・国際サステナビリティ基準を作ろうという動きが本格化している。国際会計基準を担うIASBと同じように、サステナビリティに関する国際基準を定めようというISSBが草案作りを進めている。
・2022年7月にISSBの草案(S1、S2)が公表された。これに呼応して、日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)での議論が始まっている。日本版のS1、S2がもとめられ、早ければ2025年3月までには確定しよう。その後、法改正を踏まえて、有報での開示が義務付けられよう。
・国際会計基準(IFRS)は、日本では260社強が採用している。サステナビリティに関する基準作りは、いくつもの組織体で進んでいたが、それをまとめる形で、ISSBが組織化され、これまでの任意の開示基準を吸収統合する形で、新しい基準を作ろうとしている。
・さまざまな基準があって困る。企業サイドも投資家サイドも同じような意見を持っていた。ステークホルダーは多様であるから、人権や気候変動に強い姿勢で臨む組織もある。任意の基準では拘束力がない。グローバルな基準をベースに、各国で法制化されれば、統一化が進み、比較可能性も高まるはずである。
・サステナビリティのベースはESGにあるが、自社にとってのテーマは何か。何がマテリアルか。これを本業との関り、ビジネスモデルの在り様、将来の財務に結び付けて考えていく。リスクと機会を通して、将来のキャッシュフローにつながっていく道筋が問われる。
・そういわれても、実際は、ここを結び付けることがかなり難しい。財務と非財務、短期と中長期、定量と定性、本業と周辺に分けるのではなく、どの場面にもサステナビリティを組み込んでいくことが求められる。
・ISSBの小森理事は、ISSBの基準が具体化してくるので、この2年でスピードアップして、グローバルなライバルに伍してほしいと強調する。サステナビリティと将来のキャッシュフローを結び付けて、マテリアリティをしっかり定める必要がある。
・必要な対応はとるという受け身の姿勢ではなく、サステナブル投資を実施して、きちんと回収する方策を練っていくべきである。1)単なる必要コストにとどまるのか、2)資本コストの引き下げを通して価値が高まるのか、3)本業を通して付加価値が一段と増大するのか。最も重要なことは、新しいビジネスモデルをサステナブルモデルとして、革新しつづけることである。
・では、どう開示するのか。必要な開示項目に関する情報、データを整えることが前提である。何がマテリアルであるかという点で、リスクと機会に結び付けて、ビジネスモデル(価値創造の仕組み)に組み込んでほしい。そうでないと、単なる情報の記載にとどまり、価値判断には必ずしも役立たない。
・気候変動、人的資本、それを推進するガバナンスをどう組織化するか。難しく考える必要はない。わが社にとって、本当に必要なところからトップダウンとボトムアップの両面をベースに、タスクフォースをスタートさせれば、次第に形になってこよう。投資家は、年々の変化に注目していく。
・投資家と対話すれば、すぐに分かる。納得できること、無理なこと、やる必要ないこと、やりたくないことが、はっきりするはずである。ここで、最も気をつけてほしい点は、表面的な言い訳はしないでほしい。
・コストがかかるから、能力がないから、他にやることがあるから、などさまざまな理由がありうる。投資家は経営トップの本音を意外に簡単に見抜いてしまうので、くれぐれも注意してほしい。
・説明責任を果たすということ(アカウンタビリティ)には、結果責任も伴う。本気で取り組めば熱意は伝わってくる。そのプロセスをステークホルダーと共有していれば、対話は弾むはずである。
・スローガンだけでは進まない。まずは社員が本気になっているかどうか。これはヒアリングすればすぐに分かってくる。中長期戦略の実行に、かなり時間を要する場合もある。わが社の中期が3年なのか、10年なのか。ここもスタンスを決めて対話してほしい。
・中長期のサステナビリティにおいて、今年は何をやるのか。ホップ、ステップ、ジャンプの戦略をぜひ知りたい。
・はっきりしていることは、サステナビリティを支えるESGに納得感が得られないと、1)人がよってこない、2)カネがよってこない、3)ビジネスがよってこない。ひいては自らの存在が危うくなろう。
・では、今回のPBR1倍割れに対する東証の警鐘は何を意味するのか。PBR=ROE×PERであるから、①ROE(収益性)が低い、②PER(成長性)が低いという見方が通常である。
・これに対して、PBRが低いということは、企業価値を作り出す仕組みが十分でない、すなわちサステナビリティがしっかり備わっていないということを意味する。
・バランスシートにまだ表れていない無形の資産が、価値創造の仕組みとして成立していない。ひいては、収益性が低く、成長性も低いという結果になっている。こうした解釈の方が理解しやすい。
・R&D力、人材の活用、組織力、事業ポートフォリオの再構築、自然資本の保護と活用など、バリューチェーン全体への配慮と協調が十分でないことを意味する。
・もし一定の準備と対応ができているのに、それが十分伝わっていないとすれば、開示に力を入れて、対話を続ければよい。対話ができていないとすれば、それはなぜなのか。
・3つの理由が考えられる。1つは、すでに手を打っているが、その成果がでてくるには少し時間を要する。2つ目は、十分な手を打つにはリソースが足らないので、まずは、そこに投資をする必要がある。自力だけで無理ならば、他社と連携する必要があろう。
・3つ目は、打つ手はあるが、それは会社のステークホルダーにかなりの負担を強いる上、自らの経営責任にも及ぶ。この場合、そんな責任は負えないので、抜本的な手は打たずに、トップは自らの任期を過ごそうとする。
・そういう経営者には交替してもらいたい。そのためのガバナンスが機能するようになっているだろうか。多くの場合、トップ交代にはなりたくないので、ガバナンスの仕組みも甘いものとなっていよう。
・こうした悪循環を断ち切って、根本を手に入れてほしい。内部から動かないとすれば、外部のマーケットから要求するしかない。東証の要請はその1つであった。これがかなり効いている。
・マネックスの松本代表執行役(取締役会議長)は、東証のフォローアップ会議のメンバーであるが、今回の提言が思い切ったものとなり、一定の効果を上げたのは、「世代交代」のおかげであると強調した。
・経営者も投資家も官僚も若返っている、しがらみにとらわれずに手を打てるようになっている。従来の成功体験を引きずり、これまでの慣例に囚われて、あいまいなゆるい手を打つだけは、世の中は変わらない。イノベーションは起きない。
・松本氏の指摘は的を射ている。サステナビリティはコトの本質を問うている。徹底的に自ら考え抜いて、わが社流の個性を発揮してほしい。そういう会社に投資したい。
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