ほぼ日、「ほぼ日手帳」が販売好調、累計1,000万部を突破 来期は売上高、各段階利益で過去最高の業績見込み
2023年8月期決算説明
鈴木基男氏:本日は、株式会社ほぼ日の2023年8月期の通期決算の発表説明会となります。お越しいただきありがとうございます。冒頭、私のほうから決算の内容についてご説明させていただきます。その後、糸井より全体のお話をご説明できればと思っています。
2023年8月期の事業報告 2024年8月期の業績予想
2023年8月期の事業報告に入ります。全体のサマリーとして、2023年8月期は「ほぼ日手帳」が国内外ともに好調に推移しました。その結果、全体の売上高は15.4パーセントの増収、経常利益は101.1パーセントの増益となりました。
当初出していた業績予想を各段階利益が上回り、上方修正を行っています。配当については予想どおり1株当たり45円とし、従来の水準を維持しています。
次に、2024年8月期の業績予想のサマリーです。売上高は、引き続き「ほぼ日手帳」の商品ラインナップの拡充、ならびに国内外での販路開拓による販売力の強化に注力し、8.5パーセントの増加を見込んでいます。
昨今の国際的な不安定さや為替の影響により、仕入原価や販売・物流関連のコストの増加が予想されます。そのため、適宜手を打ちながら、収益性が悪化しないように努めていきます。
結果として、各段階利益で過去最高益を予想しています。配当については従来どおり、1株当たり45円を維持する想定です。以上が本日の大まかなサマリーになります。
『ほぼ日手帳』が牽引し、前期比約15.4%の増収
2023年8月期は「ほぼ日手帳」が牽引し、前期比約15.4パーセントの増収となりました。売上高全体では約68億1,800万円と、前期比9億1,000万円の増加、率にして15.4パーセントの増加となっています。
売上高の内訳としては、「ほぼ日手帳」が41億3,600万円、「ほぼ日商品」が21億5,400万円、「その他」の主な構成要素は当社のEC物販でお客さまからいただいている送料や手数料で、そちらが5億2,700万円となっています。
増減でいうと、「ほぼ日手帳」が9億1,200万円の増加で、率にして前期比28.3パーセントの増加となっており、「その他」は前期と同程度の着地となっています。
この「ほぼ日手帳」の増加について、詳しくご説明します。「ほぼ日手帳」本体、そして手帳本体と一緒に使っていただくカバーがともに好調に推移しました。この大きなドライバーとなったのは、前期に『ONE PIECE magazine』とコラボレーションした1日1ページの手帳本体とカバーで、大きな反響を呼びました。
その流れとは別に、欧米で「ほぼ日手帳」への関心の高まりが見受けられ、そこに合わせるかたちで「ほぼ日手帳」関連のコンテンツやSNSの英語対応の強化や販路の拡充を進め、英語版の手帳本体ラインナップも大幅に拡充しました。それらが国内外での増加につながっています。
また、「ほぼ日商品」ではさまざまなジャンルの商材を取り扱っていますが、当期は寝具を扱う「ねむれないくまのために」というブランドが好調に推移した一方で、アパレル等の売上が減少しました。その結果、トータルでは昨年並みとなっています。
当期は増収増益
利益まで含めたP/Lです。当期は増収増益となっています。売上高は68億1,800万円、前期比増減率は15.4パーセントとなっています。売上原価は29億4,100万円、原価率は43.1パーセントとなり、昨年の44.4パーセントに対し1.3ポイント改善しています。
これは販売する商材のプロダクトミックスにおいての結果ですが、手帳が比較的利益率の高い商材となっており、そちらが伸びたことによって原価率が改善しています。
販管費は32億8,700万円で、こちらも昨年に対し2億7,800万円増加しています。海外での「ほぼ日手帳」の販売の伸びにより、例えば海外に向けた配送費や各ECモールの利用料が増加しました。一方で、販管費率は48.2パーセントで、昨年の50.9パーセントからは改善しています。
結果として、売上高は15.4パーセント増というところですが、営業利益、経常利益、当期純利益、各段階利益において、昨年に対してプラス100パーセント以上の着地となっています。数字としては、営業利益が5億8,900万円、当期純利益が4億1,100万円となっています。
売上高全体に占める海外売上高の構成比率が33.3%に増加
海外での「ほぼ日手帳」の販売が好調とお伝えしていますが、その売上高を表したものがこちらのスライドです。
「ほぼ日手帳」を中心とした海外売上高の構成比率が、売上高全体の33.3パーセントを占めており、実に3分の1が海外のお客さまに対しての販売という結果になっています。また、前期の構成比が27.5パーセントであったため、前期比プラス5.8ポイント、金額にして6億4,600万円の増加となっています。
『ほぼ日手帳』の海外売上高は前期比33.1%増
特に「ほぼ日手帳」が欧米を中心に広がっているとお伝えしていますが、こちらのスライドの表では、さらに詳細な内訳を示しました。「ほぼ日手帳」全体の売上高41億3,600万円に対し、海外売上高が19億7,200万円と、47.7パーセントを占めており、売上高の約半分が海外のお客さまによって作られている状況です。
当期は国内売上高も『ONE PIECE magazine』とのコラボ等によって、しっかりと伸びており、前期比24.2パーセント増となっていますが、海外売上高はそれを上回り、33.1パーセント伸びています。
特筆すべきところとして、北中米、そしてヨーロッパがあります。北中米に関しては前期も大きく伸びましたが、当期も同様に大きく伸びており、金額も11億3,900万円と、国内売上高の半分くらいまで迫っています。また、増減率も61.5パーセントと大きな伸びを見せています。
ヨーロッパは今期、金額としてはまだ1億9,400万円と大きくはないものの、前期比で8,100万円の増加、率にして72.5パーセントまで伸ばし、着地しています。
一方で中華圏については前々期より減少が進んでおり、当期もその傾向が変わらず続いています。
ほぼ日手帳販売部数の推移(部)
「ほぼ日手帳」の販売部数の推移です。今年の2024年度版を発売してまもなく、9月には、2001年に発売した2002年度版からの累計販売部数が1,000万部を突破しました。長い期間をかけてですが、しっかりとロングセラー商品としてお客さまに愛していただき、累計1,000万部を超える年を迎えることができたことをご報告します。
貸借対照表
全体としては資産合計58億4,700万円と、前期末より5億3,200万円増加しています。この内訳として、棚卸資産が非常に大きく増加し、現金及び預金が減少していますが、基本的には新年度の手帳や文具にかかる商品入荷の影響となっています。
キャッシュ・フロー計算書
キャッシュ・フローの状況です。前期末残高16億1,800万円に対し、営業活動によるキャッシュ・フローで1億6,200万円のプラス、投資活動によるキャッシュ・フローで2億9,200万円のマイナス、財務活動によるキャッシュ・フローで1億600万円のマイナスとなり、当期末残高は13億7,300万円となっています。
特筆すべきは営業活動によるキャッシュ・フローが1億6,200万円にとどまっていることが挙げられます。この中身については、海外での販売が増加している「ほぼ日手帳」の9月1日からの発売開始が影響しています。卸先や越境ECのモールでの準備がきちんと進み、なるべく多くの国々で発売日に販売を迎えられるよう、仕入のタイミングを前倒したことに伴い、支払いのタイミングが早まり、このようなかたちになっています。
第46期は売上高、各段階利益で過去最高の見込み
2024年8月期の業績予想の内容をご報告します。第46期となりますが、売上高、各段階利益で過去最高を見込んでいます。売上高は74億円で、当期比5億8,100万円の増加、率にして8.5パーセントの増加を予想しています。この内訳としては、「ほぼ日手帳」で50億円、「ほぼ日商品」で20億円、「その他」で4億円を見込んでいます。
「ほぼ日手帳」については、当期も9億円程度伸びましたが、同じ水準での伸びを予想しており、率にして20パーセント程度の増加を予想しています。また、「ほぼ日手帳」の売上比率の高まりによる売上原価の改善も同様に見込んでいます。
一方で、海外での販売が増加するため、販管費率が少し悪化する見通しです。ただし、業績を大きく悪化させるものではなく、営業利益は6億6,000万円、当期純利益は4億5,000万円と、売上に対する利益率は悪化させない計画となっています。
「ほぼ日手帳」は、当期も大きく伸ばしていきます。その内容として、国内では、昨年に引き続き実施が決まった『ONE PIECE magazine』とのコラボレーションを推進します。また、自社EC「ほぼ日ストア」以外の、例えば「Amazon」や「楽天」などの外部ECでの販売を強化することによって、新たなユーザー層の獲得を目指します。
海外では、英語版ラインナップのさらなる拡充を行います。自社EC「ほぼ日ストア」には言語、通貨、決済手段の対応範囲を広げるDirect to Commerceの越境EC向けのサービスを導入しました。
具体的には、これまで言語は日本語と英語のみでしたが、ほとんどすべての国の言語に、通貨は円のみから各国で使われる通貨に、決済手段はクレジットカードのみから主要な決済手段を使用できるようになりました。このことによりユーザーが、いつもの通貨や決済手段を使い、安心して買い物を体験できるサービスとなっています。
さらに、海外での人気の高まりを受けて、現地でのイベントの実施や見本市への出展を通じて、卸先の開拓というフォローを強め、継続的に「ほぼ日手帳」をさらに伸ばしていくことを考えています。
「ほぼ日商品」については、既存のプロジェクトを継続的に推進していく一方で、キャンプなどの新たなジャンルの種まきの時期と位置づけているため、売上は微減となる予想です。
「その他」の売上高については先ほど、当社のECの物販で、お客さまからいただいた配送手数料で大部分が構成されているとお伝えしました。「ほぼ日ストア」では、1注文あたりの商品合計金額が一定以上となった場合に配送手数料を当社が負担するサービスを導入しています。そのため、それに伴う売上高の減少を見込んでいます。
結果として、売上高は74億円を予想しており、各段階利益は、営業利益で6億6,000万円、経常利益で6億6,000万円、当期純利益で4億5,000万円と、過去最高の利益を予想しています。決算についての説明は以上となります。
糸井氏からの全体のご説明
糸井重里氏:糸井です。よろしくお願いします。約7年前の上場以降、新入りのつもりで、なるべくこのような場所の様式美に合わせ、慣れていこうと思っていました。しかし、どうも僕には無理です。
直前まで、僕はサッカー指導者の岡田武史氏とやり取りしていました。彼は愛媛県今治市にJリーグの1部リーグが開催できるサッカー場を作りました。大変なことでしたが、岡田氏も「この頃は、すべてをさらけ出すことがどれほど大事になったかを痛切に感じています」と話していました。
さまざまな物事について「ここは形式で」「ここは本音で」という分け方で行ってきたものが非常に多くあります。僕も一種のマナーとして、なるべくそのようなかたちで行ってきたつもりですが、どうもそれはあまり良いことではないと考えています。
例えば、友だちが来て「今、何をやっているの?」と言われた時に、どのようにしゃべっているか。 本日のお話も「この1年、どうでした?」という内容を、どこかで知り合いと「お茶でも飲みながらしゃべろうか」というようなコミュニケーションで伝えるほうが、嘘がなく本当のことを言っています。
本日、日本橋兜町まで来ました。みなさまのお顔はかなり覚えましたが、ふだんはお会いしない方と「この1年、社長としてどう振り返るか」というお話をする時には、やはりかたちとして、ビジネス言語のようなものを多少使いながら行わなければならないと思っていました。しかし、そのような伝え方はあまりよくないと思います。
もともと、当社は変な会社です。いわゆる普通に経営してきた会社で、普通の期待があって、普通の実績を、と望んでいる人はこれまであまりいなかったと思います。
また、このような場所以外では、僕はふだん相当勝手なことを言っています。ビジネスに関わるようなことでも屈託のない話をしているつもりのため、「ほぼ日」というメディア、あるいは僕らが発信しているさまざまなイベントや仕事の中で接している方々の中に、当社が一般的なよくある会社として、優等生のように伸びていくことを期待している人はほとんどいないと思います。
一方で、「変な会社だけれど、まともにもやれるんだよ」という面も見せたいと考えています。これは当然のことで、責任のある企業として、社会との関係をしっかりと持っていきたい気持ちも同様にあります。これらは矛盾するものではなく、いわゆるコンプライアンスや、さまざまな社会的な活動における意識の持ち方、あるいはルールなどは守ってきたつもりです。
ただし、そのような取り組みをどんどん行っていくことによって、「変な会社である」という面が失われていくことが一番、僕らの飯の種を減らすことになるのではないかと、この頃、痛切に思っています。
先ほど、鈴木から報告がありましたが、いわゆる業績は上がりました。雑談のように「社長の一番の仕事は何?」と言われれば、給料をきちんと支払うことが最低限の仕事だと、根本的には思っています。それは、できる会社になっています。
人々に喜んでいただくことと、倒れないで給料をきちんと払える経営ができており、事業も落ち込んでいくのではなく、伸びています。コロナ禍の期間にはなかなか嫌な感じがありましたが、それでも手を尽くし、内部の体制を整えてきました。
今はこのように、聞こえのよい「過去最高の見込み」という言葉で表現されていますが、大したことはありません。このような会社はいくらでもあると思いますし、「よくがんばったね」といえる業績ですが、そこに表れているような「まともな会社」であることが、やはりどこか実態とは違う気がしています。
「何をするかわからない」ところや、「他の人たちがこのように考えていることを、ほぼ日は違うやり方で取り組む」ところを、取材に来てくれる方や取引先の方はおもしろがってくれています。
あるいは、コンテンツを作ったり、さまざまな事業を伸ばしていく時に「一緒に組もう」と言ってくださる会社の人たちはみな、僕らに普通ではないものを期待してくれています。そこで、「そんなのでいいんですか?」というやり取りをしながら、整合性が取れた、なおかつユニークなものが生まれていきます。それが僕らの会社の良さであり、特徴でした。
ところが、帳尻を合わせているつもりはまったくないものの、どうしてもそれ以外のところで言葉の体系を変えて「ここは言っておかないといけない」「利益が上がったんだよ」と言っているうちに、「なにが足りないんだろう」「どうすればいいんだろう」「こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないか」となっていきます。そして、一般のビジネスを得意としている方々が言っていることと同じようなことを行っていくと、同じような会社になってしまいます。
僕は「それでは駄目なんじゃないか」と思い、このような場所でお話しすることの裏側、つまり本体のほうで、外に見えなくても中身がすごい人、いわばクリエイティブのアスリートを作っていくことに取り組んできたつもりです。
特に、コロナ禍の期間に多くのアウトプットを出すこと以上に、体力をつけることを重視してきました。例えば、新しい人が入り、新しいジャンルのことを得意にしていったり、新しい仕事を探し、それに対するトライの数を増やしたりしていました。
新人は新人として、他の会社以上に新人が経験できることがどんどん増えていくよう、この2年、3年は意識的に進めてきました。そのようなことはこの決算報告の書類には表れておらず、数字にも表れていない部分です。
実は昨年も、違う言い方でこの話をしています。しかし、昨年までは「このように内部が整ってきて、組織的にも力強くなったため、これからにご期待ください」という言い方でした。確かにそのとおりですが、やはりどこか少し体裁が良い言い方になっています。
「変な会社らしさを言わないほうがわかってもらえるのではないか」という意図が感じられます。本日このようなお話をしているのも変だと思いますが、この1年を通じて「いいや」「それでいこう」と強く思うようになりました。
ですので、昨年お伝えした内容と同じことを、今年は違う言い方で言います。僕らの会社のジャンルは小売業ですが、「コンテンツを泉のように生み出す会社でありたい」と考えています。昨年より少し柔らかい言い方にしたつもりです。つまり、作ったものや仕入れたものを売ってその利益を得ており、決算書もそのようなかたちになっています。
それでも、新たにどこかと組む時に僕らに求められているのは、小売としての売る力というよりは、僕らと組むことによって同じなにかが、どのように見えてくるのか、そして、どのような新しいお客さまと出会えるようになるかということです。
例えば今、そこまで大きな市場ではないため、当社の売上としては少ないのですが、「海大臣(うだいじん)」という名前の、海苔があります。これは本当においしく、相当な食通の方などが「あれはないか?」と、人に差し上げるために探すような海苔です。
海苔業界では「艶が良くて、色が良いもの」を一等品として扱っている中、当社で試食し、「どのような海苔がおいしいのか」を中心に考え、仕入れたものが「海大臣」です。昨年食べてくれたお客さまも待っていますから、その方々にも届けられたらということで、おいしい海苔を何種類もどのように集めるか、どのようにすれば届けられるかを考えて作ったものです。
いわば農産物の販売所のようなもので、売上としてはそれほど大きくありません。小売業としてはそれだけですが、その海苔の生産自体は農業のようなもので、生産者はおいしい海苔を作りたいに決まっています。
そのような市場が生まれたことで、九州の海苔の産地では、「跡を継がないつもりだったけれども、お客さまが待っているならば、跡を継ぐよ」というかたちになり、僕らと組むことで、海苔という漁業でありながら、農業のような場所で、おいしい海苔を中心に集めた市場を作ることができました。
これはとても小さな例ですが、僕らは小売業としての仕事の力点よりも、「どのように考えて、何をどのようにお客さまに届けていくのか」を組み立て直すところを行いました。
同じように、「ほぼ日のアースボール」も一家に1つ地球儀があれば、同じ世界大会を見る時に、その意味が変わってくるだろうというところから発想したものです。地球儀のメーカーからは、僕らが今、作って売っている「ほぼ日のアースボール」のような地球儀は出てきませんでした。似たようなものがあっても、金額がかなり高いものでした。
しかし、僕らはそのへんにおもちゃのように転がしておけるような地球儀を作りました。おもちゃ箱の中に地球儀が転がっていて、それが地球儀として十分に役に立つものを作りたかったからです。
地球儀を作る製造業でも、地球儀を販売して売上を上げる小売業でもなく、一家に1個、地球儀がどこかに転がっているような状況にすれば、地球規模での考えが見えやすくなるのではないかという、大げさに言えば、世界中の家に当社の「ほぼ日のアースボール」が転がっているような状況を夢見て、作り出しました。
ようやく売上が立ってきましたが、それでも大きな会社が食品などをたくさん作る時のような大量生産・大量消費ではないため、「大したことはない」と思われているかもしれません。しかし、少なくとも僕らは、地球儀というものの意味を変えるコンテンツを作りました。
僕らにはそれができましたが、他のところには今までありませんでした。出版社などが作る地球儀もありますが、教育の市場に送り込めるくらいでとどまっていました。僕らは「孫はまだ歩けませんが、これで遊んでいます」というようなことも含めて、地球儀の持っている意味を変えていくコンテンツを作ったのです。
「ほぼ日手帳」も同じです。手帳というものはたくさんあります。しかし、手帳1冊の中に、いろいろな錯綜する情報をすべてまとめてしまえばよいと考え、私の感想も公の予定も、すべてこの中にたっぷりと書けるようにしていれば、全部を入れられるのではないか、というコンテンツを「ほぼ日手帳」という商品スタイルで出しました。
「アメリカ人も使うだろう」とはじめから思っていたわけではありませんが、偶然にもデジタル情報が非常に過多になった時代がやってきました。
「外から入ってくる情報をこなすのは疲れる」と思った時に、「自分の中になにが溜まっているのだろう?」「どのような気持ちがあったのだろう?」「どのようなことが嬉しいのだろう?」といったことを、自分の肉体を使い、手で書くという表現で、毎日つけていくという「ジャーナリング」の流行が、アメリカで起こり始めました。
そして、インテリジェンスな女優の方などが、「私はこれが手放せない」と言って、日記のようなものを紹介しました。そのようなことがあり、当社の「ほぼ日手帳」がすてきな文房具とジャーナリングの交差点にあるものとして広がっていきました。
特に「アメリカのみなさま、どんどんこの手帳を使ってください」という大きなキャンペーンを行うなどのコストはかけていません。しかし、口コミで「ほぼ日手帳」のファンが広めてくれるという状況がありました。これも、「ほぼ日手帳」という手帳を作り、その物体を小売りしているのではなく、その考え方のようなものが市場としてあるということの1つの例だと思っています。
これまで行ってきたことも、今行いかけていることも、まだ始まってもいないがわくわくするようなことも、たくさんあります。もちろん失敗も含めて、このトライの数が僕らの会社だと、僕はもっと開き直って言いたいのです。
今年は利益を上げたため、これが言えるようになるのではないかと、自分の頭の中を少し変えようと思っています。「こうすればいい、ああすればいい」という考えは、プロ野球やサッカーでも、ビジネスの世界でもあります。
結果的にうまくいくと「これがよかった」と言って、必ず「これ」を探そうとします。そして、みなが「真似してみよう」と思います。しかし何年か経ち、同じような条件の中で「これ」が通用しなくなり、新しいメソッドが出てくると、すっかり「これ」のことは忘れます。
雑談になりすぎるかもしれませんが、昨年優勝したヤクルトが今年は下位になりました。ヤクルトの高津監督の本なども僕は散々読みました。「おもしろいな。こんなメソッドがチームを強くしたんだ」と考えました。しかし翌年、おそらく違う理由が複層的に重なり、順位を下げています。選手一人ひとりの好調・不調などはコントロールできません。
ビジネスの世界でも、スーパーデザイナーが1人いる会社で、商品企画がどんどんできていけば、売上は上がるに決まっています。しかし、実際には「その理由だけではない」ということが絡み合って、普遍的に「こうすればうまくいく」ということはなかなか探せません。少なくとも、今までにあったものに対し、疑問を持つことが必要だと思います。
今までにあったものに簡単にならって、5番手、6番手について満足しないことです。今までなかったものが見つかった時に、それを実行して失敗した場合、どのくらいのダメージがあるのかを考え、「そのダメージの範囲であれば実行してみよう」と言える、若いマインドを取り戻すような方法といえます。
私がほぼ日を始めた時には、「儲かるか儲からないか」の「も」の字も考えていませんでした。少なくとも、自分たちの考えていることがおもしろいと思い、「これをおもしろいと思ってくれる人がこのくらいはいると思う」と始めたのがこの会社です。
当社のあらゆる商品は、だいたいそのような作り方です。その中に、ある閾値を超えてくるものがあります。例えば、手帳がそのとおりでした。1万部程度でスタートしたものが、5万部ぐらいの単位になった時に僕らは笑っていました。
LOFTの出店が増えていくごとに販売網が増えていき、その釣り合いを取るかのように、インターネット上の販売もどんどん好調になっていきました。
今では、「1万部2万部だったものが80万部になると最初から知っていたよ」と冗談で言っていますが、それは嘘で、そんなことはまったくありません。
「今までになかったものではあるが通じるかもしれない。通じてわかってくれる人はこのくらいいるから、少なくとも損はしない」というのが、僕らのビジネスの原点だったはずです。試すことに臆していてはいけませんが、形式ばかりが整っていきます。確かにそれは守備としては非常に強いと思います。
当社の技術メンバーにも、どんどん新しい人が入ってきて、今までできなかったことや、穴があったようなところが埋められていきます。
先ほども「海外の人はクレジットカード決済だった」と言いましたが、僕らはクレジット決済があれば海外の人も買えると思って、小売業として海外に売っていました。しかし、実際には、「現地の通貨で払いたい。クレジットカードをあまり使いたくない」という人にとっては、そこが買わなくなる理由になっていました。
しかし、新しく社内の技術が進化していき、どの通貨でも買えて、クレジットカード以外のさまざまな決済方法が選べることが「できるようになりました」と言った途端に、これまでクレジットカード決済を選択していた人たちが、一気にその他の決済のほうに流れました。
日本のどこかの会社の買い物をする時に、クレジットカードを使わなくて済むのであればそのほうがいいと思っている人が、僕らの知らないところにいたため、そのように動いた経緯があります。それは技術メンバーが外のチームともセッションしながら作っていったことで、そのような守備のような部分が、どんどん高くなってきたことも確かです。
しかし、それはそれとして、大企業も小企業も同じことをしたいという、守備の面はともかく、「あの変な会社だから、私も一緒にやってみたい」「あの変な会社だから、私は応援しているのだ」というような人が少なからずいます。
書類上でよく読み込めば、いろいろなことがわかるということはわかります。しかし、もっと変な会社にならなければならないと思っています。
この1年、コロナ禍から明けるこの機会に、「自分の保守化」のようなものが気づかずにあるとしたら、そのことを会社全体でもっと気をつけていこうと思っています。
今は、若い人もどんどん入ってきている時期です。ありがたいことに、いくつかの職種をまとめて募集すると、1千何百人という人が応募してくれます。また、非常に優秀な人がいます。そのようにたくさんの人が、この会社で働きたいと思ってくれていることは、決算書類には載っていません。
しかし、どの会社の方々も同じだと思いますが、どのくらい採用にコストをかけるか計算すると、やはり見えない数字が動いています。現在、私たちと志をともにする、それぞれの得意を持った人たちが入ってきてくれて、若い人たちがずいぶんと増えました。「しっかりとした会社で、しっかりと業績を上げている」ということで笑っているような状況は、私にとっては少しもおもしろいことではありません。
当社が持っている「変な会社性」は、わかってもらっている部分もたくさんありますが、残念ながらまだ世間的には「変わっている会社だから、失敗するだろう」と思っている人がたくさんいると思います。同時に「変な会社だから、その変なことをどんどん行えばいいのに。失敗したらおもしろい」と、無責任に見ている方もいると思います。
しかし、全体的にしっかりと収益が上がってきている現状を、多少勉強のできる生徒が少しスポーツも得意だというぐらいに見えているとしたら、僕としては非常に悔しく、残念に思います。
当社はもっと変で、もっと考えている会社です。そこはまだ見えていませんが、そのようなチームが今、本当に育っています。
少し見渡すと、この1年間、自分の目がまだ届いていない段階で、泡のようにアイデアや企画が湧いてきています。「そんなことするの?」と言っていたものの評判がよかったというようなことが、どんどん始まっています。
今、ようやく少し取り戻せてきたという状況です。また1年後にみなさまとお会いすることになると思いますが、この場所に限らず、一般的な取材でも「これはまだ言えない」という部分がたくさんあります。今、「失敗して笑われてもいいから、とにかくトライの数を増やしていく」ことを非常に意識し始めています。
この1年で新しく、「あの商品はあの時言っていたことに関係があるのかな?」というようなことが生まれてきたら、ここに来ているみなさまにおもしろがっていただけるといいなと思います。
当社はとても小さい会社のため、少しよくなると「100パーセント成長した」という印象になってしまいますが、これは小さいがゆえの伸びといえます。しかし、できることの範囲も、スケールも、この程度ではないと思っています。
今までは、「変な会社でおもしろいことをしている」「末っ子が庭遊びをしている」というように見えていたかもしれませんが、まだおもしろいことがたくさんあります。そちら側に目を向けずとも、なんとなく「何もないことはない」というイメージで、来年に向けて期待していただければと思っています。
今年については、「ほぼ日手帳」という昔産んだ子供が、ずっと手をかけて育ててきた分だけ育ってくれたことで、いわゆる手帳の本当の意味での代名詞になるところまで、来つつあります。1つのブランドで、このような知名度を持つ手帳ができたこと自体は、とても嬉しいことですが、これで喜んでいるわけではありません。ですので、この場を借りて、そのあたりの話をさせていただきました。
非常に記事にしづらい話だったかもしれませんが、いつも人が来た時に話しているようなことをお話ししましたので、ご理解いただければと思います。
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