粉体製剤における適切な分散剤の予測法「効果球」を開発 日本化粧品技術者会 学術大会にて最優秀口頭発表賞を受賞

　株式会社コーセー（本社：東京都中央区、代表取締役社長：小林一俊）は、ファンデーションや日やけ止めといった粉体入りのリキッド製剤の開発に欠かせない、適切な分散剤を予測する方法を開発しました。これはハンセンの溶解度パラメータという成分同士の親和性を表す指標を用いて、分散剤が効果的に粉体を分散できる領域「効果球」を定める手法です。これにより、粉体製剤の開発における適切な分散剤や溶媒の選択が容易となり、例えば“均一性が高く、化粧むらになりにくい”、“配合量は同じでも、より紫外線防御効果を発揮できる”といった製剤をより機能的かつ効率的に開発することが可能となります。
　本研究成果の一部は、国内最大級の化粧品技術の発表会である第2回 日本化粧品技術者会（SCCJ）学術大会（2024年11月18日～20日、兵庫県）にて発表し、44件の口頭発表の中から最優秀口頭発表賞に選出されました（※）。
（※）第2回 日本化粧品技術者会（SCCJ）学術大会　公式Webサイト


図1　効果球の開発

図2　分散剤ごとの効果球の例

研究の背景

　リキッドファンデーションや日やけ止めにおいて、粉体の分散性は発色、紫外線防御、使い心地に大きく影響する要素であり、製剤開発においては粉体・溶媒・分散剤の3成分をバランス良く配合する必要があります。しかし、ある粉体に対してどの分散剤が良いのか、さらにはどの溶媒を組み合わせるのか、ということに体系的に答えることができる手法はこれまで確立されておらず、個々の化粧品開発者の経験に依存してきました。
　そこで我々は、物質同士の化学的な親和性を評価できるハンセンの溶解度パラメータに着目し、粉体・溶媒・分散剤の選択を体系化する手法の開発に取り組みました。

効果的な粉体分散となる領域「効果球」の開発

　ハンセンの溶解度パラメータは、それぞれの物質の持つ凝集エネルギー（寄り集まろうとする力）を分散項・極性項・水素結合項という3種類の化学的な性質によって数値化したものです。この各項を軸とした三次元空間における、物質同士の点の距離Raを比較することで、どの物質同士が溶けやすいかという親和性を推測することができます（図3）。
　また、溶媒中の粉体の分散性は、その粒子径を測定することで評価することができるため、粉体に分散剤を添加したときに粒子径が小さくなっていれば、効果的な分散剤であると評価することができます。本研究では、ある粉体に対し、溶媒と分散剤の様々な組み合わせを試行し、それぞれの粒子径の変化率を評価しました。その結果、分散剤ごとに粒子径を小さくした溶媒の集合、つまり効果的に粉体が分散できる領域を見出しました。この領域は球形となり、この内部は効果的な粉体分散になると推定されることから、これを分散剤の「効果球」と定義しました（図1）。この効果球は分散剤ごとに異なるため（図2）、効果的な粉体分散のためには分散剤選択が重要となることが再確認できました。



図3　ハンセンの溶解度パラメータによる親和性推定の例

効果球による粉体分散の予測精度の検証

　次に効果球が粉体分散をどの程度予測できるのかを検証するため、分散剤と溶媒の組み合わせを変えながら、粉体の粒子径と効果球と溶媒の距離Raの関係を調べました。その結果、今回開発した効果球を用いた手法は、既存の溶媒への溶解性を基準にした方法（溶解球）と比較して、Raと粒子径の間により強い相関が確認できました（図4）。これは、溶解性を基準にした方法は分散剤が溶媒に溶けすぎてしまい、粉体表面で分散に寄与できない部分を考慮しきれないのに対し、効果球の方では分散剤が粉体表面で効果的に分散に寄与できる状態を正しく評価できたためであると考えます。以上から、粉体分散を予測する有効な手法として効果球を開発することができました。


図4　効果球を用いた粉体分散の予測精度の検証


今後の展望

　本研究により効果球を開発したことで、製剤中の粉体の分散状態を精度よく予測することが可能になりました。この技術により粉体の分散性を制御することで、発色、使い心地、紫外線防御効果といった機能向上や、より効率的な化粧品開発が期待できます。今後もお客さまの満足に繋がるモノづくりの技術開発を推進していきます。


参考資料　：　学術発表情報

学会名/表彰
　第2回 日本化粧品技術者会(SCCJ) 学術大会
　最優秀口頭発表賞


発表タイトル
ハンセンの溶解度パラメータを用いた新規の分散性予測法 “効果球” の開発
～粉体・油剤・分散剤の三成分系における親和性の至適範囲の可視化～


発表者/研究者
株式会社コーセー
吉川 健太郎（発表者）、須澤 由希、大島 育也、大友 真由、高田 阿美、萩野 亮