S&P500月例レポート(21年3月配信)<前編>

S&P500月例レポートでは、S&P500の値動きから米国マーケットの動向を解説します。市場全体のトレンドだけではなく、業種、さらには個別銘柄レベルでの分析を行い、米国マーケットの現状を掘り下げて説明します。

THE S&P 500 MARKET:2021年2月
個人的見解:次の電車はすぐに参ります

 「ご乗車できないお客様は下がってお待ちください。次の電車はそのすぐ後に来ています」。このニューヨーク市地下鉄の自動アナウンスは、2月、財政刺激策を「大胆に行う」動きが続いた首都ワシントンに移りました。1兆9000億ドルの景気刺激法案(下院で成立し上院に送付)は、少なくとも1兆6000億ドル規模で実現することが現在見込まれ(共和党は当初、6180億ドルの対案を提示)、そのすぐ後には1兆ドル超規模の追加対策が検討されています。

 幸い、金利は「まだ」低く、債務を賄える水準にあり、懸念の過熱にはつながらないようですが、米国10年国債利回りは1.42%、30年国債利回りは2.15%で月を終えました。前回の財政刺激法案の影響は、週間失業保険申請件数のデータに反映されました。失業給付金の加算措置が週300ドルで再開されると(失効したこれまでの特例措置では週600ドルの加算)、政府の失業支援措置で失業給付を受給している国民の総数は260万人増加して2044万人に達し(現在は1904万人)、1月の個人所得は10%増加しました。

 市場では、FT(新聞ではなく、米連邦準備制度理事会[FRB、F]と財務省[Treasury、T]の刺激策と支援策)による2パートのハーモニーは、今や個人投資家を加えた3パート構成に拡大したとの見方もあります。個人投資家の声はしばらく前から聞こえていましたが、既に長期間続いたため、今では多くの人が個人投資家をバンドの一員と見なすようになりました。この第3パートには皆が賛同している訳ではありませんが(ゲームストップ株の売買に参戦したトレーダーに尋ねてみて下さい)、2パートのハーモニーは短期的に力強く鳴り響いています。そして、FRBと闘わないならFRBと仲間たちをショートすることはありません(補足説明をすると、一部IT株の利益確定以外にあまり売りはなく、上値を阻むものはほとんどありません)。市場は結局、終値で最高値を5回更新し(S&P 500指数の年長の従兄弟であるダウ・ジョーンズ工業株価平均[ダウ平均]は6回)、S&P 500指数は初めて3900の大台に乗り(1月7日に3800、12月8日に3700、11月16日に3600の大台を突破)、2月末は3900を下回る3811.15で取引を終えました。2月のリターンは2.61%上昇と(2月12日時点では5.94%上昇)、1月の1.11%の下落を打ち消しました。年初来では1.47%上昇、2020年11月3日の大統領選挙以降では13.12%上昇、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは12.55%上昇となりました(その2月19日以降、終値ベースで30回、最高値を更新しました)。

 2020年2月19日(高値の3386.15)から2020年3月23日(底値の2237.40)までの期間(この間に指数は33.93%下落)の統計は誤解を招きやすいので(大きな数字ですよね)、安易に取り上げるべきではありません。3月23日からの変動率は70.34%ですが、2月19日からの変動率は12.55%です(個人的な考えですが、これらの数字を使用する場合、自分の意見を裏付けるために選んだ統計をただ使うのではなく、その根拠を説明すべきです。そして、プレゼンテーションは規則に従い常に適正に行いましょう)。

 S&P 500指数は2月に2.61%上昇して3811.15で月を終えました(配当込みのトータルリターンはプラス2.76%)。1月は3714.24で終え、1.11%の下落(同マイナス1.01%)、12月は3756.07で終え、3.71%の上昇(同プラス3.84%)でした。過去3ヵ月間では5.23%上昇(同プラス5.63%)、年初来では1.47%上昇(同プラス1.72%)、過去1年間では29.01%上昇(同プラス31.29%)、コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは12.55%上昇して月を終えました(同プラス14.61%)。

 ダウ平均は3.17%上昇して3万0932.37ドルで月を終えました(配当込みのトータルリターンは3.43%)。1月は2万9982.62ドルで月を終え、2.04%の下落でした(同マイナス1.95%)。過去3ヵ月間では4.34%の上昇(同プラス4.87%)、年初来では1.06%上昇(同プラス1.41%)、過去1年間では21.74%上昇(同プラス24.41%)となりました。

 過去の実績を見ると、2月は53.3%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は2.88%、下落した月の平均下落率は3.46%、全体の平均騰落率は0.08%の下落となっています。2021年2月は2.61%の上昇となりました。

 3月は60.2%の確率で上昇し、上昇した月の平均上昇率は3.32%、下落した月の平均下落率は3.85%、全体の平均騰落率は0.47%の上昇となっています。

 今後の米連邦公開市場委員会(FOMC)のスケジュールは、4月27日-28日、6月15日-16日、7月27日-28日、9月21日-22日、11月2日-3日、12月14日-15日、2022年1月25日-26日となっています。

主なポイント

 ○S&P 500指数は2月に(過去最高値更新の)常勝街道に戻り、リターンは2.61%上昇と、1月の1.11%の下落を打ち消しました。12月は3.71%上昇(11月は10.75%の大幅上昇)でした。ワクチン/治療薬の普及と財政支出を背景に、下半期には「狂騒の20年代」が再来するとの期待が膨らむ中、政治、弾劾評決、株価収益率(PER)の水準とは関係なく、指数はぐんぐん上昇を続け、最高値を更新しました。

  ⇒S&P 500指数は2月に2.61%上昇しました(配当込みのトータルリターンは2.76%)。過去3ヵ月では5.23%上昇(同プラス5.63%)、年初来では1.47%上昇(同プラス1.72%)、過去1年間では29.01%の上昇となりました(同プラス31.29%)。

  ⇒終値ベースの最高値を5回更新し(1月と同様)、初めて3900の大台に乗りましたが(12月には3800の大台を突破)、2月末は3900を下回る3811.15で取引を終えました。

  ⇒コロナ危機前の2020年2月19日の終値での高値からは12.55%上昇して月を終えました(同プラス14.61%)。2020年2月19日以降、終値ベースで30回、最高値を更新しました。

  ⇒2020年11月3日の大統領選以降では同指数は13.12%上昇しています(同プラス13.74%)。

  ⇒強気相場入りして以降、2020年3月23日の底値から70.34%上昇しています(同プラス73.11%)。

 ○米国10年国債利回りは1月末の1.07%から1.42%に上昇して2月を終えました(2020年末は0.92%、2019年末は1.92%、2018年末は2.69%、2017年末は2.41%)。30年国債利回りは1月末の1.84%から2.15%に上昇して取引を終えました(同1.65%、同2.30%、同3.02%、同3.05%)。

 ○英ポンドは1月末の1ポンド=1.3695ドルから1.3924ドルに上昇し(同1.3673ドル、同1.3253ドル、同1.2754ドル、同1.3498ドル)、ユーロは1月末の1ユーロ=1.2139ドルから1.2074ドルに下落しました(同1.2182ドル、同1.1172ドル、同1.1461ドル、同1.2000ドル)。円は1月末の1ドル=104.69円から106.56円に下落し(同103.24円、同108.76円、同109.58円、同112.68円)、人民元は1月末の1ドル=6.4277元から6.4752元に下落しました(同6.5330元、同6.9633元、同6.8785元、同6.5030元)。

 ○原油価格は1月末の1バレル=52.14ドルから61.66ドルに上昇して月を終えました(同48.42ドル、同61.21ドル、同45.81ドル、同60.09ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、1月末の1ガロン=2.478ドルから2.717ドルに上昇して月末を迎えました(同2.330ドル、同2.658ドル、同2.358ドル、同2.589ドル)。

 ○金価格は1月末の1トロイオンス=1849.50ドルから下落して1733.00ドルで月の取引を終えました(同1901.60ドル、同1520.00ドル、同1284.70ドル、同1305.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は1月末の33.07から27.95に低下して月を終えました。月中の最高は33.96、最低は19.69でした(同22.75、同13.78、同16.12、同11.05)。

  ⇒2020年の最高は85.47、最低は11.75でした。

 ○2020年第4四半期の決算シーズンは終盤に入り、S&P 500指数構成銘柄の479社が決算発表を終え、このうち77.5%に当たる371銘柄で利益が予想を上回りました。売上高に関しては、477銘柄のうち74.8%に相当する357銘柄が予想を上回りました。

  ⇒2020年第4四半期の利益予想は2020年12月末時点から4.7%引き下げられ(2019年末からは25.5%引き下げられています)、前期比で9.4%の減益、前年同期比では12.4%の減益となる見通しです。

  ⇒その結果、2020年の予想EPSは24.6%の減益、それに基づく足元の予想株価収益率(PER)は32.2倍となっています。

  ⇒2021年については、特に下半期で企業利益が過去最高を更新する見通しで、2020年比で44.4%増益(2019年比で9.0%増益)が見込まれており、2021年の予想PERは22.3倍となっています。

  ⇒2022年見通しに基づく予想PERは19.2倍となっています。

 ○米国の新型コロナウイルス対応のための財政政策:

  ⇒第1弾:医療機関への財政支援やウイルス感染拡大防止に83億ドルの資金拠出。

  ⇒第1段階:2週間の疾病休暇および最長10週間の家族医療休暇の給与費用に対する税額控除。

  ⇒第2段階:労働者、中小企業、事業会社、病院や医療関係機関に対する直接支援、ならびに融資保証を提供する2兆2000億ドルのプログラム。

  ⇒第3段階:(中小企業向け)給与保証プログラム(PPP)に3100億ドルと医療機関に750億ドルを含む、総額4840億ドルの供出。ただし、州政府および地方自治体に対する資金支援は行わない。

  ⇒第4段階:議会は新型コロナウイルス関連対策として、個人への直接給付金600ドル(所得制限あり)などを盛り込んだ総額9000億ドルの財政パッケージを(ようやく)可決。

  ⇒第5段階:バイデン大統領が就任前に提案した1兆9000億ドルの追加の財政刺激策は、政権発足後に共和党から6180億ドル規模の代替案を提示されましたが、最終的に約1兆6000億ドル規模となる見通しです。すぐ後に、さらに1兆ドルを上回る規模の別の法案が検討されており、増税が盛り込まれる可能性があります。

   →財政刺激法案は下院で賛成219票(全て民主党)、反対212票(共和党全員と民主党2票)で可決し、上院に送られました。上院では、審議の過程で1兆9000億ドルの法案が「やや削られる」との見方があります。

 ○暗号通貨ビットコインは一時5万8331ドルを付けて再び最高値を更新し、1月末の3万3144ドルから44.2%上昇して4万7801ドルで2月の取引を終えました。2020年末の終値2万9002ドルと比べると64.8%高の水準です(2019年末は7194ドル)。

 ○電気自動車メーカーTesla(TSLA)は過去最高値の900ドルに一時肉薄しましたが、下落して695.50ドルと、前月比12.4%下落、2020年末の705.67ドルからも1.4%下回る水準で月を終えました(2019年末は83.67ドル)。

 ○米議会はゲームソフト小売企業GameStop(GME)の取引を巡り調査を開始しました。同社の株価は2020年末の18.84ドル(2020年4月初旬には2.57ドルの安値を記録)から1月に一時483ドルまで急騰しました。

  ⇒GameStop株は2月下旬に、最高財務責任者(CFO)の辞任の発表を受けて(解任されたとの報道もあります)再び取引が増加し、2月24日には44.70ドルの始値から終値は91.71ドルに上昇し、2月末は101.74ドルで取引を終えました。同社はオンライン事業への移行を一段と進めることで迅速な建て直しを図る意向です。株価は2020年末の18.84ドル(2020年4月初旬には2.57ドルの安値を記録)から1月に一時483ドルまで急騰しました。

 ○市場関係者のS&P 500指数の1年後の目標値はこの1ヵ月で上昇し、現在値から14.8%上昇(前月は13.9%上昇)の4375(かなり強気な予想)となっています(1月末時点の目標値は4229、12月末時点の目標値は4006)。ダウ平均の目標値は現在値から13.3%上昇(前月は15.6%上昇)の3万5035ドル(かなり強気な予想)となっています(同3万4657ドル、同3万2980ドル)。

<中編>へ続く
 


配信元: みんかぶ株式コラム