【不適切な会計処理】
遅くなりましたが、例年通り、企業評価の“眼”を更新することを目的として、『上場企業の不適切な会計処理』のリリースをまとめたレポートをお送りします。
【21件のリリース】
“今年”※は21件の「不適切な会計のリリース」があった。
(ちなみに、2019年25件、2018年24件、2017年21件、2016年21件、2015年21件、2014年14件、2013年20件、2012年29社、2011年17件、2010年15件だった。)
※ 集計及び資料作成時期の都合上、(2019年8月~2020年8月)を“今年”と表現させて頂いております。何卒ご了承ください。
【不適切な会計に関する調査報告書-概論-】
報告書には、2種類ある。
(1)内部調査委員会報告書(社内調査委員会報告書)
社内の監査役や顧問弁護士等によって作成された報告書。
→身内によって作成された報告書のため、甘い報告書となりがち。
「調査した」という外形を整えることを目的とした報告書に見えるものも多い。
(2)第三者委員会報告書(社外調査委員会報告書)
企業から独立した弁護士や専門家等によって作成された報告書。
日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に沿って、作成される。
→経営者等のためではなく、すべてのステーク・ホルダーのために作成された報告書のため、内部調査委員会の報告書に比べれば、格段に透明性の高い報告書である。
調査報告書の概要については、下記の資料をご参照ください。
<不適切な会計に関する調査報告書-概論->
http://alox.jp/dcms_media/other/171204_outline_dressingreport.pdf
<不適切な会計処理に関するリリースをした会社一覧>
<不適切な会計処理 リリース概要一覧表>
http://alox.jp/dcms_media/other/201221_2020dressing.pdf
【不適切な会計処理の型】
粉飾をその手法等に基づき、
「売上加工」「利益捻出」「資金流出」「循環」「混在」「逆粉飾」の6つに分類した。
1「売上加工」とは
→架空売上、押し込み販売、売上の前倒しなど、売上を増やす行為
・ALBERT
・ジェイホールディングス
・ユニデンホールディングス
2「利益捻出」とは
→売上原価の過小計上や翌期繰延、費用の過小計上や翌期繰越、棚卸資産の過大計上など、利益を増やす行為
・大豊工業
・ナイガイ
・東洋インキSCホールディングス
・イオン
・石垣食品
・ジャパンディスプレイ
・大同特殊鋼
・ハイアス・アンド・カンパニー
3「資金流出」とは
→創業者や特定の担当者による商行為の私物化、
協力会社との癒着によるキックバック、買収や取引を通じてグループや協力会社への資金援助など、会社から資金を流出させる行為
・グローム・ホールディングス
・第一商品
4「循環」とは
→協力会社を通じて、売上、仕入れ、資金を循環させる行為(3と4の合わせ技として、社外へ「資金流出」するために、「循環取引」が用いられることは多い。)
・東芝
5「混在」とは
→売上を増やす行為と利益を増やす行為が混在するケースや、役員や従業員の私利私欲を満たすような個人プレーなどの1~4に分類できない多種多様な行為
・ラオックス
・平和不動産
・共和コーポレーション
・アルファクス・フード・システム
・旅工房
・カンダホールディングス
6「逆粉飾」とは
→利益隠しによる税金逃れなどの目的で、費用を過大計上する行為
・不二サッシ
【今年の傾向】
例年通り、利益捻出、売上加工系の粉飾が多かった。
一方、内部統制の不備をついた個人プレーというべき資金流出や横領もやや多かった。
【「粉飾のテクニック」集】
今年は、下記のようなテクニックを用いて、不正会計が実行された。
〔大豊工業〕
担当者は、「生産管理部門による精度が低い実地棚卸の在庫数量を使うより、自分が生産実績と材料費に関わる変動要因を織り込んで計算したあるべき在庫数量を使用したほうが正しい」と考え、在庫増減の数値を調整し、材料費の数字を動かしていた。
〔ナイガイ〕
在庫金額の水増しにおいては、実際に動いている商品と明確に分けて管理するため、かつて存在していて当時廃番となっていた品番を用いて架空の在庫データを入力する方法がとられた。
〔東洋インキSCホールディングス〕
売上原価として、「Original」と題するシートと「Final」と題するシートがあり、「Original」と題するシートには、正しい売上原価が記載され、「Final」と題するシート上には、改ざんされた売上原価が記入されていた。
〔石垣食品〕
「監査を通すための書類」を取引先に作成依頼しているメールも確認され、実際に本来とは異なる名目を付してバックデートで作成された架空の請求書の存在も確認された。
さらに、2017年11月及び12月の荷造運賃の計上額が過少でないかとする監査法人からの質問に対しては、「値引きを受けた」旨の虚偽の回答を行った。
〔第一商品〕
実態のあるテレビやWEBの広告宣伝費に、仮装の広告宣伝費を上乗せして、外部へ資金を流出させた。
流出した18億のうち、11億円を貸付金の回収として還流させていた。
〔ハイアス・アンド・カンパニー〕
会計士に対して支払うべき業務委託報酬を精算するため、ソフトウェア開発代金の名目の資金を協力会社に支払ってソフトウェア仮勘定として資産計上し、ソフトウェア勘定に振り替えた上で減価償却を開始し、2020年3月31日までに全額を償却した。
(業務委託費の未払金及び仮払金として計上すべきもの)
〔カンダホールディングス〕
会計システムに人件費(給与)を水増し計上し、銀行の給与振込システムに登録した調査対象者名義の複数の銀行口座に振り分けて送金する方法で、長期に亘り金銭を着服していた。
【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
1位:不二サッシ
<調査報告書>
http://alox.jp/dcms_media/other/200116_5940.pdf
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、不二サッシである。
(次点は、社会的影響や規模の点から、ジャパンディスプレイとなる。)
まさかの「逆粉飾」に関するレポートである。
10年近く、上場企業の不適切な会計に関する報告書を読んできたが、逆粉飾に関するレポートを目の当たりにしたのは初めてである。
構図としては、子会社が親会社からの介入を排除することを目的として、「安定した利益を得ることができる拠点」という評価を得るために、費用や棚卸資産を調整して、利益の金額を意図的にコントロールしていた。
<利益調整事例>
棚卸資産を実際より低く調整して、売上原価として計上することにより、当月の利益を将来に繰り延べていた。
担当者曰く、「例年2、3月は住宅事業の案件受注が減少するため、当該時期に備え「貯金」をしているイメージであった」とのこと。
当然だが、逆粉飾ゆえに、過去の決算書が上方修正された。
【総括】
コロナにより、想定外の日常が現実となった。
消費者に近い業界(飲食、ホテル、運輸)は、不況真っただ中であり、不況に苦しむ業界と取引をしている法人にも、支払遅延などの負の影響が出はじめた。
現在は、政府や日銀のバックアップにより、金融機関の融資姿勢は極めて柔軟だ。
(ただし、金融機関は将来の倒産増を見込んで、貸倒引当金を積み増している。)
一方、金融機関以外の取引先評価の担当者(格付会社、信用調査会社、企業の審査部)は、極めてリスクに敏感であり、昨今の社会情勢を踏まえて、辛口評価(保守的な評価)をするのが大勢である。
多くの人が経済危機と捉えており、保守的に取引先を評価するのが日常となっている。
イメージとしては、100点満点で50点と評価されていた企業は、40点ぐらいに割り引かれる。
経営者は、自社の評価を高めるため、窮余の策(粉飾)を実行する。
不況であればあるほど、窮余の策は実行されやすいのは言わずもがなだろう。
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