■ジェイリース<7187>の事業概要
1. 家賃債務保証市場の概況
家賃債務保証とは、住宅の賃貸において連帯保証人が果たしてきた役割を専門の保証会社が担い、入居予定者・不動産仲介会社・不動産オーナーの3者の契約関係を円滑に行うための仕組みである。入居者にとっては、連帯保証人を確保できなくても入居が可能であるとともに、万が一支払いの遅延をしてしまっても円滑な立替払いにより家主との関係を良好に維持できるメリットがある。不動産オーナーにとっては、滞納発生時の家賃保証だけでなく、従来入居が困難だった人にも賃貸が可能になるため、空室率の抑制が期待できる。さらに、不動産仲介会社にとっても仲介料の増加や事務手数料収入が期待できる。家賃債務保証は3者がWin-Winの関係を維持できる点で、時代のニーズに合致したサービスである。
国土交通省資料によると、賃貸借契約において家賃債務保証会社の利用率は、2010年に39%、2014年には56%に上昇しており、2018年の調査結果(日本賃貸住宅管理協会調査)では、75%※まで上昇している。2020年4月に施行された改正民法(債権法)も追い風になる。この改正では、連帯保証人が保証する金額の極度額(上限)が設定されるため、連帯保証人の担保価値が低下する。また、足元ではコロナ禍の影響で家賃滞納に対する意識が高まっていることから、結果としては家賃債務保証会社の利用を必須とする不動産オーナーが増加することが予想される。
※2018年調査結果の家賃保証利用率75%という数字は住居用の賃貸契約におけるものであり、事業用テナントの利用率は10%未満と考えられている。
2. 同社ビジネスモデルの特長
同社のビジネスモデルは、店舗と人で都市部を中心に面展開し、顧客のニーズに徹底的に応えることで信頼を勝ち取り、入居者審査では独自データを活用し厳格にリスクを管理するという“地域密着+リスク管理徹底ビジネスモデル”である。具体的な特長としては、(1) 店舗網と人数、(2) きめ細かな商品・サービス、(3) 協定件数と申込件数、(4) 事業用賃料保証、(5) 代位弁済発生率と代位弁済回収率、(6) 高い成長性、の6点が挙げられる。
(1) 店舗網と人数
2021年5月時点で全国28店舗を展開しており、店舗を介した地域密着が同社の強みである。地域別には、地元の九州で9店舗、近畿・中四国で5店舗、東海で2店舗、関東甲信越で10店舗、東北北海道で2店舗である。店舗が多いということはスタッフ人数も多くなり、同社連結で329人(2021年3月期)が所属している。同社の店舗数とスタッフ人数の多さは、同業他社と比較すると明確になる。同業A社は12店舗・305人、同業B社は7店舗(2021年3月末人数未公開)、同業C社は10店舗・132人でそれぞれ全国をカバーしており、同社の店舗網の緊密さと人数投入量の多さは顕著である。つまり、地域密着が同社の基本戦略であると言えよう。
(2) きめ細かな商品・サービス
きめ細かな商品・サービス対応は同社の強みである。利用者のニーズに応じて、一括払い、年払い、月払いなどの多様な保証料の支払い形態が選択でき、同業他社でこれらをすべてそろえる企業は少ない。また、不動産仲介会社からのリクエストによるカスタマイズも積極的に実施し、個々の不動産仲介会社からの信頼を勝ち得ることに貢献している。代位弁済時の支払日に関しては、同社が「3営業日後」に支払うのに対して、同業他社では「月末」や「月2回」、「退去精算後」などであり、同社の迅速対応は際立っている。また、家賃の収納代行サービスも行っており、このサービスを利用すると家賃の滞納の有無にかかわらず家賃全額が入金されることとなる。
(3) 協定件数と申込件数
家賃債務保証会社は、不動産の賃貸業務を行う不動産仲介会社とあらかじめ契約(協定)を行う。同社の協定先は主に中堅・中小の不動産仲介会社であり、18千件という圧倒的多数の協定件数(不動産仲介会社との契約)を持つという特徴がある。全国の店舗と営業人員で地域に密着した業務を行うことにより、過去一貫して協定件数を増やしてきた。協定件数の増加に伴い、保証の申込件数も増加し、それにより新規の保証契約も増えている。
(4) 事業用賃料保証
同社の特徴の一つとしてオフィスや店舗の賃料を保証する事業用賃料保証がある。住居用の家賃保証と比べて競合会社が少なく、保証の利用率も低いため、拡大の余地は大きい。住居用と事業用の審査手法は大きく異なるため、住居用の保証会社が簡単に事業用賃料保証を始められるものではないが、同社には永年培ってきた事業用賃料保証のノウハウがあり他社の一歩先を行っているといえるだろう。同社は事業用賃料保証を成長性の高い分野と捉え、2017年に保証内容を充実させた商品「J-AKINAI」の販売を開始し、事業用賃料保証の拡大を加速させている。住居用と事業用の保証料売上構成比は、2021年3月期で78:22となっており、着実に事業用賃料保証の割合が高くなってきている。事業用賃料保証は今後の同社の成長の牽引役となっていくであろう。
(5) 代位弁済発生率と代位弁済回収率
保証関連事業の経営指標としては、代位弁済発生率(以下、発生率)と代位弁済回収率(以下、回収率)が重要である。発生率は、保証契約を結んでいる件数のうち、滞納などが起こり代位弁済をした件数の比率である。後発企業として都市部での知名度の向上やシェアを伸ばすなかで、戦略的に難しい属性の顧客にも対応してきた結果、過去にこの比率が徐々に上がってきた経緯があるが、一定の知名度が得られたことから採算重視に戦略を転換した。その結果、2021年3月期の同社の発生率は6.3%となり、明確な改善が見られる。2022年3月期は6.6%を計画しており、今後も同程度の水準を維持する予定である。代位弁済の回収率は、98.1%(2021年3月期)と2018年3月期以降改善が続いている。いずれの指標も改善しており、厳格な審査による債権の良質化が順調に進んでいることがわかる。同社の厳格かつ迅速な審査を支えるのは、専門的なデータとノウハウを持つ審査部門の存在である。収入と賃料のバランス、転居理由などから入居者チェックをするほか、新聞記事、代位弁済情報データベース、個人信用情報などを活用して、徹底的かつ迅速に審査を行う。
(6) 高い成長性
同社は、同業他社と比較して、高い成長性に特徴がある。2016年3月期から2021年3月期までの6年間の売上高の成長性を比較すると、同社が年率18.8%増、同業A社が年率7.5%増、同業B社が年率9.7%増、同業C社が年率12.7%増となっており、同社の成長性は際立っている。同社の成長の原動力は九州以外のエリアへの拡大と深耕である。特に東名阪の大都市エリアでは、同社がシェアを伸ばす余地はまだ広く残っていること、前述の通り事業用賃料保証の拡大が見込まれること、医療費保証も拡大していることから、しばらくは着実なペースの成長が続くだろう。一方で、経常利益額で比較すると、同社911百万円(2021年3月期)に対して、同業A社1,090百万円(2021年1月期)、同業B社1,153百万円(2021年3月期)、同業C社799百万円(2021年3月期)となっており、収益力においても業界の平均水準に達していることがわかる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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1. 家賃債務保証市場の概況
家賃債務保証とは、住宅の賃貸において連帯保証人が果たしてきた役割を専門の保証会社が担い、入居予定者・不動産仲介会社・不動産オーナーの3者の契約関係を円滑に行うための仕組みである。入居者にとっては、連帯保証人を確保できなくても入居が可能であるとともに、万が一支払いの遅延をしてしまっても円滑な立替払いにより家主との関係を良好に維持できるメリットがある。不動産オーナーにとっては、滞納発生時の家賃保証だけでなく、従来入居が困難だった人にも賃貸が可能になるため、空室率の抑制が期待できる。さらに、不動産仲介会社にとっても仲介料の増加や事務手数料収入が期待できる。家賃債務保証は3者がWin-Winの関係を維持できる点で、時代のニーズに合致したサービスである。
国土交通省資料によると、賃貸借契約において家賃債務保証会社の利用率は、2010年に39%、2014年には56%に上昇しており、2018年の調査結果(日本賃貸住宅管理協会調査)では、75%※まで上昇している。2020年4月に施行された改正民法(債権法)も追い風になる。この改正では、連帯保証人が保証する金額の極度額(上限)が設定されるため、連帯保証人の担保価値が低下する。また、足元ではコロナ禍の影響で家賃滞納に対する意識が高まっていることから、結果としては家賃債務保証会社の利用を必須とする不動産オーナーが増加することが予想される。
※2018年調査結果の家賃保証利用率75%という数字は住居用の賃貸契約におけるものであり、事業用テナントの利用率は10%未満と考えられている。
2. 同社ビジネスモデルの特長
同社のビジネスモデルは、店舗と人で都市部を中心に面展開し、顧客のニーズに徹底的に応えることで信頼を勝ち取り、入居者審査では独自データを活用し厳格にリスクを管理するという“地域密着+リスク管理徹底ビジネスモデル”である。具体的な特長としては、(1) 店舗網と人数、(2) きめ細かな商品・サービス、(3) 協定件数と申込件数、(4) 事業用賃料保証、(5) 代位弁済発生率と代位弁済回収率、(6) 高い成長性、の6点が挙げられる。
(1) 店舗網と人数
2021年5月時点で全国28店舗を展開しており、店舗を介した地域密着が同社の強みである。地域別には、地元の九州で9店舗、近畿・中四国で5店舗、東海で2店舗、関東甲信越で10店舗、東北北海道で2店舗である。店舗が多いということはスタッフ人数も多くなり、同社連結で329人(2021年3月期)が所属している。同社の店舗数とスタッフ人数の多さは、同業他社と比較すると明確になる。同業A社は12店舗・305人、同業B社は7店舗(2021年3月末人数未公開)、同業C社は10店舗・132人でそれぞれ全国をカバーしており、同社の店舗網の緊密さと人数投入量の多さは顕著である。つまり、地域密着が同社の基本戦略であると言えよう。
(2) きめ細かな商品・サービス
きめ細かな商品・サービス対応は同社の強みである。利用者のニーズに応じて、一括払い、年払い、月払いなどの多様な保証料の支払い形態が選択でき、同業他社でこれらをすべてそろえる企業は少ない。また、不動産仲介会社からのリクエストによるカスタマイズも積極的に実施し、個々の不動産仲介会社からの信頼を勝ち得ることに貢献している。代位弁済時の支払日に関しては、同社が「3営業日後」に支払うのに対して、同業他社では「月末」や「月2回」、「退去精算後」などであり、同社の迅速対応は際立っている。また、家賃の収納代行サービスも行っており、このサービスを利用すると家賃の滞納の有無にかかわらず家賃全額が入金されることとなる。
(3) 協定件数と申込件数
家賃債務保証会社は、不動産の賃貸業務を行う不動産仲介会社とあらかじめ契約(協定)を行う。同社の協定先は主に中堅・中小の不動産仲介会社であり、18千件という圧倒的多数の協定件数(不動産仲介会社との契約)を持つという特徴がある。全国の店舗と営業人員で地域に密着した業務を行うことにより、過去一貫して協定件数を増やしてきた。協定件数の増加に伴い、保証の申込件数も増加し、それにより新規の保証契約も増えている。
(4) 事業用賃料保証
同社の特徴の一つとしてオフィスや店舗の賃料を保証する事業用賃料保証がある。住居用の家賃保証と比べて競合会社が少なく、保証の利用率も低いため、拡大の余地は大きい。住居用と事業用の審査手法は大きく異なるため、住居用の保証会社が簡単に事業用賃料保証を始められるものではないが、同社には永年培ってきた事業用賃料保証のノウハウがあり他社の一歩先を行っているといえるだろう。同社は事業用賃料保証を成長性の高い分野と捉え、2017年に保証内容を充実させた商品「J-AKINAI」の販売を開始し、事業用賃料保証の拡大を加速させている。住居用と事業用の保証料売上構成比は、2021年3月期で78:22となっており、着実に事業用賃料保証の割合が高くなってきている。事業用賃料保証は今後の同社の成長の牽引役となっていくであろう。
(5) 代位弁済発生率と代位弁済回収率
保証関連事業の経営指標としては、代位弁済発生率(以下、発生率)と代位弁済回収率(以下、回収率)が重要である。発生率は、保証契約を結んでいる件数のうち、滞納などが起こり代位弁済をした件数の比率である。後発企業として都市部での知名度の向上やシェアを伸ばすなかで、戦略的に難しい属性の顧客にも対応してきた結果、過去にこの比率が徐々に上がってきた経緯があるが、一定の知名度が得られたことから採算重視に戦略を転換した。その結果、2021年3月期の同社の発生率は6.3%となり、明確な改善が見られる。2022年3月期は6.6%を計画しており、今後も同程度の水準を維持する予定である。代位弁済の回収率は、98.1%(2021年3月期)と2018年3月期以降改善が続いている。いずれの指標も改善しており、厳格な審査による債権の良質化が順調に進んでいることがわかる。同社の厳格かつ迅速な審査を支えるのは、専門的なデータとノウハウを持つ審査部門の存在である。収入と賃料のバランス、転居理由などから入居者チェックをするほか、新聞記事、代位弁済情報データベース、個人信用情報などを活用して、徹底的かつ迅速に審査を行う。
(6) 高い成長性
同社は、同業他社と比較して、高い成長性に特徴がある。2016年3月期から2021年3月期までの6年間の売上高の成長性を比較すると、同社が年率18.8%増、同業A社が年率7.5%増、同業B社が年率9.7%増、同業C社が年率12.7%増となっており、同社の成長性は際立っている。同社の成長の原動力は九州以外のエリアへの拡大と深耕である。特に東名阪の大都市エリアでは、同社がシェアを伸ばす余地はまだ広く残っていること、前述の通り事業用賃料保証の拡大が見込まれること、医療費保証も拡大していることから、しばらくは着実なペースの成長が続くだろう。一方で、経常利益額で比較すると、同社911百万円(2021年3月期)に対して、同業A社1,090百万円(2021年1月期)、同業B社1,153百万円(2021年3月期)、同業C社799百万円(2021年3月期)となっており、収益力においても業界の平均水準に達していることがわかる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 角田秀夫)
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