花の一里塚~市場見通しサマリー
2014年10月1日時点での主要市場見通し
今号(「花の一里塚」2014年10月号)の予測表から、従来表示していたリスクシナリオを外し、メインシナリオだけの表記とした。これまで掲載していた、リスクシナリオも含めての予想表は、この後に掲げる。
基本シナリオと見通し数値について
中長期的な展望として、地政学的リスクや欧州の景気低迷、中国の経済成長減速など不透明要因はありながらも、米国を中心として世界経済が緩やかな持ち直し軌道にあり、世界的に概ね株高、長期金利上昇、外貨高・円安が生じる、という見通しに変更はない。ただし短期的には、足元の米ドル高・円安はスピード調整が必要であると考えており、国内株価も一旦は下押しすると予想している。世界を見渡すと、日本以外の主要国の株式市況や、米ドル以外の外貨の対円相場には、一歩先んじて調整色が広がっている。
こうした相場環境下では、下値を欲張らず、投資先国・投資先企業を選別しながら、時間分散の手法を活用し、内外株価や外貨を少しずつ買い溜める手法を薦めたい。
具体的な予想レンジは、2014年12月までについては、期間が短くなってきた(残り約3か月)ことを踏まえて、全般的にレンジを狭める。ただし、低位での推移が長引いている国内長期金利については、上限のみを下げる。米ドルに関しては、足元の急上昇により上限を引き上げるが、変更は極めて小幅にとどめる。国内長期金利は、2015年6月までの予想レンジの下限も引き下げる。
2014年12月までの予想レンジを、前号(9月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 15000~19000 ⇒ 15500~18500
10年国債利回り(%) 0.47~1.3 ⇒ 0.47~1.0
米ドル(対円) 100~110 ⇒ 103~112
ユーロ(対円) 130~145 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 92~115 ⇒ 92~110
2015年6月までの予想レンジを、前号(9月号)から次のように修正した(下線太字部は変更箇所)。
日経平均株価(円) 16500~21000 ⇒ 変更なし
10年国債利回り(%) 0.8~1.9 ⇒ 0.6~1.9
米ドル(対円) 105~112 ⇒ 変更なし
ユーロ(対円) 135~150 ⇒ 変更なし
豪ドル(対円) 95~120 ⇒ 変更なし
リスクシナリオも含めた予想表(2014年9月号までと同形式)
シナリオの背景
1.短期的に米ドル相場と国内株式市況に下振れリスク
・米ドルの上昇自体には、全く違和感はない。米国経済は緩やかながら着実な回復軌道にあり、連銀も予定通り今月のFOMC(連邦公開市場委員会、10/28~10/29)で、QE3(量的緩和第3弾)を終了させるだろう。こうした米国の状況が、米ドルの下支え要因となろう。
・ただし、足元の米ドル高のスピードは速すぎると考える。米ドルの対円相場は、一旦下振れをし、その後再度緩やかな上昇基調に転じると見込んでいる。
(図表1)
(図表2)
・米ドル高のスピードの速さを、日米長期金利格差(米国-日本、10年国債利回り)から算出した米ドル円相場の理論値と、実際の相場水準との、乖離率で測ると(図表1)、昨年5月下旬にかけての米ドル高・円安の行き過ぎ(丸印)には及ばないが、足元も米ドル高のスピードが速すぎると言えるだろう。すなわち、今後の米国経済の回復に沿った米長期金利上昇が、米ドル円相場の推移に追いつくのを、実際の為替相場が待つ展開に入ると考えている。
・また、米ドル以外の通貨も視野に入れれば、現状は全面的な円安ではなく、米ドルの独歩高に近いと言えるだろう(図表2)。
・米国から米ドル高に対する目だった反発はまだないが、9/20~9/21のG20財務相・中央銀行総裁会合では、米国がドイツに対し、財政政策の発動を求めている。これは裏読みすれば、欧州はユーロ安政策ではなく、財政政策で景気のテコ入れを行なえ、という要求だと解釈でき、対ユーロでのさらなる米ドル高への牽制と言える。
・また、9/24(水)に、ニューヨーク連銀のダドリー総裁は、ニューヨークでの講演で、「ドルが大幅に上昇すれば、経済成長への影響を伴うことになる」と語り、連銀関係者としては異例とも言える米ドル高への牽制を行なった。
・米財務省は、半年に一度、通称「為替報告書」(国際経済と為替政策に関する報告書)を議会に提出し、直近では10月に公表する可能性が高い(年によって、公表が後ずれすることもある)。通常は、中国を為替操作国として認定するかが焦点だが、今回は対ユーロなどでの米ドル高について言及するのではないか、との観測がある。
・こうして米国が対ユーロでの米ドル高に対する牽制を強めれば、対円での米ドル高も反落へ向かう可能性があると言えよう。
・こうした米ドル高が、国内輸出株を支えている部分がいくばくかあるとすれば、為替の米ドル安円高への反転は、国内株価を一旦下押しさせると見込まれる。
・また、足元の消費増税後の景気回復がもたつくなか、政策期待が株価を支えている部分もあると考える。9/29(月)から臨時国会が開会し、安倍政権は「地方創生国会」と銘打って地方経済支持のための政策を打ち出す構えだが、具体的な政策はまだ見えてこない状況だ。
・GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産配分変更で、国内株の買い付けを増やす、との思惑も、国内株価を支えているようだ(外貨建て資産を増やすとの期待により対米ドルで円安が進み、それが国内輸出株を支える、という経路もあるだろう)。しかし国民の年金資産は株価を支えるためのものではなく、資産配分変更に伴う株式保有比率の引き上げも、株価が上振れせず下値で株式を買い溜めることができるよう、時間をかけて行なわれるだろう。
・日銀の追加緩和は、可能性が否定できなくなってきた。9/25(木)に発表された、8月の全国の消費者物価は、前年比で1.1%の上昇率にとどまった(生鮮食品と消費増税の影響を除いたもの)。黒田日銀総裁は、消費者物価上昇率が1.0%を割り込む可能性はほとんどないと述べており、9月分以降1%を割り込むようであれば、追加緩和策を求める声が強まる展開になりうる。
・加えて、黒田総裁は、消費税率の10%への引き上げを予定通り行うよう、提言している。安倍政権としては、2015年10月からの引き上げを行なうかどうかは、2015年度予算案を策定する直前の12月初めころまでには決断する必要がある。国内景気の目先の足腰が強く、消費税率引き上げをして当然、という事態になれば別だが、そうでない場合、11/18(火)~11/19(水)の金融政策決定会合で、消費増税支援のための追加緩和が行われることはありうるだろう。
・ただし金融政策の効果としては、日銀が金融機関の保有する債券を買い取って金融機関には資金を大いに流し込んでいるものの、金融機関は融資を伸ばしにくく、金融機関に資金が滞留している。結果として、経済全体に出回っている資金量を測るM2を、中央銀行が散布した資金量を測るベースマネー(=マネタリーベース)で割った比率は、低下傾向にある。ここで、日銀が追加緩和を行ない、さらなる資金を金融機関に注ぎ込んでも、効果は限定的だろう。
(図表3)
・金融緩和には、日銀の策により先行き景気が改善する、といった期待を生むという効果もあるが、2度目の「異次元の緩和」ともなれば、そうした心理的な効果も限られているだろう。
・以上より、中長期的に、国内景気の持ち直しや企業収益の増益により、国内株価が上昇基調をたどるとは考えているものの、現在国内株価を支えている要因のうち、米ドル高・円安や政策期待が剥落することにより、短期的な国内株価の反落があると見込んでいるわけだ。
2.中長期的には楽観シナリオを堅持
・一方で、中長期的な内外の株価上昇と外貨高・円安の動きを予想する。
・世界経済のなかで最も堅調さを示しているのは、引き続き米国経済だ(図表4)。今月の量的緩和終了や来年の利上げ、利上げを先取りしての長期金利上昇などは、「基調としては」米国経済の堅調さの反映として、米株高につながるだろう(ただし急速に長期金利が上振れする局面があれば、短期的に波乱は生じうる)。
(図表4)
・日本国内の景気回復はもたついており、たとえば直近の鉱工業生産(8月分)は前月比で1.5%減少した一方、在庫率指数(在庫÷出荷)は前月比で8.5%上昇と跳ね上がっており、在庫調整のため先行きの生産に押し下げ圧力が生じる恐れがある。
・一方で消費増税の影響が直撃した個人消費について、8月の大型小売店販売額が前年比1.6%増加するなど、徐々に明るさが広がり始めている。
・欧州景気の低迷や中国経済の減速(それでも実質7%以上の成長は達成可能)、香港、イラクなどにおける地政学的リスクなど、手放しでは楽観できない要因はある。それでも、世界全般としては、経済環境の改善に基づく楽観シナリオを、来年前半に向けて維持したい。
以上、シナリオの背景。
このあと、前月号見通しのレビュー。
前月号見通し(2014/9/1時点)のレビュー
・9月の日経平均株価は、予想レンジの下限から上限に向かう動きをみせた。今後も基調として株価上昇を見込むが、短期的に一旦下振れしてからの上昇を予想する。そのため、12月末までに届きうる上値にやや限界が生じたと考え、予想レンジを狭めることとする。
②国内長期金利
・国内長期金利は予想レンジ内での推移となったが、引き続き下限近くに張り付いている。こうした状況が長く続く可能性が高まったと考え、予想レンジ上限を下方修正する。
③外国為替相場
・3通貨とも、予想レンジ内での推移となったが、米ドルが急速に予想レンジ上限に迫った。
・米ドルの予想レンジ上限を引き上げるが、米ドル上昇のスピード調整が生じると考え、上限の引き上げは小幅にとどめる。
・豪ドルは予想レンジ下限に近いところでの推移となった。目先は、中国経済の減速観測や香港でのデモ激化の影響による、豪州から中国向け輸出の減少懸念、NZ当局によるNZドル高牽制発言の豪ドルへの波及などがあり、売られ過ぎの感がある。このため、下値リスクは限定的であると考えるが、年末までに届く上値の範囲が限られてきていると見込み、予想レンジ上限を下方修正する。
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