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戸田工業のニュース
■中長期の成長戦略
2. 創業200周年のさらにその先へ- Go Beyond 200-
戸田工業<4100>は2023年に創業200周年の記念すべき年を迎える。すでに「Vision2023」については営業利益で2022年3月期の時点で上回り、売上高についても2023年3月期に40,000百万円予想ということで、大幅にクリアする状況となっている。今回、次世代分野として環境関連、軟磁性材料を加えて5分野について事業拡大を図るとしているが、この他にも革新的な材料開発を着実に進めている。2024年以降のビジョンである「Go Beyond 200」では現在の磁石材料、誘電体材料、リチウムイオン電池用材料の戦略3事業の拡大に加え、軟磁性材料、環境関連材料など次世代事業を展開することで、新たな飛躍を目指す。同社の過去最高営業利益は1984年3月期の5,030百万円であり、売上高、親会社株主に帰属する当期純利益ではすでに過去最高更新となっているが、早晩、営業利益についても戦略製品の拡大で上回ってくるとみられ、「Go Beyond 200」での新たな飛躍に期待が高まる。
(1) 既存の戦略3事業
a) 磁石材料
磁石材料については従来用途に加え、自動車用途に適した耐熱性の確保を目指し、素材開発、サプライチェーン強化を図る。フェライト系磁石材料は、複写機・プリンターなどに用いられるマグロール向けなどが成熟し、2000年以降はエアコンの省エネ化でモーターのDC化が加速、DCタイプには極異方性ボンド磁石が高効率化、軽量化、軸インサート成形が可能なことで現在も多用されている。また希土類系磁石材料は、PC周辺のスピンドルモーターなど、PC周辺やゲーム機向けなどでの利用されていた。
今後は自動車用途への期待が大きい。ゴム磁石は既に自動車用のABS用磁気エンコーダマグネットに応用されており、最近では熱管理に必要な各種冷却ポンプ用マグネットとして、需要が伸びている。
自動車の電装化の進展とともにボンド磁石の需要が高まる一方、特性面では、高温対応や耐環境性、高磁気特性の要求が高まっている。同社は素材開発として磁性粉(フェライト・希土類)の改良、樹脂複合化技術のさらなる研鑽を図っていく。例えば、フェライト系磁石材料では、靭性の高い素材や、成形時の腐食性ガス発生を抑制した素材の開発に成功している。今回開発した靭性の高い素材は、温度変化への耐性を高めたもので、EV等の車体内部の熱管理に使う冷却ポンプのモーター向けをメインターゲットとしている。EVはエンジンがない一方、2次電池やECUが発熱するため熱管理が重要であり、冷却ポンプは必須かつ重要部品であるため、今後需要拡大が見込まれる。またセンサー向けにも利用可能で、用途開発にも力を入れる方針である。
加えて今回、磁石成形事業会社である江門協立の買収により、素材から部品加工まで一貫生産体制の構築によるシナジー効果も見込まれることとなった。
中期事業計画では100億円を目指していたが、江門協立は計画策定後の案件とみられ、磁石材料は100億円を大きく超える事業への拡大が期待される。
b) 誘電体材料
誘電体材料では、MLCCの小型化に対応したさらなる微粒子化を追求し、製造プロセスの簡略化によるコスト削減を図り、先端材料としての拡大、シェアアップを目指す。今後、5G、車載向けにMLCC搭載個数が継続的に拡大する中で、誘電体セラミックの薄層化が求められている。特に車載用では高温下での性能に優れ、静電容量アップも求められる中で超微粒、均一、高誘電率などを兼ね備える同社材料は、従来の電極層向け共材利用に加え、誘電体層にも利用が広がる可能性が出ている。誘電体での採用が拡大されればセラミックコンデンサ市場の成長を上回る売上の拡大が期待される。
c) リチウムイオン電池用正極材料
同事業の主体はBTBM(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社)であるが、世界的なEV普及加速の動きの中で、設備稼働が順調に高まり、損益分岐点を超えて収益の刈り取り期にさしかかっており、今後も売上拡大が続くとみられる。なお、BTBMの提供する正極材料は主に欧米系に採用されており、最近話題となっている中国のリン酸鉄系リチウムイオン電池向けではないが、高級車では引き続きハイニッケルのニッケルコバルトアルミン酸リチウム(Hi-Nickel NCA)の採用が継続するとみられ、電池各社の相次ぐ増産計画を考慮すると、会社予想を上回る売上拡大が続くと期待される。なお、戸田工業は、オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池用酸化鉄の開発を行っている。
(2) 次世代事業
a) 環境関連材料
同社はこれまで循環型社会形成に対し、3Rの取り組みなどを積極的に行い、レアメタルの使用量削減やレアメタルリサイクル、産業廃棄物再資源化、グリーン調達拡大などを実行してきた。また製品として燃焼時に有害物質発生を抑制する触媒活性を持つ酸化鉄や土壌・地下水を浄化する機能を持った酸化鉄などを提供してきた。
このような状況の中で、同社は新たな取り組みを始めている。カーボンニュートラル実現のため、NEDOの委託事業を通じてエア・ウォーター(株)と共同でメタン直接改質法によるCO2フリー水素の研究開発を推進している。またカーボンリサイクルの実現のため、埼玉大学の柳瀬准教授が研究しているナトリウムフェライトを用いたCO2固体回収材の工業生産化なども実行している。その他にも、日本国土開発(株)と協業事業として、地下水を安全な飲み水へ浄化するための機能性吸着材を開発している。これらの取り組みが収益に寄与するには時間を要するとみられるが、同社の脱炭素社会、循環型社会の実現に向けた取り組みに期待が膨らむ。
b) 軟磁性材料
磁石材料ではネオジウムなどを利用した希土類磁石材料の開発を進める一方で、磁力を保持する力が小さく、磁石にはくっつくものの、外部の磁界を取り除くと速やかに磁性がなくなる軟磁性材料について、改めて車載用中心に開発を行う。具体的には車載用途を中心に、ノイズ対策材料やEV用非接触給電向け厚膜大判フレキシブルフェライトプレート等の開発を行っている。自動車の電動化進展により、電子制御が加速し、電子部品の増加に伴う材料需要、高周波化に伴う様々なノイズ問題の発生が懸念されており、同社では部品の変遷に合わせた軟磁性粉末の開発、様々な周波数帯におけるノイズ対策として、低周波帯磁気シールド用材料、ミリ波帯電波吸収体用材料、車載ケーブル用ノイズ対策部材の開発を進めている。また、今後のEVの急拡大が見込まれる中、非接触給電システムの開発、製品化が期待されていることから、同社はフレキシブルフェライトシートで培った技術を基に、車載用大判フレキシブルフェライトプレートの開発も進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
<SI>
2. 創業200周年のさらにその先へ- Go Beyond 200-
戸田工業<4100>は2023年に創業200周年の記念すべき年を迎える。すでに「Vision2023」については営業利益で2022年3月期の時点で上回り、売上高についても2023年3月期に40,000百万円予想ということで、大幅にクリアする状況となっている。今回、次世代分野として環境関連、軟磁性材料を加えて5分野について事業拡大を図るとしているが、この他にも革新的な材料開発を着実に進めている。2024年以降のビジョンである「Go Beyond 200」では現在の磁石材料、誘電体材料、リチウムイオン電池用材料の戦略3事業の拡大に加え、軟磁性材料、環境関連材料など次世代事業を展開することで、新たな飛躍を目指す。同社の過去最高営業利益は1984年3月期の5,030百万円であり、売上高、親会社株主に帰属する当期純利益ではすでに過去最高更新となっているが、早晩、営業利益についても戦略製品の拡大で上回ってくるとみられ、「Go Beyond 200」での新たな飛躍に期待が高まる。
(1) 既存の戦略3事業
a) 磁石材料
磁石材料については従来用途に加え、自動車用途に適した耐熱性の確保を目指し、素材開発、サプライチェーン強化を図る。フェライト系磁石材料は、複写機・プリンターなどに用いられるマグロール向けなどが成熟し、2000年以降はエアコンの省エネ化でモーターのDC化が加速、DCタイプには極異方性ボンド磁石が高効率化、軽量化、軸インサート成形が可能なことで現在も多用されている。また希土類系磁石材料は、PC周辺のスピンドルモーターなど、PC周辺やゲーム機向けなどでの利用されていた。
今後は自動車用途への期待が大きい。ゴム磁石は既に自動車用のABS用磁気エンコーダマグネットに応用されており、最近では熱管理に必要な各種冷却ポンプ用マグネットとして、需要が伸びている。
自動車の電装化の進展とともにボンド磁石の需要が高まる一方、特性面では、高温対応や耐環境性、高磁気特性の要求が高まっている。同社は素材開発として磁性粉(フェライト・希土類)の改良、樹脂複合化技術のさらなる研鑽を図っていく。例えば、フェライト系磁石材料では、靭性の高い素材や、成形時の腐食性ガス発生を抑制した素材の開発に成功している。今回開発した靭性の高い素材は、温度変化への耐性を高めたもので、EV等の車体内部の熱管理に使う冷却ポンプのモーター向けをメインターゲットとしている。EVはエンジンがない一方、2次電池やECUが発熱するため熱管理が重要であり、冷却ポンプは必須かつ重要部品であるため、今後需要拡大が見込まれる。またセンサー向けにも利用可能で、用途開発にも力を入れる方針である。
加えて今回、磁石成形事業会社である江門協立の買収により、素材から部品加工まで一貫生産体制の構築によるシナジー効果も見込まれることとなった。
中期事業計画では100億円を目指していたが、江門協立は計画策定後の案件とみられ、磁石材料は100億円を大きく超える事業への拡大が期待される。
b) 誘電体材料
誘電体材料では、MLCCの小型化に対応したさらなる微粒子化を追求し、製造プロセスの簡略化によるコスト削減を図り、先端材料としての拡大、シェアアップを目指す。今後、5G、車載向けにMLCC搭載個数が継続的に拡大する中で、誘電体セラミックの薄層化が求められている。特に車載用では高温下での性能に優れ、静電容量アップも求められる中で超微粒、均一、高誘電率などを兼ね備える同社材料は、従来の電極層向け共材利用に加え、誘電体層にも利用が広がる可能性が出ている。誘電体での採用が拡大されればセラミックコンデンサ市場の成長を上回る売上の拡大が期待される。
c) リチウムイオン電池用正極材料
同事業の主体はBTBM(BASF戸田バッテリーマテリアルズ合同会社)であるが、世界的なEV普及加速の動きの中で、設備稼働が順調に高まり、損益分岐点を超えて収益の刈り取り期にさしかかっており、今後も売上拡大が続くとみられる。なお、BTBMの提供する正極材料は主に欧米系に採用されており、最近話題となっている中国のリン酸鉄系リチウムイオン電池向けではないが、高級車では引き続きハイニッケルのニッケルコバルトアルミン酸リチウム(Hi-Nickel NCA)の採用が継続するとみられ、電池各社の相次ぐ増産計画を考慮すると、会社予想を上回る売上拡大が続くと期待される。なお、戸田工業は、オリビン型リン酸鉄リチウムイオン電池用酸化鉄の開発を行っている。
(2) 次世代事業
a) 環境関連材料
同社はこれまで循環型社会形成に対し、3Rの取り組みなどを積極的に行い、レアメタルの使用量削減やレアメタルリサイクル、産業廃棄物再資源化、グリーン調達拡大などを実行してきた。また製品として燃焼時に有害物質発生を抑制する触媒活性を持つ酸化鉄や土壌・地下水を浄化する機能を持った酸化鉄などを提供してきた。
このような状況の中で、同社は新たな取り組みを始めている。カーボンニュートラル実現のため、NEDOの委託事業を通じてエア・ウォーター(株)と共同でメタン直接改質法によるCO2フリー水素の研究開発を推進している。またカーボンリサイクルの実現のため、埼玉大学の柳瀬准教授が研究しているナトリウムフェライトを用いたCO2固体回収材の工業生産化なども実行している。その他にも、日本国土開発(株)と協業事業として、地下水を安全な飲み水へ浄化するための機能性吸着材を開発している。これらの取り組みが収益に寄与するには時間を要するとみられるが、同社の脱炭素社会、循環型社会の実現に向けた取り組みに期待が膨らむ。
b) 軟磁性材料
磁石材料ではネオジウムなどを利用した希土類磁石材料の開発を進める一方で、磁力を保持する力が小さく、磁石にはくっつくものの、外部の磁界を取り除くと速やかに磁性がなくなる軟磁性材料について、改めて車載用中心に開発を行う。具体的には車載用途を中心に、ノイズ対策材料やEV用非接触給電向け厚膜大判フレキシブルフェライトプレート等の開発を行っている。自動車の電動化進展により、電子制御が加速し、電子部品の増加に伴う材料需要、高周波化に伴う様々なノイズ問題の発生が懸念されており、同社では部品の変遷に合わせた軟磁性粉末の開発、様々な周波数帯におけるノイズ対策として、低周波帯磁気シールド用材料、ミリ波帯電波吸収体用材料、車載ケーブル用ノイズ対策部材の開発を進めている。また、今後のEVの急拡大が見込まれる中、非接触給電システムの開発、製品化が期待されていることから、同社はフレキシブルフェライトシートで培った技術を基に、車載用大判フレキシブルフェライトプレートの開発も進めている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)
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