■会社概要
4. 強み
プレミアムウォーターホールディングス<2588>の強みの根源は「高い顧客獲得力による顧客純増」である。これにより水源分散化や物流効率化、無駄のない工場設備投資などが可能となり、好循環を生み出している。
(1) 高い顧客獲得力
同社は宅配水市場でのシェアを近年大きく伸ばしている。高い顧客獲得能力を培ってきた元を辿ると、エフエルシーがデモンストレーション販売では国内トップクラスであったことに遡る。顧客獲得方法は様々であるが、同社は大型商業施設や大手量販店、ホームセンターなどでのデモンストレーション販売で約5割の顧客を獲得している。同社専用のブースを期間限定で出展し、同社の従業員が対応する。培った営業ノウハウや従業員への教育のほか、従業員の育成とモチベーションを考慮して作り込まれた従業員評価制度があり、能力を引き出す仕組みが充実している。そのほか、約5割の新規顧客を獲得する手法がテレマーケティング及びWebである。特にコロナ禍により在宅時間が増えた消費者に対して、これらの手法の有効性が増している。環境の変化に柔軟に対応し、多様な販売チャネルから顧客を獲得できるのが同社の強みと言えるだろう。
従来は自社の営業による販売(直販)が主体であったが、近年は代理店による販売(代販・取次)が増えており、その割合が50%を超えている(2022年3月期は約57%)。同社の認知が高まったことにより、取次店販売の依頼が増えた。取次店としては、家具、各種通販、家電量販店、不動産、鉄道、電力など多様な事業会社との取引を拡大中である。また宅配水事業を行う他社への製品提供(OEM)も増えている。
(2) 水源の分散化(全国8水源体制へ)
同社は水の安定供給及び地産地消を狙いとして水源を分散する方針を取っている。現在では、富士吉田(山梨県)、富士(静岡県)、南阿蘇(熊本県)、金城(島根県)、朝来(兵庫県)、北アルプス(長野県)、吉野(奈良県)、そして2022年2月に稼働した北方(岐阜県)の全国8ヶ所、最大で月に250万件の生産が可能な体制が整う。8つもの水源を持つことは業界では特異であるようだ。水源を増やす難しさは、一定以上の顧客が確保できなければ工場の稼働率は上がらず製造コストが高くなってしまう点にある。その点で同社は保有顧客を増加させることができているため、工場稼働率を落とすことなく水源の開拓が可能である。また、水源の分散は、災害時などの事業継続対策にもつながる。2016年の熊本地震の際に南阿蘇の供給がストップする事態があったが、九州地方に配送する宅配水をほかの水源から供給することができたことからも、分散化が災害時にも強いことを証明した。
(3) 地産地消による物流の効率化
宅配水業界にとって、近年の物流費の上昇は大きな経営課題である。同社は1WAY方式の配送を行うため、大手の配送業者に配送を委託しており、売上収益に占める配送費の比率は2021年3月期で25%弱と、20%を超える。配送業界からは絶えず値上げのプレッシャーがあるため、物流費をコントロールすることの重要性は高い。同社が打ち出す大きな方向性が「水源の分散化による配送距離の短縮化」、いわゆる「地産地消」である。製造地と消費地が近ければ配送費も抑制できる。8工場が担当するエリアは決まっている。例えば南阿蘇工場から九州地方、金城工場から中国・四国地方などである。エリア内で、定期的にまとまった物量が確保できるため、トラックの積載効率も高くなり、物流費高騰を回避できる要因となっている。
(4) 無駄のない工場設備投資による原価低減
同社は、製造原価の低減にも取り組んできた。2016年からプリフォーム射出成形機を導入し、容器の内製化を行い、原価低減に成功した。この設備投資は約4億円の投資であった。容器1本当たり20円削減を想定した投資だったが、大きな設備投資も商品の本数が少なければ、無駄な投資となってしまう。同社では初年度に1,000万本出荷し、約1.6億円の利益向上を達成した。投資から3年目には投資回収し、利益を生み出し続けている。このように、顧客純増による出荷規模の拡大は様々な面で好循環を生み出している。
「投資回収型ストックビジネスモデル」が特徴。投資回収時期を迎え利益率がさらに高まる
5. ビジネスモデル
同社のビジネスモデルの特徴は「投資回収型ストックビジネスモデル」である。ウォーターサーバーの原価やデモンストレーション販売の人件費、催事場代、販売店への販売手数料などの費用は先行して発生し、これを同社が最初に負担する。1顧客を獲得するためのコストは34千円前後と試算できる※。この先行投資を、その後数年かけて天然水の売上で回収していく。単純化した計算では、1顧客当たりの月売上が3.7千円とした場合に原価(約15%)、配送費(約25%)を差し引いた粗利益2.2千円で回収していく。解約率を1.5%と仮定すると、60ヶ月目で40.4%(フィスコ試算)が継続する。通常は3年間の定期配送契約を結ぶため、ストック利益(毎月の水代などから得られる収入から顧客維持コストや提供サービスの原価などを除いた利益分のこと)は安定して獲得できる。つまり単純化すれば、34千円の先行投資をして毎月少しずつ投資分を回収し、投資回収が終われば利益のみ計上できることになる。そのため、新規顧客が一気に増えると損失を計上することになるが、その後回収が進んでくると大きく利益を計上できるという事業特性である。2016年7月の経営統合以来、同社は新規顧客獲得を推進し先行投資をしてきたが、2019年3月期はその成果として保有顧客数が拡大し損益分岐点を超えたために、利益がV字回復し、その後も利益率が向上した。ちなみに、2020年3月期の営業利益率は4.1%であったが、2022年3月期には8.9%に高まった。
※2021年3月期の有価証券報告書より、契約コスト償却費(4,796百万円)、従業員及び役員に対する給付費用(6,429百万円)、販売手数料(3,168百万円)、合計14,393百万円。決算説明会資料より、2021年3月期の新規獲得顧客数421千件から計算。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
<EY>
4. 強み
プレミアムウォーターホールディングス<2588>の強みの根源は「高い顧客獲得力による顧客純増」である。これにより水源分散化や物流効率化、無駄のない工場設備投資などが可能となり、好循環を生み出している。
(1) 高い顧客獲得力
同社は宅配水市場でのシェアを近年大きく伸ばしている。高い顧客獲得能力を培ってきた元を辿ると、エフエルシーがデモンストレーション販売では国内トップクラスであったことに遡る。顧客獲得方法は様々であるが、同社は大型商業施設や大手量販店、ホームセンターなどでのデモンストレーション販売で約5割の顧客を獲得している。同社専用のブースを期間限定で出展し、同社の従業員が対応する。培った営業ノウハウや従業員への教育のほか、従業員の育成とモチベーションを考慮して作り込まれた従業員評価制度があり、能力を引き出す仕組みが充実している。そのほか、約5割の新規顧客を獲得する手法がテレマーケティング及びWebである。特にコロナ禍により在宅時間が増えた消費者に対して、これらの手法の有効性が増している。環境の変化に柔軟に対応し、多様な販売チャネルから顧客を獲得できるのが同社の強みと言えるだろう。
従来は自社の営業による販売(直販)が主体であったが、近年は代理店による販売(代販・取次)が増えており、その割合が50%を超えている(2022年3月期は約57%)。同社の認知が高まったことにより、取次店販売の依頼が増えた。取次店としては、家具、各種通販、家電量販店、不動産、鉄道、電力など多様な事業会社との取引を拡大中である。また宅配水事業を行う他社への製品提供(OEM)も増えている。
(2) 水源の分散化(全国8水源体制へ)
同社は水の安定供給及び地産地消を狙いとして水源を分散する方針を取っている。現在では、富士吉田(山梨県)、富士(静岡県)、南阿蘇(熊本県)、金城(島根県)、朝来(兵庫県)、北アルプス(長野県)、吉野(奈良県)、そして2022年2月に稼働した北方(岐阜県)の全国8ヶ所、最大で月に250万件の生産が可能な体制が整う。8つもの水源を持つことは業界では特異であるようだ。水源を増やす難しさは、一定以上の顧客が確保できなければ工場の稼働率は上がらず製造コストが高くなってしまう点にある。その点で同社は保有顧客を増加させることができているため、工場稼働率を落とすことなく水源の開拓が可能である。また、水源の分散は、災害時などの事業継続対策にもつながる。2016年の熊本地震の際に南阿蘇の供給がストップする事態があったが、九州地方に配送する宅配水をほかの水源から供給することができたことからも、分散化が災害時にも強いことを証明した。
(3) 地産地消による物流の効率化
宅配水業界にとって、近年の物流費の上昇は大きな経営課題である。同社は1WAY方式の配送を行うため、大手の配送業者に配送を委託しており、売上収益に占める配送費の比率は2021年3月期で25%弱と、20%を超える。配送業界からは絶えず値上げのプレッシャーがあるため、物流費をコントロールすることの重要性は高い。同社が打ち出す大きな方向性が「水源の分散化による配送距離の短縮化」、いわゆる「地産地消」である。製造地と消費地が近ければ配送費も抑制できる。8工場が担当するエリアは決まっている。例えば南阿蘇工場から九州地方、金城工場から中国・四国地方などである。エリア内で、定期的にまとまった物量が確保できるため、トラックの積載効率も高くなり、物流費高騰を回避できる要因となっている。
(4) 無駄のない工場設備投資による原価低減
同社は、製造原価の低減にも取り組んできた。2016年からプリフォーム射出成形機を導入し、容器の内製化を行い、原価低減に成功した。この設備投資は約4億円の投資であった。容器1本当たり20円削減を想定した投資だったが、大きな設備投資も商品の本数が少なければ、無駄な投資となってしまう。同社では初年度に1,000万本出荷し、約1.6億円の利益向上を達成した。投資から3年目には投資回収し、利益を生み出し続けている。このように、顧客純増による出荷規模の拡大は様々な面で好循環を生み出している。
「投資回収型ストックビジネスモデル」が特徴。投資回収時期を迎え利益率がさらに高まる
5. ビジネスモデル
同社のビジネスモデルの特徴は「投資回収型ストックビジネスモデル」である。ウォーターサーバーの原価やデモンストレーション販売の人件費、催事場代、販売店への販売手数料などの費用は先行して発生し、これを同社が最初に負担する。1顧客を獲得するためのコストは34千円前後と試算できる※。この先行投資を、その後数年かけて天然水の売上で回収していく。単純化した計算では、1顧客当たりの月売上が3.7千円とした場合に原価(約15%)、配送費(約25%)を差し引いた粗利益2.2千円で回収していく。解約率を1.5%と仮定すると、60ヶ月目で40.4%(フィスコ試算)が継続する。通常は3年間の定期配送契約を結ぶため、ストック利益(毎月の水代などから得られる収入から顧客維持コストや提供サービスの原価などを除いた利益分のこと)は安定して獲得できる。つまり単純化すれば、34千円の先行投資をして毎月少しずつ投資分を回収し、投資回収が終われば利益のみ計上できることになる。そのため、新規顧客が一気に増えると損失を計上することになるが、その後回収が進んでくると大きく利益を計上できるという事業特性である。2016年7月の経営統合以来、同社は新規顧客獲得を推進し先行投資をしてきたが、2019年3月期はその成果として保有顧客数が拡大し損益分岐点を超えたために、利益がV字回復し、その後も利益率が向上した。ちなみに、2020年3月期の営業利益率は4.1%であったが、2022年3月期には8.9%に高まった。
※2021年3月期の有価証券報告書より、契約コスト償却費(4,796百万円)、従業員及び役員に対する給付費用(6,429百万円)、販売手数料(3,168百万円)、合計14,393百万円。決算説明会資料より、2021年3月期の新規獲得顧客数421千件から計算。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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