「SaaSの死」を越え、米製造業の復活が始まる<小川浩一郎・米国株“上昇のナラティブ”>

配信元:株探
投稿:2026/02/25 10:00

◆歴史的に必然、ハイテク株とバリュー株のバリュエーション調整

 米国企業の2025年12月期決算がほぼ出そろった。足もとの株式市場の反応を見ると、マグニフィセント・セブン(M7)の各社はマイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズが軟調、アップル、テスラがほぼ横ばいと、昨年までのような勢いが感じられない。

 さらにアンソロピックの新型AI(人工知能)エージェントが発表されて以来、「SaaSの死」という言葉が喧伝されたように、セールスフォースやサービスナウ、パランティア・テクノロジーズなどのソフトウエア大手企業の株価が急落している。各企業の決算内容はまちまちだったが、それほど悪くなかった企業も売られてしまっている。今回の決算シーズンでは、昨年まで相場をリードしてきたハイテク企業全体に対して、株式市場はシビアな評価を下していることになる。そもそもなぜ、こうした結果になっているのか。

 米国株市場の歴史を振り返ると、ハイテク企業を中心としたグロース株とバリュー株の間には一つの法則がある。一定のレンジの中でグロース株が上昇する局面とバリュー株に資金が回帰する局面を繰り返しているのだ。グロース株の株価上昇率がバリュー株より徐々に高くなっているのは、今世紀に入ってからの変わらぬ傾向だが、相場が過熱してくると、グロース株に資金が流入し、バリュー株との格差が拡大する。2020年からのコロナ・バブルと呼ばれた局面もそうであったし、古くは2000年前後のITバブル期も同様の現象が起きた。

 だが、昨年末あたりで、ハイテク株とバリュー株の株価の格差が、レンジ上限付近にまで達してしまっていた。歴史のサイクルから見てもこのあたりで、ハイテク株からバリュー株へとバリュエーション調整が行われるのは、なかば必然のタイミングだったのだ。

 そんな中で、「SaaSの死」というテーマが誕生したわけだ。結果として、ソフトウエア企業の株価は総崩れといった状態だ。マイクロソフトの予想PER(株価収益率)は20倍超、オラクルやセールスフォース、アドビなどの予想PERは10倍台といったところまで売られてしまっている。すでに割安と言える水準で、本来は実力がありながらも売られている銘柄は大バーゲンセールかもしれないが、売られている銘柄は玉石混交で、今の相場の流れの中でそれを見分けるのは簡単ではない。

 今の相場はバリュエーション調整という大きな流れの中で、「SaaSの死」というナラティブ(物語)が支配している。市場参加者はポジティブな材料よりむしろネガティブな材料を探していて、企業の決算発表で、経営者が少しでもネガティブだと捉えられる発言をすると、株価は極端に反応してしまうからだ。

◆株式市場の評価が明暗分けるAIの川上企業と川下企業

 さらに今回の一連の決算で明らかになったことは、増加する一方のハイパースケーラー各社のAIデータセンターへの投資額だ。もちろん、各社はいずれ回収できると考えているから投資するのだろうが、完全な消耗戦になってきている。将来的には分からないが、さすがにここまで投資額が莫大に積み上がってしまえば、収益化はどう考えてもかなりの時間が必要になる。

 そこで当面生じるのは、AI関連企業間で起こる格差の拡大だ。いま、米国の市場関係者の間で盛んに言われているのは、「生成AIはコモディティ化する」ということだ。半導体デバイスメーカーや半導体製造装置メーカーなど、データセンター建設に直接関係するセクター、いわばAIの上流部分に当たる企業は恩恵を受けるが、それ以外の川下の企業は、AIによって淘汰されてしまうかもしれない。そんな空気が、現在の米国株市場には充満しているのだ。

 実際、ソフトウエア産業だけでなく、ネットを使った旅行サイトや教育サイト、医療情報サイトなどを運営している企業などを含めて、川下に位置する企業の株価は下落の一途を辿っている。広義の情報産業すべてが、AIコモディティ化の影響を受けると見られているのだ。現在の状況が、これまでのバブル崩壊時と同じように株価暴落に結び付くかというと、それは時期尚早だろうが、本格的な反転には新たな材料が必要となろう。

 そうした状況の中で、今週以降もいくつかの注目決算が発表される。簡単に見どころを述べていきたい。まず2月25日(日本時間2月26日早朝)に決算発表を控えるエヌビディアに関しては、業績の堅調さが確認される公算が大きい。仮に次世代GPU(画像処理半導体)「Rubin(ルービン)」や、メタ・プラットフォームズ等とのアライアンス、スターゲート・プロジェクトに関する前向きな発表があれば、好材料視されるとみる。3月16日から19日に米国カリフォルニア州サンノゼで開催されるAIカンファレンス「GTC2026」への注目度も高い。上記の材料を通じて、同社の株価がレンジを上抜ければ、AI相場第2弾の本格スタートの号砲が鳴ることになろう。一方、同日に発表されるセールスフォースは、「SaaSの死」というナラティブを打ち消す材料を提供できるかが課題になる。できなければ株価の下落基調を止めることはできないのではないだろうか。

 3月に入って決算が発表されるブロードコムは、さらなる上昇余地がある。その条件は、昨年来の同社の株価上昇のきっかけになったグーグル(アルファベット傘下)のAI半導体、「TPU(テンソル・プロセッシング・ユニット)」や光半導体についての具体的な話が出ることだ。残すは、半年間で株価が半減しているオラクルだが、ここまで売り込まれている状況を考えると、逆に発表内容によっては大きなリバウンドが期待できるかもしれない。

◆トランプ政権の大目標「製造業の復活」

 では決算シーズンを通過した後、中長期的な米国株の投資戦略はどのように考えるべきだろうか。ここで大きな意味を持つのは、「米国製造業の復活」というキーワードだ。ご存じのように今年は秋に中間選挙を控えている。当然、トランプ大統領はそこを見据えているだろうが、これまでの米国経済を振り返ってみると、一つの傾向があることに気付く。共和党が長期政権を握った期間は、製造業の振興に力を入れるという傾向だ。米国経済の黄金時代、1950年代のアイゼンハワー政権時代は別格として、1980年代のレーガン政権時代、2000年代のジョージ・W・ブッシュ政権時代も、その期間の製造業は活力を取り戻していた。

 現在の流れを見ていると、こうした歴史を再現する可能性があるように感じる。そもそも、トランプ大統領が就任時に掲げていたキャッチフレーズは「偉大なる米国の復活」で、その代表的な施策が「製造業の復活」だった。昨年4月のトランプ関税は世界を困惑させたが、結果としてはそれをテコとして各国から巨額投資の約束を取り付けている。先日、日本からの対米投資案件第1弾が正式に発表されたが、今年は各国の投資案件が実際に動き出すことが見込まれている。

 いずれにせよ、これらの動きが米国の製造業を復活させる力になることは間違いない。破天荒な言動で物議を醸すトランプ大統領だが、この1年間の動きが、すべてこの目的、すなわち「製造業の復活」に向けてのものであるとしたら、見事としか言いようがない。もちろん、彼がそうした計算で動いたのかどうかは不明だが、もし、そうだとしたら政治家としては素晴らしい手腕を持っていると評価することもできるだろう。

 次にこれらの流れを見越したうえで、今後、注目すべき銘柄を具体的に挙げていきたい。まずAI上流企業では、世界トップレベルの電力供給会社であり、データセンター向けの電力システムにも力を入れているGEベルノバ、ハイパースケーラー各社にAIインフラ・ネットワーク機器を提供しているアリスタ・ネットワークスを挙げたい。いずれも業績の急拡大とともに株価がかなり上昇しているが、今後も飛躍的にデータセンター向けの需要拡大が続くことを考えれば、上値余地は十分だ。

 M7の中では、やはりアルファベットが筆頭だろう。昨年11月に発表された「Gemini(ジェミニ)3」の性能の高さは、すでに多くの人が体感している。半導体からデータセンター、クラウドネットワークと自社でAIサービスのほとんどを展開できるのは強みだ。

 データセンター関連では、ルメンタム・ホールディングスも面白い存在だ。超高速通信を実現する光半導体や光電融合技術で定評があり、アルファベット、ノキアなど大手ハイテク企業が主要顧客となっている。次世代技術のコア部分に強みを持ち、多くの株式市場関係者が本命視する有望銘柄だ。

 ウォルマートやアカマイ・テクノロジーズもAIの勝ち組企業と言えるだろう。世界最大の小売り企業、ウォルマートはAIを活用したデジタル戦略の大成功例で、いまや市場からの期待はEC(電子商取引)首位のアマゾン・ドット・コムを凌駕している。アカマイは、"知る人ぞ知る"優良企業だ。トラフィック・データの最適化を実現するアプリケーションを展開していて、もし同社のアプリがなければ世界中のインターネットサービスが止まってしまうほどの影響力を持っている。

◆「製造業復活」を象徴する5つの有望銘柄

 「製造業の復活」関連では、侮れないのがインテルのポテンシャルだろう。同社は25年12月期まで2年連続の最終赤字に陥っていたが、新CEOにリップブー・タン氏が就任以来、業績を立て直しつつあり、株式市場の評価もようやく上向いてきた。何と言っても、製造業の復活を掲げるトランプ大統領の政策の象徴的な存在であることは大きい。「国策に売り無し」は米国でも通用するはずだし、すでに株価が成長を織り込んでしまっている他のAI半導体大手と比べても投資妙味を感じる。

 製造業が復活すれば、必然的に恩恵を受けるのは物流セクターだ。その意味では、航空貨物輸送最大手のフェデックスも忘れてはならない。足もとで株価はかなり上昇しているが、それでも予想PER(26年5月期)は20倍前後と割安水準にある。製造業復活の恩恵を受ける王道企業と言っていいだろう。

 そして最後に、まだほとんどの投資家が意識していないだろう掘り出し銘柄を3つ挙げておきたい。まず半導体関連では、アナログ・デバイセズとテラダインの2社が魅力的だ。今回の決算で、多くの投資家が刮目したのが、テキサス・インスツルメンツの好決算とそれに対する市場の高い評価だった。同社は元祖・半導体メーカーとも言える存在で、自動車や電機を始めとした広範な業種の企業を顧客に抱える企業だが、近年のAIブームの中で、同社の手がけるパワー半導体や車載半導体は陰に追いやられ、業績も低迷していた。

 だがここに来ての好業績には、多くの市場関係者は改めて合点がいったのではないだろうか。同社の業績改善とは、すなわち製造業の業績改善に他ならないからだ。最先端半導体にばかり耳目が集まる昨今だが、製造業の復活とともに、ようやく汎用半導体が復権してきたのだ。この流れで言えば、世界トップクラスのアナログ半導体メーカーのアナログ・デバイセズの業績が好転すると考えるのは自然のことだろう。先週発表された同社の26年11月期第1四半期決算でも期待以上の決算となり、翌日の株価が急騰している。この勢いは決して一過性のものではないと感じる。

 一方、テラダインは、半導体のテスト装置を手がけるメーカーで、テスターの世界シェアを日本のアドバンテスト <6857> と二分している。同社と異なるのは、テラダインはテスターに並ぶ主力事業として産業用ロボットも手がけていることだ。今年に入って株価も急騰していて、PERも上昇しているが、AIの発展と製造業の復活という追い風を受け、これから旬を迎える2つの成長領域を事業の柱としているのだから、ポテンシャルの高さは誰しも認めるところではないか。

 最後に挙げるのは、ハウメット・エアロスペースという企業だ。もとはアルミニウム大手、アルコアから金属加工やエンジニアリング部門をスピンオフして設立された企業で、現在は航空機エンジンやガスタービンに欠かせない金属部品で圧倒的な世界シェアを持っていて、スペースXのサプライヤーとしても知られている。データセンター需要の拡大に伴って業績も好調で、株価も急騰しているが、今後の可能性を感じるのは、同社の製品が産業用ロボットやEV(電気自動車)にも欠かせない存在となっていることだ。AIがデータセンターから他分野へと影響をもたらす流れの中では、どの局面でも同社製品の存在が重要になる。中長期的な成長期待という点では、今回挙げた銘柄の中でも最注目と言っていいだろう。

 ここまで、米国の「製造業の復活」を前提に述べてきたが、このテーマを口にすると、少なくない人が、「いまさら米国の製造業が復活するわけがない」と否定的な意見を向けてくる。豊かになった米国人がいまさら、時給が低く、勤勉さや忍耐が求められる工場の業務などに従事するはずがない、という趣旨だ。だが、米国の市場関係者にこうした見方を伝えると、「君たちはまったく分かっていない」と反論される。「自動車や電機、鉄鋼など、最先端とは言えない分野では米国は負けている。だが、技術革新の核になるような分野では、いまでも米国が圧倒的に世界一だ」と。

 確かに航空、防衛、宇宙、医薬品、原子力など、"化学的"要素が重視される分野では、いまでも米国の製造業の存在感は他国を圧倒している。アジアに製造工程を委ねている先端半導体も、商品開発の元となる企画や設計は米国企業が担っている。彼らの言い分はもっともだ。しかも今後は、AIの技術革新が製造業の様々な分野に波及することが確実視されている。そんな流れの中で、上値が重いM7銘柄から視線を外し、「製造業復活」をテーマとした銘柄を選定していくことは、理にかなった選択とは言えないだろうか。


【著者】
小川浩一郎(おがわ・こういちろう)
岩井コスモ証券投資調査部長/チーフアナリスト

1967年生まれ。外資系コンサルティング会社で戦略立案、M&Aアドバイザリー等に従事した後、投資ファンドで投資実務や資産運用に携わり、2006年、岩井コスモ証券に入社。現在は米国株式を中心に外国株式に関する業務全般を担当。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」、インターネット配信「ストックボイス」等に随時、出演。長年の市場分析経験を生かしたストーリー性のある銘柄・セクター分析に定評がある。社団法人・日本証券アナリスト協会検定会員、米国公認会計士・米国証券アナリスト・有資格者。

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