【QAあり】三井物産、持続可能で競争力ある事業ポートフォリオを構築し、企業価値を向上
成長戦略の骨子
堀健一氏(以下、堀):みなさま、こんにちは。三井物産株式会社代表取締役社長の堀です。本日はお忙しい中、三井物産インベスターデイ2024にご参加いただき、誠にありがとうございます。
私からは、当社の成長戦略についてご説明します。
成長戦略の中核は、持続可能で競争力ある事業ポートフォリオの構築です。
当社は、時代に応じて変化する社会課題に対し、ビジネスを通じた現実解を提供してきました。そのために、成長投資、ミドルゲーム、資産リサイクル、経営資源の配分の取組みを深化させ、事業ポートフォリオの変革を続けてきました。
成長投資は、当社が深い知見をもつ事業領域「Own field」とその周辺領域を対象とし、豊富な案件パイプラインから厳選しています。現中経では、モビリティやタンパク質などの領域で成長投資の実行を通じた事業群形成が進捗しています。
産業横断的プレミアムの創出も重視しています。例えば、クリーンアンモニア事業は、化学品とエネルギーの両事業領域にまたがった取組みが不可欠です。このように複数の産業での知見の組合せによる新たな成長機会・付加価値を産業横断的プレミアムと呼び、重視しています。
ミドルゲームは、投資実行から売却の間の段階において、競争力強化、効率化・ターンアラウンドにより収益力の向上につなげる取組みです。
資産リサイクルもまた、事業ポートフォリオの良質化に向けて恒常的に必要な取組みです。当社は、さまざまな産業においてバリューチェーン全体を俯瞰しています。このポジションを活かし、プロフィットプールの変化、気候変動対応といったグローバルな課題など、産業構造の変化を捉え、またROICや事業価値などを踏まえた有効な戦略オプションとして、機を逃さず資産入替えを進めています。
また、これらの取組推進には、限られた経営資源の適切な配分が重要です。キャッシュ創出力と強固な財務基盤に基づく資金配分を行うとともに、まさに12月2日に全世界で稼働開始した当社独自の人的資本のプラットフォーム「Bloom」と、知的資本のプラットフォーム「Value Creation Palette」を活用し、グローバルグループで人材と知見を最適活用していきます。
このような取組みにより、持続的な成長をけん引する事業ポートフォリオを構築します。
事業ポートフォリオの良質化・拡大と資産リサイクル
事業ポートフォリオの良質化・拡大と、資産リサイクルの取組みについて、詳しくご説明します。
投資対象の選別においては、成長分野での取組み、長年にわたり醸成されたパートナーや顧客との関係性、モノ・サービスの希少性を上手くマネージすることなどに重点を置いています。そして、エネルギートランジション、モビリティ、ヘルスケア、タンパク質を成長ドライバーと位置付け、新規投資・ミドルゲームの両面で競争力強化や収益拡大に取り組んでいます。
また、ポートフォリオの分散効果も重要な点です。地域、産業、収益貢献までの時間軸、黎明期・成長期などの当社参画のエントリーポイントを、事業ポートフォリオの中でバランスよく分散させています。
これらの施策により、持続性、競争力、収益規模、資産効率を継続的に向上させ、事業ポートフォリオを良質化・拡大しています。
また、資産入替えは、事業ポートフォリオの良質化に向けた戦略オプションとして重要な取組みです。ポートフォリオ・レビューやマネジメント目線による成長投資の厳選と売却対象資産の抽出を行い、ROIC、事業価値、そして時機も踏まえた戦略的な資産売却を促進しており、このペースは現中経に入り加速しています。
グローバルでの収益基盤拡充
事業ポートフォリオ良質化の成果の1つとして、それぞれの地域において収益基盤の拡充が進捗し、グローバルで地域分散の効いた事業ポートフォリオの構築が進んでいる点が挙げられます。
こちらのスライドは、18/3期と24/3期の当期利益とその地域別比率を示しています。なお、豪州での利益はアジア・パシフィックに含まれています。
全社利益の拡大に応じて、各地域の収益もバランスよく伸長しています。グローバルでの成長性や地域バランスの観点で、地域分散の効いた事業ポートフォリオの良質化が進捗していると評価しています。
この地域分散においては、当社の特徴の1つであるグローバルマトリクス体制が機能しています。グローバルで産業横断的な取組みを可能にする組織体制により、世界中の事業機会の発掘や、カントリーリスクへの対応が深化しています。
成長ドライバー事例① LNG
成長ドライバーの具体的な事例についてご説明します。1つ目はLNGです。
当社は1970年代からLNG事業に取り組んでいます。LNG需要の拡大に応じたプロジェクトへの新規投資や拡張により地域分散を進め、安定供給に貢献しながら、LNG事業の収益基盤を拡大してきました。
LNGはGlobal Energy Transitionにおける現実解としての役割を、今後も長期間担っていくと考えていますので、パートナーシップと総合力の発揮により、希少な機会を着実に捉え、LNG事業の収益基盤を引き続き拡大していきます。
成長ドライバー② モビリティ
2つ目はモビリティです。
モビリティ領域では、各業界を代表するパ-トナーとの長年に亘る関係性を起点に、世界中で事業を拡大してきました。
持続的な成長を見込む代表的な分野は、自動車、産機・建機、船舶です。各分野において事業群の形成・拡大やパートナーシップを梃にした優良案件の獲得、業界を代表するパートナーとの協業を深化させていきます。
一過性利益を除くモビリティ事業の収益力は年間1,600億円規模に達しており、今後もミドルゲームの推進により既存事業の競争力を強化し、ボルトオンを含む投資により事業群を形成・拡大させながら、さらなる成長を実現させていきます。
成長ドライバー事例③ タンパク質・ヘルスケア
3つ目はタンパク質とヘルスケアです。
攻め筋の1つ、Wellness Ecosystem Creationで既存事業の強化と事業群形成が進捗しています。
成長ドライバー事例③ タンパク質・ヘルスケア
タンパク質領域では、現中経においてエビ養殖や鶏事業への投資を進め、既存の畜産・水産・飼料事業などと組み合わせた動物タンパク質事業群の形成を進めました。
タンパク質領域は人口増加と新興国を中心とする経済成長により、需要の継続的な拡大が見込まれます。特にエビと鶏は、動物タンパク質の中でも宗教的制約が少なく、市場成長率が高く、また育成期間が短く、飼料効率が良いなどの優位性があり、注力しています。これまで飼料・畜産事業で培ってきた知見を活用し、獲得した事業の生産効率化と規模拡大を進め、新興国の需要拡大を取込むことで収益を拡大していきます。
成長ドライバー事例③ タンパク質・ヘルスケア
ヘルスケア領域は、IHHが成長をけん引しています。当社はIHHに2011年に出資、2019年に追加出資し、筆頭株主となりました。2011年の出資以降、病院数・病床数の拡大やオペレーション改善、コスト削減などにより、IHHのEBITDAは約5倍まで成長しています。IHHは2028年までに病床数を30パーセント増やすことを計画しており、事業ポートフォリオの拡大と強化などにより、継続的な成長を見込んでいます。
また、当社はこういった病院事業でのヘルスケアデータの蓄積・活用状況を踏まえ、データを活用した製薬事業の創出を検討しています。これを中長期的には当社ヘルスケア事業の柱の1つとする構想です。
加えて、エームサービスやフードサイエンス、ニュートリション領域と組み合わせることで、エコシステムをヘルスケアからウェルネスへと拡大します。各事業の抜本的な生産性の向上やIHHを中心とする病院・クリニック事業との組合せなどにより、ウェルネスエコシステムの形成と拡大を目指します。
企業価値向上・株主還元の継続的な拡充
当社は、継続的に利益とキャッシュ・フローを拡大し、同時に株主還元を拡充してきました。成長戦略の実行により、さらなるキャッシュ・フローの拡大を実現し、株主還元を継続的に拡充することで、ROEと企業価値を向上させ、株主のみなさまからのご期待に応えていきたいと思います。
質疑応答:モビリティ事業における成長の狙い目について
質問者:モビリティ事業の過去の大型投資はPenske Truck Leasingまでさかのぼると思います。現中期経営計画(以下、中経)では、米国のトラックのオークション事業への参入がありましたが、今後のモビリティ事業の利益成長、特に新規投資での狙い目を教えてください。
堀:モビリティ分野では、この中経期間内で3つの事業群を8つ、9つと増やしていくという長期戦略を持っています。その中心地域はカナダと米国です。北米では、モビリティ事業、自動車のディーラーシップ、サービス事業、ファイナンスの組み合わせ、乗用車の他にトラックの商業用事業などが引き続き期待できますし、成長分野だと思います。
さらに、中南米のモビリティ事業も、一つひとつの案件候補の大きさは限定的ですが、積み上げができています。東南アジアを軸とするモビリティ事業についても各国の成長軌道に合わせてメニューを広げています。
来年以降を見据えると、特に北米、米国の中である程度完結するモビリティ事業は非常に有望だと思っています。いろいろな案件を見ていますし、当社の投資基準にかなうものがあれば進めていきたいと思います。
テイラー・アンド・マーティンの事業も、トラックオークション市場を捉える、将来の楽しみな事業です。このような周辺事業を含めて、どのように現事業のスケールを上げていくかに力点を置いて進めていきたいと思います。
産機・建機事業も非常に旺盛で、当社が取り組んでいる南米、オーストラリア地域を軸に鉱山向け事業の更新需要、新規技術を伴った建設機械の需要を捉えていく形でメニューを広く設けていきたいと思っています。
船舶事業は燃料転換も含めて、当社のお客さま、パートナーとのグローバルな展開がどんどん広がっています。アジアでの展開と、ヨーロッパの強力なパートナーも含めて相当裾野が広がっています。船舶の多様なビジネスモデルを組み合わせた形での事業展開にも、引き続き力を入れていきたいと思っています。
質疑応答:新興国の取り組みへの考え方について
質問者:トランプ政権になることもあり、地政学的リスクが上がってきている国も多いと思います。現在のポートフォリオについて、特に新興国の取り組みにはどのような考えを持っているのかを教えてください。
堀:当社はもともとエマージングマーケットに力を入れており、世界のさまざまなボラティリティが上がっている中、引き続き一定の経営資源を新興国の仕事に割り当てていきたいと思っています。
ただ、先進国の事業、あるいは先進国のパートナーとの取り組みが、新興国の仕事のリスクコントロールを可能にするという道筋も日頃のビジネスモデルから見えていますので、このような過去のトラックレコードを踏まえて進めていきたいと思っています。
冒頭でトランプ政権のことを言及されましたが、当社については比較的米国の中で完結している仕事も多く、ポートフォリオは少し強化する方向でいいのではないかと思っています。
さまざまな国の間の交易については、多くのお客さまがサプライチェーン分断のリスクを感じていますが、当社はリスクとみなすと同時に、お客さまへのサプライチェーンの保険策や代替プランの提示など、むしろ出番が増えることもあると思っていますので、機会とも捉えて当社の機能を付加していきたいと思っています。
ブラジルなどの新興国は、特に希少性のある資源やエネルギー、次世代燃料に向けた理想的な立地、自然条件などが揃っています。世界の課題の転換において、グローバルサウスと呼ばれる国々の持つ意義、潜在的なビジネスチャンスは大きいと思っていますので、引き続きしっかりと対応していきたいと考えています。
質疑応答:LNG事業の成長戦略について
質問者:ルワイスLNGをこのタイミングで、日本の企業として比較的良いROIで参画したことは非常に良かったと思います。今後の成長ドライバーとしているモザンビークLNGの現状と、それ以外の案件はどのように成長ドライバーとなるのか、LNG事業の成長戦略をもう一度整理して教えてください。
堀:ルワイスLNGに言及してくださってありがとうございます。オイルメジャーと同じような条件で、ADNOCと組んで入ったことは良かったと思いますし、非常に競争力のあるプロジェクトですので、中核事業の1つとしてしっかりと育成していきたいと思っています。
ご質問のあったモザンビークLNGについては、オペレーターのトタルエナジーズとモザンビーク政府とともに、セキュリティの確認と工事再開に向けた詰めの作業をしています。
何か確定した場合は速やかに発表しますが、安全状況はどんどん改善していますので、いくつかの重要なチェックポイントを見ながら、早期工事再開に向けて鋭意努力しています。モザンビークの競争力とガスの資質、埋蔵量は非常に潜在力が高いため、現地でのリスクをコントロールしながら進めていきます。
もう1つ楽しみなのは北米のキャメロンLNGです。ここでは増設の準備を進めていますが、すでに輸出の認可を得ている事業ですので、拡張のFIDに向けてパートナー間で詰めを行っています。拡張の最終投資決定ができれば、そのまま競争力のある形で追加の拡張が実現しますので、将来のLNG事業の核になると思っています。
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