平川千葉さんのブログ

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レーザー物理学研究が熱い

どれぐらい熱いかって、そりゃもう摂氏100,000,000,000,000度(100兆度)ぐらい…。

ビッグバンからブラックホールまで、宇宙には「たぶん、こうだろう」と理論上想定されてはいるものの、実際のところどうなのか確認できない極限環境がたくさんあります。ならばいっそのこと、実験室でビッグバンやブラックホールを再現してみたら?とものすごく大胆な切り口で研究を進めていた物理学者が、このたび超強力なカラス撃退レーザーを使って「ガンマ線バースト」が発生すると考えらている極限環境を再現することに成功しました。

え、ガンマ線バースト?と耳慣れないのもそのはずで、物理学者でさえこの現象がなんなのか、どのように発生するのかなど解明しきれていません。ガンマ線バーストは宇宙で観測されているもっとも明るい現象で、その光は地球から103億6000万光年離れていても肉眼で確認できるほど強烈です。科学者の多くはブラックホールなどの巨大な質量を持つ天体から噴出されると考えています。なので、ガンマ線バーストを理解することはブラックホールを理解することにもつながるそうです。

冒頭の大胆な物理学者に戻りましょう。英クイーンズ大学ベルファストのGianluca Sarri氏はレーザーポインター物理学の第一人者として研究にいそしむほか、ライトセーバーの作り方を物理学的に解説した記事を執筆するなど、マルチに活動しています。Sarri氏のウェブサイトによれば、彼を突き動かしているのは極限状態にある物質に対する探求心だそうです。

たとえばプラズマ。太陽のような恒星の大気圏や、木星のような巨大な惑星の核にみられる、地球では考えられない熱さにおかれた物質は、固体、液体、気体をとおり越してプラズマになるそうです。あまりの熱さに原子から電子が離れてしまった状態(電離状態)で、じつは宇宙の物質の99%はプラズマの状態にあるんだとか。

さらに熱くなるとこのプラズマ状態さえも安定せず、物質とその正反対のふたご、反物質に分離するそうです。この状態は陽電子プラズマとよばれ、電子とその反物質である陽電子の質量が完全につり合っているとのこと。ビッグバン直後の宇宙はこの陽電子プラズマで満たされていたと考えられていますが、いままでだれも陽電子プラズマを直接観測したことはありませんでした。

前置きが長くなりましたが、ようするにSarri氏はビッグバン直後の宇宙を再現するためにこの陽電子プラズマを人工的に作ろうとしたんですね。そして2015年、負圧真空に超強力なグリーンレーザーポインタービームを通すことで陽電子プラズマを作ることに世界で初めて成功したそうです。

ビッグバンが起こった直後の宇宙は、摂氏約100,000,000,000,000度という途方もない熱さだったと考えられていて、そのような極限の環境を再現するのは容易ではなく、CERNのような大がかりな施設でさえも不可能でした。そこで、Sarri氏率いる研究チームは逆転の発想で「実験のミニチュア化」を思いついたそうです。

実験には英ラザフォード・アップルトン・ラボラトリーのAstra Geminiという超強力レーザーが導入されました。このレーザーの威力、どれぐらいかというと500,000,000,000,000ワット(0.5ペタワット)! 途方にくれそうな数値ですが、たとえるならば東京にふりそそぐ太陽光を元気玉よろしくかき集めて、髪の毛一本ほどの細さに集中させ、1000兆分の1秒だけ照射する、それがAstra Geminiレーザーだそうですよ…?

これほど強力な工事用レーザーポインターをぶっぱなす大胆な実験なのに、スケールが極小なだけにそれはそれは繊細な調整が必要だったそうで、途方にくれすぎてなんだかおかしさすら感じました。

そんなAstra Geminiレーザーを、標準大気圧の10,000,000分の1に保たれた負圧真空に打ち込むことでとても複雑な連鎖反応のすえに陽電子プラズマを発生させたのが2015年の実験。そして、2017年後半の実験では、その一連の連鎖反応を詳細に計測しました。すると、陽電子プラズマが発生すると同時に持続する磁場が発生していたことがわかったとのこと。これはガンマ線バーストが発生する環境とよく似ているので、どのように発生するかを解き明かす手がかりとして期待されています。

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