「一転して強気転換、黒田発言の反動も・・・」

著者:黒岩泰
投稿:2015/06/11 19:21

「実質実効為替レートの理解度の違いで・・・」

 本日の日経平均は336.61円高の20382.97円で取引を終了した。朝方から買い先行となり、その後は徐々に上昇幅を拡大。引けにかけてはファンド系とみられる買いが入り、「引けピン」で取引を終了した。

 日経平均の日足チャートでは、大陽線が出現。上値メドとして意識されていた上方の窓(20332.42円-20359.06円)を上抜け、再び「軸上向き」と転換した。昨日までの下落が“ダマシ”だったということになり、チャートは一転して強気形状。再び先高観が強まる展開となっている。もちろん、本日の上昇自体がダマシとなる可能性はあるのだが、「窓・軸・軸理論」では買い転換。上昇しやすい状態に突入したと判断したい。

 株価上昇の背景となっているのが、ドル・円相場が再び円安方向に振れたこと。昨日の黒田発言をきっかけに円高が進んだものの、本日は円高が一服。市場に買い安心感が広がっている。そういったことも株価上昇の要因になっていると思われる。

 そういった理由もあり、「黒田発言の真意」を考えることが株式投資をする上で非常に重要になっている。それを一緒に考えてみたい。

 そもそも黒田発言とは、昨日の午後に「実質実効為替レートで、ドル・円相場がさらに円安に進むことはありそうにない」という趣旨の発言を指す。マーケットは「これ以上、円安は進まない」と判断し、ドル・円相場は2円程度、円高に動く展開となった。

 ここで問題になっているのは「実質実効為替レート」という聞きなれない言葉。「実質実効為替レート」とは一体何なのであろうか――。

 「実質実効為替レート」とは、「通貨の貿易上の対外競争力」を示す指標である。数値が小さいほど輸出に有利であり、大きいほど輸出に不利であることを示す。最近のグラフがあったので、それを見てほしい。

 このグラフで分かることは、足元でドル・円相場で円安が進んでいるのと同時に、実質実効為替レートでも円安(右目盛、数値が小さいと円安)が続いているということである。1980年レベルの水準まで下がっているのだ。

 一般的に経済用語で、「実質」とは物価変動を考慮したものを指し、「実効」とは、色々なものを加重平均したものを指す。だから、「実質実効」ということになると、物価の変動を考慮し、かつ、ドル以外の色々な通貨を考慮した為替レートということになる。そして特徴的なのが、「実質実効為替レート」というのは、あくまでも「指標」であり、「指数化」されているということだ。このグラフ(青線)の場合は、2010年=100としており、そこを基準にグラフが描かれている。直近の4年半くらいで100が70くらいに低下した(円安になった)ということになる。

 では、「実質実効為替レート」が70に低下したということは何を意味するのか。それは、冒頭に説明したとおり、「輸出に有利になった」ということだ。4年半前に100円で売っていた商品が、今では海外で70円で売ることができるということだ。つまり、価格競争力が増したということになる。

 そしてここからが重要なのだが、この「実質実効為替レート」、国内の物価が上昇(インフレ)すれば、どう動くのだろうか――。結論から言えば、「上昇(円高)」するのである。なぜならば、物価が上昇するということは、日本国内の商品の価格が上昇することになり、その分、海外に輸出したときの国際競争力が落ちるということになる。国内のインフレは「実質実効為替レート」の上昇要因なのである。

 ここで、「黒田発言」をもう一度、振り返ってほしい。彼は「実質実効為替レートでこれ以上の円安にはならない」と発言した。「名目のドル・円相場が円安にならない」と言ったならまだしも、「実質実効」がついていることで、話が全然違ってくるということだ。

 我々は、黒田総裁の「円安にならない」という言葉だけに注目したが、話の中身で重要なのは、「実質実効為替レート」ということである。先ほども説明したとおり、「国内のインフレ」は「実質実効為替レートの上昇要因」であることから、黒田総裁の発言は、「追加金融緩和の可能性を後退させるものではない」ということが分かる。日銀による一連の金融緩和は、インフレを助長させると考えられているからだ。だから、実質実効為替レートを上昇させるためには、円高になるのはもちろんのこと、「インフレ」でも実現できることを見落としてはならない。そういった意味もあり、昨日の急激な円高は「マーケットの勘違い」と解釈できるのである。「円安にならない=追加緩和はない」と曲解した短絡的な投資家たちによって、相場は動かされたというわけだ。黒田総裁の頭のレベルと、一般投資家の頭のレベルの差が出た一幕ということになる。(黒岩の眼、夕刊より)
黒岩泰
株式アナリスト
配信元: 達人の予想