1,345円
ファーストブラザーズのニュース
■会社概要
1. 沿革
独立系の不動産投資運用会社。不動産私募ファンドのアセットマネジメント(以下、AM)会社としてスタートしたが、2014年頃から自己勘定投資を本格的に推進し、現在では主力事業となっている。
代表取締役社長の吉原知紀氏は旧三井信託銀行、モルガン・スタンレーを経て2004年2月にファーストブラザーズ<3454>を設立。辻野和孝(つじのかずたか)取締役も旧三井信託銀行、モルガン・スタンレー出身で、不動産鑑定会社を経て、2006年2月に同社に合流している。自己勘定投資を担う100%子会社のファーストブラザーズキャピタル(株)の鹿野太一(かのたいち)代表取締役社長、堀田佳延(ほったよしのぶ)取締役も旧三井信託銀行出身であり、キーマンには旧三井信託銀行出身が多い。また、取締役には、不動産証券化法務の第一人者であり牛島総合法律事務所パートナー弁護士の田村幸太郎(たむらこうたろう)氏も名を連ねる。2015年2月に東証マザーズ上場。2016年10月に東証1部に市場変更した。
2. 事業概要
(1) 投資運用事業
同社は“クライアントファースト”の行動規範のもと、顧客の満足を第一に考える投資運用サービスを行っており、最も利益の出るタイミングにおいて投資案件の売買を行うため、不動産売買市況の変動等に合わせ受託資産残高も大きく変動する。現状、同社ファンドが取得対象としてきた大型物件(50億円超)は、取得競争が激しく、過熱感の高い取引環境にある。リーマンショック時にも痛手を受けることなく成長を遂げてきた同社は、“無理して買わない”というスタンスが徹底されたプロフェッショナル集団である。
ファンドの受託資産残高は2018年11月期第2四半期末で8,733百万円(前期末は0百万円)である。増加の理由は、投資家が主体的に行う不動産投資活動において同社が期中運営のアセットマネジメント業務を受託したためである。なお、不動産市況が高値圏にあるとの認識から同社が主体的に投資活動を行うファンドでの取得は控えている。ただし、顧客投資家の待機資金は潤沢であり、マーケットに波乱があれば、機動的にファンドを組成し、物件を取得することは可能であり、投資対象となる案件の発掘活動は引き続き行っている。
(2) 投資銀行事業
自己勘定投資が中心である。同社が組成したファンドへのセイムボート投資、PE投資(債権投資、事業再生投資、ベンチャー企業投資)、再生可能エネルギー関連投資や、M&Aにかかる助言などのアドバイザリー業務も展開している。
不動産の自己勘定投資を本格的に開始したのは2014年から。2015年2月のIPOにより手取り資金約30億円を得て潤沢になった手元資金と良好な資金調達環境を背景にした借入により自己勘定投資を加速化した。安定収益である賃料収入の拡大を主な目的とし、中長期保有を前提とするが、バリューアップ後に適宜入替を行うため固定資産とはせずにすべて販売用不動産に計上している。一般的に販売用不動産は減価償却を行わないが、同社は財務健全性を維持するため減価償却を行う保守的な会計処理を採用している。
私募ファンドとの利益相反を避けるため、投資対象はファンドの投資クライテリアから外れる物件とし、10億円前後の中小規模の賃貸不動産が多い。10億円前後の物件はストック、流通量が多く投資機会が豊富である。取得先は個人の資産家など不動産のプロでないことも多く、そういった物件は、その不動産が本来持つ実力を充分に発揮できていない(相場の賃料とのギャップ、入居率の向上余地など)ためNOI利回りの改善余地が大きい。
2018年11月期第2四半期末の賃貸不動産ポートフォリオ(自己勘定投資)の残高は、取得価格ベースで25,363百万円(前期末比2,687百万円減)。期中増加額が6,858百万円、期中減少額が9,546百万円。売却が先行したため、一時的ではあるが残高が減少した。所在地別の内訳は、首都圏96.8%、その他主要都市3.2%であり、テナント需要が底堅いエリアに特化している。アセットタイプ別(複合ビルは主要用途で分類)の内訳は、商業60.7%、オフィス27.5%、ホテル7.3%、住居4.5%、と、商業とオフィスで約9割を占める。安定稼働時の想定NOI利回りは6.5%。外部鑑定によると含み益は3,822百万円である。
3. 市場動向
同社の賃貸不動産ポートフォリオは首都圏に集中している。東京ビジネス地区(都心5区)の過去3年のオフィスの平均賃料は2015年5月から2018年5月までの3年間に年率4.9%と小幅ではあるが上昇した。空室率も3年間で2.49ポイント低下し好調だ。2018年は供給量(延床面積)が過去10年で2番目に多い状況だが、賃料及び空室率に陰りは見られない。新築ビル及び新築ビルへの移転の影響で空室が予想される既存ビルでも需要が強く、品薄感が続くものと見られている。
4. 収益構造
自己勘定による賃貸不動産投資は、物件の賃貸原価や売却原価があるため売上総利益率が相対的に低く、また、物件売却の有無、売却価格によって売上高は大きく変動する。このため同社では、業績評価の指標として売上総利益(粗利)を重視している。不動産賃貸粗利は過去数年間堅調に推移、不動産売却粗利は近年急激に伸びている。
5. 強み
同社の強みは、国内の不動産証券化の黎明期から信託銀行や外資系AM会社などで当該分野に関わってきた、金融及び不動産のプロフェッショナル人材が多いことだ。2018年11月期第2四半期末時点の連結役職員数は58名であり少数精鋭だ。弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、一級建築士、不動産証券化マスターなどの有資格者も多数所属している。具体的には、有望な物件を冷静に見極める“目利き力”、豊富な経験によって培われる“バリューアップ力”が同社プロフェッショナルの特長となっている。比較的人材の流動性の高い不動産業界だが、コアとなる人材の定着率は高いと言う。
6. 資金調達
リーマンショック前後に多くの不動産会社がリファイナンスをできずに破綻に追い込まれたことからわかるように不動産会社にとって資金調達は生命線である。同社では、コーポレートローンはすべて自己勘定投資の不動産に紐付いており、物件の事情に合わせて適切な条件で調達している。現在の調達先には、メガバンクのほか、地銀や信金も含まれる。自己勘定投資におけるLTV※は2018年11月期第2四半期末時点で86.6%である。
※Loan to Value:不動産の物件価値に対する負債(借入金など)の割合。借入残高÷賃貸不動産簿価
自己勘定投資にかかるコーポレートローンについては、加重平均残存期間20.8年と超長期で調達しており、多少の金融環境の下降局面があっても持ちこたえられる備えができている。すべて変動で調達しているが、金利スワップ取引により賃貸不動産の取得に伴う借入金残高の65.3%の支払金利を固定化。また、日銀のマイナス金利導入を受け加重平均借入金利は0.78%と低利で調達できている。超長期で調達していることもあり賃貸キャッシュフローは十分なプラス(賃貸収益が支払利息と元本返済の合計額を十分に上回っている)の状態を維持しており、金融機関の協力も得られやすい。資金調達力は同社にとって大きな強みとなっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)
<NB>
1. 沿革
独立系の不動産投資運用会社。不動産私募ファンドのアセットマネジメント(以下、AM)会社としてスタートしたが、2014年頃から自己勘定投資を本格的に推進し、現在では主力事業となっている。
代表取締役社長の吉原知紀氏は旧三井信託銀行、モルガン・スタンレーを経て2004年2月にファーストブラザーズ<3454>を設立。辻野和孝(つじのかずたか)取締役も旧三井信託銀行、モルガン・スタンレー出身で、不動産鑑定会社を経て、2006年2月に同社に合流している。自己勘定投資を担う100%子会社のファーストブラザーズキャピタル(株)の鹿野太一(かのたいち)代表取締役社長、堀田佳延(ほったよしのぶ)取締役も旧三井信託銀行出身であり、キーマンには旧三井信託銀行出身が多い。また、取締役には、不動産証券化法務の第一人者であり牛島総合法律事務所パートナー弁護士の田村幸太郎(たむらこうたろう)氏も名を連ねる。2015年2月に東証マザーズ上場。2016年10月に東証1部に市場変更した。
2. 事業概要
(1) 投資運用事業
同社は“クライアントファースト”の行動規範のもと、顧客の満足を第一に考える投資運用サービスを行っており、最も利益の出るタイミングにおいて投資案件の売買を行うため、不動産売買市況の変動等に合わせ受託資産残高も大きく変動する。現状、同社ファンドが取得対象としてきた大型物件(50億円超)は、取得競争が激しく、過熱感の高い取引環境にある。リーマンショック時にも痛手を受けることなく成長を遂げてきた同社は、“無理して買わない”というスタンスが徹底されたプロフェッショナル集団である。
ファンドの受託資産残高は2018年11月期第2四半期末で8,733百万円(前期末は0百万円)である。増加の理由は、投資家が主体的に行う不動産投資活動において同社が期中運営のアセットマネジメント業務を受託したためである。なお、不動産市況が高値圏にあるとの認識から同社が主体的に投資活動を行うファンドでの取得は控えている。ただし、顧客投資家の待機資金は潤沢であり、マーケットに波乱があれば、機動的にファンドを組成し、物件を取得することは可能であり、投資対象となる案件の発掘活動は引き続き行っている。
(2) 投資銀行事業
自己勘定投資が中心である。同社が組成したファンドへのセイムボート投資、PE投資(債権投資、事業再生投資、ベンチャー企業投資)、再生可能エネルギー関連投資や、M&Aにかかる助言などのアドバイザリー業務も展開している。
不動産の自己勘定投資を本格的に開始したのは2014年から。2015年2月のIPOにより手取り資金約30億円を得て潤沢になった手元資金と良好な資金調達環境を背景にした借入により自己勘定投資を加速化した。安定収益である賃料収入の拡大を主な目的とし、中長期保有を前提とするが、バリューアップ後に適宜入替を行うため固定資産とはせずにすべて販売用不動産に計上している。一般的に販売用不動産は減価償却を行わないが、同社は財務健全性を維持するため減価償却を行う保守的な会計処理を採用している。
私募ファンドとの利益相反を避けるため、投資対象はファンドの投資クライテリアから外れる物件とし、10億円前後の中小規模の賃貸不動産が多い。10億円前後の物件はストック、流通量が多く投資機会が豊富である。取得先は個人の資産家など不動産のプロでないことも多く、そういった物件は、その不動産が本来持つ実力を充分に発揮できていない(相場の賃料とのギャップ、入居率の向上余地など)ためNOI利回りの改善余地が大きい。
2018年11月期第2四半期末の賃貸不動産ポートフォリオ(自己勘定投資)の残高は、取得価格ベースで25,363百万円(前期末比2,687百万円減)。期中増加額が6,858百万円、期中減少額が9,546百万円。売却が先行したため、一時的ではあるが残高が減少した。所在地別の内訳は、首都圏96.8%、その他主要都市3.2%であり、テナント需要が底堅いエリアに特化している。アセットタイプ別(複合ビルは主要用途で分類)の内訳は、商業60.7%、オフィス27.5%、ホテル7.3%、住居4.5%、と、商業とオフィスで約9割を占める。安定稼働時の想定NOI利回りは6.5%。外部鑑定によると含み益は3,822百万円である。
3. 市場動向
同社の賃貸不動産ポートフォリオは首都圏に集中している。東京ビジネス地区(都心5区)の過去3年のオフィスの平均賃料は2015年5月から2018年5月までの3年間に年率4.9%と小幅ではあるが上昇した。空室率も3年間で2.49ポイント低下し好調だ。2018年は供給量(延床面積)が過去10年で2番目に多い状況だが、賃料及び空室率に陰りは見られない。新築ビル及び新築ビルへの移転の影響で空室が予想される既存ビルでも需要が強く、品薄感が続くものと見られている。
4. 収益構造
自己勘定による賃貸不動産投資は、物件の賃貸原価や売却原価があるため売上総利益率が相対的に低く、また、物件売却の有無、売却価格によって売上高は大きく変動する。このため同社では、業績評価の指標として売上総利益(粗利)を重視している。不動産賃貸粗利は過去数年間堅調に推移、不動産売却粗利は近年急激に伸びている。
5. 強み
同社の強みは、国内の不動産証券化の黎明期から信託銀行や外資系AM会社などで当該分野に関わってきた、金融及び不動産のプロフェッショナル人材が多いことだ。2018年11月期第2四半期末時点の連結役職員数は58名であり少数精鋭だ。弁護士、公認会計士、不動産鑑定士、一級建築士、不動産証券化マスターなどの有資格者も多数所属している。具体的には、有望な物件を冷静に見極める“目利き力”、豊富な経験によって培われる“バリューアップ力”が同社プロフェッショナルの特長となっている。比較的人材の流動性の高い不動産業界だが、コアとなる人材の定着率は高いと言う。
6. 資金調達
リーマンショック前後に多くの不動産会社がリファイナンスをできずに破綻に追い込まれたことからわかるように不動産会社にとって資金調達は生命線である。同社では、コーポレートローンはすべて自己勘定投資の不動産に紐付いており、物件の事情に合わせて適切な条件で調達している。現在の調達先には、メガバンクのほか、地銀や信金も含まれる。自己勘定投資におけるLTV※は2018年11月期第2四半期末時点で86.6%である。
※Loan to Value:不動産の物件価値に対する負債(借入金など)の割合。借入残高÷賃貸不動産簿価
自己勘定投資にかかるコーポレートローンについては、加重平均残存期間20.8年と超長期で調達しており、多少の金融環境の下降局面があっても持ちこたえられる備えができている。すべて変動で調達しているが、金利スワップ取引により賃貸不動産の取得に伴う借入金残高の65.3%の支払金利を固定化。また、日銀のマイナス金利導入を受け加重平均借入金利は0.78%と低利で調達できている。超長期で調達していることもあり賃貸キャッシュフローは十分なプラス(賃貸収益が支払利息と元本返済の合計額を十分に上回っている)の状態を維持しており、金融機関の協力も得られやすい。資金調達力は同社にとって大きな強みとなっている。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田 秀夫)
<NB>
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