字がほぼ一掃されることが視野に入ってきた。旅行収支や海外所得収支の改善により経常黒字は大きく増加する。加えて世界一割安な日本株、日本不動産の魅力が注目され資金流入が増加しよう。円安による売値の増加、原油安によるコスト低下、生産数量の拡大の三拍子が揃い企業利益は大幅続伸する。対外投資を増やしてきた日本の投資家も円安一巡感と日本株のほうがもっと魅力的だとの認識を強め、海外投資にブレーキをかけるかもしれない。円は2015年中に下げ止まるだろう。円が極端に売られ金利急上昇を起こし、日本が財政破たんを起こすなどという極論は消える。円底入れ転換は日本競争力向上、デフレ脱却と日本経済復活ののろしとなり、一段の日本株高をもたらそう。ドルベースでみた日本株式の時価が大きく引き上げられ、世界の投資家は一段と日本株の比率を高めざるを得なくなるだろう。
3つのグループが注目される
Ⅰ. 円安効果、グローバル輸出企業の再評価
・・・ 輸出価格・数量の増加、海外資産の円安増価(自己資本の高まり)、→ 観光業、農産物も
Ⅱ. デフレ脱却=売値の改善でマージン向上(内需関連、金融・不動産・建設から運輸)
Ⅲ. 国民生活向上、消費増加 ・・・ 小売、娯楽、医療、教育
空前の好需給はまずインデックスを押し上げる。資産価格上昇の恩恵を受ける金融・証券・不動産とバリュー株(例えば高配当率)が注目される。
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