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古野電気のニュース
―脱炭素化の潮流を背景に新造船建造量は底入れへ、長期的に高水準で推移の公算大―
浮き沈みの激しい海運市況と同様に、造船市況も好不調の波が激しいという特徴がある。海運会社が儲かれば大量の受注が舞い込み、余剰船腹が発生すれば市況が下落し、受注が減少するためだ。いったん受注が落ち込めば、その流れは数年にわたって続く傾向がある。しかし足もとでは受注が底入れに向かっている。そればかりでなく、 脱炭素化の流れも相まって、新造船の建造量は大幅な増加に向かうことが想定されている。
●「高原状態」は40年代半ばまで続く
日本造船工業会によると、2011年に1億総トンを超えた世界の新造船建造量は、この年を直近のピークとして22年には5590万総トンとほぼ半減した。しかし同年をボトムに23年は回復に向かっている。今後は30年代早々に1億総トンを超え、40年代半ばにかけて1億2000万総トン前後で推移する「高原状態」となる見通しだ。
長期的な造船需要の拡大の背景にあるのは、脱炭素化・GHG(温室効果ガス)排出量削減の流れだ。23年7月に、IMO(国際海事機関)は、従来のGHG削減戦略を改定し、50年頃までに排出ゼロと削減目標を強化した。30年には08年比で20~30%削減、40年には70~80%削減というロードマップも提示された。船舶のゼロエミッション化が加速することとなる。
燃費向上につながる技術だけではなく、ディーゼルと比べて相対的に炭素排出の少ないLNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)の活用促進、最終的にはメタノール、アンモニア、水素など新燃料の利用も不可欠になる。新造船サイクルから大きな恩恵を受けるのは、世界シェアの観点でも、中国や韓国の造船大手となる。とはいえ、日本企業の「取り分」も無視はできない。日本の造船業界は中韓両国の後塵を拝して久しい。期待値がそこまで高くない分、急激な環境の変化は、関連企業の株価評価に大きなプラス効果をもたらすこととなる。
●中韓メーカーの後塵拝す日本企業も見直しは必至
造船大手と言えば、総合重機メーカーと考えるのが一般的かもしれない。三菱重工業 <7011> [東証P]、川崎重工業 <7012> [東証P]、IHI <7013> [東証P]は、いずれも祖業の造船については縮小・撤退傾向で、防衛関連に含まれる艦艇部門を含めても、全社業績に占めるウェイトは小さい。住友重機械工業 <6302> [東証P]は現在建造中の新造船の竣工をもって造船事業から撤退予定である。旧三井造船の三井E&S <7003> [東証P]と旧日立造船のカナデビア <7004> [東証P]、業界中堅だったサノヤスホールディングス <7022> [東証S]なども造船事業からは撤退済みだ。
現在、国内の造船大手としては今治造船(愛媛県今治市)のほか、大島造船所(長崎県西海市)、ジャパンマリンユナイテッド(横浜市西区)、新来島どっく(愛媛県今治市)、尾道造船(神戸市中央区)など非上場企業が並んでいる。浮き沈みの激しい業界では、非上場での機動的な経営体制が主流になっているのかもしれない。
●名村造と内海造に熱視線
そのなかで、名村造船所 <7014> [東証S]は国内中堅として函館どつくや佐世保重工業を傘下に収め、新造船だけではなく、艦艇の修繕、鉄構・機械にも事業展開している。25年3月期第2四半期累計(4~9月)の連結業績は増収・増益、通期業績予想は増額修正された。得意のバルカーに加え、LPG燃料対応大型LPG・アンモニア運搬船も受注。上期末の受注残高は、前年同期比30%増の3878億円に達している。
内海造船 <7018> [東証S]にも注目したい。旧日立造船系でフェリーやRORO船(貨物を積んだトラックやシャシーごと輸送可能な船舶)などに強く、船種の幅広さに定評がある。9月中間期業績は減収・減益だったが、重油とLNGの二元燃料仕様フェリーなど新技術に挑んでいる。上期末の船舶事業の受注残高は、前年同期比16.8%増の998億円。「プロダクトミックス戦略」をとる同社の業績回復シナリオに期待が膨らむ。
船を造るには、船舶そのものだけではなく、中に搭載される多くの機器が必要になる。そして、その点では日本国内には産業集積があり、造船業に対する政策支援に加えて舶用機器産業への支援も始まっている。経済安全保障推進法に基づく船舶の部品の安定供給確保について、国土交通省「船舶関連機器のサプライチェーン強靱化事業」に認定されているのは、プロペラ、エンジン、ソナーの3分野で11社に及ぶ。
ソナーの分野で上記認定を受けている古野電気 <6814> [東証P]は、漁船向け魚群探知機で有名だが、レーダーや電子海図など舶用電子機器でも世界有数の企業だ。25年2月期第1四半期(3~5月)と第2四半期(6~8月)の決算において、ともに通期業績・配当予想の増額修正を発表しており、業績は絶好調だ。新造船が増えれば、電子機器の搭載も増えるという好循環が続くと見込まれる。
中国塗料 <4617> [東証P]は船舶用塗料では国内外でトップクラス。新造船向け塗料の拡大に加え、環境規制対応で省燃費が見込める同社の高付加価値塗料の採用が増えている。原料価格上昇はあるものの、販売価格引き上げと数量増加の効果が上回り、25年3月期第2四半期累計(4~9月)決算の発表時点で通期業績予想は増額修正された。国内だけではなく、中国や韓国、東南アジア、欧米など全世界で利益を出しているのも製品競争力の高さを表している。
三井E&Sは高シェアを誇る舶用エンジンと港湾クレーンを軸に事業再生を遂げた。収益性向上と有利子負債返済が進み、財務健全性も強化されつつある。海外でのクレーン受注が好調に推移し、舶用エンジンではLNGやメタノール焚き二元燃料エンジンの需要が立ち上がりつつある。
●ジャパンエンなど好業績銘柄相次ぐ
ジャパンエンジンコーポレーション <6016> [東証S]は、神戸発動機と三菱重の舶用エンジン事業が統合された会社で、海外でのライセンス生産も進めており、アンモニア・水素燃料エンジンの開発も推進。業績は急拡大中で、第1四半期(4~6月)決算時点で通期業績予想を増額修正した。上期末の受注残高は、前年同期比14.4%増の285億円に積み上がっている。上期時点での通期予想に対する進捗率は、営業利益で74%に達し、再度の増額修正が見込まれよう。
舶用エンジン周辺ではダイハツディーゼル <6023> [東証S]なども関連企業となる。大同メタル工業 <7245> [東証P]は、自動車用エンジン軸受の世界的大手だが、舶用エンジン軸受でも存在感がある。舶用が含まれる非自動車用軸受の構成比は、9月中間期の連結調整前ベースで売上高の13%を占め、造船市況好転によってこの分野の貢献度が高まることが期待される。主力の自動車用軸受も回復が見込まれるため、PBR(株価純資産倍率)の低さを考えると面白い存在かもしれない。
東京計器 <7721> [東証P]は、防衛・通信機器が主力だが、航海計器を祖業としており、船舶港湾機器事業の9月中間期売上高は連結全体の約29%を占める。新造船需要の増加と保守サービスの積み上げにより、上期決算時点で通期業績予想は増額修正された。上期末の全体の受注残高は、前年同期比32%増の547億円に達し、防衛向けと船舶向けが伸びている。
寺崎電気産業 <6637> [東証S]は船舶用・産業用配電制御システムで国内首位。国内のみならずアジアや欧州にも事業展開しており、機器の納入とともに保守・更新にも対応している。9月中間期決算発表にあわせ通期業績予想は増額修正され、上期末のシステム製品受注残高は、前期末比37%増の504億円に達している。
畑違いのようにも見えるが、いよぎんホールディングス <5830> [東証P]も挙げておこう。造船会社は非上場企業が主体であり、資金調達は資本市場ではなく借入に頼らざるを得ない側面がある。営業地盤の愛媛など瀬戸内海沿岸には造船関連企業とともに船主が集積しており、シップファイナンスの機会も大きい。このほか流動性は乏しいが、自動調節弁などが主力の中北製作所 <6496> [東証S]は第1四半期(6~8月)末の受注残高が前年同期比41%増の177億円に達している。舶用ハッチカバーが主力のニッチツ <7021> [東証S]は、総還元性向40%を目安に株主還元方針を強化し、優待制度も導入した。舶用エンジンの阪神内燃機工業 <6018> [東証S]、赤阪鐵工所 <6022> [東証S]も関連銘柄として位置づけられる。
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