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ケーヒンのニュース
■事業戦略
1. “グローバルニッチトップ”のブルーオーシャン戦略
アドバネクス<5998>は、競合が少なく、自社の強みが発揮される市場を重点的に開拓するブルーオーシャン戦略を取っている。自動車用ばねの市場では、国内の大手ばねメーカーはシャシばねなど大型製品を得意としており、精密ばね分野で同社との直接的な競合は少ない。同社の競合先は、500社以上ある中小零細メーカーになる。これらの企業は、おおむね海外に進出する体力に乏しい。自動車は、国際品質マネジメント規格の取得、顧客による新工場・新ラインの認定など、引き合いから生産までのリードタイムが長く、量産開始に至るまでの先行投資期間を耐える必要がある。自動車業界のビジネス特性である長期間にわたる安定的な需要が期待できる反面、継続的なコストダウン、グローバル並行生産と良品率が最重要視される。Tier 2の部品会社でこれらの要求を満たす企業は少ない。上流からの共同開発に加え、家電やOA機器で磨いた設計提案を行う同社は、競合の少ないブルーオーシャンのポジショニングを自ら築いた。中長期的に精密金属加工分野で世界一の企業となることを目指す。
メガサプライヤーに対応するグローバルTier2部品メーカー
2. 自動車産業の構造的変化と同社の施策
(1) メガサプライヤーとグローバルTier2部品メーカー
2018年の自動車生産台数が1,000万台を超えた世界のトップ3は、いずれも異なる車種間で共通のモジュールや部品を使用することを前提とした車用エンジニアリングアーキテクチャを採用している。トップの独フォルクス ワーゲンは「MQB」、2位のルノー・日産自動車<7201>・三菱自動車工業<7211>は「CMF」、3位のトヨタ自動車<7203>は「TNGA」と称している。車種ごとに個別の部品を開発・製造していては、開発期間や設備投資、製造コストが課題となる。車種の多様化と低コストを同時に実現するため、プラットフォーム(車台)の標準化・共通化、コンポーネント(部品)の共通化、設計の標準化と共有可能モジュールの大幅な採用が進む。コンポーネントの共有化では、モジュール部品が車体の大きさ・タイプを超えて利用される。生産のグローバル化の傾向も相まって、製品当たりの生産量が増加する。2020年3月期における特定製品の計画生産量を2015年3月期の水準と比較すると、同社の代表的なインサートモールド製品は2.6倍、同じく代表的な板ばね製品が2.6~3.4倍、プラスチック部品締結部の補強部品インサートカラーが2.5倍となる。
Tier1メーカー間では、経営の統合が進行している。富士通テン(株)はデンソー<6902>グループ入りし、アイシン精機<7259>とアイシン・エィ・ダブリュ(株)が経営統合した。カルソニックカンセイ(株)は、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズの自動車部品部門のマニエッティ・マレリに経営統合され、マレリに変わる。本田技研工業<7267>系のケーヒン<7251>、ショーワ<7274>、日信工業<7230>の3社は、日立製作所<6501>の完全子会社である日立オートモティブシステムズ(株)と合併する予定だ。同社は、Tier 1の統合後企業のプロジェクトすべてに参画できるよう営業を強化する。
自動走行技術やコネクテッドカーでは、技術の業界標準化が話し合われている。自動車は約3万点の部品で成り立っていると言われるが、コストの半分は汎用部品が占める。汎用部品は生産数量が大きいため価格が低く、その採用はコストダウンに寄与する。製品当たり生産数量は、自動車メーカーの自社固有の部品では数十万個単位だが、汎用品では数百万個とケタが違ってくる。部品の標準化・モジュール化により、部品の生む付加価値は自動車メーカーから部品会社にシフトする。世界的なTier1の部品会社は、特定の自動車メーカーの下請け的存在から複数のカーメーカーを顧客とするメガサプライヤーとなる。欧米は、日本に比べメガサプライヤー化が進んでいる。世界1、2位のドイツのRobert BoschやContinentalの売上規模は日系トップのデンソーのそれぞれ2.1倍、1.7倍に相当する。
同社は、メガサプライヤーとなるTier1と取引するグローバルTier2を目指す。海外に10拠点以上持つ企業は、同社の推定では数百社のTier1のうちある程度存在するが、数千社以上もいるTier2ではわずかしか存在しない。
グローバル並行生産体制が事業環境の変化に柔軟に対応
(2) 同社のグローバル並行生産体制
同社のグローバルな生産体制は、国内の5拠点、海外の17拠点(11ヶ国)で形成される。その拠点数は、精密ばね業界の中で飛び抜けて多い。海外拠点数の多さは、グローバル発注システム上で有利になる。グローバル並行生産を前提とした製品は、例えば日本から始まり、タイ、中国、インドと展開される。自動車メーカーがジャスト・イン・タイム(JIT)デリバリーを求める部品は、地産地消が基本となる。
自動車部品は、引き合い、見積、設計・試作の繰り返しなどの工程を経てから量産開始となる。海外における日本と同時もしくは追加的な受注では、設計・試作の工程が省かれる。量産設備や金型を日本から海外工場に移管することで、スムーズな生産立ち上げを可能にする。中期経営計画において利益率が大きく改善する要因として、販管費などの経費が増収率ほどには増えないことが挙げられている。
米中貿易戦争とブレグジットは、製造業にとって中国とイギリスからの生産移管を喫緊の課題としている。完成品メーカーやTier 1メーカーにとって、生産拠点を変更しても短時間に対応できるTier 2メーカーを評価する。同社は、ここ数年でメキシコ、米国、ベトナム、インド、インドネシア、チェコに新拠点を立ち上げており、生産移管の受け皿を提供できる。
収益性の高い医療市場では、2019年3月期に米国工場が量産を開始した。2020年3月期は、チェコ工場の操業入りが計画されている。2021年3月期になると、自己注射器用ばねの量産開始が見込まれている。グローバル生産は、コストメリットが大きい。パソコン、携帯電話、カメラ向け部品の場合は、生産量が年10万個から1,000万個単位であることから、1ヶ所で集中生産することが適している。一方、生産単位が1,000万個から1億個となるディスポーザブル医療キットは、関税、国内生産優遇、輸送費などを勘案すると分散生産による地産地消の方にコストメリットがある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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1. “グローバルニッチトップ”のブルーオーシャン戦略
アドバネクス<5998>は、競合が少なく、自社の強みが発揮される市場を重点的に開拓するブルーオーシャン戦略を取っている。自動車用ばねの市場では、国内の大手ばねメーカーはシャシばねなど大型製品を得意としており、精密ばね分野で同社との直接的な競合は少ない。同社の競合先は、500社以上ある中小零細メーカーになる。これらの企業は、おおむね海外に進出する体力に乏しい。自動車は、国際品質マネジメント規格の取得、顧客による新工場・新ラインの認定など、引き合いから生産までのリードタイムが長く、量産開始に至るまでの先行投資期間を耐える必要がある。自動車業界のビジネス特性である長期間にわたる安定的な需要が期待できる反面、継続的なコストダウン、グローバル並行生産と良品率が最重要視される。Tier 2の部品会社でこれらの要求を満たす企業は少ない。上流からの共同開発に加え、家電やOA機器で磨いた設計提案を行う同社は、競合の少ないブルーオーシャンのポジショニングを自ら築いた。中長期的に精密金属加工分野で世界一の企業となることを目指す。
メガサプライヤーに対応するグローバルTier2部品メーカー
2. 自動車産業の構造的変化と同社の施策
(1) メガサプライヤーとグローバルTier2部品メーカー
2018年の自動車生産台数が1,000万台を超えた世界のトップ3は、いずれも異なる車種間で共通のモジュールや部品を使用することを前提とした車用エンジニアリングアーキテクチャを採用している。トップの独フォルクス ワーゲンは「MQB」、2位のルノー・日産自動車<7201>・三菱自動車工業<7211>は「CMF」、3位のトヨタ自動車<7203>は「TNGA」と称している。車種ごとに個別の部品を開発・製造していては、開発期間や設備投資、製造コストが課題となる。車種の多様化と低コストを同時に実現するため、プラットフォーム(車台)の標準化・共通化、コンポーネント(部品)の共通化、設計の標準化と共有可能モジュールの大幅な採用が進む。コンポーネントの共有化では、モジュール部品が車体の大きさ・タイプを超えて利用される。生産のグローバル化の傾向も相まって、製品当たりの生産量が増加する。2020年3月期における特定製品の計画生産量を2015年3月期の水準と比較すると、同社の代表的なインサートモールド製品は2.6倍、同じく代表的な板ばね製品が2.6~3.4倍、プラスチック部品締結部の補強部品インサートカラーが2.5倍となる。
Tier1メーカー間では、経営の統合が進行している。富士通テン(株)はデンソー<6902>グループ入りし、アイシン精機<7259>とアイシン・エィ・ダブリュ(株)が経営統合した。カルソニックカンセイ(株)は、欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ
自動走行技術やコネクテッドカーでは、技術の業界標準化が話し合われている。自動車は約3万点の部品で成り立っていると言われるが、コストの半分は汎用部品が占める。汎用部品は生産数量が大きいため価格が低く、その採用はコストダウンに寄与する。製品当たり生産数量は、自動車メーカーの自社固有の部品では数十万個単位だが、汎用品では数百万個とケタが違ってくる。部品の標準化・モジュール化により、部品の生む付加価値は自動車メーカーから部品会社にシフトする。世界的なTier1の部品会社は、特定の自動車メーカーの下請け的存在から複数のカーメーカーを顧客とするメガサプライヤーとなる。欧米は、日本に比べメガサプライヤー化が進んでいる。世界1、2位のドイツのRobert BoschやContinentalの売上規模は日系トップのデンソーのそれぞれ2.1倍、1.7倍に相当する。
同社は、メガサプライヤーとなるTier1と取引するグローバルTier2を目指す。海外に10拠点以上持つ企業は、同社の推定では数百社のTier1のうちある程度存在するが、数千社以上もいるTier2ではわずかしか存在しない。
グローバル並行生産体制が事業環境の変化に柔軟に対応
(2) 同社のグローバル並行生産体制
同社のグローバルな生産体制は、国内の5拠点、海外の17拠点(11ヶ国)で形成される。その拠点数は、精密ばね業界の中で飛び抜けて多い。海外拠点数の多さは、グローバル発注システム上で有利になる。グローバル並行生産を前提とした製品は、例えば日本から始まり、タイ、中国、インドと展開される。自動車メーカーがジャスト・イン・タイム(JIT)デリバリーを求める部品は、地産地消が基本となる。
自動車部品は、引き合い、見積、設計・試作の繰り返しなどの工程を経てから量産開始となる。海外における日本と同時もしくは追加的な受注では、設計・試作の工程が省かれる。量産設備や金型を日本から海外工場に移管することで、スムーズな生産立ち上げを可能にする。中期経営計画において利益率が大きく改善する要因として、販管費などの経費が増収率ほどには増えないことが挙げられている。
米中貿易戦争とブレグジットは、製造業にとって中国とイギリスからの生産移管を喫緊の課題としている。完成品メーカーやTier 1メーカーにとって、生産拠点を変更しても短時間に対応できるTier 2メーカーを評価する。同社は、ここ数年でメキシコ、米国、ベトナム、インド、インドネシア、チェコに新拠点を立ち上げており、生産移管の受け皿を提供できる。
収益性の高い医療市場では、2019年3月期に米国工場が量産を開始した。2020年3月期は、チェコ工場の操業入りが計画されている。2021年3月期になると、自己注射器用ばねの量産開始が見込まれている。グローバル生産は、コストメリットが大きい。パソコン、携帯電話、カメラ向け部品の場合は、生産量が年10万個から1,000万個単位であることから、1ヶ所で集中生産することが適している。一方、生産単位が1,000万個から1億個となるディスポーザブル医療キットは、関税、国内生産優遇、輸送費などを勘案すると分散生産による地産地消の方にコストメリットがある。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)
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