“気がつけば大企業”。 10年後に上がる銘柄の見分け方

著者:冨田康夫
投稿:2013/10/25 20:16

株式投資の勉強の機会としてNISAを活用すべき

 現在、日本は約1500兆円の個人金融資産を有していると言われるが、そのほとんどが預貯金に眠っている。長らく続く低金利の環境下にありながら、しかも今後も当分はこの状態が続くだろうと見込まれる中で、株式が占める割合は12~13%、投資信託も8%程度に過ぎない。これは国際的に見ても稀有な例と言える。

 こうした状況下で、一定額の株式投資で得た売却益や配当などが非課税になるNISAがスタートする。これによって、個人にとっては、銀行金利より高い利回りで資金を運用するチャンスができるし、個人投資家の増加で資金が証券市場に流れれば、経済の活性化にも繋がる。

 とは言え、NISAの仕組みについては、損益通算ができないことや上限が年間100万円に設定されていることなど欠点も指摘されている。だが、これまで株式投資に興味を持っていなかった初心者の入門編、株式投資の勉強の機会を提供する制度だと考えれば、大いに意義があると私は考える。より多くの人がこれまでの銀行預金一辺倒から一歩踏み込んで、株式市場に参加するための有効なツールには成り得るのではないか。

 では、実際にNISAで株式投資を始めるためにはどのような視点を持つべきか。NISAでは年間投資額100万円が上限なので、短期売買を繰り返すことはできない。となると当然、適した投資スタンスは長期投資となる。実は長期での個別銘柄の株価予測は最も難しいのだが、その前提として、視野を広げて日本の証券市場の現状を俯瞰(ふかん)して見ると、現在の日本の株価は、国際的にも、過去との比較で見ても、相対的に低い水準にとどまっているということを認識する必要がある。アメリカ・NYダウ平均株価が最高値圏内にあり、年々更新し続けているのとは対照的な状態にある。この前提条件で考えれば、中長期的に日本企業の株価は上昇余地があると考えられる。

国際展開のポテンシャルが広がる高齢者向けビジネス

 その中で具体的にどういった銘柄やセクターに投資をすべきなのか。5年後や10年後に成長する有望企業を見極めるにはどういった視点が必要になるのか。将来を予測することは難しいが、私は一つの視点として、この10年間でどういった企業が成長しているのかに着目してみたい。

 近年、急成長をした企業と言えば、多くの人々はヤフーや楽天、ソフトバンクなどのIT企業を思い描くのではないか。確かに、時代の変化を先取りしたこうしたITベンチャーの成長は目を見張るものがあるし、人々の注目を集めるのも当然だ。だが、より大局的な視点で見ると、地味ではあっても着実に世界市場を開拓している企業に注目したい。

 例えばユニ・チャームやファーストリテイリング、カルビー、ヤクルトなどだ。いずれも日用品や食品など、決して派手ではないが人々の暮らしに密着した商品を扱っている企業で、地道に市場を開拓し続け、気がつけば国際的な大企業に成長、株価も大きく上昇したという企業だ。ファーストリテイリングは以前から何かと注目を集める企業だったが、ユニ・チャームなどは10数年前には、堅実ではあってもあまり目立たない企業に過ぎなかった。それが、現在ではグローバル化のトップランナーとして誰もが認める企業に成長したわけだが、当時はこのような姿を想像することはできなかった。こうした、普段あまり注目はされていないが、将来、着実に成長していく企業を探すという視点が、長期投資には重要になる。

 次に、今後成長していく企業や産業はどのようなところかだが、私なりの視点では、やはり国際的に成長していくポテンシャルを持っているかどうかを第一のポイントに挙げたい。例えば、高齢者向けビジネスだ。現在、日本でも高齢社会を迎えているが、実は海外に目を向けると、韓国や台湾、中国などアジア各国では日本以上のスピードで社会の高齢化が進んでいる。先に挙げたユニ・チャームなどは典型だが、医療器具や介護用品などの分野では、競争優位性を持っている日本企業が少なくない。

 そして、化粧品や衣料品などの日用品を扱っている企業にも注目したい。世界を見渡せば、新興国を筆頭に多くの国々で今後、国民の生活水準が向上していくだろうと予測できる。そうした中で、市場が大きく拡大していくだろうと予測できるのがこうした日用品の分野だ。さらに水素エネルギーや燃料電池など、エネルギー関連の新技術で国際的に先行している企業も有望だろう。

 いずれにせよ、長期投資では目先の株価の動きに惑わされず、投資をしようとしている企業が、将来にわたって安定成長を続けるビジネスモデルを持っているかどうかを見極めることが重要だ。例えば、グローバル展開をしている企業を見るなら、為替に左右されない、本当の意味での高い商品力を持っているかどうか。こうした視点でじっくりと企業を観察すれば、専門的な金融や投資の知識を持っていなくても、長期にわたって安定的に成長をしていく企業を探すことができるのではないか。

 最後にNISAで株式投資を始めようとする方々は、個別銘柄を選ぶなら、まず自分が知っている会社を対象にするのがお勧めだ。車好きなら自動車メーカー、スポーツ好きなら野球場運営会社といった具合に、趣味に関連する銘柄でもいい。

 株式投資の醍醐味は、何と言っても自分が見込んだ企業の株価が上がる時の喜びにある。投資した企業が、自分が思い描いた通りに育っていく姿を見るときのワクワク感。この気持ちを感じることこそ、本来の株主の特権である。NISAという制度を生かし、こうした投資家ならではの喜びを、より多くの人々に感じてもらうきっかけになることを期待したい。
冨田康夫
株経ONLINE:編集長
配信元: 達人の予想