【Alox分析】今年の粉飾を把握する〔2014年〕- The キックバック –

著者:塙 大輔
投稿:2014/11/27 11:07

【不適切な会計処理】
今年も企業評価の“眼”を更新することを目的として、『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。

【少なめの14件】
今年は14件の「不適切な会計のリリース」があった。
“倒産が抑制された時代”ということも影響しているが、不適切な会計というよりも、「犯罪というべきリリース」や「会計処理の誤謬というリリース」については、件数から除外した。
(除外しなければ18件)

ちなみに、2013年20件、2011年17件、2010年15件だった。
 

<不適切な会計処理 ~会社一覧及びリリース概要表~ >

No リリース コード 社名 不適切な会計処理の概要
1 2013/10/15 7516 コーナン商事㈱ 子会社とすべき会社を連結に含めず。役員による取引の私物化もあり。
2 2013/10/30 6502 ㈱東芝 孫会社において、原価の過少計上よる利益の過大計上。
3 2013/11/07 4651 ㈱サニックス 子会社において、架空売上の計上や売上の前倒し計上。
4 2013/11/15 6944 ㈱アイレックス 費用とすべき労務費を仕掛品として計上して、利益の過大計上。
5 2013/12/16 4714 ㈱リソー教育 子会社において、授業の実施や講座の契約を偽装して、架空売上の計上や売上の前倒し計上。
6 2014/02/17 9960 東テク㈱ 100名以上の社員による水増し仕入や架空外注による裏金作りの常態化。
7 2014/02/21 8922 日本アセットマーケティング㈱ 上場廃止基準に抵触することを回避するために、架空売上の計上。
8 2014/02/25 6625 JALCOホールディングス㈱ 所有権のない中古遊戯機のレンタル販売の売上を計上。
9 2014/03/03 4699 ウチダエスコ㈱ 工事原価の付け替えによって利益の過大計上。
10 2014/03/11 2447 ㈱太陽商会 代表取締役による架空売上の計上。
11 2014/05/02 2453 ジャパンベストレスキューシステム㈱ 小会社において、売上目標達成のために、架空売上の計上。
12 2014/05/14 7715 長野計器㈱ 正式な手続きを経ずに、役員が株主へ仮払いや代理店・子会社経由で貸付。
13 2014/06/09 2724 インスパイア―㈱ 支払先が不明の前渡金、資産性のないソフトウェアを資産計上。
14 2014/07/24 7867 ㈱タカラトミー 連結子会社で架空循環取引。

http://alox.jp/wp-content/uploads/2014/11/141124_2014dressing.pdf
 

【不適切な会計処理の型】
粉飾をその手法等に基づき、「売上加工」「循環取引」「過少計上」「混在」の4つに分類した。
 

<売上加工>
サニックス、リソー教育、日本アセットマーケティング、JALCOホールディングス、太陽商会、ジャパンベストレスキューシステム

<循環取引>
タカラトミー

<過少計上>
東芝、アイレックス、ウチダエスコ

<混在>
コーナン商事、東テク、長野計器、インスパイア―
 

“循環取引”を含めると“売上加工系”というべき粉飾の件数が、全体の半分となった。

アベノミクス効果から、「景気が上向き」という雰囲気の中で、売上を増やさなければならないプレッシャーが、経営者や営業担当者に安易な手段を選択させているのかもしれない。
 
 

【今年の粉飾実例】
今年も各社において、下記のようなテクニックを駆使して粉飾が行われた。
 
 

〔サニックス〕
粉飾実行者のAは、技術職が行う発注入力を行ったり、売上計上処理に必要な顧客の記名押印がある「施工完了報告書」を偽造した。

また、本来施工先に直送あるいは所属倉庫に送付するはずの部材を外部倉庫に送付していた。

 
〔ジャパンベストレスキューシステム〕
注文書もなく、また「検収書」にも基づかないで、何らの根拠もなく売上を計上していた。
 

内部監査の実施前に、内部監査室への対策として特定の時期の「検収書」及び「出来高明細書」の金額を一致させ、他方でサンプル抽出された「作業報告書」とも整合するよう、全く虚偽の内容の「全体案件管理表」を作成していた。
 

売上計画を達成させるため、実際の月次出来高とは合致していないことを認識しながら、売上計画に近い「出来高明細書」又は「検収書」を作成した上で、発注者の各現場工事事務所の所長に対し、社内資料上必要なもので発注者に迷惑はかけないので「検収書」等に捺印をして欲しい旨を依頼して「検収書」等に所長等から捺印を受け、当該「検収書」等に記載の金額のとおりに発注者から検収を受けたものとして、「検収書」等に記載の金額を売上計上していた。
 

〔インスパイア―〕
内容の異なる総勘定元帳が存在した。
 

米国のD社がインスパイアーから23万USDを預かっていることを証明する内容となっている書面には、D社の代表者等の署名押印は存在しない。
また、D社は米国法人であると記載されているが、書面の本文は日本語で記載されている。
 

平成21年4月8日付でインスパイアー経営企画室のmm氏から同社経理部のii 氏宛てに送られたメールには、以下の記載が存在する。「いったいぜんたい、あの1.67億円はどこに消えたのでしょうか。昨日どこかに持って行った45百万円で全部終わりですか。結局、調達した資金はどこかに消えた、借入金は未返済のまま、と言う状況で、どうして4/20 や4/30 に資金が正常化できると言っているのかが分かりません。」
 
 

〔太陽商会〕
製品を販売したが、販売先の再販の営業が不調に終わったために、販売先からの売掛金の回収ができなかった。当時の監査法人からは、決済代金の確認ができなければ本件取引に係る売上計上は認められない旨を言われていたため、当時の当社代表取締役が、当該決済に必要な資金を自身で借り入れ、これをもって当該販売先に対する売上債権の回収であるとして決済を完了させた。
 
 

〔リソー教育〕
【学習塾特有の売上「ご祝儀」】

「ご祝儀」とは、生徒が未消化授業を残しながら志望校に合格して退会した場合や、生徒が転居等によって未消化授業が残った場合等に、教室の担当者が保護者から明示・黙示による
「授業実施と前受金の返還はいずれも不要」との了解を得て、未消化授業相当の売上を計上するものである。

この「ご祝儀」があったように見せかけて未消化コマ数を減らし、売上を増やす工作が行われた。

契約成立の見込みがないのに「映像講座」等の契約書を勝手に作成するなどして売上を計上した(翌期に解約された形にする。)
 
 

〔東テク〕
利益が出そうな現場がある際に、当該現場の伝票を用いて水増し仕入発注等をし、当該発注に基づいて外部協力者に代金を請求させ、そこから得られるキックバックによる資金を事後の支出に備える目的で留保したり、それまでに累積された支払い分に充てるという方法がとられた例もあった。
 

営業担当者等が接待等で比較的高額の飲食費等を下請業者に負担してもらい、その後、当該飲食費等に相当する金銭に一定の金額(外注業者の取り分)を加えた額での水増し仕入発注等を行う例もあった。
 

キックバックにより営業担当者等へ支払われる金銭は、手渡しと銀行振り込みが主である。
これらを意図的に使い分けている者は見られず、外部協力者と会う機会があれば手渡し、会う機会がなければ振込ということであった。
 

大阪支店の一部のグループの中では、相互に役割を分担した上で、水増し仕入発注等を行っていたが、この際に、部下から依頼を受けた上司がキックバックを依頼し、それに伴う金銭の受領も同上司が行っていたという例も確認された。
 
 

〔タカラトミー〕
循環取引を行う会社との間に、G 社、H 社、I 社、J 社、K 社、L 社、M 社、N 社、B 社、O 社、P 社、Q 社、R 社、S社など「受皿会社」を設けた。また、売上代金の源泉となる前渡金支払会社も、H 社、T 社、U 社、V 社といった会社を設けていた。
 
 

【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、東テクである。

100名以上の社員が何ら罪の意識なく水増し発注を行い、日常会話として水増し仕入発注というフレーズが使われ、上司から部下に水増し発注の方法が指南され、支出が見込まれる行事(忘年会、新年会、打ち上げ)の前には利益が見込まれる現場の伝票を用いて水増し発注し資金を留保するといった“業務フロー”が根付いていた。

その証左として、毎年1億円以上の水増し発注(原価の過大計上)が6年以上も続いていたことが挙げられる。豊富な水増し発注によるキックバックの事例が記載され、
「The キックバック」と言える一品だった。
 

次点は、リソー教育の報告書を挙げたい。
 

<東テク_調査報告書(2014年2月17日)>
http://alox.jp/wp-content/uploads/2014/11/140217_9960_touteku.pdf
<リソー教育_調査報告書(2013年12月16日)>
http://alox.jp/wp-content/uploads/2014/11/131216_4714_risokyouiku.pdf
 

その他、番外として、粉飾ではないが、審査という点は極めて重要な“反社会的勢力”との関わりを考えさせるタマホームの報告も挙げておく。

<タマホーム_調査報告書(2013年11月15日)>
http://alox.jp/wp-content/uploads/2014/11/131115_1419_tamahome.pdf
 

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配信元: みんかぶ株式コラム