・企業価値を2つに分けてみよう。経済的価値と社会的価値の2つである。企業の活動は、ステークホルダーから何らかの賛同が得られなければ続かない。提供する価値に満足してもらえなければ、十分な経済的リターンは得られない。社会的に意味のある価値を提供し、それが認知され、信頼に結び付かなければ、いずれ自らの存在が危うくなろう。
・経済的価値と社会的価値の2次元に分けられるといっても、それは必ずしも独立したものではなく、相互に関連している。そうはいっても、企業活動として、2つに分けて分析することには意味がある。財務数値だけで企業の実態は捉えられない。財務数値になる前の活動はもちろん、財務数値では測りきれない価値もある。
・企業価値とは、その企業が生み出す将来キャッシュフローの現在価値であるという見方は有力ではあるが、十分ではない。社会的価値がすべて経済的価値として捉えきれないからである。
・測れないものは評価できない。一面の真理ではあるが、測り方にもいろいろあり、常に一元的にまとめられるものではない。多次元の価値評価があってよいし、人の認識にはそのような行動が反映されることもよくある。
・経済的価値と社会的価値の積和(積集合)を求めて企業活動を行うというのが一般的であろう。社会的な価値を通常の財務数値で捉えきれないとすれば、その効果(インパクト)を何らかの形で測りたい。その試みがいろいろ始まっている。
・今年4月に京都大学の特別セミナーがあった。「金融・資本市場とサステナビリティの論点~投資家の視点から考える将来像~」というテーマであった。そこでの論点についてどのように考えるか。いくつか取り上げてみたい。
・気候変動(CC:クライメットチェンジ)に対して、カーボンニュートラル(CC)に向けた対応が求められている。このGX対応が自社の成長戦略と結び付いていればよいが、CO2排出への対応、そのための投資、投資のためのファイナンスがうまくいくのか。ギャップを埋めることは容易ではない産業、企業も多い。
・鉄鋼、アルミ、肥料、セメント、航空、電力などで、トランジション・ファイナンスがうまくいくのか。人々の生活にとって不可欠の産業であるとすれば、サステナビリティに関する開示基準を統一して、比較可能性を高めてほしい。そうすれば先行投資でリードする企業をファイナンス面でサポートすることはしやすくなろう。
・企業のサステナビリティにとって、ISSBの基準は有効となりえよう。そこで何が重要か。そのマテリアリティを経済的基準(財務データ)と社会的基準(社会的インパクトデータ)の2つに分けてみると、理解が進みそうである。それでもスコープ3になると、バリューチェーンの評価は容易でない。
・慶大の白井さゆり教授は、アジアの国々はEUをみながら米国にとらわれず、もっと早いスピードで対応を進めていると語った。
・CCに対して、どのようにファイナンスを迅速化するか。経営者と共に、投資家・アナリストももっと知見を広げていく必要がある。従来型の狭い価値基準では、企業のサステナビリティを確保していくことはできないと、三菱UFJリサーチ・コンサルティングの吉田まり氏(フェロー)は指摘した。
・一方で、社会的価値は、大局としては正論であって、反論しにくい。CCは望ましい、あるべき姿である。ところが地政学的リスクや大国の政治的勢力争いが絡んでくると、政策は流動的になる。
・EUのEV推進は、エネルギー戦略、自動車産業戦略として、一時ほどの勢いがない。中国の優位性を削ぎ落すことが必要になっているからである。
・米国ではESGを軸としたサステナビリティの推進について、Eの環境対応という点で、化石燃料拒否、再エネ推進という姿勢に変化が出ている。Pro ESG(ESG推進)vs Anti ESG(反ESG)で、民主党の推進派と共和党の反対派が対立している。化石燃料に依存する州では、石油産業を守りたいからである。
・社会的課題に、企業は自らのパーパス(存在意義)に照らして、果敢に取り組む必要がある。本業として取り組むか。慈善事業として取り組むか。その姿勢が問われる。
・自らにとっての社会的価値をどのように定義するのか。ここが曖昧では、政治的流れに惑わされかねない。かといって、そこには関わらないという消極的姿勢では、社会的評価は上がらず、人材は集まってこないであろう。
・企業価値を生み出すビジネスモデル(BM)を輝かせるには、経済的価値と社会的価値の双方を高めていく必要がある。BMとは中長期の金儲けの仕組みである、と筆者はわかりやすくいうことにしているが、その上で、尊敬されるには社会的価値が十分認知されることである。
・まずは、社会的価値をどのように測るか。ここに挑戦して、何らかの見える化を始めてほしい。そういう企業の姿勢が投資家に伝わってくるか。企業選択の1つの軸として大いに注目したい。
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