―“いまだアナログ”の示唆する巨大効率化余地、拡大する商機をつかむのは―
EC市場の急成長に伴い個人宅向けの配達物量が急増し、宅配業を中心に人手不足になった、いわゆる「物流クライシス」が深刻さを増している。新型コロナウイルス感染症の影響により巣ごもり消費が増えたことで、海外に比べて保守的といわれてきた日本人の消費行動にもネットシフトが進んでいるためで、ポストコロナ時代の到来により、更に深刻さを増すことはあっても、弱まることはないように思える。
こうしたなか国内外の 物流大手は、クライシス回避のために、先進技術の導入により効率化を進めている。「物流テック」と呼ばれるこうしたテクノロジーは、各社が最も力を入れている分野だ。ビジネスチャンスも広がりつつあり、関連銘柄に注目したい。
●軽貨物、一般貨物ともに深刻な人手不足
そもそも、物流クライシスはどこで起こっているのか。日本の物流は、営業所などのローカル拠点と個人宅や法人オフィスを結ぶいわゆる「軽貨物」と、大都市拠点間を結ぶ幹線輸送や大都市拠点とローカル拠点を結ぶ地場輸送で構成される「一般貨物」に大別できる。再配達の増加などが注目されたことで、軽貨物における人手不足が注目された。ただ、軽貨物における人手不足はもちろん深刻だが、それよりも逼迫しているのが、一般貨物のドライバーといわれている。
物流業界における人手不足は、労働環境が悪いというイメージに加え、物流業界におけるアナログさが背景にある。例えば、荷主と運送事業者との取引の多くが電話の相対取引で行われており、価格がオープンにならず、値付けが不透明なままであったり、発送時や中継地で需要と供給がうまくマッチせずに、製品を出荷したい時に運送トラックが手配できないといったマッチングや運送効率の悪さが問題となっているという。これらが企業の収益力の向上を妨げ、ひいては労働環境の悪化につながり、人手不足に拍車をかけているというのだ。
●テクノロジー活用による効率化が急務
人手不足の解消を図るとともに、物流企業の収益を改善させるためには、効率化を図る必要があり、そこで登場するのが物流テックだ。
物流テックとは、倉庫内作業へのロボットの導入や、ICタグによるリアルタイムでの貨物の動きの可視化、ITによる商品管理など、先進技術により物流の効率化を図る動きのこと。これまでも物流業界では少人化・自動化技術が導入されてきたが、主に生産性の向上を目指したものだった。ただ、現在求められているのは、物流の各工程でそれぞれの業務を俯瞰的に見渡し、作業をシンプル化させるためのデジタル化であり、これらに関連した企業のビジネスチャンス拡大が見込まれている。
●WMS関連銘柄に注目
そこで注目されるのは、倉庫への貨物、資材、商品の入出庫管理や在庫管理などの機能を搭載した倉庫管理システム(WMS)を提供する企業だ。
ロジザード <4391> [東証M]は、EC・通信販売事業者や物流業界向けにWMSのクラウドサービス「ロジザードZERO」を提供。国内外で1200ヵ所以上の物流現場への導入実績がある。8月13日に発表した21年6月期連結業績予想は、新型コロナウイルス感染症の影響による4~6月期の新規案件積み上げ停滞の影響で、営業利益は前期比40.4%減の1億4800万円の見通し。ただ、物流現場での人手不足深刻化からニーズは根強く、RFIDとの連携や連携する物流ロボットの対象拡張などで成長を図る方針だ。
関通 <9326> [東証M]は、ECや通信販売事業者から、商品の入庫、在庫管理および出庫などの業務を受託しているほか、自社の倉庫業務効率化のために開発したWMSの「クラウドトーマス」を外部に展開している。7月14日に発表した第1四半期(3~5月期)単独決算は、営業利益4300万円と前年同期比で実質43.9%増となった。主力のEC・通販物流支援サービスが好調に推移しているほか、「クラウドトーマス」の提供を行うソフトウェア販売・利用サービスも高伸長している。21年2月期は営業利益4億3200万円(前期比48.6%増)の見通しだ。
このほか、生活用品向け物流システム「LIFE-Vision」を提供する東計電算 <4746> や、BtoC(通販物流)とBtoBに対応したWMS「ONEsLOGI」を提供する日立物流ソフトウェアを子会社に持つ日立物流 <9086> なども関連銘柄に挙げられよう。
●物流の現場でもマッチングが重要に
ラクスル <4384> は、印刷通販サイト「ラクスル」の運営が主力だが、荷物を送りたい荷主と、空き時間に仕事を受注したい軽貨物ドライバーをマッチングするサービス「ハコベルカーゴ」や、自社・協力会社の配車管理と繁閑期の求貨求車が簡単にできる一般貨物の物流事業者向けプラットフォーム「ハコベルコネクト」を運営している。ハコベル事業は登録車両台数の増加で事業成長を支える運送キャパシティーの拡充が進む一方、先行投資継続でセグメント利益は赤字が続く。こうした先行投資に加えて、新型コロナウイルス感染症の影響もあって、同社の20年7月期単独営業利益は3億4000万~4億2000万円の赤字(前期1億4300万円の黒字)を見込むが、来期は黒字転換を基本ポリシーに掲げている。
このほか、物流ソリューションを手掛けるGROUND(東京都江東区)と物流エコシステム共同事業を立ち上げ、物流倉庫内のデータ化・最適化の実現を目指す日本ユニシス <8056> も関連銘柄に挙げられる。また、物流センターの自動化に貢献するダイフク <6383> 、IHI <7013> 、オカムラ <7994> などにも注目したい。
株探ニュース
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