人的資本の付加価値創出は

著者:鈴木 行生
投稿:2026/10/19 12:38

・リーマンショック、コロナショックは日本経済に大きな影響を与えたが、ロシア・ウクライナ戦争の影響は軽微である。米国関税ショックや米国イラン紛争も石油ショックへの広がりが懸念されたが、今のところ限定的である。しかし、インフレは進行しており、円安への歯止めも必須となっている。

・株式市場はAI(人工知能)ブームで活況である。株価の値上がりによる資産効果はかなり大きい。NISA(少額投資非課税制度)に参加している若い世代(30~40代)へも恩恵は及んでいる。AIブームはバブルであろうか。そうならば、ブーム&バーストでいずれ大きく調整することになろう。

・これが構造変化であれば、ブームが社会経済構造にビルトインされ、新たな付加価値の源泉となっていく。イノベーションがメガトレンドを生もう。この動きが本格化しそうである。

・一方で、格差が広がっている。インフレが続くと、フローの経済において、所得が上がらないと生活が苦しくなる。株式などを所有して金融資産に余裕があればよいが、インフレ率並みに収入が上がらなければ、日々の生活は苦しくなっていく。

・賃金の上昇は始まっている。人手不足の中で人材を確保するには、賃金を上げて働く魅力を高めないと、よい人材を確保できない。適材を見出せる企業は成長し、適所に転職できる人材もやりがいを高めることができよう。

・しかし、そうでない人々にとっては、苦しい局面が続く。ここに手を打つ必要がある。低所得層はなぜ低所得なのか。中所得に向かう道筋があるのか。自らの能力を高める機会、今の能力に合った機会、仕事の内容に見合った賃金格差の是正などが必要であろう。社会や生活になくてはならないエッセンシャルワーカーの処遇を大幅に改善する必要がある。

・もう1つは、低所得層への税負担の軽減と所得の補填である。納税額の低い人には、税控除だけでは十分でないので、給付によって所得を増やすようにする。この給付付き税額控除によって、税・社会保障料の負担の公平化を図ろうとしている。

・1)がんばっても稼げない人の所得をカバーし、負担を軽減する。2)税・社会保障の仕組みのせいで、働く機会を妨げられている人に、働いたら実収入が増えるようにする、3)中高所得層については、将来の発展に結び付くような成長投資や社会活動への貢献によって、税負担が軽くなるようにする。

・これまでよりも負担が増えるとしても、投資による負担減が効くようにする。つまり、インセンティブで将来の税収が増えるようにする。

・GDP(国民総生産=総付加価値)が増加するように成長投資を続けたい。一方で、付加価値の配分では、それぞれの層にとってインセンティブが働き、公正性が確保できるように工夫したい。頑張る人には努力に報い、社会的に必要な領域にはその貢献に十分報いるように働き方を評価し、何らかのハンディのある人にはそれをカバーするように生活を守っていく。

・しかし、人々の生活は多様である。GDP、1人当たり付加価値、1人当たり所得だけでは人々の幸福度(ウェルビーイング)は測れない。生活の満足度は人によって異なる。

・これを指標化して平均値でみても、平均より上の層と平均より下の層では、その内容が全く違うかもしれない。健康、収入、つながり、働き方、選択の幅、社会や地域からの守られ方など、さまざまな要素があろう。

・本当に多様さを認め、それを受け入れる社会になっているだろうか。自らの個性を活かし、それぞれの地域で価値を創り、生きていこうという人々は大勢いる。いわば文化、伝統を踏まえたイノベーターである。

・ところが、大半の人はもう一歩を踏み出せずに、社会のしがらみに追随するフォロワーに留まっている。この人たちに無理強いさせることは酷である。しかし、チャンスが高まるような社会的仕組みを作って、サポートすることは重要であろう。

・働く時の基本は、働きがいと働きやすさにある。同じようにワークライフバランスを考えれば、生き甲斐と生きやすさが大切である。

・誰でも自分なりに頑張りたい。自分で決めたことは頑張れそうである。そこが見つけられるか。うまく出会えるか。ウェルビーイングを高めるには、そうした仕組み作りが問われている。

・企業においては、将来ビジョンを創る時に、30代の意見がどこまで反映されるか。今後20年、同じ会社で働くとしたら、何が大切で、面白くなるか。

・しかも、自分の子供世代をイメージして、自らが働いて、ワクワクし、おもしろいと笑顔をみせられるなら、こんなにいいことはない。ワクワクすることに夢中になるなら、それが長時間でも苦にならない。仕事と家庭を切り分けながら、混然一体で共有できよう。

・給付付き税額控除と消費税の引き下げが一体として議論されているが、これが妥当な方策とは思えない。インフレ分を所得面でカバーするなら、1)賃上げで所得を増やす、2)それが十分できない低所得層には給付を行う、というのが望ましい方法であろう。

・富裕層ほど消費の額は大きい。相続した人々も消費を増やすであろう。株の値上がりや配当を得た人も消費を高めよう。こういう人々から消費税をとることは負担感からみて問題はない。

・所得や資産が増えた人が、消費に回さず、貯蓄や投資に回すならば、それは将来の消費に結び付くはずであるし、投資は将来の価値創造に寄与しよう。増やすだけで使わないとすれば、それは相続税としていずれ国の収入になる。日本の資産が増えるならば、国の財政にとってもB/S(貸借対照表)上好ましい。

・現役世代にはもっと働いて稼いでほしい。所得を高めて、生活を充実させてほしい。就労支援に向けたリスキリングには一段と力が入ることになろう。民間企業には、人的資本を強化する施策をビルトインするように義務付けすべきであろう。

・これは費用の負担増ではなく、投資である。それができないようなら、会社としての存在意義(パーパス)が疑われると考えた方がよい。

・今の生産年齢人口(15~64歳)は減っていく。65歳以上の高齢人口は増えていくが、とりわけ増えるのは75歳以上である。よって、後期高齢の75歳までは、もっと普通に働いてもらう必要がある。

・一方で、後期高齢層にも元気でいてほしい、働ける人にはそれぞれの領域で力を発揮してほしい。介護サービスの必要性はより高まるので、ここの人材、サービス施設への投資がさらに高まろう。

・では、エッセンシャルワーク領域への外国人労働者の拡大はどうであろうか。人がいない、安く使えるというだけの出稼ぎ外国人労働者で、エッセンシャルワーカーが務まるのであろうか。それなりの技量と意識を持った外国人がほしい。しかし、この人たちに永住権を認めることを了解するであろうか。

・1)日本人の就労機会、2)賃金上昇の抑制、3)地域における生活治安、4)外国人への社会保障という点で、多様性について頭で分かっていても、現場では軋轢を生む公算が高い。50年くらいかけて相当ゆっくり進める必要がある。

・SDGs(持続可能な開発目標)からSWGs(持続可能なウェルビーイング目標)へ、社会のテーマはシフトしつつある。Wのウェルビーイングを企業も真剣に考え始めている。そのスタートが人的投資論である。当たり前であるが、AI時代に人的資本はますます重要となっている。

・かつてのロボット論を超えて、AI時代の人的資本はより広く考えて、その中心となる人材や、周辺で置き去りにされかねない人材について、社会的価値も含めて手を打つ必要がある。改めて人的資本の付加価値創出をリードする企業に期待したい。

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配信元: みんかぶ株式コラム