~今後のIOWN APN普及時における柔軟な都市モニタリングを可能に~
発表のポイント: ◆IOWN オールフォトニクス・ネットワーク(All Photonics Network、以下「APN」)*1に光ファイバセンシングを組み合わせる構成を考案・構築し、一般道の広域かつ面的な交通流モニタリングが実現できることを実証しました。 ◆今後のIOWN APNと連携し、都市モニタリングを低コストかつ迅速・フレキシブルに実現可能とする技術を確立しました。
1.背景
通信用光ファイバをセンサとして活用することが可能な光ファイバセンシングは、工事振動の検知[1]、道路除雪判断の支援[2]、通信設備保守運用の効率化[3]に関する実証実験や技術導入が進み、新たな社会的価値を創出する技術として期待されています。IOWN APNと光ファイバセンシングを組み合わせると、IOWN APNによる大量データの高速転送を生かした高度なデータ解析が可能になり、センシングデータの活用を促進できると考えられています。さらに、IOWN APNを構成するAPN-Gateway(以下「APN-G」*2)の光パス選択機能を利用することで、一つの光ファイバセンシング装置でAPN-Gに接続された既設の複数の通信用光ファイバが測定可能となります。このように、IOWN APNと連携した光ファイバセンシングは面的、低コストかつ迅速・フレキシブルな都市モニタリングが実現する可能性を備えており(図1)、これらのメリットは、IOWN Global Forumの発刊文書にも記載されています[4]。
今回4社は、IOWNを利用した光ファイバセンシングの社会実装に向け、APN-Gを介して光ファイバセンシングを実施可能にする接続構成を構築し、一般道の広域かつ面的な交通流モニタリングを実施しました。光ファイバセンシングによる交通流モニタリングはこれまでいくつか例[5]が報告されておりますが、複数の一般道に沿って広域かつ面的にモニタリングした実施例は今回が初めてです。
2.技術のポイント
・APN-Gに光ファイバセンシング機能を付与可能な接続構成を実現
光ファイバセンシングは光の往復伝搬を利用して測定するため、IOWN APNの光パス上に配置される一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ等)を回避する構成で光ファイバセンシング装置を接続する必要があります。そのため方向性結合デバイス(光サーキュレータ)を用いて、APN-Gの一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ)を回避して往復したセンシング光を取り出すことが可能なAPN-Gと光ファイバセンシング装置の接続構成を考案・構築しました(図2)。
・地下管路に敷設された通信用光ファイバを活用
通信光ファイバケーブルや地下管路などには何も手を加えず測定が可能であるため、既存の設備を有効活用して、広域エリアからセンシングデータの取得が可能となります。
・一般道向けに最適化した車速解析
高速道路などの長い直進道路とは異なり、交差点などが多く存在する一般道の短い直進道路でも速度・台数を検出できるよう解析を実施しました。
3.共同実験の成果
5台の振動センシング装置をAPN-Gに接続し、既設の通信用光ファイバケーブル(大阪市内の道路地下に敷設)5ルート(延べ37km、8km四方範囲に配線)に対して交通振動を面的に同時測定しました。この交通振動を車速解析アルゴリズムで解析し、一般道の通行車両の平均車速、道路の交通量とその時間変化を200mメッシュの精細な粒度でリアルタイムに可視化できました(図3)。また、車両の速度と台数の解析結果は5地点で現地測定した正解データと一致する傾向を示すことを確認できました。(実証実験期間:2023年12月~2024年1月:データ計測、2024年2~7月:解析・有用性の検証)
一般道の交通流計では、主要幹線のみに数km間隔で設置されるため、膨大な数のセンサの恒久的な設置・運用が必要となりますが、APN-Gと連携した光ファイバセンシングでは、都市の隅々まで張り巡らされた光ファイバルート上の任意地点を柔軟にモニタリングできるため、広域から収集する交通情報を活用した渋滞検知・予測や、都市交通計画への適用など新たな社会基盤としての活用が期待されます。
なお、今回用いたAPN-Gへの光ファイバセンシング装置の接続構成はIOWN Global Forumの発刊文書[6]で採用されています。
4.各社の役割
NTT: IOWN APNへセンシング機能を付与する接続構成の考案と構築
NTT東日本:車速、台数カウント位置の校正の実施
NTT西日本:交通振動モニタ地点の選定、実証実験に用いる設備の選定・提供
NEC:APN-Gの提供、光ファイバ振動測定及び車速解析の実施
5.今後の展開
本成果を踏まえ、今後もIOWN Global Forumでの議論など各社と連携しながら、IOWN APNでの光ファイバセンシングの市場展開を図っていきます。またIOWN APNの全国展開とともに、光ファイバさえあればどこでも任意の地点を柔軟にセンシングでき、恒久的なデバイスの屋外設置・構築が不要な、低コスト、広域かつ面的な都市モニタリングの実現をめざします。将来的には、インフラ監視、防災などへの活用や都市計画における自然を取り入れたインフラデザインの実現など都市モニタリングを通じたさまざまな応用展開も見据え、光ファイバセンシングの社会実装による社会/地域課題解決をめざして研究開発と共創活動を推進します。
【用語解説】
*1 IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)
IOWNは、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタル・ツイン・コンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。
APNは、ネットワークから端末、チップの中にまで新たな光技術を導入することにより、これまで実現が困難であった超低消費電力化、超高速処理を達成します。1本の光ファイバ上で機能ごとに波長を割り当てて運用することで、インターネットに代表される情報通信の機能や、センシングの機能など、社会基盤を支える複数の機能を互いに干渉することなく提供することができます。
https://www.rd.ntt/iown/
*2 APN-G(APN-Gateway)
APN-Gは、IOWN APNを構成する装置のひとつで、波長の割り当て制御や集線、光パス選択を行う機能などがあります。
【参考文献】
[1]NTT東日本ニュースリリース,“NEC、鹿島、NTT東日本 世界初 通信用光ファイバを用いた工事振動の検知に成功 ~光ファイバセンシング技術を応用した実証実験を実施~,” 2023年8月
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20230824_01.html
[2]NTTニュースリリース,“世界初、通信用光ファイバを用いた振動センシング技術による 豪雪地帯の道路除雪判断の実証実験に成功 ~通信インフラから得られる環境情報の活用を通じた地域課題の解決をめざす~,”2023年11月
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/11/09/pdf/231109aa.pdf
[3]NTT東日本ニュースリリース,“IOWN時代に向けた光センシング技術による通信設備保守の運用開始について,” 2022年5月
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20220516_01.html
[4] IOWN Global Forum Functional Architectures “Fiber Sensing for Open APN 1.0”
https://iowngf.org/wp-content/uploads/2023/04/IOWN-GF-RD-FS_for_Open_APN-1.0.pdf
[5]NECニュースリリース,” NEC、NEXCO中日本へ光ファイバセンシング技術を活用した交通状況の高精度監視システムを納入 ~既設の通信用光ファイバを用いた連続的な交通流把握を実用化~,”2022年5月
https://jpn.nec.com/press/202205/20220524_01.html
[6]IOWN Global Forum Functional Architectures “Fiber Sensing for Open APN 2.0”
https://iowngf.org/wp-content/uploads/2023/06/IOWN-GF-RD-Fiber_Sensing_for_Open_APN-2.0.pdf
発表のポイント: ◆IOWN オールフォトニクス・ネットワーク(All Photonics Network、以下「APN」)*1に光ファイバセンシングを組み合わせる構成を考案・構築し、一般道の広域かつ面的な交通流モニタリングが実現できることを実証しました。 ◆今後のIOWN APNと連携し、都市モニタリングを低コストかつ迅速・フレキシブルに実現可能とする技術を確立しました。
1.背景
通信用光ファイバをセンサとして活用することが可能な光ファイバセンシングは、工事振動の検知[1]、道路除雪判断の支援[2]、通信設備保守運用の効率化[3]に関する実証実験や技術導入が進み、新たな社会的価値を創出する技術として期待されています。IOWN APNと光ファイバセンシングを組み合わせると、IOWN APNによる大量データの高速転送を生かした高度なデータ解析が可能になり、センシングデータの活用を促進できると考えられています。さらに、IOWN APNを構成するAPN-Gateway(以下「APN-G」*2)の光パス選択機能を利用することで、一つの光ファイバセンシング装置でAPN-Gに接続された既設の複数の通信用光ファイバが測定可能となります。このように、IOWN APNと連携した光ファイバセンシングは面的、低コストかつ迅速・フレキシブルな都市モニタリングが実現する可能性を備えており(図1)、これらのメリットは、IOWN Global Forumの発刊文書にも記載されています[4]。
今回4社は、IOWNを利用した光ファイバセンシングの社会実装に向け、APN-Gを介して光ファイバセンシングを実施可能にする接続構成を構築し、一般道の広域かつ面的な交通流モニタリングを実施しました。光ファイバセンシングによる交通流モニタリングはこれまでいくつか例[5]が報告されておりますが、複数の一般道に沿って広域かつ面的にモニタリングした実施例は今回が初めてです。
2.技術のポイント
・APN-Gに光ファイバセンシング機能を付与可能な接続構成を実現
光ファイバセンシングは光の往復伝搬を利用して測定するため、IOWN APNの光パス上に配置される一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ等)を回避する構成で光ファイバセンシング装置を接続する必要があります。そのため方向性結合デバイス(光サーキュレータ)を用いて、APN-Gの一方向にしか光を通さないデバイス(光アンプ)を回避して往復したセンシング光を取り出すことが可能なAPN-Gと光ファイバセンシング装置の接続構成を考案・構築しました(図2)。
・地下管路に敷設された通信用光ファイバを活用
通信光ファイバケーブルや地下管路などには何も手を加えず測定が可能であるため、既存の設備を有効活用して、広域エリアからセンシングデータの取得が可能となります。
・一般道向けに最適化した車速解析
高速道路などの長い直進道路とは異なり、交差点などが多く存在する一般道の短い直進道路でも速度・台数を検出できるよう解析を実施しました。
3.共同実験の成果
5台の振動センシング装置をAPN-Gに接続し、既設の通信用光ファイバケーブル(大阪市内の道路地下に敷設)5ルート(延べ37km、8km四方範囲に配線)に対して交通振動を面的に同時測定しました。この交通振動を車速解析アルゴリズムで解析し、一般道の通行車両の平均車速、道路の交通量とその時間変化を200mメッシュの精細な粒度でリアルタイムに可視化できました(図3)。また、車両の速度と台数の解析結果は5地点で現地測定した正解データと一致する傾向を示すことを確認できました。(実証実験期間:2023年12月~2024年1月:データ計測、2024年2~7月:解析・有用性の検証)
一般道の交通流計では、主要幹線のみに数km間隔で設置されるため、膨大な数のセンサの恒久的な設置・運用が必要となりますが、APN-Gと連携した光ファイバセンシングでは、都市の隅々まで張り巡らされた光ファイバルート上の任意地点を柔軟にモニタリングできるため、広域から収集する交通情報を活用した渋滞検知・予測や、都市交通計画への適用など新たな社会基盤としての活用が期待されます。
なお、今回用いたAPN-Gへの光ファイバセンシング装置の接続構成はIOWN Global Forumの発刊文書[6]で採用されています。
4.各社の役割
NTT: IOWN APNへセンシング機能を付与する接続構成の考案と構築
NTT東日本:車速、台数カウント位置の校正の実施
NTT西日本:交通振動モニタ地点の選定、実証実験に用いる設備の選定・提供
NEC:APN-Gの提供、光ファイバ振動測定及び車速解析の実施
5.今後の展開
本成果を踏まえ、今後もIOWN Global Forumでの議論など各社と連携しながら、IOWN APNでの光ファイバセンシングの市場展開を図っていきます。またIOWN APNの全国展開とともに、光ファイバさえあればどこでも任意の地点を柔軟にセンシングでき、恒久的なデバイスの屋外設置・構築が不要な、低コスト、広域かつ面的な都市モニタリングの実現をめざします。将来的には、インフラ監視、防災などへの活用や都市計画における自然を取り入れたインフラデザインの実現など都市モニタリングを通じたさまざまな応用展開も見据え、光ファイバセンシングの社会実装による社会/地域課題解決をめざして研究開発と共創活動を推進します。
【用語解説】
*1 IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)
IOWNは、ネットワークだけでなく端末処理まで光化する「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」、サイバー空間上でモノやヒト同士の高度かつリアルタイムなインタラクションを可能とする「デジタル・ツイン・コンピューティング」、それらを含む様々なICTリソースを効率的に配備する「コグニティブ・ファウンデーション」の3つで構成されます。
APNは、ネットワークから端末、チップの中にまで新たな光技術を導入することにより、これまで実現が困難であった超低消費電力化、超高速処理を達成します。1本の光ファイバ上で機能ごとに波長を割り当てて運用することで、インターネットに代表される情報通信の機能や、センシングの機能など、社会基盤を支える複数の機能を互いに干渉することなく提供することができます。
https://www.rd.ntt/iown/
*2 APN-G(APN-Gateway)
APN-Gは、IOWN APNを構成する装置のひとつで、波長の割り当て制御や集線、光パス選択を行う機能などがあります。
【参考文献】
[1]NTT東日本ニュースリリース,“NEC、鹿島、NTT東日本 世界初 通信用光ファイバを用いた工事振動の検知に成功 ~光ファイバセンシング技術を応用した実証実験を実施~,” 2023年8月
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20230824_01.html
[2]NTTニュースリリース,“世界初、通信用光ファイバを用いた振動センシング技術による 豪雪地帯の道路除雪判断の実証実験に成功 ~通信インフラから得られる環境情報の活用を通じた地域課題の解決をめざす~,”2023年11月
https://group.ntt/jp/newsrelease/2023/11/09/pdf/231109aa.pdf
[3]NTT東日本ニュースリリース,“IOWN時代に向けた光センシング技術による通信設備保守の運用開始について,” 2022年5月
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20220516_01.html
[4] IOWN Global Forum Functional Architectures “Fiber Sensing for Open APN 1.0”
https://iowngf.org/wp-content/uploads/2023/04/IOWN-GF-RD-FS_for_Open_APN-1.0.pdf
[5]NECニュースリリース,” NEC、NEXCO中日本へ光ファイバセンシング技術を活用した交通状況の高精度監視システムを納入 ~既設の通信用光ファイバを用いた連続的な交通流把握を実用化~,”2022年5月
https://jpn.nec.com/press/202205/20220524_01.html
[6]IOWN Global Forum Functional Architectures “Fiber Sensing for Open APN 2.0”
https://iowngf.org/wp-content/uploads/2023/06/IOWN-GF-RD-Fiber_Sensing_for_Open_APN-2.0.pdf
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