*14:41JST 井関農 Research Memo(1):中期経営計画2年目の2022年12月期も各種施策が着実に進捗
■要約
井関農機<6310>は、「農家を過酷な労働から開放したい」という理念の下、1926年8月に創立された愛媛県松山市に本社を置く、農業機械総合専業メーカーである。日本やアジアでは、農家、大規模農業法人などを中心に、欧州や北米では、景観整備業者、ホビー農家、一般消費者などを対象にトラクタ・乗用芝刈機などの整地用機械、コンバインなどの収穫調製用機械、田植機・野菜移植機などの栽培用機械の開発・製造・販売・アフターサービスを行っているほか、作業機・部品等の販売、OEMによる製品の販売など多岐にわたって事業を展開している。日本農業に関しては、耕耘から稲刈り、乾燥調整まですべてのフェーズにおいて製品を提供していることが特徴だ。
同社の強みは、「技術力」「営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」の3つである。特許の分野別公開数・登録数(2000~2006年までは「農水産」、2007年からは「その他の特殊機械」)は2000年以降、ほぼ一貫して1位になっている(2018・2020・2021年は2位)。また、近年では農機の販売に加えて、サービス面の強化に注力している。顧客である農家にとって有用な情報を自社ホームページにおいて発信、さらに営農ソリューション・ポータルサイト「Amoni」を2021年に開設し、気象情報や生育予測に関するデータの提供なども行っている。また、2015年には「そこに行けば先端営農技術が見える『皆様とともに農業の新しいステージへ』」をスローガンに「夢ある農業総合研究所」(夢総研)を設立した。行政・研究機関・大学・企業など外部のステークホルダーと連携し、スマート農業の研究・実証・普及活動を行っている。
これら同社の3つの強みと、「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」という中期経営計画における2つの基本戦略を組み合わせ、創立100年となる2025年には次の100年に向けた礎づくり、売上高営業利益率5%の目標を達成する構えだ。
2022年12月期末時点の資本金は、23,344百万円、グループ全体の従業員数は5,454名、関係会社は、連結子会社20社(国内販売会社9社、製造関連会社5社、その他:国内2社、海外3社)と持分法関連会社1社。非連結等も加えた国内販売網は系列販売会社11社、海外販売網は8社でグローバルにビジネスを展開している。
1. 2022年12月期の業績概要
2022年12月期の連結業績は、売上高が前期比5.3%増の166,629百万円、営業利益が同14.8%減の3,534百万円、経常利益が同19.7%減の3,762百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同28.9%増の4,119百万円となった。
サプライチェーンの混乱に伴う生産遅延、米価低迷と資材価格の高騰による顧客の購買意欲減退などを受け、国内売上高は前期を下回ったものの、海外事業が引き続き好調だったことにより、連結ベースの売上高は前期を上回った。海外売上高は前期に引き続き、過去最高を更新した。欧州では、ISEKI-Maschinen GmbH(以下、ISEKI ドイツ社)を連結子会社化したことが売上を押し上げたほか、ISEKIドイツ社とプレミアムターフケア社(イギリス)、ISEKIフランス社を中心にサプライチェーンの効率化と販売体制の強化を実施したことなども、業績の拡大に寄与した。
利益面に関しては、国内・海外において販売価格の改定を実施したものの、原材料価格高騰の影響をすべてカバーするには至らなかった。加えて、サプライチェーンの混乱も影響した。大型農機の販売に注力をし、顧客からの引き合いは好調だったものの、部品が納期通りに納品されず、機会損失が発生した格好だ。
2. 2023年12月期の業績見通し
2023年12月期の連結業績は、売上高で前期比5.9%増の176,500百万円、営業利益で同27.3%増の4,500百万円、経常利益で同6.3%増の4,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同36.9%減の2,600百万円を見込んでいる。親会社株主に帰属する当期純利益のみ、2022年12月期に発生したISEKI ドイツ社の連結子会社化等による特別利益がなくなることの反動などにより、減益を見込んでいるものの、売上高及びその他の各利益に関しては、前期を上回る見通しを立てている。国内に関しては、資材価格高騰などの影響が継続することが想定されるものの、大型農機とスマート農機の販売、及び価格改定により前期比増収を見込んでいる。海外については、北米コンパクトトラクタ市場の調整局面が継続する想定であるものの、欧州・アジアの販売増によって海外事業全体としては、引き続き好調な業績が継続することを見込んでいる。
3. 中期経営計画
同社は、2021年12月期に、2025年12月期を最終年度とする5ヵ年の中期経営計画を策定した。「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」の2つの基本戦略の下、「選択と集中」「ビジネスモデル転換」「収益性改善」「ESG」という4つの切り口から事業活動の変革を推進している。
4つの切り口に関して弊社は、同社を取り巻く外部環境の変化を捉えた適切な観点であると認識している。一例として「選択と集中」を挙げたい。農業経営は、家族経営や兼業農家などの小規模農家から法人などの組織による大規模経営への移行が進んでおり、今後もその流れは継続することが見込まれる。そうしたなか、リソースを集中させて大型農機、スマート農機を中心に投入するとしている。大型農機では、同社の主力機であるJapanシリーズの販売に注力することによって最大限の効果を獲得することが可能になるだろう。中期経営計画の着実な実行によって今後のさらなる事業拡大が期待される。
■Key Points
・2025年に創立100年を迎える農業機械総合専業メーカー
・2022年12月期は資材価格高騰などを受け増収・営業減益
・中期経営計画は着実に進捗し、海外事業は前期に続き過去最高の売上高
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
<SI>
井関農機<6310>は、「農家を過酷な労働から開放したい」という理念の下、1926年8月に創立された愛媛県松山市に本社を置く、農業機械総合専業メーカーである。日本やアジアでは、農家、大規模農業法人などを中心に、欧州や北米では、景観整備業者、ホビー農家、一般消費者などを対象にトラクタ・乗用芝刈機などの整地用機械、コンバインなどの収穫調製用機械、田植機・野菜移植機などの栽培用機械の開発・製造・販売・アフターサービスを行っているほか、作業機・部品等の販売、OEMによる製品の販売など多岐にわたって事業を展開している。日本農業に関しては、耕耘から稲刈り、乾燥調整まですべてのフェーズにおいて製品を提供していることが特徴だ。
同社の強みは、「技術力」「営農提案・サポート力」「連携によるイノベーション」の3つである。特許の分野別公開数・登録数(2000~2006年までは「農水産」、2007年からは「その他の特殊機械」)は2000年以降、ほぼ一貫して1位になっている(2018・2020・2021年は2位)。また、近年では農機の販売に加えて、サービス面の強化に注力している。顧客である農家にとって有用な情報を自社ホームページにおいて発信、さらに営農ソリューション・ポータルサイト「Amoni」を2021年に開設し、気象情報や生育予測に関するデータの提供なども行っている。また、2015年には「そこに行けば先端営農技術が見える『皆様とともに農業の新しいステージへ』」をスローガンに「夢ある農業総合研究所」(夢総研)を設立した。行政・研究機関・大学・企業など外部のステークホルダーと連携し、スマート農業の研究・実証・普及活動を行っている。
これら同社の3つの強みと、「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」という中期経営計画における2つの基本戦略を組み合わせ、創立100年となる2025年には次の100年に向けた礎づくり、売上高営業利益率5%の目標を達成する構えだ。
2022年12月期末時点の資本金は、23,344百万円、グループ全体の従業員数は5,454名、関係会社は、連結子会社20社(国内販売会社9社、製造関連会社5社、その他:国内2社、海外3社)と持分法関連会社1社。非連結等も加えた国内販売網は系列販売会社11社、海外販売網は8社でグローバルにビジネスを展開している。
1. 2022年12月期の業績概要
2022年12月期の連結業績は、売上高が前期比5.3%増の166,629百万円、営業利益が同14.8%減の3,534百万円、経常利益が同19.7%減の3,762百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が同28.9%増の4,119百万円となった。
サプライチェーンの混乱に伴う生産遅延、米価低迷と資材価格の高騰による顧客の購買意欲減退などを受け、国内売上高は前期を下回ったものの、海外事業が引き続き好調だったことにより、連結ベースの売上高は前期を上回った。海外売上高は前期に引き続き、過去最高を更新した。欧州では、ISEKI-Maschinen GmbH(以下、ISEKI ドイツ社)を連結子会社化したことが売上を押し上げたほか、ISEKIドイツ社とプレミアムターフケア社(イギリス)、ISEKIフランス社を中心にサプライチェーンの効率化と販売体制の強化を実施したことなども、業績の拡大に寄与した。
利益面に関しては、国内・海外において販売価格の改定を実施したものの、原材料価格高騰の影響をすべてカバーするには至らなかった。加えて、サプライチェーンの混乱も影響した。大型農機の販売に注力をし、顧客からの引き合いは好調だったものの、部品が納期通りに納品されず、機会損失が発生した格好だ。
2. 2023年12月期の業績見通し
2023年12月期の連結業績は、売上高で前期比5.9%増の176,500百万円、営業利益で同27.3%増の4,500百万円、経常利益で同6.3%増の4,000百万円、親会社株主に帰属する当期純利益で同36.9%減の2,600百万円を見込んでいる。親会社株主に帰属する当期純利益のみ、2022年12月期に発生したISEKI ドイツ社の連結子会社化等による特別利益がなくなることの反動などにより、減益を見込んでいるものの、売上高及びその他の各利益に関しては、前期を上回る見通しを立てている。国内に関しては、資材価格高騰などの影響が継続することが想定されるものの、大型農機とスマート農機の販売、及び価格改定により前期比増収を見込んでいる。海外については、北米コンパクトトラクタ市場の調整局面が継続する想定であるものの、欧州・アジアの販売増によって海外事業全体としては、引き続き好調な業績が継続することを見込んでいる。
3. 中期経営計画
同社は、2021年12月期に、2025年12月期を最終年度とする5ヵ年の中期経営計画を策定した。「ベストソリューションの提供」「収益とガバナンス強化による企業価値向上」の2つの基本戦略の下、「選択と集中」「ビジネスモデル転換」「収益性改善」「ESG」という4つの切り口から事業活動の変革を推進している。
4つの切り口に関して弊社は、同社を取り巻く外部環境の変化を捉えた適切な観点であると認識している。一例として「選択と集中」を挙げたい。農業経営は、家族経営や兼業農家などの小規模農家から法人などの組織による大規模経営への移行が進んでおり、今後もその流れは継続することが見込まれる。そうしたなか、リソースを集中させて大型農機、スマート農機を中心に投入するとしている。大型農機では、同社の主力機であるJapanシリーズの販売に注力することによって最大限の効果を獲得することが可能になるだろう。中期経営計画の着実な実行によって今後のさらなる事業拡大が期待される。
■Key Points
・2025年に創立100年を迎える農業機械総合専業メーカー
・2022年12月期は資材価格高騰などを受け増収・営業減益
・中期経営計画は着実に進捗し、海外事業は前期に続き過去最高の売上高
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水陽一郎)
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