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円安効果失った日銀緩和、ドル95円視野
円安効果失った日銀緩和、ドル95円視野
[東京 28日] - 英国民投票で欧州連合(EU)からの離脱支持が多数となり、市場変動や心理悪化を通じて世界経済に新たな減速要因が加わることとなった。世界景気減速のリスクが高まる中で、市場はリスクオフ(株安・金利低下)に傾きやすく、為替相場は円高傾向となりやすいだろう。
そして、円高要因になり得るものとしては他に、日銀金融緩和への期待の後退が挙げられる。
日銀がマイナス金利政策を導入後、世界株価と円相場の連動性が崩れた。通常、株高局面ではリスクオンの円安が進みやすいが、2月以降は世界株価の動きに比べて為替が円高方向へと乖(かい)離するようになった。マイナス金利導入をきっかけに日銀金融緩和への期待が後退し始めことが原因と考えられる。
<日銀量的緩和増額とマイナス金利拡大は困難か>
佐藤健裕日銀審議委員は6月2日の講演で、「現行政策の枠組みでは、マネタリーベースの増加分の大宗を占める日銀当座預金の限界的な増分にマイナス金利という一種のペナルティを課す。しかし、ペナルティを課しつつマネタリーベースの増加目標を維持するのは論理矛盾である」と述べている。
金融機関が日銀の国債買い入れオペに応じて日銀当座預金が増加した部分にマイナス金利がかかると、国債を売却しにくくなり、マネタリーベースが増加しにくくなると考えられる。
佐藤委員は、「日本銀行が市場価格より高い値段を提示すれば売り手は必ず現れる、という状況が理論通り実現しているので、マイナス金利下でもマネタリーベースの積み上げは取りあえず進捗していると言えるかもしれない。しかし、見方を変えれば、日本銀行が市場価格よりも高い値段で買い入れ続けなければ入札が未達となり、マネタリーベースの積み上げに支障が生じる可能性が相応にあるということであろう」と述べている。
日銀は市場実勢よりも高い価格(低い利回り)で国債を買うケースが多くなっている。だからこそ、金融機関が日銀に国債を売る動機が存在すると同時に、市場で国債を買う動機も存在し、国債利回りが低水準を維持できている。もし日銀の買い入れ価格が下がれば、金融機関が日銀に国債を売る動機が減ると同時に、市場で国債を買う動機も減り、国債利回りの上昇リスクが高まるだろう。マイナス金利下のマネタリーベース増加は、金利のペナルティを相殺する日銀の国債買い入れに支えられたものであり、ペースアップは容易ではない。
民間の国債保有が減り、日銀の国債保有が増えすぎることは問題だろう。2016年3月末に日銀の国債保有は過去最高の364兆円、残高全体の33.9%に達した。1年前と比べ89兆円増加し、比率は7.4%上昇した。このペースが続くと、17年3月末に40%強、18年3月末に50%弱に達する。
また、日本のマネタリーベースが拡大し、その国内総生産(GDP)比は75%程度と、欧米(20%程度)の4倍程度に達した。経済規模が約4倍の米国にマネタリーベースの規模が匹敵するのだ。このペースなら、18年3月末には100%を超え、日本のマネタリーベースが経済規模を超える。
日銀は資産買い入れによるマネー供給をどこまで積み上げ続けるのだろうか。物価上昇率が上がらないのは、マネー供給量が足りないからではなく、経済動向や市場環境に原因があるからではないか。日銀審議委員には、量的・質的金融緩和(QQE)の効果は限界的に逓減し、すでに副作用が効果を上回っているとの意見もある。
日銀は量的緩和のペースアップだけでなく、マイナス金利幅の拡大も困難だろう。金融機関は、預金金利などの調達利回りの低下が限られる一方で運用利回りが低下したために利ざやが縮小し、長期国債利回りまでもがマイナス化したことで逆ざやリスクにさらされている。さらなる金利低下が、金融緩和・リスク選好・円安の効果をもたらすとは考えにくい。むしろ、金融機関の収益悪化と金融引き締め・リスク回避・円高の効果をもたらしやすいだろう。
<マネー供給の規模より増減見通しが為替を左右>
為替相場は二国間のマネタリーベース比率との相関が認められるものの、それに沿うように動くわけではない。中央銀行が量的緩和政策をとっているときには、為替相場がマネタリーベース比率の通りに動かないケースがある。
2000年頃までは、ドル円と日米マネタリーベース比率のピーク・ボトムの時期に大差はなく、マネタリーベースの大半を占める現金通貨の日米比率に連動するように為替相場が変動した。ところが、01年3月に日銀が初めて量的緩和政策を採用し、04年1月に日銀当座預金目標を30―35兆円へと拡大するまで、日米マネタリーベース比率は上昇(相対的に日本が増加)したが、ドル円は02年1月にピークアウトし、05年1月にかけて円高・ドル安が進んだ。
日本の景気が02年1月に底打ちして回復に転じたこと(当時は景気拡大で円高)、米国の金利が03年半ばにかけて低下したことが、円高・ドル安に寄与した。結果的に、量的緩和で日銀当座預金の規模が拡大するなか、その円安効果が続かなくなった。
今回も日米マネタリーベース比率が上昇を続けるなかで、ドル円相場は下落に転じた。15年半ば以降のリスクオフ局面で円高に振れたこともあるが、16年1月に日銀がマイナス金利政策を導入したことにより金融緩和への期待が後退したことが円高に働いた。現時点で日本のマネタリーベースが拡大していることよりも、将来的にそれがどう変化するかという見通しが、為替相場を左右すると言える。
米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和(QE1、QE3)の開始当初にリスクオフでドル高に振れた局面などを除けば、基本的には米国マネタリーベースの変化に連動するようにドル実効為替が変動している。マネタリーベースが増えていなくても減少率が下げ止まるとドル安に振れたり、マネタリーベースが増えていても増加率が下がるとドル高に振れたりしている。現在はマネタリーベースの動向からすると、ドル相場が一方向に大きく振れにくい状況にある。
<2017年末までに1ドル=95円以上の円高も>
円実効為替にも日本のマネタリーベースの変化が影響している。マネタリーベースの増加ペースは14年末以降、年率80―90兆円程度で頭打ちであり、最近はやや低下している。日銀が市場より高い価格で国債を買い続ければ、マネタリーベースの増加ペースを維持できるとしても、市場は増加ペースが高まりにくいと読み、円高が進んでいるのだろう。
仮に日銀が国債買い入れの増額によってマネタリーベースの増加ペースを上げたとしよう。一時的にはサプライズから円安が進むにしても、長くは続かない可能性が高い。現状ペースでも国債買い入れを長く続けることに様々な問題があるなか、ペースアップすれば国債買い入れを減額ないしは停止する時期が早まるとの見方が浮上しやすいからだ。
日銀が買い入れ対象の国債を長期化したり、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J―REIT)の買い入れを増額したりすることにも限界がある。「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」に対する市場の期待は、後退の一途をたどるのではないか。
80年代半ば以降において実質的に最大の円安(ドル高)が進んだのは、日銀の量的・質的緩和によるところが大きいだけに、緩和期待が後退すれば円高が進みやすい。日米購買力平価を考慮すると、17年末までに1ドル=95円を超える円高が進む可能性がある。
ロイター引用
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