安倍首相は明言していないが、もはや年内解散総選挙の流れは、もうほぼ確定的になったといっていいのではないか。そして、懸案となっている2%の消費税追加増税については、1年から1年半程度先送りされる可能性も高くなっている。消費税増税の延期そして解散総選挙という二つの大きなできごとが、マーケットにいったいどういう影響を与えるかということが、おそらくここ1~2週間の市場における重大な関心事になるのではないか。
消費税増税の延期と解散総選挙に関する見方は、二つに分かれる。一つの見方は、アベノミクスに批判的な見解を持つ人々の見方である。消費税増税の延期によって、日本や財政の信認が損なわれる。加えて、安倍政権が争点のないまま党利党略により解散総選挙を行うことにより、政治の空白が生まれ安倍政権の弱体化も進む。よって、アベノミクスは失敗し、経済も株も先行きが悪化する。実際、11月12日の(リベラルな主張を貫き安倍政権に批判的な)朝日新聞社説(「解散に大義はあるか」)や毎日新聞の社説(「その発想はあざとい」)では、この解散総選挙は大義がなく、それによって消費税増税延期を推進することに大きな疑問があるというスタンスが見受けられる。
もう一つの見方は、安倍政権やアベノミクスを支持する観点の見方であり、この解散総選挙と消費税増税の延期はポジティブだという結論になる。なぜなら消費税増税の延期によって、景気の下押し圧力は払拭され、この先日本の経済はデフレ脱却によりいっそう近づくと言えるからである。更に、今回の解散総選挙には大義がないと言われているが、おそらく安倍政権は、抵抗勢力によって実施の困難を極めている成長戦略や規制緩和の推進を選挙の争点として打ち出すと考えられる。それは、例えば法人税の減税や医療の改革、農業制度や農協の改革などの成長政策について、反対勢力を押し切って推進することが可能になるであろうという期待を高める。
加えて、この10月末に日銀が新たな量的金融緩和を打ち出し、安倍政権と日銀がタイアップしてデフレ脱却に全責任を負うという姿勢も今や明確である。そのような状況の下で解散総選挙を行うということは、アベノミクスあるいは安倍政権への信任投票の意味合いが強い。安倍政権の勝利の可能性が高いと思われ、安倍政権はよりいっそうアベノミクス推進に信認を得て断固としてそれを推し進め、それに反対する勢力は力を失うということが予想される。読売新聞の社説(「課題を掲げて信任を求めよ」と中立スタンス)では、そのような可能性を追求するべきだというニュアンスの主張をしており、解散総選挙や消費税増税の延期は、著しくマーケットにプラスだと考えられる。
おそらく解散総選挙がよりはっきりした時点で、日経平均は急騰し年内に2万円を超えていくような相場が期待できるし、安倍政権が勝利しアベノミクス遂行がより推進力として強まっていけば、来年には日経平均は24,000円~25,000円という水準まで上昇していく展望が開けるだろう。このような株価上昇は、さらに大きなパワーを安倍政権に与えていくのではないか。今、日本の株式時価総額が約500兆円弱ある。これが2割上がるだけで、100兆円の株価の値上がり効果が実現できるということであり、それの数パーセントが現実の需要に転換しただけでも、大きな経済浮揚効果を与えることが明らかだ。
また、今まで遅延していた円安のプラス効果が、ようやくこれから顕在化することも来年には期待できる。これについてはすでにレポートしているが、かつての円安の効果は、円安によって輸出数量が増えて国内の生産がよくなり、それが連鎖的な好影響をもたらすという形で、ただちに円安の影響が国内経済を押し上げた。しかし、もはや日本の企業は価格競争をしていないので、円安になっても値段を下げないことにより、輸出数量も増えない。それは何を意味するかというと、円安によって円建ての輸出価格の上昇が起こり、日本の企業は利益増加効果を享受するということだ。このように円安によって増加する企業利益が今後、企業の賃金引上げや配当の増加、あるいは投資やM&Aの活発化ということによって、経済に
好影響を与えるはずである。言ってみれば、ダムに満々とたくわえられている企業利益という水が、これからいよいよ現実経済に配分されるということが起こる。これが来年の前半に期待できることである。
そのような円安メリットの顕在化に、アベノミクスの更なる推進と一段の株高が起こり、来年から再来年にかけて日本の景気は極めて力強い活力を得るだろう。そういう状況の下で、更なる消費税増税を仮に2%行うとしても、5兆円程度の負担であれば難なく吸収できるだろう。日本のデフレ脱却はいよいよ確かであると見えてくることが、この年末の消費税増税延期や解散総選挙が引き起こす展望ではないだろうか。
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