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―急務の設備老朽化対策、75年ぶり国内路面電車の新設を機にLRTの導入機運も―
インバウンド需要の回復による恩恵が期待される鉄道各社が、設備投資意欲を強めている。コロナ禍で抑制された設備更新工事が全国各地で動き出すなか、LRT(次世代型路面電車)の導入拡大に向けた議論も深まっている。その恩恵に与ることが期待される鉄道設備関連株は超割安株の宝庫。事業環境の好転により中期目線での投資妙味が強まった銘柄群を掘り下げていく。
●今期設備投資額、JR上場4社計はトヨタ上回る伸び
鉄道各社の24年3月期の設備投資計画をみると、多くの企業が前期比で2ケタ増を見込んでいる。期初の時点でJR東日本 <9020> [東証P]は連結全体で前期比32.7%増の7360億円、JR東海 <9022> [東証P]は同21.9%増の6160億円を予定。JR4社の合計は同28.0%増の約1兆7600億円で、伸び率はトヨタ自動車 <7203> [東証P](同15.8%増の1兆8600億円)を上回る。
私鉄大手では京浜急行電鉄 <9006> [東証P](同97.5%増の1317億円)や、阪急阪神ホールディングス <9042> [東証P](同91.1%増の1204億円)などの伸びが目立つ。もちろん、これらは連結ベースのため、ホテルや商業施設といった鉄道以外の投資額も含まれているのだが、経済活動の正常化が進み展望が描きやすくなった鉄道事業を切り分けても、期初計画ベースで設備投資額を積み上げる事業者が相次いでいる。
その背景にある設備の老朽化対策は、待ったなしの情勢だ。6月に長野県のしなの鉄道で回送電車が脱線した事故では、枕木の腐食によりレールの幅が広がったことが原因となった。8月5日夜にはJR東海道線の大船駅構内で列車と電柱が衝突。電柱が傾いた原因について調査が進められているが、安心・安全な運行態勢に対して利用者の厳しい視線が注がれている。
8月に入り中国人団体客の渡航規制が緩和され、今後は大都市圏での鉄道輸送人員も一段と持ち直しに向かうと想定されている。鉄道事業の環境好転は、安全輸送態勢の更なる強化を含め、事業者の投資姿勢を一段と後押しする要素となるだろう。
●「宇都宮LRT」は8月26日に出発進行
一方で、赤字路線の統廃合に向けた検討が進む地域も存在する。住民の足としての交通インフラをいかに持続可能なものとするか、難題を突き付けられている地方都市は多い。
その打開策として注目が集まっているのがLRTだ。8月26日には栃木県のJR宇都宮駅と、ホンダ <7267> [東証P]の研究開発拠点などが立地する工業団地を結ぶ「芳賀・宇都宮LRT(宇都宮LRT)」が開業する。路面電車の新設は国内では75年ぶりとなる。
建設コストの削減や比較的早期の開業が可能で、バスに比べて環境負荷の低減といったメリットが期待できるLRTを巡っては、全国各地の自治体で導入に向けた議論が続いている。訪日外国人の増加に伴って登山者が増加する富士山でも、富士スバルラインにLRTを敷設する構想がある。
鉄道設備の更新やLRTの整備の動きが一段と加速すれば、 建設関連や鉄道機器のサプライヤーに対して、受注面でのプラス効果をもたらしそうだ。高騰する資材価格の価格転嫁が以前よりは進みやすい状況となり、人手不足の課題に対しても企業側は生産性の向上などを通じて克服を目指している。加えて、鉄道設備の関連銘柄にはPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っているところが多く、株主還元策の強化への思惑も広げやすい。
●JR東日本が持ち分法適用対象とした建設関連に注目
東鉄工業 <1835> [東証P]は24年3月期最終利益を前期比11.5%減の70億円と見込む。昨年11月、JR東日本の持ち分法適用会社となった。鉄道関連の今期の受注高は前期比5.7%減の967億円とするものの、JR東日本が5月に発表した「福島県沖地震を踏まえた耐震補強計画の拡大」に関する影響は、業績予想には織り込んでいないという。PBRは0.90倍。200日移動平均線を下回る局面では押し目買い意欲を強めており、インフラ更新需要を追い風とする中期的な利益成長シナリオに期待が膨らむ。
鉄建建設 <1815> [東証P]のPBRは0.4倍台と更に低水準だ。中期経営計画の最終年度となる今期の営業利益について、受注内定案件の契約時期の遅れなどを勘案し、当初計画の86億円から16億円(前期比29.8%増)に下振れする見込みを5月に示した。それでも配当利回りは4%台にあって売り込む姿勢は限られている。鉄建建設と東鉄工に加え、プライム銘柄では日本電設工業 <1950> [東証P]や日本リーテック <1938> [東証P]、スタンダード銘柄では第一建設工業 <1799> [東証S]をJR東日本が持ち分法適用会社としており、同社の投資活動の活発化は収益にプラス効果をもたらしそうだ。
23年4~6月期の大幅減益決算を受けて押し目を形成した矢作建設工業 <1870> [東証P]は、名古屋鉄道 <9048> [東証P]関連の鉄道工事も手掛けている。PBRは0.88倍で配当利回りは4.91%。リニア中央新幹線の開業に合わせる形で、老朽化した名鉄名古屋駅の大規模改良が進めば、同社の受注拡大に寄与する公算が大きい。
●電機系商社にも評価余地
設備面では日本信号 <6741> [東証P]、京三製作所 <6742> [東証P]、大同信号 <6743> [東証S]といった鉄道信号大手のPBRは1倍を下回っている。各社とも今期は2ケタ増益を計画しているとあって、株主還元策に関する新たなアクションが示されれば、評価余地を広げそうだ。
日立製作所 <6501> [東証P]系特約店の八洲電機 <3153> [東証P]は足もとでPBRは1.1倍台となったが、年始からの株高を受けてやや買い疲れ感が意識される。鉄道システムや駅・車両基地向け設備などを手掛け、24年3月期は前期に続き過去最高益を計画。車両の保安装置の改修やインバーターの更新需要を支えに交通事業は堅調に推移する見込みだ。信用倍率は0.08倍と売り長の状況でショートカバー誘発時に異彩高を演じる可能性が高い。三菱電機 <6503> [東証P]の代理店であるカナデン <8081> [東証P]も、鉄道関連事業の成長は安定的な収益拡大に貢献する。
豊田自動織機 <6201> [東証P]子会社のアイチコーポレーション <6345> [東証P]は鉄道工事用車両を手掛けている。受注高に占める鉄道関連の割合はそれほど高くはないが、老朽化設備の更新の流れは業績に下支え効果をもたらしそうだ。PBRは0.8倍台で配当利回りは4%超。2020年の高値を抜ければ上値余地が広がる。
●LRT関連では東洋電などが実績
宇都宮LRTにはIHI <7013> [東証P]グループの新潟トランシスが生産した車両が導入される。同社は04年に、カナダのボンバルディアと低床式路面電車(LRV)用台車の技術供与契約を締結。旧JR富山港線を活用して運行する「富山ライトレール」向けのLRTの車両も手掛けてきた。競合の近畿車輛 <7122> [東証S]は、広島電鉄 <9033> [東証S]や米ロサンゼルスの都市交通局にLRVを供給した過去を持ち、東洋電機製造 <6505> [東証S]もLRV向け電機品で納入実績を構築した。近畿車と東洋電ともに、中期的な観点で株価に底入れの兆しを感じさせる。
南海電気鉄道 <9044> [東証P]子会社の南海辰村建設 <1850> [東証S]は、大阪府の阪堺電車上町線・天王寺駅前~阿倍野の路面電車区間の移設と軌道の芝生化工事を、奥村組 <1833> [東証P]と施工した実績を持つ。LRTの導入を目指す自治体に対する格好のPR材料を持ち合わせていると言え、割安な株価の修正余地は大きいだろう。
鉄道設備関連では明電舎 <6508> [東証P]やNTN <6472> [東証P]も代表銘柄として位置づけられるが、両社ともプライム銘柄ながらPBRは1倍を割り込んでいる。このほか、ひずみセンサーの共和電業 <6853> [東証P]や鉄道車両用床材のロンシール工業 <4224> [東証S]の反騰シナリオにも期待したい。
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