資源・新興国通貨の2021年6月末までの展望

著者:八代和也
投稿:2021/02/26 15:28

豪ドル

RBA(豪中銀)は2月2日の会合で、政策金利と3年物豪国債利回りの目標をいずれも0.10%に据え置くことを決定。一方で、4月中旬に期限を迎える債券買い入れプログラムについては、期限を延長して追加で1000億豪ドル買い入れることを決めました。RBAは追加分について週50億豪ドルのペースで買い入れるとしているため、20週間の延長です。

RBAは金融政策の先行きについて、「インフレ率が目標の2-3%の範囲内に持続的に収まるまで利上げしない」と表明し、「少なくとも2024年までは利上げの条件は満たされないだろう」としています。

RBAは、インフレ率が目標範囲内に戻るためには雇用情勢が改善する必要があるとみています。豪州の失業率は昨年7月の7.5%をピークに改善(低下)傾向にあり、今年1月は6.4%でした。失業率の改善が今後も続けば、市場では利上げが早まる、あるいは債券買い入れプログラムが停止されるとの観測が浮上する可能性があります。

豪州では2月からコロナのワクチン接種が始まりました。また、今後各国でワクチン接種が進むにつれて世界景気は持ち直すとみられます。リスクオンが強まる可能性があり、その場合には豪ドルの支援材料となりそうです。

豪ドル/NZドルについては、引き続き1.00000~1.15000NZドルのレンジ内で推移しそうです。RBAとRBNZ(NZ中銀)のいずれも政策金利を当面据え置くと考えられ、両者の政策金利の差に変化はないとみられるためです。

<注目点・イベントなど>
・RBA(豪中銀)の金融政策。
・コロナの感染やワクチン普及の状況。
・米中関係、豪中関係、中国経済の動向(中国は豪州の主要輸出先)。
・資源(主に鉄鉱石)の価格動向。

NZドル

現在のRBNZ(NZ中銀)の政策金利は0.25%、大規模資産買い入れプログラムの規模は最大1000億NZドルです。RBNZは金融緩和策を縮小する条件として、「CPI(消費者物価指数)上昇率が2%の目標中央値に維持され、また雇用が最大の持続可能水準に達するかそれを上回ると確信できるまで」としており、これらの条件を満たすには「かなりの時間と忍耐が必要」との見方を示しています。

一方でNZ景気の回復が今後見込まれることから、市場では「早ければ2022年に利上げを行う」との観測があります。今後発表される経済指標で早期の利上げ観測が高まれば、NZドルが進む要因となりえます。

NZドルはまた、豪ドルと同様に投資家のリスク意識の変化(リスクオン/リスクオフ)を反映しやすいという特徴があります。今後各国でコロナのワクチン接種が進むにつれて世界景気は持ち直すとみられ、リスクオンが強まる可能性があります。リスクオンはNZドルにとってプラス材料です。

<注目点・イベントなど>
・RBNZ(NZ中銀)の金融政策。
・コロナのワクチン普及の状況。
・米中関係、中国経済の動向(中国はNZの主要輸出先)。
・乳製品(NZ最大の輸出品)の価格動向。

カナダドル

カナダは産油国のため、カナダドルは原油価格(米WTI原油先物)の動向に影響を受けやすいという特徴があります。

米WTI原油先物は2月25日、一時1バレル=63.81ドルへと上昇。昨年1月以来の高値を更新しました。各国でコロナのワクチン接種が進めば、世界景気が持ち直して原油需要は回復するとの観測が、足もとの原油高の背景にあります。WTI原油先物は引き続き堅調に推移する可能性があり、その場合にはカナダドルは上値を試しそうです。

ただし、原油価格の上昇を受け、「OPECプラス」が協調減産規模のさらなる縮小へと動くかもしれません。協調減産の規模は2月が日量712.5万バレル、3月は705万バレル。サウジアラビアはそれとは別に、3月末まで自主的に日量100万バレルの減産を実施中です。協調減産の規模が大幅に縮小される、あるいはサウジアラビアが自主減産を取りやめれば、WTI原油先物は上値が重い展開になる可能性があります。その場合、カナダドルは伸び悩みそうです。OPECプラスの次回会合は3月4日の予定です。

<注目点・イベントなど>
・資源(特に原油)価格の動向。
・BOC(カナダ中銀)の金融政策。
・米国の対カナダ政策。

トルコリラ

ウイサル前総裁当時、TCMB(トルコ中銀)は低金利を志向するエルドアン大統領の圧力によってインフレへの対応が後手に回る傾向があり、また2019年にはインフレ率が十分に下がる前に利下げを開始しました。TCMBはエルドアン大統領の影響下にあると市場は見なしていました。

昨年11月に就任したアーバル総裁はインフレを抑制する姿勢を強く示し、就任後に迅速に行動。昨年11月と12月に利上げを行いました(合計6.75%)。TCMBに対する市場の信頼は回復しつつあり、そのことがトルコリラを下支えしそうです。

一方で、これまでの利上げの効果によってCPI(消費者物価指数)上昇率はいずれ低下していくとみられます。市場では今年7-9月期にも利下げを開始するとの観測があります。利下げ観測が高まれば、リラに対して下押し圧力が加わる可能性があります。

米国やEU(欧州中銀)とトルコの関係にも目を向ける必要がありそうです。トルコは米国とはS400(ロシア製地対空ミサイルシステム)の問題を抱え、EUとは東地中海での海底資源をめぐる問題があります。両者との関係が悪化するようであれば、リラの重石となりそうです。

<注目点・イベントなど>
・TCMB(トルコ中銀)の金融政策。
・トルコとEU、米国との関係。
・米FRBの金融政策に関する市場の観測。
・トルコの地政学リスク。

南アフリカランド

ムボウェニ南アフリカ財務相は2月24日、同国の2020/21年度の財政赤字はGDP比14%との見通しを示し、従来(昨年10月時点)の15.7%から修正。また、公的債務は2023/24年度に対GDP比で87.3%と予想し、これも従来の92.9%から修正しました。ムボウェニ財務相は景気について、コロナのワクチン接種によって持ち直すとの見方を示し、今年のGDP成長率は3.3%になると予想しました。

財政赤字や公的債務は従来の見通しほど拡大せず、また景気が持ち直すとの見通しが示されたことは、南アフリカランドを下支えする可能性があります。

今後各国でコロナのワクチン接種が進めば、リスクオンが市場で強まるかもしれません。リスクオンはランドにとってプラス材料と考えられます。

ただ、米FRB(連邦準備理事会)の金融政策をめぐる観測には注意が必要かもしれません。早期のテーパリング(量的緩和の縮小)観測が市場で強まる場合、ランドなど新興国通貨に対して下押し圧力が加わる可能性があります。

<注目点・イベントなど>
・主要国でのワクチン普及の状況。
・南アフリカ景気の動向。
・米FRBの金融政策に関する市場の観測。
・エスコム(南アフリカの国営電力会社)の経営危機問題。

メキシコペソ

BOM(メキシコ中銀)は2月11日の会合で0.25%の利下げを決定。政策金利を4.25%から4.00%へ引き下げました。5人の政策メンバー全員が利下げを支持しました。

メキシコ景気の低迷は低迷が続くとみられ、またBOMは「コアインフレ率は今年7-9月期には3%程度へと低下する」との見通しを示しています。BOMが今後、追加利下げする可能性はありそうです。

ただ、メキシコでは今年1月から最低賃金(日額)が15%引き上げられました。賃上げはインフレ圧力へとつながる可能性があることを考えると、利下げの余地はそれほどなさそうです。今後もBOMの政策金利の水準が主要国の中銀と比べて高い状況は続くとみられ、そのことがペソを下支えしそうです。

メキシコは産油国であり、またメキシコ経済は対米依存度が高い(メキシコの輸出全体の8割弱が米国向け)という特徴があります。原油価格(米WTI原油先物)が堅調に推移し、トランプ政権時に悪化したメキシコと米国の関係が改善へと向かえば、ペソは上値を試すとみられます。

<注目点・イベントなど>
・BOM(メキシコ中銀)の金融政策。
・資源(主に原油)価格の動向。
・米国とメキシコの関係。
・BOM改革法案(余剰現金の買い入れをBOMに義務付ける)の行方。
・米FRBの金融政策に関する市場の観測。

八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想