「夜明け前は一番暗い」、トランプの真の狙いを見極めよ<村松一之・米国株投資の羅針盤>

配信元:株探
投稿:2026/03/10 12:00

◆イラン戦争のカオスはトランプ政権の誤算

 中東におけるイラン戦争がエスカレートし、世界の金融市場を揺さぶっている。3月9日時点で原油先物価格(WTI)は1バレル=100ドルを大きく上抜けた。2月27日の段階では67ドルだった。市場の関心は、この戦争がいつ収束するのかという一点に絞られている。戦争が長期化し、中東諸国を広く巻き込んだ泥沼状態に陥れば、単にエネルギー価格が上昇するというだけでなく、予期せぬ様々なリスクを誘発し、クレジットリスクや金融システムに波及する事態もないとは言えない。そういう意味で、重大な局面にあると言っていいだろう。

 ところで、今年は米国にとっては、「中間選挙」という重要な年であり、トランプ大統領の最優先事項は、この中間選挙で勝利し、議会の上下両院を共和党が制する状況を維持することのはずだ。2017年の第1次トランプ政権では、中間選挙で下院を民主党に奪われた。その後の2年間は、議会対立により大型法案は成立せず、政府閉鎖が起こったり、トランプ大統領にとっては屈辱的な弾劾決議が行われるなど、苦しい政権運営を余儀なくされた。2期目のトランプ大統領としては、あの時の苦い経験を繰り返すことは、何としても避けたいと考えているだろう。

 そういう意味では、足もとのイラン戦争の混乱とカオスな状況は、本来なら最も回避すべきリスクであったはずだ。明らかに現在の中東の状況は、トランプ政権の中間選挙戦略に大きなマイナスとなっており、政権陣営においても誤算だ。私は、これからトランプ政権がイラン戦争の着地点に向けて軌道修正をしていくと思う。なぜ、トランプ政権が軌道修正をしていくと考えるのか。それを紐解くためにもいま一度、今年に入ってから中間選挙まで、トランプ政権が描いていたであろう中間選挙勝利に向けての"青写真"を考察してみたい。

◆米中間選挙に向け、トランプ政権が描くバラ色の"青写真"

 トランプ政権の重要人物の一人に、首席補佐官、スーザン・ワイルズ氏が挙げられる。共和党の選挙戦略の要として知られている彼女は、この秋の中間選挙を「大統領選のように戦う」と明言している。本来、中間選挙はもっと地味な展開となるものだが、一昨年の大統領選のようにトランプ大統領を前面に出し、争点もアフォーダビリティ(暮らしを維持するための指標)といった庶民の生活実感に関するものだけでなく、外交成果なども含めた国家レベルのテーマで戦うと述べている。

 そうした前提のもと、改めて今年に入ってから秋の中間選挙までのトランプ政権のスケジュールをまとめ、筆者なりにその狙いを推測してみたい。まず1月から2月にかけては、「ドンロー主義」を打ち出し、ベネズエラのマドゥロ大統領を電撃作戦で拘束に成功。米国の軍事的な能力の高さを証明しつつ、西半球における米国の勢力を取り戻すことをアピールした。一般教書演説では、トランプ大統領が休憩なく1時間47分の演説を行い、健康的にも精神的にもタフなリーダーであることを示した。トランプ政権としてはまずは上々のスタートを切ったのだ。

 3月から4月にかけては中間選挙の予備選挙がスタートする。3月末からの米中首脳会談で、中国からボーイング機の大幅な受注や米国農産物購入の約束を取り付けるとともに、習近平国家主席との良好な関係をアピール。さらには昨年の税制法改革により、米国民への巨大な税還付を実施し、個人消費が盛り上がり、支持率を回復させることを狙う。

 各州の予備選挙がピークを迎える5月から6月は、トランプ大統領や政権幹部が各州を回って応援演説を積極的に行い、支持を集める期間だ。この時期までにはガソリン価格を1ガロン=2ドル近辺に低下させ、行楽シーズンに向けて生活の質の改善をアピール。トランプ大統領が指名した次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長のウオーシュ氏が就任し、6月に初のFOMC(米連邦公開市場委員会)に臨む。当然のことながら、トランプ大統領としてはFRBの利下げ再開を期待する。

 そして7月4日、250回目を迎える独立記念日に、国家的な祝賀イベントを実施し、偉大な米国を再建した偉大な大統領を演出する。「子供の資産形成」を旗印にした政府による新生児への1000ドル拠出を実行するとともに、米国株インデックスで長期投資を促す、税制優遇付き投資口座制度「トランプ口座」が7月4日に開始される。また、時期は未定だが、大統領選時にしか実施されない全国党大会を、今年の夏にも実施することを検討しているという。お祭りムードの中で、株式市場も大きく上昇させ、自身の成果とする狙いだ。

 本選挙戦のピークを迎える9月から10月にかけては、両陣営ともに投票日前の30日から45日間に広告費、人員動員費、デジタル戦略費を集中的に投入する。これは、有権者の多くが投票直前に判断するためだ。この時期までにトランプ政権としては、国民の不満の高い「アフォーダビリティ」施策を改善し、インフレを抑制しつつ、高い経済成長を実現する必要がある。経済状況が選挙に直結する最も重要な時期だ。この時期に株価は史上最高値を更新していることが望ましい。

◆建国250周年イベントとW杯、2大フェスティバルで全米の熱狂を

 政策としては上記が大筋の流れだが、中でも7月4日の建国250周年の祝賀事業は、トランプ政権が今年、最も重視するイベントと言えよう。いくつか具体的な取り組みを紹介すると、まず、全米50州の文化・歴史・食などを紹介する巨大博覧会 「Great American State Fair (グレート・アメリカン・ステート・フェア)」を首都ワシントンD.C.のナショナルモールで開催。さらに高さ250フィートの建国を象徴する巨大記念アーチなどのモニュメント建設や、米国建国の歴史的人物の銅像を並べる 「National Garden of American Heroes(アメリカの英雄たちの国立庭園)」の整備なども予定されている。

 文字通り、文化・スポーツ・歴史を融合した国家レベルの大規模プロジェクトで、トランプ政権が昨年から1年以上の時間とお金をかけて準備してきたものだ。トランプ政権としては、こうした数々の催しを通じて、米国の歴史や国家アイデンティティを国内外に示す一大祝賀イベントとしたい意向だ。

 建国250周年のイベントに関しては、これに加えてスポーツ大会の開催も予定されている。トランプ大統領の6月14日の誕生日には、ホワイトハウスの敷地内で世界最大の総合格闘技団体「UFC」による格闘技大会が開催される。もちろん史上初のことだ。また、8月にはワシントンD.Cで初のインディカーレースが開催されるほか、9月には全米各州を代表した若者たちが競い合う「Patriot Games(パトリオット・ゲームズ)」というスポーツ大会の初開催も企画されている。

 さらにそもそもはトランプ政権の思惑の枠外ではあるが、4年に1度のスポーツ界最大のイベント、FIFAサッカーワールドカップも6月から7月にかけて米国を中心に北中米3カ国で開催される。近年、実力が急上昇している米国代表がもし、ベスト8入りするようなことがあれば、祝祭ムードをさらに盛り上げることになるだろう。

 このようにトランプ政権は、相当な熱量でこの建国250周年関連のイベントを準備してきた。もちろん、その先に目指すものは、中間選挙での大勝と自身の名声の確立があるはずだ。こんな壮大なフェスティバル(祝祭)を前に、イラン戦争を長期化させ、泥沼に引きずり込まれる事態になってしまっては、どう考えてもまずいはずなのである。

◆「手のひら返し」を躊躇しないトランプ、戦争の出口戦略はベッセントに

 目下の戦局は予断を許さない状況になっているが、俯瞰して米国株式市場を見れば、イラン戦争後のダウ工業株30種平均、S&P500種指数、ナスダック総合指数など主要指数の値動きは、日経平均株価を始めとした各国市場に比べると総じて底堅い。そもそも今年は米国株全体が出遅れていたことや、エネルギーも食料も国内で自給でき、世界最強の軍隊を持つ米国の「国力」が、下げ相場の中でプレミアムになっているのだろう。

 しかし、この戦争をいまの状態で継続すれば、世界同時株安どころか、何らかの予期せぬリスクを誘発し、コロナショックとリーマン・ショックを併せたようなリスクに発展する可能性もなくはない。株式市場の下落、金利上昇、エネルギー価格上昇の同時進行は恐ろしいものなのだ。

 こうした極端な状況になると、これまで必ずと言っていいほど、表舞台に登場してきたのはベッセント財務長官だ。今回もまずはベッセント財務長官が中心となって、世界協調でエネルギー価格上昇を抑制する枠組みが打ち出されると見込んでいる。筆者の推測では、彼が主導して原油備蓄の放出や、有志国に働きかけたうえでホルムズ海峡を防衛し、民間船舶が運航できる状況をつくり出すのではないだろうか。

 さらに首脳会談を前に中国に働きかけ、イラン戦争の停戦に向けて協調するかもしれない。イラン戦争の政治的目標については、トランプ大統領も短期間で柔軟に変化させている。すでにイランのレジームチェンジ(体制転換)は求めていない。これまでの徹底的に叩く「攻めの戦争」から、中東の米軍基地やホルムズ海峡等を守る「守りの戦争」に軌道を微修正しながら、イラン戦争を中東の「通常の地政学リスク」に格下げさせつつ、この泥沼から脱出を図るのではないだろうか。

 中東の専門家でもない筆者が、この問題に深入りすることは避けたいが、トランプ大統領は、良くも悪くも「手のひら返し」をすることを躊躇しない指導者だ。このことは、今朝(3月10日)、米放送局CBS記者に語ったとされる「戦争はほぼ終了している」という発言からも分かる通りだ。

 メリット・デメリットに実に敏感であり、中東が混乱していても、極端に言えば、米国人に被害がなく、エネルギー価格が安定していれば、それで良いのである。早ければ今週中にも具体的に何らかの動きがあり、月末までには最悪期は脱出しているのではないだろうか。そうでないと、先に示した中間選挙戦略がどんどん狂ってしまうからだ。

 「夜明け前は一番暗い」と言われるが、今週がまさに「夜明け前」である可能性もあるだろう。こういう大きなリスク局面では、投資家は適切に対応することは困難だが、くれぐれも慌てて動いたり、パニックになったりすることは避けるべきだ。

 株式投資をしていれば、数年に1度は20%超の下落に遭遇する。今回の下げですでに苦しい状況になっているとしたら、ポジションの絶対量が大き過ぎるか、保有するアセットのリスクが偏っていることを示しているかもしれない。大事なことは、いつでも投資を継続できる状態を維持していることだ。ポートフォリオを再度見直しながら、冷静にイラン戦争の状況変化を待ってはどうだろうか。


【著者】
村松一之(むらまつ・かずゆき)
和キャピタル取締役運用本部部長/フォーライクス代表

1973年生まれ、慶應義塾大学卒業後、1996年静岡銀行入行。支店勤務を経て、資金証券部に配属。その後、米ニューヨーク支店勤務など主に市場関連業務に従事。2017年8月、和キャピタルに入社、21年3月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」でレギュラーコメンテーターを務めるほか、各メディアで市場分析のプロとしてのオピニオンを展開中。

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