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ダイセルのニュース
■新型コロナウイルス感染症ワクチン及び治療薬の開発状況
1. 新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発状況
新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、米ファイザーやモデルナ、イギリスのアストラゼネカなど大手製薬企業の開発した製品の国内での承認が相次ぎ、集団接種が進んでいる。2022年に入って感染力の強いオミクロン株の感染拡大が続いていることから3回目の接種が進んでおり、収束の時期が見えない状況が続いている。政府の意向として、国産ワクチンの開発を進めていく方針に変わりなく、アンジェス<4563>を含めて複数の企業が国からの補助金を得ながら開発を進めている状況にある。
同社は2020年3月より大阪大学と共同でプラスミドDNA※1製法を用いたワクチンの開発を進めている。同ワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子をプラスミドに挿入し、このプラスミドを大腸菌で大量培養した後にDNAを抽出して製剤化する。無害化されたDNAワクチンを投与することで、新型コロナウイルスに対する免疫(抗体)※2を作り、感染症の発症や重症化を防ぐことが可能となる。
※1 プラスミド(plasmid)とは、大腸菌などの細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称。一般的に環状の2本鎖構造を取り、染色体のDNAからは独立して複製を行う。その独立した遺伝子複製機構から、遺伝子組み換え操作のベクターとして創薬などで利用されている。このプラスミドを大腸菌に導入し、大腸菌の大量培養により目的のDNAを増幅する。プラスミド製法では、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」が上市済みであり、製法そのものについての安全性は確認されている。
※2 ウイルスや細菌などの抗原が体内に入り込んだとき、そのたんぱく質に反応し、体から追い出すためにできる対抗物質。
開発状況については、2021年8月より開始した高用量製剤を用いた第1/2相臨床試験において予定症例数400症例の接種を2021年11月に完了している。現在、国際標準に準じたデータ解析を海外の専門機関で行っており、順調に進めば2022年夏頃にも試験結果が判明する見通しだ。先行品と同等程度以上の有効性が確認できれば第2/3相臨床試験、第3相臨床試験へと進むべくPMDAと協議していくことになるが、第3相臨床試験では原則3千人以上の症例数を確保することが規制当局の考え方となっているため、国の補助金が下りることが臨床試験を進めていくうえでの前提となる。
なお、第1/2相臨床試験では、接種方法として筋肉内接種に加えて皮内接種でも実施した。皮内接種は筋肉内接種よりも少ない投与量で同等程度の効果が得られる可能性がある。皮内接種のデバイスはダイセル<4202>が開発する薬剤送達デバイス「アクトランザTMラボ」を用いている。火薬を駆動力とするため、針を用いることなく薬剤を接種することが可能で、皮内接種で良いデータが得られれば薬剤コストの低減にもつながるため、その結果が注目される。また、現在開発を進めているワクチンは、PMDAのガイドラインにもとづき、当初中国で感染拡大した武漢型(親ワクチン)と呼ばれるものに対応したものとなり、現在感染拡大しているオミクロン株等の変異株については親ワクチン承認後に改めて、臨床試験の必要性の有無等を協議していくこととなる。親ワクチンで同等程度の効果が確認できなければ、変異株対応ワクチンを開発することになるが、プラスミドに導入する遺伝子を変えるだけで済むため比較的短期間での開発は可能と見られる。
現在のワクチンの開発や量産体制構築に向けた費用については、国の補助金等で賄われている。具体的には、AMEDが2020年5月に公募した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に採択され、研究開発費20億円(直接経費、研究開発期間:2020年6月−2021年3月)の支援を受けたほか、厚生労働省が公募した「令和2年度ワクチン生産体制等緊急整備事業」にも同年8月に採択され、約93億円の交付金(事業期間:2020年8月−2022年3月)を受けて、タカラバイオ<4974>が中心となって大規模生産体制の構築を進めてきた。さらに、AMEDが公募した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」(2次公募、研究開発予定期間:2020~2021年度目途)にも同年8月に採択されている(金額は非開示)。AMEDからの補助金については四半期ごとに入金され、2022年1月に入金が完了している。一方、厚生労働省からは半期ごとで、予定額の入金が完了している。
同社の業績面への影響については、開発に係る費用を研究開発費として計上し、関連費用を補助金収入として営業外収益として計上するため、基本的には支出と収入のバランスが取れ損益面での影響は軽微ということになるが、実際には補助金収入としての認定時期にタイムラグが発生するため、費用が先行する格好となっている。プロセスとしては事前に厚生労働省やAMEDから補助金等の入金があり、同社が開発にかかった費用や実績報告書を関係当局に提出、その後監査・承認を経て補助金等の金額が確定(補助金収入として計上)することになる。また、未確定部分の金額については前受金として流動負債に計上している。具体的な数値で見ると、2020年12月期は補助金収入がなく、前受金として3,594百万円が計上されており、2021年12月期にその一部が補助金収入に振り替わり1,399百万円を計上、前受金については2021年に入金された部分も含めて5,119百万円となっている。AMEDからの残りの補助金が2022年1月に入金されているため、2022年12月期以降にこれら前受金が補助金収入として営業外収益に計上されることになる。
なお、同社のワクチン共同開発プロジェクトについては、多くの企業が参画している。ワクチンの製造に関してはタカラバイオをはじめ、Kaneka Eurogentec S.A.、AGC Biologics S.p.A.、シオノギファーマ(株)、Cytivaなどが大規模治験に向けた体制整備に取り組んでいる。また、次世代ワクチンの開発についても前述したダイセルの薬剤送達デバイスのほか、様々な研究開発が行われている。変異株に対する効果の高いDNAワクチンの開発についても、共同開発先の大阪大学で取り組んでいる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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1. 新型コロナウイルス感染症ワクチンの開発状況
新型コロナウイルス感染症ワクチンについては、米ファイザー
同社は2020年3月より大阪大学と共同でプラスミドDNA※1製法を用いたワクチンの開発を進めている。同ワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝子をプラスミドに挿入し、このプラスミドを大腸菌で大量培養した後にDNAを抽出して製剤化する。無害化されたDNAワクチンを投与することで、新型コロナウイルスに対する免疫(抗体)※2を作り、感染症の発症や重症化を防ぐことが可能となる。
※1 プラスミド(plasmid)とは、大腸菌などの細菌や酵母の核外に存在し、細胞分裂によって娘細胞へ引き継がれるDNA分子の総称。一般的に環状の2本鎖構造を取り、染色体のDNAからは独立して複製を行う。その独立した遺伝子複製機構から、遺伝子組み換え操作のベクターとして創薬などで利用されている。このプラスミドを大腸菌に導入し、大腸菌の大量培養により目的のDNAを増幅する。プラスミド製法では、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン®」が上市済みであり、製法そのものについての安全性は確認されている。
※2 ウイルスや細菌などの抗原が体内に入り込んだとき、そのたんぱく質に反応し、体から追い出すためにできる対抗物質。
開発状況については、2021年8月より開始した高用量製剤を用いた第1/2相臨床試験において予定症例数400症例の接種を2021年11月に完了している。現在、国際標準に準じたデータ解析を海外の専門機関で行っており、順調に進めば2022年夏頃にも試験結果が判明する見通しだ。先行品と同等程度以上の有効性が確認できれば第2/3相臨床試験、第3相臨床試験へと進むべくPMDAと協議していくことになるが、第3相臨床試験では原則3千人以上の症例数を確保することが規制当局の考え方となっているため、国の補助金が下りることが臨床試験を進めていくうえでの前提となる。
なお、第1/2相臨床試験では、接種方法として筋肉内接種に加えて皮内接種でも実施した。皮内接種は筋肉内接種よりも少ない投与量で同等程度の効果が得られる可能性がある。皮内接種のデバイスはダイセル<4202>が開発する薬剤送達デバイス「アクトランザTMラボ」を用いている。火薬を駆動力とするため、針を用いることなく薬剤を接種することが可能で、皮内接種で良いデータが得られれば薬剤コストの低減にもつながるため、その結果が注目される。また、現在開発を進めているワクチンは、PMDAのガイドラインにもとづき、当初中国で感染拡大した武漢型(親ワクチン)と呼ばれるものに対応したものとなり、現在感染拡大しているオミクロン株等の変異株については親ワクチン承認後に改めて、臨床試験の必要性の有無等を協議していくこととなる。親ワクチンで同等程度の効果が確認できなければ、変異株対応ワクチンを開発することになるが、プラスミドに導入する遺伝子を変えるだけで済むため比較的短期間での開発は可能と見られる。
現在のワクチンの開発や量産体制構築に向けた費用については、国の補助金等で賄われている。具体的には、AMEDが2020年5月に公募した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」に採択され、研究開発費20億円(直接経費、研究開発期間:2020年6月−2021年3月)の支援を受けたほか、厚生労働省が公募した「令和2年度ワクチン生産体制等緊急整備事業」にも同年8月に採択され、約93億円の交付金(事業期間:2020年8月−2022年3月)を受けて、タカラバイオ<4974>が中心となって大規模生産体制の構築を進めてきた。さらに、AMEDが公募した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン開発」(2次公募、研究開発予定期間:2020~2021年度目途)にも同年8月に採択されている(金額は非開示)。AMEDからの補助金については四半期ごとに入金され、2022年1月に入金が完了している。一方、厚生労働省からは半期ごとで、予定額の入金が完了している。
同社の業績面への影響については、開発に係る費用を研究開発費として計上し、関連費用を補助金収入として営業外収益として計上するため、基本的には支出と収入のバランスが取れ損益面での影響は軽微ということになるが、実際には補助金収入としての認定時期にタイムラグが発生するため、費用が先行する格好となっている。プロセスとしては事前に厚生労働省やAMEDから補助金等の入金があり、同社が開発にかかった費用や実績報告書を関係当局に提出、その後監査・承認を経て補助金等の金額が確定(補助金収入として計上)することになる。また、未確定部分の金額については前受金として流動負債に計上している。具体的な数値で見ると、2020年12月期は補助金収入がなく、前受金として3,594百万円が計上されており、2021年12月期にその一部が補助金収入に振り替わり1,399百万円を計上、前受金については2021年に入金された部分も含めて5,119百万円となっている。AMEDからの残りの補助金が2022年1月に入金されているため、2022年12月期以降にこれら前受金が補助金収入として営業外収益に計上されることになる。
なお、同社のワクチン共同開発プロジェクトについては、多くの企業が参画している。ワクチンの製造に関してはタカラバイオをはじめ、Kaneka Eurogentec S.A.、AGC Biologics S.p.A.、シオノギファーマ(株)、Cytivaなどが大規模治験に向けた体制整備に取り組んでいる。また、次世代ワクチンの開発についても前述したダイセルの薬剤送達デバイスのほか、様々な研究開発が行われている。変異株に対する効果の高いDNAワクチンの開発についても、共同開発先の大阪大学で取り組んでいる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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