【Alox分析】今年の粉飾を把握する〔2021年〕- 報告書を粉飾する ‐

著者:塙 大輔
投稿:2021/12/27 13:58

【不適切な会計処理】
例年通り、企業評価の“眼”を更新することを目的として、『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。

【15件のリリース】
“今年”※は15件の「不適切な会計のリリース」があった。
(ちなみに、2020年21件、2019年25件、2018年24件、2017年21件、2016年21件、2015年21件、2014年14件、2013年20件、2012年29社、2011年17件、2010年15件だった。)

やや不作と言える。
”業績悪化の印籠”として「コロナ」と言えば、「仕方がない」となるため、粉飾する必要がなかったのかもしれない!?

※ 集計及び資料作成時期の都合上、2020年9月~2021年8月を“今年”と表現させて頂いております。何卒ご了承ください。

【不適切な会計に関する調査報告書-概論-】

※定型文の序論です。すでに、ご存知の方は読み飛ばしてください。

報告書には、2種類ある。

(1)内部調査委員会報告書(社内調査委員会報告書)
社内の監査役や顧問弁護士等によって作成された報告書。

→身内によって作成された報告書のため、甘い報告書となりがち。
「調査した」という外形を整えることを目的とした報告書に見えるものが多い。

(2)第三者委員会報告書(社外調査委員会報告書)
企業から独立した弁護士や専門家等によって作成された報告書。
日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿って、作成される。

→経営者等のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために
作成された報告書のため、内部調査委員会の報告書に比べれば、
格段に透明性の高い報告書である。

調査報告書の概要については、下記の資料をご参照ください。

<不適切な会計に関する調査報告書-概論->
https://alox.jp/dcms_media/other/171204_outline_dressingreport.pdf

<2021年不適切な会計処理 リリース概要一覧表>
https://alox.jp/dcms_media/other/201219_2021dressing.pdf

【不適切な会計処理の型】

粉飾をその手法等に基づき、
「売上加工」「利益捻出」「資金流出」「その他」の4つに分類した。

1「売上加工」とは
→架空売上、押し込み販売、売上の前倒しなど、売上を増やす行為

・アルコニックス
・シャープ
・ヤギ
・サンセイランディック

2「利益捻出」とは
→売上原価の過小計上や翌期繰延、費用の過小計上や翌期繰越、
棚卸資産の過大計上など、利益を増やす行為

・小倉クラッチ
・理研ビタミン
・ラサ商事
・ヤギ
・メタリアル(旧ロゼッタ)
・OKK

3「資金流出」とは
→創業者や特定の担当者による商行為の私物化、
協力会社との癒着によるキックバック、買収や取引を通じてグループや
協力会社への資金援助など、会社から資金を流出させる行為

・ハイアス・アンド・カンパニー
・ネットワンシステムズ
・アジア開発キャピタル
・アジャイルメディア・ネットワーク
・アイテック

4「その他」とは
→1~3に分類できない多種多様な行為
・ユニデンホールディングス

【「粉飾のテクニック」集】

今年は、下記のようなテクニックを用いて、不正会計が実行された。

〔ハイアス・アンド・カンパニー〕
取引先との合意を確認する書類(Wordで作成)のファイル名が「見せかけ書面」となっていた。

〔ネットワンシステムズ〕
資金流出の目的のため、A氏が商流にプライベートカンパニーを入れ、仕入先から資金を還流させていた。

追加費用が発生した場合に備えた「リスク費」、一定の金額を仕入先にあらかじめ払っておく「プール金」などが悪用された。

〔ラサ商事〕
A氏は不正の発覚(原価の付替えによって未成工事支出金が増加)を恐れ、虚偽の説明を行い、最後は逃走した。警察にA氏の捜索願を届け出た。
その後、A氏は、警察により発見され、未成工事支出金が増加した原因は工事番号を付け替えたことが原因であることや、甲との交渉経緯を記録した書類は偽造したものであるなどを自認した。

〔アジア開発キャピタル〕
金融機関から借入が困難な会社に対して、前渡金を利用し、直接ではなく、複数社を経由して、資金融通した。
前渡金に紐づく製品の納品はなく、実質的には融資(短期貸付金)だった。

〔アジャイルメディア・ネットワーク〕
ソフトウェア開発や人材紹介手数料及び台湾活動支援費という名目で外部の会社を経由して、取締役Aに資金を還流させていた。

取締役Aは、監査法人による現金実査において帳簿残高と実際残高の乖離が発覚することを避けることを企図して、現金を対象会社の預金口座に入金する方法により一部の資金を返還した。
取締役Aが対象会社に入金した資金は主に、システム会社Fを利用した資金還流により得た資金を充当していたものと考えられる。

〔OKK〕
MC(半製品) を「どんぶり勘定」「ごった煮」と表現する者が複数名いた。
キャンセル等の事由から不要となった部品もそのままMC(半製品) に残留し、その結果、当該(半製品) は個別具体的な作業オーダーで管理されない、いわゆる「どんぶり勘定」的に用いられてきた。

【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】

1位:ユニデンホールディングス

<調査報告書>
https://alox.jp/dcms_media/other/210430_6815.pdf

独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、ユニデンホールディングスである。

厳密に言えば、内容は、不適切な会計に関する調査報告書ではない。
「本社の社員が、米国子会社の粉飾に関するレポートにつき、都合の悪い部分を削除・修正したことを第三者委員会が調査した報告書」である。

この報告書において、非常に違和感を感じるのは、本社の特定社員のみの責任とされている点である。間違いなく経営者の責任であり、ガバナンス欠如も甚だしいと言わざるを得ない案件である。

【総括】

今年も、コロナ禍を踏まえ、事業者向けの給付金が支給される。
しかし、コロナが常態化しつつある中、もうコロナを理由にした業績不振は、通らなくなるだろう。

往々にして、資金繰りが苦しい企業は、決算書を粉飾して融資を引き出すか、高利貸しに手を出すか、この2社択一を迫られる。

どちらも地獄なのは言うまでもない。

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配信元: みんかぶ株式コラム