花の一里塚~市場見通しサマリー
2014年11月4日時点での主要市場見通し
前号(「花の一里塚」2014年10月号)の予測表から、予測表を見やすくするため、以前表示していたリスクシナリオを外し、メインシナリオだけの表記としている。9月号まで掲載していた、リスクシナリオも含めての予想表は、この後に掲げる。
基本シナリオと見通し数値について
中長期的な展望として、地政学的リスクや欧州の景気低迷、中国の経済成長減速など不透明要因は根強く残りながらも、米国を中心として世界経済が緩やかな持ち直し軌道にあり、世界的に概ね株高、長期金利上昇、外貨高・円安が生じる、という見通しに変更はない。ただし、10月末の日銀の追加緩和を受けての国内株高、円安は、行き過ぎである。短期的には一旦国内株安・円高の揺り戻しが生じ、その後再度株高・円安が緩やかに進むと予想している。
あわてて国内株式や外貨(特に米ドル)の上値を買い上げることはせず、押し目を丹念に拾う投資姿勢を薦める。
具体的な予想レンジについては、2014年12月までについては、通常は期間が短くなってきた(残り約2か月)ことを踏まえて、全般的にレンジを狭めるところだ。しかし、日銀の追加緩和を受けた大幅な国内株価・外貨相場(対円)の上振れが、短期的に大幅な下振れに転じる恐れが高いと考えている。すなわち、上下に波乱の大きい展開を見込んでいるため、予想期間の短期化に伴うレンジ修正(レンジ幅縮小)は、基本的には行なわない。
レンジの修正は、目先の相場変化(国内長期金利の予想以上の低金利持続、米ドルの上振れ、ユーロの底固さ)を受けて、若干幅行なうにとどめる。
2015年6月までの予想レンジについては、変更は全くない。
2014年12月までの予想レンジを、前号(10月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 15500~18500 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.47~1.0 ⇒ 0.42~0.9
米ドル(対円) 103~112 ⇒ 105~114
ユーロ(対円) 130~145 ⇒ 133~145
豪ドル(対円) 92~110 ⇒ 変更なし
2015年6月までの予想レンジについては、変更は全くない。
リスクシナリオも含めた予想表(2014年9月号までと同形式)
シナリオの背景
・前号(2014年10月号)では、中長期的な内外株高・外貨高シナリオを堅持しながらも、下記の通り、短期的には警戒的な見通しを述べた。
「ただし短期的には、足元の米ドル高・円安はスピード調整が必要であると考えており、国内株価も一旦は下押しすると予想している。世界を見渡すと、日本以外の主要国の株式市況や、米ドル以外の外貨の対円相場には、一歩先んじて調整色が広がっている。
こうした相場環境下では、下値を欲張らず、投資先国・投資先企業を選別しながら、時間分散の手法を活用し、内外株価や外貨を少しずつ買い溜める手法を薦めたい。」
・実際には、10月半ばにかけて、想定通り世界市場は調整色を強めた。ただし、欧州の景気低迷から世界的に過度な景気懸念が広がり、エボラ熱騒ぎもあって、内外株価や外貨相場(対円)の調整幅については、予想以上であった(たとえば日経平均株価の下値を15500円とみていたが、一時14529円まで下落をみせた)。
・その後10月末にかけては、行き過ぎた景気懸念などは後退し、内外市場は景気実態に沿った持ち直し基調に復した(日経平均株価も、日銀の追加緩和前の10/29(木)に終値が15658円と、既に予想レンジ内に戻っていた)。
・このまま緩やかな株価上昇、外貨高基調が続くと考えていたところ、10/31(金)に日銀が追加緩和を打ち出し、国内株価や外貨相場(特に米ドル)の急上昇が生じた。
・日銀が追加緩和に動いたこと自体は、驚きではない。前号の記述をそのまま下記に貼り付けると、
「日銀の追加緩和は、可能性が否定できなくなってきた。9/25(木)に発表された、8月の全国の消費者物価は、前年比で1.1%の上昇率にとどまった(生鮮食品と消費増税の影響を除いたもの)。黒田日銀総裁は、消費者物価上昇率が1.0%を割り込む可能性はほとんどないと述べており、9月分以降1%を割り込むようであれば、追加緩和策を求める声が強まる展開になりうる。」
実際、10/31(金)当日に発表された9月の全国消費者物価前年比は、上記のベースで1.0%と、ぎりぎりまで低下していたので、緩和に動いたことは不思議ではないと言える。しかし、当方は、こうした物価上昇率の鈍化や日銀政策委員の景気見通しの下方修正を受けて、11月に緩和に動く可能性が高いと考えていたので、予想より前倒しのタイミングであり、その前倒しの部分を内外株式市場や為替市場が評価したのだと考えている。
・逆に言えば、前倒しになったこと以外に評価できる点はない。これは、追加緩和が悪い、と言っているわけではなく、効果が薄い、という意味だ。これも、図表を含めて前号の記述をそのまま貼り付けよう(ただし、前号の図表のデータは最新分を追加し、図表番号は修正している)。
「ただし金融政策の効果としては、日銀が金融機関の保有する債券を買い取って金融機関には資金を大いに流し込んでいるものの、金融機関は融資を伸ばしにくく、金融機関に資金が滞留している。結果として、経済全体に出回っている資金量を測るM2を、中央銀行が散布した資金量を測るベースマネー(=マネタリーベース)で割った比率は、低下傾向にある(図表1)。ここで、日銀が追加緩和を行ない、さらなる資金を金融機関に注ぎ込んでも、効果は限定的だろう。
(図表1)
・金融緩和には、日銀の策により先行き景気が改善する、といった期待を生むという効果もあるが、2度目の「異次元の緩和」ともなれば、そうした心理的な効果も限られているだろう。」
・市場(と言うより、無理解な一部専門家やマスコミ)が、日銀の緩和を誤って大きくはやし、その後一気に誤りが消え失せた、という経験は、昨年にもあった。それは、昨年4月4日の「異次元の緩和」を受けて、上述のように銀行に資金が滞留しカネ余りにはなりにくいことが自明であるにも関わらず(※1)、「カネ余りになる」「バブルになる」「余ったカネが国内株や外貨資産になだれこみ、株高・円安になる」という誤りが横行し、結果として5月下旬まで株高と円安が生じたが、その後誤りが訂正されて、6月半ばまで4月4日とほぼ同水準まで相場が戻った(誤りが100%修正された)という現象であった(図表2)。
※1 なぜ自明であったかと言えば、米国でQE(量的緩和)が何度か行なわれているにもかかわらず、銀行に資金が滞留し、世間で騒がれているようなカネ余りにはなっていない、という現象が、既に生じていたからだ。
(図表2)
・今回も、一旦の国内株価と米ドル円相場の上振れは、日銀の追加緩和を材料にしている限り「誤り」であり(※2)、一旦は修正される展開を予想している。おそらく、11/4(火)の日経平均のザラバ高値(17127.66円)と11/3(月)の米国市場における米ドル円相場のザラバ高値(114.22円)が、少なくとも向こう数週間の最高値になってしまった可能性が高いと考える。
・特に米ドルについては、為替市場では円の全面安に加えて、米ドルの全面高的な商状が進んでいる(ユーロ安米ドル高など)。米国からは、連銀高官などから、米ドル高が米国経済ひいては金融政策に与える影響を懸念する発言が相次いでおり、米国から日独に対して、財政政策による景気支持(ドイツの財政出動や日本の消費税率引き上げ先送り)への示唆(逆に言えば、為替安による景気支持への牽制)が寄せられている。
・また、米ドル円相場の妥当水準という点では、日米10年国債利回り格差から算出した理論値からの乖離率(図表3)でも、購買力平価からの乖離率(図表4)でも、米ドル高がやや行き過ぎていることを示しており、日米金利格差や物価格差などが為替相場に追いついてくることを、相場は反落はせずとも待つ時間が必要なことが示されている。
※2 国内株価や米ドル円相場が、国内企業収益の改善や日米間の景気格差を材料にしている部分は、少しも間違いではない。
(図表3)
(図表4)
・こうして目先は国内株価や米ドル円相場が一旦反落すると見込んでいるわけだが、その後は中長期的な経済実態が指し示す方向へと、相場は動いていくだろう。足元の日米の企業決算も、想定以上に好調な内容が優勢であり、米国を中心とした緩やかな景気持ち直しの動きにも変わりはない。
・このため、世界的に概ね株価上昇、長期金利上昇、円安の流れを継続して予想する。ただし今後は、長い目では、先行した米国株価・米ドルの上昇が徐々に頭が重くなり、市場の明るさのすそ野がじわじわと広がる形で、非米国の株価、非米ドルの外貨が、次第に上げ足を強める流れになると見込んでいる。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号見通しのレビュー。
前月号見通し(2014/10/1時点)のレビュー
①日経平均株価
・10月の日経平均株価は、一時は世界的な市場波乱に巻き込まれ、予想レンジ下限を下抜けた。しかし景気懸念が一巡し、レンジ内に戻った。今後の株価は、日銀の追加緩和による上振れから一旦反落した後は、再度企業収益実態に沿った緩やかな上昇基調に復しよう。
②国内長期金利
・国内長期金利は、短期国債利回りをマイナス圏に押し込むほどの日銀の執拗な買いで、低迷が続いた。こうした「作られた相場」は当分は変わりそうもない。いつツケが来るか。
③外国為替相場
・3通貨とも、ほぼ予想レンジ内での推移となった。豪ドルの予想レンジ下限は、特によく機能した。
・実際の相場に合わせて、米ドルの予想レンジ上限を引き上げるが、米ドルは対円で一旦反落を見せると予想している。
・ユーロはECBが一段の緩和に動くことが、上値を抑えるリスクがある。豪ドルは、世界的な景気懸念が薄らぐとともに、上値を追い始めると予想している。
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