安田秀樹【ダントツだったTDKの決算と積層セラミックコンデンサ・セクターを分析する】

配信元:株探
投稿:2024/12/13 10:30
●リチウムイオン電池で業績好調のTDK

 今回は、電子部品業界について取り上げた以前のコラムのフォローアップをしたい。主要電子部品メーカーの村田製作所 <6981>TDK <6762>太陽誘電 <6976> の2025年3月期第2四半期の決算が出揃ったが、今回の決算でダントツに内容が良かったのはTDKである。2005年に香港のリチウムイオン電池メーカー、ATLを買収してから成長が続いているのだが、前年の24年3月期第2四半期は累計190億円以上の赤字で苦戦していた磁気応用製品事業が今期から黒字化したことに加え、スマートフォン向けの電池が好調だったことで大幅増益となった。

 負極材料にシリコンを用いたリチウムイオン二次電池は、昨年から株価的なカタリストになっている。これによって従来と比べて容量を増加することができ、その分、電子機器を薄くすることが可能になっている。

 スマートフォンやタブレットが薄さをアピールしているように、薄い機器の方が消費者の人気は高い。今や薄型テレビやモニターは、ディスプレイの周囲の額縁が狭い「ベゼルレス」と呼ばれる機種が人気である。ゲーム機でも狭額縁にしたことで人気が再燃し、長寿命化したケースがある。スマートフォンやゲーム機も本体が薄い方が販売は好調なことが多いので、ますます重要性は高まるだろう。

 通期業績も営業利益を期初見通しの1800億円から2200億円へ大幅上方修正しており、業績面でも安心感がある。電子部品セクターではTDKは特に要注目だ。

●明暗分かれた村田製作所と太陽誘電

 積層セラミックコンデンサ (Multi-Layer Ceramic Capacitor:MLCC)大手の村田製作所と、太陽誘電は真逆の結果に終わった。営業利益3000億円(前期比39%増)の通期見通しを据え置いた村田製作所に対して、太陽誘電は大幅な下方修正となった。特に上半期の営業利益75億円に対して、下半期はわずか1億円に留まる計画で不振が鮮明になっている。
 
 品目としては同じ積層セラミックコンデンサを主力とする二社で、どうしてこんなに差がついてしまったのだろうか?

 小型大容量の積層セラミックコンデンサは両社にTDKを加えた日系3社が圧倒的に優位にあるが、その中で太陽誘電はハイエンド特化型、村田製作所はすべての分野でラインアップを揃えるという戦略の差がある。24年はハイエンド製品よりも、ミドルエンドからローエンド製品の比率が様々な機器で高くなっている。

 いくつか理由があるのだが列挙すると、まず加重平均資本コスト(WACC)の上昇で、スタートアップ企業の電子機器需要が減少したこと、インフレの進展で消費者の可処分所得が減少していること、そして、積層セラミックコンデンサの一大消費国である中国の景気が減速していること、などが挙げられる。

 加重平均資本コストについては、一般メディアではあまり報道されていないと思うが、米国でインフレが進んで以降、FRB(米連邦制度準備理事会)が短期金利を引き上げたこともあり、負債コストが大幅に上昇した。結果、スタートアップ企業に対する資金流入が23年から大幅に減少していた。今年はAI(人工知能)を中心に回復傾向にあるが、この資金がサーバー代や従業員の電子機器に投資されるのは、まだこれからなのである。

 インフレはだいぶ落ち着いたものの、物価が下がった訳ではない。それに対して物価上昇に見合う賃金の上昇は依然として実現していないため、多くの国で国民の生活環境が悪化している。中国の景気については多くのメディアが伝えている通り、不動産投機が一巡したことによって経済成長率が低下している。
 
 これらの外的な要因が、積層セラミックコンデンサの製品構成をよりローエンドに押しやっているのである。村田製作所はローエンドからハイエンドまでほぼすべての汎用品で高いシェアを持っているため、ローエンドシフトが起こっても数量は大幅に減少しなかった。だが太陽誘電はハイエンド中心の構成だったため需要が想定を下回り、下半期に大幅な在庫調整を余儀なくされたのである。

●AIが牽引する電子部品業界

 11月25日に村田製作所は新中期経営計画に関する説明会を開催した。その中でAIサーバーについて言及し、従来の汎用サーバーでの積層セラミックコンデンサの使用個数が1800個から2500個だったのに対し、AIサーバーでは1万個から2万個と、実に5倍から10倍近い個数を使用していることが明らかになった。以前の説明ではもっと少ないとされていたが、改めて精査した結果だという。

 汎用サーバーがインテルやアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、もしくはアーム・ホールディングスのCPU(中央演算装置)のみで搭載されているのと比較して、AIサーバーはエヌビディアのGPU(画像処理半導体)を搭載しているのが特徴である。GPUは大量に電気を消費し、並列演算を行う半導体である。深層学習にGPUは必須であり、AIサーバーは深層学習に時間を掛けるほど効果が大きくなるので、このようなことが起こっているのである。多くの企業がAIサーバー用のチップを奪い合う状況ではあるが、業績への寄与はまだ限定的である。エヌビディアは間もなく次世代品を投入する予定で、来年には成長が期待できるだろう。

 日本企業でもニデック <6594> が液冷システムを販売する予定であるほか、AI用のDRAM制御用半導体をルネサスエレクトロニクス <6723> が手掛けており、エヌビディア一辺倒だった資本市場での評価にも変化が期待できるのではないか。

●自動車向けは苦戦も、長期投資に妙味

 次は、ここ数年好調だった自動車向け電子部品について記しておきたい。ここにきて状況が厳しくなっており、村田製作所の決算でもEV(電気自動車)市場の減速を報告しており、通期の需要見通しも引き下げている。

 コロナ禍では接触を避けて移動できる自動車の需要が高まり、自動車に供給される電子部品の需要も高まった。2024年に入りコロナ禍の需要が一服し、おそらく金利上昇の影響もあって自動車の需要はゆっくりと減退していった。これが今年の電子部品セクターのパフォーマンスが今一つとなっている一因ではないかと考えている。

 ただ自動車一台に使われる電子部品の成長率は、市場全体の平均である年10%弱と比べてかなり高いようである。今や自動車は、センサーや車内モニター、ADASと呼ばれる衝突防止安全装置など様々な機能が搭載され、一台まるごと電子機器と化している。

 テスラの高度運転支援システム「FSD(フルセルフドライビング)」では、前方注意は必須ではあるがハンドルに触らずに移動が可能になっている。最新のバージョンでは目的地の駐車場に止める機能まで搭載されるようになっており、進化は留まるところを知らない。楽を求めたいという人間の習性を考えれば、この進化はもはや止まることはないだろう。

 安全性の懸念などはあるものの、事故リスクを低減できる車の需要は長期的に伸び続けるはずだ。電子部品は誕生からほぼ一貫して数量が伸びている優良セクターである。投資の観点としては短期の変動に惑わされない投資が望ましいだろう。機関投資家と違い、個人投資家は長期保有での果実をとることができるからだ。

 最後に、今年も12月27日にVチューバーの日向猫めんまさんとゲーム業界のセミナーを開催することが決まった。興味がある方は、是非ご覧いただきたい。


【著者】
安田秀樹〈やすだ・ひでき〉
東洋証券アナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。24年5月に東洋証券に移籍し、同社アナリストとなる。忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。


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