資産運用の高度化

著者:鈴木 行生
投稿:2023/10/04 11:13

・2023年の「資産運用業高度化プログレスレポート」(金融庁)では、①資産運用業界の信頼性の向上、②運用付加価値の向上、③業界の効率性の改善に向けて、いくつもの課題が指摘された。

・運用会社のトップをみると、在任期間3年未満が多く、グループ内の他社から異動してきている。これで運用のプロを真にマネジメントできるのか、という疑問が出された。経営トップの専任理由や投資信託の運用担当者の開示をもっと進めることが望ましいという。

・ファンドの保有銘柄の開示についても、その内容、頻度を充実させて、透明性を高める必要がある。また、投資商品として、1)期待リターンが投資家のコストに見合っているか、2)想定通りの運用を通して、コストに見合うリターンを提供できているか、を定期的に検証すべきである。このプロダクトガバナンス体制を確立し、開示することが望ましい。

・国内の公募投信では、設定から1年半以内に純資産のピークを迎え、その後縮小していく商品が多い。これは古い投資信託に多くみられるが、やはり新規のファンドを一斉に販売するという販売会社の手法が影響しているとみられる。

・ファンドラップの提供が拡大しているが、アドバイスを含むサービスの中身とフィーの明確化を一層図るべきである。

・投資信託の信託報酬をみると、運用会社の取り分と販売会社の取り分(代行手数料)が、アクティブ運用でもパッシブ運用でも、ほぼ半々となっている。販売会社の取り分はどのようなサービスの対価なのか。合理的な説明が求められる。

・日本の投信販売のチャネルをみると、銀行、証券での販売が多く、確定拠出年金やフィナンシャル・アドバイザー(FA)、直販による購入者が少ない。販売チャネルの多様化がさらに求められる。

・日本は、欧米に比べて、ベンチマークに勝っているアクティブファンドの本数割合が高い。今後はアクティブ運用の価格発見機能をさらに活かすことが期待される。

・資産運用会社の新規参入の促進や資産運用会社の独立性の確保、アセットオーナーの運用体制の整備は引き続き大きな課題である。

・また、企業型DC加入者の商品選択にあたって、企業は加入者にとって、最良の商品を提供するように、運営管理機関に働きかけ、職域における金融投資教育も充実させることが求められる。

・以上がレポートから筆者が着目した点である。実際、金融庁の講演を視聴すると、さらに理解が深まった。そのいくつかを取り上げてみたい。

・今回で4回目のレポートであるが、長年言われてきたことで、できていないことをチャレンジングな課題として取り上げた。また、バリューチェーン全体をみて、ベンダー、販社、年金基金、DCも含めて議論している。

・まだ投信が家計に十分普及していない。10人に1人しか投信を保有していない。投信の良さが国民に行き渡っていない。これは、運用会社や販売会社への信頼が薄いのではないか。もっと開示を進めて、信頼を高める必要があると指摘する。

・日系の運用会社の経営トップは、グローバル30社のトップと比べて、在任期間が短く、運用会社の経験が乏しい。トップが未熟ではないか。もっと在任を長期化して、プロ化せよという意味を込めて、トップの専任理由を開示せよという。

・大量に販売したファンドは、初期に売れた後、残高が減少して、短命のようにみえる。よいファンドは寿命が長く、運用資産(AUM)も積み上がっていくはずである。ブーム型の販売手法に問題があるのではないか。結果として、1ファンド当たりの規模が小さい。

・ファンドラップは単に投信の組み合わせか。そのアドバイスは十分か。ファンドラップのパフォーマンス(リスクとリターン)について開示を強化する必要がある。

・信託報酬の対価とは何か。運用会社と販売会社で折半という形が多いが、目論見書をみると、販社の役割がはっきり書かれていない。販売に当たって、パッシブ商品とアクティブ商品は、同じような対応ではない。アクティブ商品はボラティリティ高いので、説明がいっぱい必要であるというが、それは本当か。

・資産運用の新しいあり方が求められる。若手人材の育成がますます重要である。こうした視点を含めて、運用会社のスタートアップを支援していきたい。

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配信元: みんかぶ株式コラム