アイル Research Memo(5):「CROSS-OVER シナジー」戦略が特徴(3)

配信元:フィスコ
投稿:2021/10/12 15:05
■事業概要

5. 利益重視戦略
アイル<3854>は、2017年7月期から利益重視へ方針転換している。具体的には、開発・カスタマイズ時の工程管理・品質管理強化や生産性向上、ストック売上拡大などを重点施策として推進している。

開発・カスタマイズ時の工程管理・品質管理強化や生産性向上としては、受注段階で営業と開発が連携を強化することでカスタマイズ工数を削減することや、トラブル未然防止に取り組むなど、総合的な品質・生産性向上策と売上総利益率上昇策を推進している。2020年7月期からは、組織変更によって営業とサポートを一体化(システム営業、システムサポート)し、連携を一段と強化している。また個別カスタマイズ対応を基本戦略とする一方で、カスタマイズを最小限に抑え、パッケージ機能に沿った受注の拡大や、品質・生産性向上によるリードタイム短縮などにより、さらなる売上総利益率の上昇を推進している。

さらにシステムソリューション事業におけるシステム保守サービス、Webソリューション事業における「CROSS MALL」及び「CROSS POINT」など、ストック売上の拡大も推進している。2021年7月期のストック売上は前期比14.6%増の5,259百万円、売上総利益は同18.1%増の2,832百万円、売上総利益率は同1.7ポイント上昇の53.9%となり、全社ベースの売上高・利益拡大及び利益率向上をけん引している。

6. 売上総利益率が上昇基調
生産性向上への取り組みやストック項目の拡販を推進した結果、全社ベースの売上総利益率は2021年7月期に過去最高の46.5%(2017年7月期は38.6%)まで上昇しており、収益力の大幅な向上が鮮明になっている。

7. ビジネスパートナーとのサービス連携強化
同社は、さらなる売上成長と利益拡大に向けた施策として、既存製品のバージョンアップや、様々な分野でのビジネスパートナーとのサービス連携などの戦略を推進している。

既存製品のバージョンアップとしては、2020年1月に基幹業務管理システム「アラジンオフィス」に生産管理オプションを追加した。これにより、製造業の顧客は自社に必要な生産管理機能を効率的にシステム化できるようになった。一方、従来はカスタマイズで対応していた機能をオプションとして提供することで、同社にとってはSE工数削減と品質確保で粗利改善のメリットがある。また、2021年6月には、ねじ製造業・卸売業向け「アラジンオフィス」をバージョンアップした。具体的には、ねじ業界における商品点数増加の傾向に合わせ、商品コード30ケタ登録や加工・輸入業務に対応した。

ビジネスパートナーとのサービス連携としては、システムソリューション事業の基幹業務管理システム「アラジンオフィス」がラクス<3923>のWeb帳票発行システム「楽楽明細」と帳票データ連携(2019年11月)した。また、BtoB EC・Web受発注システム「アラジンEC」はSBペイメントサービス(株)の決済サービスと連携(2019年11月)したほか、オービックビジネスコンサルタント<4733>の「奉行クラウド」とも連携(2020年8月)している。

Webソリューション事業の複数ECサイト一元管理ソフト「CROSS MALL」では、Zホールディングス<4689>の「PayPayモール」と受注・在庫・商品連携(2019年11月)、(株)フューチャーショップの「futureshop」のCMS機能に対応(2020年3月)、BASE<4477>の「BASE」と連携(2020年6月)、(株)ブレインウェーブの「はぴロジ」と連携(2020年7月)、ロジザード<4391>の「ロジザードZERO」と完全自動連携(2020年10月)、w2ソリューション(株)の「w2Commerce」と連携(2020年11月)、(株)ロジクラの「ロジクラ」と自動連携(2021年1月)、東日本旅客鉄道<9020>のECショッピングモール「JRE MALL」と連携(2021年3月)、丸井グループ<8252>のネット通販「マルイウェブチャネル」と連携(2021年3月)、関通<9326>のクラウド倉庫管理システム「クラウドトーマス」と完全自動連携(2021年7月)、Facebook及びInstagramのショップ機能と連携(2021年9月)している。

また、2021年5月に同社が提供するITサービスが経済産業省「IT導入補助金2021」に認定されたほか、2020年12月にはクラウド基盤マルチチャネルコマースプラットフォーム「Shopify」のパートナープログラム「Shopify Experts」に認定された。

なお、資本業務提携しているシビラに対しては、シビラと電通グループ<4324>の資本業務提携に伴い、出資比率を維持するため、2021年6月に追加出資を行った。さらなる連携強化により、セキュリティと利便性が両立した新しいサービスを追求する方針である。

8. リスク要因・収益特性と対策
情報システム・サービス産業における一般的なリスク要因としては、受注競合、案件大型化に伴う開発期間の長期化、個別プロジェクトの不採算化、技術革新への対応遅れ、人件確保などがある。ただし同社の場合はパッケージソフト開発・販売が主力のため、受託開発が主力のシステム開発会社に比べて個別プロジェクト不採算化のリスクは小さい。一方で、顧客に適合した柔軟な個別カスタマイズによって競合他社との差別化を図っていることが特徴のため、開発・カスタマイズ時における工数増加やバグ発生などが利益率低下要因となるが、この対策としては、既述のとおり利益重視への方針転換を打ち出し、営業と開発の連携強化によるカスタマイズ工数削減やトラブル未然防止への取り組みを推進するとともに、職場環境改善による品質・生産性向上などにも取り組んでいる。

また情報システム・サービス産業においては、大型案件の売上計上や顧客側の検収の時期によって四半期業績が変動しやすいという季節特性がある。同社(7月期決算)の場合も、上期(8月~1月)よりも下期(2月~7月)に売上高が偏重する傾向がある。また販管費については、社員の入社やインセンティブなどの関係で、第4四半期(5月~7月)に増加する傾向がある。このような傾向に対して、受注の平準化及び継続的な保守サービス等の受注拡大により、売上計上時期偏重の是正に取り組んでおり、徐々に平準化が進展する見込みだ。なお2020年7月期及び2021年7月期については、特需要因及びその反動によって、四半期別及び半期別構成比がイレギュラーな形となっている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 水田雅展)


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