S&P500月例レポート(23年4月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2023年3月
個人的見解:株式市場は金融不安の先にあるFRBの利下げを見据えている

 災難の中にあっても常に(ご指摘の通り「たまには」と表現する方が妥当でしょう)希望の光はあるものです。3月のS&P 500指数のトータルリターンは3.67%でしたが、より詳しく見ていくと、セクター間でのリターン格差が大きかったことが分かります。全体では3.67%となったリターンも、9.55%下落した金融(月間リターンに対する寄与度はマイナス1.13%)を除くと4.81%でした。一方で、10.93%上昇した情報技術(同プラス2.97%、マイクロソフトとアップルの2社だけで金融のマイナス分を帳消しとする同プラス1.72%)を除くと、S&P 500指数の3月のトータルリターンは0.70%にとどまりました。第1四半期の年初来のトータルリターンは7.50%でしたが、同21.82%を記録した情報技術(同期間のトータルリターンに対する寄与度は5.34%。アップルとマイクロソフトの同寄与度は2.71%)を除くと2.71%となりました。

 銀行関連ではネガティブなイベントが発生しました。SVBファイナンシャル・グループとシグネチャー・バンクの2行が経営破綻し、ファースト・リパブリック・バンクの株価は89%下落しました。クレディ・スイス・グループが発行した債券の中の170億ドル分が無価値となりました。この先、何年も銀行の取り付け騒ぎのイメージが地方銀行(と投資家)から払拭されないと思われ、当局は新たな効果的な対応策を検討しています。

 現時点では銀行の経営破綻はシステマティックな問題ではないとみられていますが、預金引き出しがきっかけとなって今後も銀行の経営破綻が続く可能性もあります。

 前掲の3つの金融機関の「問題」は異なる原因によるものです。

 SVBはリスク管理と満期構成に問題があった典型例とみられ、これは経営陣の失敗というだけではなく、現在では規制システムの失敗でもあると考えられています。

 シグネチャーの経営破綻はポートフォリオの問題といえるでしょう。

 クレディ・スイスの経営不安は長年にわたって取り沙汰されていました。また、UBSグループによる買収も何年もの間にわたって検討されており、現状は見合い結婚のような決着と表現できます(ドイツ銀行は引き続きクレディ・スイスの資産の一部の買収に関して精査中です)。

 ○SVB等による金融不安がもたらす影響:

  ⇒企業側の需要低下によるローンの伸びの鈍化
  ⇒支払準備金要件の厳格化とマージンの低下
  ⇒銀行のストレステストに対する懸念が強まり、テスト対象となる銀行が拡大する可能性
  ⇒規制の強化
  ⇒リセッション入りの可能性の拡大

 私個人は金融不安やその悪影響を過小評価していませんが、市場はこれまでのところそれほど深刻には受け止めておらず、市場の関心は再び、個人消費、インフレ、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策、企業業績に移っています。今回の状況は2008年から2009年にかけての金融危機とは異なり、現時点では今後の市場への影響として、貸付基準の厳格化、地方銀行に対する新たな規制の導入、預金に関わる業務のマージン低下とリセッション入りの可能性が高まることが予想されます。

 さらに、FRBのパウエル議長が認めている通り、現在の銀行の厳しい状況を受けて信用環境がタイト化し、結果として「1回、もしくはそれ以上の回数の利上げと同等」の影響が及ぶことになるでしょう。そのため、銀行の破綻は悪いことであったし、現在も同じ状況ですが、直接的あるいはさらに警戒感が強まることを通じて、銀行の破綻は経済を減速させてきました。さらなる銀行の問題(経営破綻)が起きなくとも、長期間に及ぶFRBによる利上げの必要性が抑えられるとみられ、FRBが利下げに舵を切る時期についての議論が始められることになります。

 3月の株式市場は際立って売買が活発でしたが(1日の出来高の平均が過去2年間の最高を記録)、セクター間での格差は顕著となりました。3月の株式市場の騰落率は3.51%の上昇でした(第1四半期は7.03%上昇、2022年第4四半期は7.08%上昇)。3月は11セクターのうち、7セクターが上昇しました(騰落率が最高となったのは情報技術で、10.87%上昇しました。最低は金融で9.74%下落しました)。3月は値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回りました。値上がり銘柄数は263銘柄となり(うち10%以上上昇した銘柄は32銘柄)、値下がり銘柄数は240銘柄となりました(うち10%以上下落した銘柄は53銘柄)。しかしながら、金融では65銘柄のうち値上がりしたのは14銘柄となり、51銘柄が値下がりしました。2つの地方銀行(SVBファイナンシャルとシグネチャー・バンク)が破綻して管財人の管理下に置かれ、地方銀行の1つ(ファースト・リパブリック・バンク)は株価が1ヵ月間で89%下落しました。

 3月8日にSVBの問題が表面化して以降、銀行セクターは突然の環境変化に見舞われましたが、おそらくはこれと同程度に重大な問題として、FRBに対する市場の見方を指摘できます(FRBは3月に政策金利を0.25%引き上げました)。現在、5月の0.25%の追加利上げに関して市場の見方は分かれており(3月で利上げは打ち止めとの見方が出ています)、目下のところ市場の関心はFRBが利下げを開始する時期に集まっています(FRBのドットチャートは2024年の利下げ開始を示唆していますが、来る6月の利下げに賭ける向きもあります)。

 しかしながら、利下げの問題以前に、市場は2023年第1四半期の企業業績を織り込む必要があります(決算期がずれている企業17社は既に業績発表を行い、17銘柄中15銘柄で利益が予想を上回り、13銘柄で売上高が予想を上回りました)。第1四半期の業績発表の先陣を切るのは大手銀行(4月14日にシティグループ、JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴが決算発表を予定)と地方銀行(4月13日にファースト・リパブリック・バンクが発表予定)です。アナリストが注目しているのは、準備金(貸倒引当金)と満期保有目的の有価証券に関する市場実勢を反映した注記、そして新たな貸付方針の変更とその水準に関するコメントです。

 現時点では、2023年第1四半期の営業利益の予想は下方修正され(マイナス5.8%)、2022年第4四半期からは小幅な減益(0.3%)が予想されています。業績予想に関しては、決算発表時に実績値が事前予想を上回る水準まで既に予想が引き下げられているかという従来からの疑問がありますが、これに対する答えはこれまで「その通り」でした。

 3月最終週に株式市場は3週連続となる前週比での上昇を記録しました(最終週は3.48%の上昇、過去3週間では6.42%上昇)。SVBの問題が発生する前の3月8日の終値からの上昇率は2.94%となっています。金融が3月8日の終値から7.69%下落し、年初来では6.05%の下落だったのに対し、情報技術は同7.97%、同21.49%と、いずれの期間でも上昇しました(2021年末からは13.63%下落)。S&P500指数は年初来では7.03%上昇しましたが、2022年1月3日に付けた終値ベースの最高値からは14.33%下落しました。

 過去の実績を見ると、3月は61.1%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.44%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.54%の下落となっています。2023年3月のS&P500指数は、3.51%の上昇となりました。

 4月は64.2%の確率で上昇し(12月の73.4%に次ぐ高い確率)、上昇した月の平均上昇率は4.34%、下落した月の平均下落率は3.97%、全体の平均騰落率は1.37%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、2023年は5月2日-3日、6月13日-14日、7月25日-26日、9月19日-20日、10月31日-11月1日、12月12日-13日、となっています。

 S&P500指数は3月に3.51%上昇して4109.31で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス3.67%)。2月は3970.15で終え、2.61%の下落(同マイナス2.44%)、1月は4076.60で終え、6.18%の上昇(同プラス6.28%)でした。年初来第1四半期では7.03%の上昇(同プラス7.50%)、過去1年では11.09%下落(同マイナス9.57%)でした。2022年は19.44%の下落(同マイナス18.11%)、2021年は26.89%の上昇(同プラス28.71%)、2020年は16.26%の上昇(同プラス18.40%)、2019年は28.88%の上昇(同プラス31.49%)、2018年は6.24%の下落(同マイナス4.38%)でした。2022年1月3日の最高値からは14.33%の下落(同マイナス12.53%)、コロナ危機前の2020年2月19日の高値からは21.36%上昇(同プラス27.66%)でした。

 ダウ・ジョーンズ工業株価平均(ダウ平均)は3月に1.89%上昇して3万3274.15ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンはマイナス2.08%)。2月は3万2656.70ドルで終え、4.19%の下落(同マイナス3.94%)、1月は3万4086.04ドルで終え、2.83%の上昇(同プラス2.93%)でした。2022年1月4日の最高値(3万6799.65ドル)からは9.58%下落しました。年初来では0.38%の上昇(同プラス0.93%)、過去1年では4.05%下落(同マイナス1.98%)、2022年は8.78%の下落(同マイナス6.86%)でした。

主なポイント

 ○振り返ってみると、株式市場は銀行破綻の問題を上手く織り込み、銀行取り付け騒ぎを抑え込もうとした政府の迅速な対応は破綻の連鎖を食い止めることに効果があると判断しました。とはいえ、リスクがあると考えられる金融機関に対しては厳しい反応を示しました。FRBは事前のシナリオ通りに0.25%の利上げを決めましたが、SVBの破綻によって議論の中心は、2月が0.50%の利上げ幅が問題となっていたのに対し、利上げを3月で一旦停止するか否かに移りました。フォワードガイダンスに関するFRBの声明によると、0.25%の追加利上げが予定されており、利下げ開始は2024年からとなっています。楽観的な市場の解釈でも最後の利上げが(5月に)あるとみられていますが、一方で利下げは年内に開始され、その結果として経済と企業業績が下支えされると考えられています(2023年第1四半期の利益は前期比横ばいと予想されていますが、下半期には過去最高になると見込まれています)。

  ⇒3月の市場は、事業内容や関連業界によってリターンにばらつきが見られる中、11セクターのうち7セクターが上昇しました。2月は情報技術セクターのみが上昇(0.29%)し、1月は8セクターが上昇しました。騰落率が最高となったのは情報技術で3月に10.87%上昇しました。年初来では21.49%上昇、2021年末の終値からは13.63%下落となりました。情報技術セクターは年初来騰落率でも最高となっています。騰落率の最低は金融で3月に9.74%下落し、年初来では6.05%下落、2021年末の終値からは17.63%下落となりました。

  ⇒3月は値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回りました。値上がり銘柄数は263銘柄(2月は113銘柄)で、そのうち10%以上上昇した銘柄は32銘柄(同11銘柄)、20%以上上昇した銘柄数は7銘柄(同1銘柄)でした。値下がり銘柄数は240銘柄(同390銘柄)で、そのうち10%以上下落した銘柄は53銘柄(同56銘柄)、20%以上下落した銘柄数は14銘柄(同4銘柄)でした。年初来では、依然として値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回っており、274銘柄が値上がり(20%以上上昇は51銘柄)、229銘柄が値下がり(20%以上下落は19銘柄)しました。

   →2022年通年では、値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を大幅に上回りました。値上がり銘柄数は139銘柄(10%以上上昇は93銘柄、20%以上上昇は53銘柄)、値下がり銘柄数は363銘柄(10%以上下落は283銘柄、20%以上下落は204銘柄)でした。また、2022年は11セクターのうち10セクターが下落しました(エネルギーが59.05%上昇した一方で、コミュニケーション・サービスは40.42%下落し、騰落率の差は99%ポイントとなりました)。

  ⇒市場全体で見ると、S&P500指数の時価総額は3月に1兆1190億ドル増加して34兆3420億ドルとなりました(年初来では2兆2090億ドル増)。2022年通年では8兆2240億ドル減少しましたが、コロナ危機前の最高値を記録した2020年2月19日との比較では6兆2780億ドル増加しています。

 ○人員削減計画の発表が続いています。フェースブックの親会社であるメタ・プラットフォームズは、昨年11月に実施した1万1000人の削減に続き、従業員の13%に当たる1万人を追加で削減するほか、5000人の採用計画を見送ると発表しました。オンライン小売企業のアマゾン・ドット・コムは今年1月に発表した1万8000人に加え、9000人を追加削減すると発表しました。

 ○500社が2022年第4四半期の決算発表を終えました。そのうちの337銘柄(67.4%)で営業利益が予想を上回り、497銘柄中323銘柄(65.0%)で売上高が予想を上回りました。売上高は四半期ベースで過去最高を更新する見通しです。

  ⇒2022年第4四半期の最終結果は来週にも明らかになる予定ですが、暫定結果に基づくと、営業利益は前期比0.04%増でほぼ横ばい、前年同期比では11.2%減となる見通しです。売上高は過去最高を記録した前期(第3四半期)から3.4%増、前年同期比では9.0%増が見込まれ、過去最高を更新する見通しです。

  ⇒2022年第4四半期の営業利益率は第3四半期の11.28%から低下して10.92%となる見通しです(1993年以降の平均は8.29%、過去最高は2021年第2四半期の13.54%)。

 ○S&P500指数の日中ボラティリティ(日中の値幅を安値で除して算出)の3月の平均値は1.51%となり、2月の1.31%から上昇しました(1月は1.45%)。年初来では1.43%となりました。また、2022年は1.83%、2021年は0.97%、2020年は1.51%でした。

利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債利回りは2月末の3.93%から3.48%に低下して月末を迎えました(2022年末は3.88%、2021年末は1.51%、2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは2月末の3.92%から3.66%に低下して取引を終えました(同3.97%、同1.91%、同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは2月末の1ポンド=1.2029ドルから1.2326ドルに上昇し(同1.2099ドル、同1.3525ドル、同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは2月末の1ユーロ=1.0577ドルから1.0840ドルに上昇しました(同1.0703ドル、同1.1379ドル、同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は2月末の1ドル=136.15円から132.77円に上昇し(同132.21円、同115.08円、同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は2月末の1ドル=6.9334元から6.8688元に上昇しました(同6.9683元、同6.3599元、同6.6994元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○3月末の原油価格は1.7%下落し、2月末の1バレル=76.85ドルから同75.54ドルとなりました(2022年末は同79.35ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は3月に2.2%上昇しました(3月末は1ガロン=3.533ドル、2月末は同3.457ドル、2022年末は同3.203ドル、2021年末は同3.375ドル)。2020年末から原油価格は56.0%上昇し(2020年末は1バレル=48.42ドル)、ガソリン価格は51.6%上昇しました(2020年末は1ガロン=2.330ドル)。

 ○2023年2月時点のEIAの報告によると、ガソリン価格の内訳は、53%が原油(1月の55%から下落)、15%が連邦税および州税(1月は15%)、13%が販売・マーケティング費(同10%)、そして20%が精製コストおよび利益(同20%)となっています。

 ○金価格は2月末の1トロイオンス=1834.20ドルから上昇し1987.40ドルで3月の取引を終えました(2021年末は1829.80ドル、2020年末は1901.60ドル、2019年末は1520.00ドル、2018年末は1284.70ドル、2017年末は1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は2月末の20.70から18.70に下落して3月を終えました。月中の最高は30.81、最低は18.16でした(2022年末は21.67、2021年末は17.22、2020年末は22.75、2019年末は13.78、2018年末は16.12)。

  ⇒同指数の2022年の最高は38.89、最低は16.34でした。

  ⇒同指数の2021年の最高は37.51、最低は14.10でした。

  ⇒同指数の2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

新型コロナウイルスとサル痘

 ○新型コロナウイルス関連データ:

  ⇒米国の新型コロナウイルスによる累計死者数は113万5000人となりました(2月は112万人)。

  ⇒米国の新規感染者数の7日間平均は3月末時点で1万9508人となり、2月末時点の3万4036人から減少しました。新規感染者数の7日間平均は2022年1月11日に141万7493人に達しました。また、死者数の7日間平均は255人に減少しました(2月末時点は327人)。

<後編>へ続く

 


配信元: みんかぶ株式コラム