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リーダーシップをいかに発揮するか

著者:鈴木 行生
投稿:2024/02/26 10:45

三菱ケミカルグループ<4188>のギルソン社長が退任する。2024年4月から副社長の筑本氏がCEOとしてリーダーシップを発揮する。石油化学事業の再編が難航しているので、同事業に精通する筑本氏が相応しいと判断された。

・指名委員会委員長を務める橋本社外取締役は、石化再編の遅れが課題であったと指摘した。21年12月に、23年12月までに他社とJV(合弁会社)を設立すると公表したが、実現の目途が立たなかった。また、ギルソン社長の経営改革は人材の流出にもつながった。どこに問題があったのか。

・昨年10月のアナリスト大会で、ギルソン氏の講演を聞いた。企業再生と人的資本が全体のテーマであった。ギルソン氏の論点は興味深い。

・ギルソン氏はベルギー育ち、仕事のキャリア地は欧州で40%、米国で40%、日本で20%。日本は2回目で、化学エンジニア出身である。成長企業の文化をどのように作っていくか。保守的なやり方の中で、どのように成長軌道に戻すか。文化や意識の問題はかなり難しい。

・日本経済はこの30年伸びていない。国民も豊かになっていない。日本はソフトパワーのよさは有しているが、ビジネスリーダーのリーダーシップが十分でない、と彼はみている。

・三菱ケミカルの課題として、1)内部成長が低い、2)ROICが5%レベルで、PBRが1.0倍を割っている、3)これまで3兆円の投資をして、有利子負債2兆円を有する、4)低収益のせいで、イノベーションが停滞し、2016年以降の新製品のローンチが少ない、5)デジタル基盤が時代遅れで、新基盤の構築を急ぐ必要がある、6)グループ企業が600社と多く、複雑である、とギルソン氏は認識した。

・なぜこんなに子会社・関連会社が多いのか。優秀な社員は多いのに、業績は不振である。何かがうまくいっていない。何が原因なのか。日本企業に共通する要因として、ギルソン氏はインアクション(不作為)をあげた。アクションに対してインアクション、つまり行動するのではなく、行動をとらない。分かっていても、やらないという行動をとる。

・やるべきことに気付き、それを認識する。でも、インアクション、いつまでも様子見しているだけとなる。人は合理的であるはず、でも何もしない。そこで、なにもしないことが合理的となる。やるとしてもゆっくりやる。

・こんなことが、なぜ起きるのか。アクションの原動力は、1)緊急性~危機ならできる、2)インセンティブ~これが強く働く、3)強いコンセンサス~リーダーが駆り立てれば動く、とみた。一方で、ノンアクションの何もやらない合理性は、1)危機感がない、2)インセンティブがない、3)コンセンサスが弱い、と生まれる。

・緊急事態への対応がマンネリ化してしまう。慣れてしまうと、緊急性が低下する。期待リターンが低下して、低収益でもいいかとなってしまう。セロ金利のもとで債務が拡大し、成長が止まってしまう。業績低迷の中で、R&Dも削減されてしまう、というサイクルに入った。

・このサイクルをストップさせるには痛みを伴う。この痛みを避けようとすると、不作為がおきる。痛みを伴う改革を実行すると、社内の文化が変わってしまう。これを許容して、実行するしかない。リーダーの役割である。

・そこで、成長志向の文化を作ろうとした。アクションをとるために、“Re-establishing a Growth Culture through Action”をテーマに掲げた。1)事実を共有して、危機を呼び起こし、目を覚ます、2)財務の制約、人事の制約を見直して、インセンティブを与える、3)初期の合意形成は無視して、リーダーが変革をリードする、こととした。

・これまでの「Kaiteki」では楽すぎる。もっとBravery(果敢)に、Persistence(あきらめないで完遂)するようにハードルを上げた。スペシャルティマテリアルにフォーカスし、ベストを目指す。中程度のまあまあは受け入れない。

・不作為のリーダーが停滞の要因である。現状の調和ではなく、アクティブ調和(Active Harmony)を図る。不作為の合理性を排除して、リーダーが行動する文化(action-oriented culture)を作ろうと提言した。ギルソン氏はそれを実践してきた。

・昨年10月にこう語ったが、同12月に3年でCEO交替が公表された。5年から7年やらなければ、事業ポートフォリオを組み替えて、成果を上げ、新しい組織文化の定着は図れないだろう。その前の交替となる。

・1)石化事業の業界再編を予定通りに実行できなかった、2)トップダウンのアクションに現場のリーダーがついていけなかった、ということであろうか。日本的にいえば、信長のようなリーダーシップで、事を急ぎ過ぎたのであろうか。何か残念である。

・サッカーの岡田元監督(今治、夢スポーツ代表取締役会長、日本サッカー協会副会長)は、チームマネジメントについて、次のような体験を語った。

・新しいサッカーチームを作りたい。自律した選手が育っていない。選手自らが判断して、動くようにしたい。そこでティーチングではなく、コーチングに徹した。スペインのサッカーは、16歳までに教えて、後は自由にする。武道の守破離の精神で守(ティーチング)、破(コーチング)、離(自由)で、チームの人材を創っていく。

・いつも人のせいにする文化が制約となる。これを覆すには、クラブのオーナーとなって長期的にチーム作りに取り組む必要がある。そこで株式の51%をもつことにした。心の豊かさをベースに、理念に沿った経営を実践すると決めた。どうやって人を成長させるか。当事者意識をもつには、まず自分事と考えられるように、対話によって持っていく。

・対話の基本は3つ、1)どうしたの、2)君はどうしたいの、3)私に手伝えることは、これを何度も聞いていく。

・会社経営は、サッカーゲームと同じである。フィロソフィーを創る。エンジョイせよ。私たちのチームである。勝つためにベストをつくせ。今できることに集中せよ。しゃがんでジャンプすることに心がけよ。存在を認めて、コミュニケーションをとる。

・ゲームを楽しむ、チームは選手のものである、と言っても、試合では、半分のチームが負ける。常に必ず1人1人を見ている。一体感は目標にしない。違いを認めると、逆に一体化してくる。共通の目標があれば、そこで結果がでると1つになれる。

・非日常の場面で自分をさらけ出すと、違いを知ることができる。そうすると、チームに自然とモラルができてくる。絶対に手を抜くな。勝負の神様は1ミリの細部に宿る。リーダーシップを発揮するには、考え抜いた上で、直感で決める。覚悟を持って、ありのままの自分をみせる。失敗の中から、次の楽しみが出てくる、と語った。

・なるほど、そうかもしれない。こうみると、三菱ケミカルグループの経営改革は、狙いは良くても、実現には距離があった。組織の中で、人々がどう動くのか。リーダーとの距離がいかに縮んで、社員が自分事としてビジネスを考えられるか。

・経営戦略と人財戦略の結びつきについて、突っ込んで理解しておく必要があろう。企業価値評価の要として、大いに役立てていきたい。

日本ベル投資研究所の過去レポートはこちらから

配信元: みんかぶ株式コラム
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