■要約
メディネット<2370>は、「がん免疫細胞治療」領域のパイオニアとして走り続けてきた、創業25年を迎える老舗バイオベンチャーである。創業者である木村佳司(きむらよしじ)氏(現 代表取締役社長)と東京大学医科学研究所において、がんと分子免疫学の研究者であった故 江川滉二(えがわこうじ)氏(東京大学名誉教授)が出会い、当時認知されていなかったがん免疫細胞治療を、“患者さんのため”に新しい治療法を提供すべく、「免疫細胞療法総合支援サービス」(当時)という画期的な新しいビジネスモデルをデザインし、事業化するに至った。
現在、同社の事業ポートフォリオは「細胞加工業」と「再生医療等製品事業」から成る。前者は医療機関で保険外診療(自費診療)として行われる治療用の細胞の加工・培養を行う特定細胞加工物製造業をはじめ、CDMO事業※1(開発・製造受託業)とバリューチェーン事業(施設設計から運用管理業務受託)に細分され、いずれも収益化が実現しているビジネスである。後者は、薬機法で規定された再生医療等製品を開発し、失われた臓器やからだの機能を修復させる製品として、保険診療で用いられることで収益となる再生医療ビジネスである。同社は「細胞加工業」で最新の再生医療を今必要としている患者に届け、「再生医療等製品事業」では、保険診療を通じてより多くの患者に再生医療を届けたいという想いを持ち、開発を行っている。一般的にはバイオベンチャーはハイリスク・ハイリターンである再生医療や創薬の一本足打法が多い中、同社は二兎を追う“両利きの経営”※2を実践する希有な存在である。
※1 CDMO(Contract Development Manufacturing Organization)とはバイオ医薬品の受託開発・製造企業を指す。
※2 “両利きの経営”:不確実性の高い「探索」(新結合のための試行錯誤)を行いながらも、「深化」(既存の深掘り、改善)によって安定した収益を確保しつつ、そのバランスを取って両者を高いレベルで実現していく。
1. 細胞加工業は事業構造改革により“黒転”化、早期のV字回復と真の収益の柱を目指す
同社は2018年9月期には「ACCEPT2021戦略」を掲げ、全国4拠点あった細胞培養加工施設の統合集約、連結子会社2社の吸収合併、大胆な合理化と早期退職募集の実施に取り組み、コア事業である細胞加工業は最大571百万円の赤字(2018年9月期)をわずか1年間で“黒転(黒字転換)”へと回復させている。
同社は今後、細胞培養加工のパイオニアとして細胞加工技術の多様化と安定受注体制を強化し、がん免疫細胞治療分野からほかの特定細胞加工物(各種の幹細胞など)まで幅広い細胞加工展開、細胞加工プロセスに関するバリューンチェーンのワンストップ受託サービス、中国、台湾など海外市場進出やインバウンド患者の受入など、これらの戦略を総動員して、業績の早期V字回復と真の収益の柱とすることを目指している。
2.“日本における自家細胞培養軟骨(開発番号 MDNT01)”の国内開発は足踏み状態。本件を踏まえ開発テーマの厳選と自社開発体制の整備・強化が急務
同社は2017年12月から米国ヒストジェニックスと自家細胞培養軟骨NeoCart®※1の日本国内での製造・販売権契約を交わした。2018年12月に、米国FDA(米国食品医薬品局)の第3相臨床試験(安全性・有効性評価)の最終評価を発表、米国ヒストジェニックスのデータは有効性を示唆する結果ではあったものの、生物学的製剤承認申請(BLA)には追加の臨床試験が必要となり、米国ヒストジェニックスにおける開発を一時中断した。その後、米国ヒストジェニックスが米国Ocugenと合併、同社と米国Ocugen(旧 ヒストジェニックス)間で締結した自家細胞培養軟骨NeoCart®に関する製造・販売権契約はNeoCart®関連資産ともども、米国Medavateに譲渡されることが検討されており、日本国内における自家細胞培養軟骨(開発番号:MDNT01※2)の開発に係る協議を今後進めていく段階にある。同社はこの研究開発のために大規模な資金調達を行っていたが、プロジェクトが停滞状態となった。同社は2021年に再生医療等製品として国内の製造販売承認取得を目指していたが、計画変更を迫られることとなっている。今後は米国内における技術ライセンスの資産譲渡の完了を待って、「日本国内における膝軟骨の開発」に係る協議を進める予定である。今後同様の機会に備え、同社は再生医療等製品の開発テーマの厳選と自社開発体制の整備・強化が急がれる。
※1 自家細胞培養軟骨NeoCart®は米国における登録商標
※2 開発番号MDNT01は同社による日本国内における開発番号
3. ニューノーマル時代に向けて、全社一丸となり意識改革と行動変容に取り組み、企業変革に挑む
現在、日本における各企業は新型コロナウイルスの影響により、“ニューノーマル(新常態)”に向けての企業変革に取り組んでいるが、今が「会社が変わる」絶好のチャンスでもある。同社はがん免疫細胞治療のファーストムーバー(先行者)ということで、新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発についての問い合わせが殺到しているという。確かに新型コロナウイルスの発症、治癒のメカニズムには免疫機能が大きく関与しており、免疫細胞を利用した治療薬やワクチン開発への応用といった面で、同社の動向に注目が集まるのだろう。同社では、現在、開発について検討状況にあるということで、今後適時適切に開示されることが期待される。こうした事例は、同社の経営姿勢でもある「患者さんのために、患者さんのQOLを最優先」をあらわす好事例である。同社は企業変革に向けて動きはじめており、経営姿勢を基に全社一丸となって、意識改革と行動変容への取り組みを行っていくとしている。
■Key Points
・細胞加工業は事業構造改革により“黒転”化、早期のV字回復と真の収益の柱を目指す
・“日本における自家細胞培養軟骨(開発番号 MDNT01)”の国内開発は足踏み状態。本件を踏まえ再生医療等製品の開発テーマの厳選と自社開発体制の整備・強化が急務
・ニューノーマル時代に向けて、全社一丸となり意識改革と行動変容に取り組み、企業変革に挑む
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
<EY>
メディネット<2370>は、「がん免疫細胞治療」領域のパイオニアとして走り続けてきた、創業25年を迎える老舗バイオベンチャーである。創業者である木村佳司(きむらよしじ)氏(現 代表取締役社長)と東京大学医科学研究所において、がんと分子免疫学の研究者であった故 江川滉二(えがわこうじ)氏(東京大学名誉教授)が出会い、当時認知されていなかったがん免疫細胞治療を、“患者さんのため”に新しい治療法を提供すべく、「免疫細胞療法総合支援サービス」(当時)という画期的な新しいビジネスモデルをデザインし、事業化するに至った。
現在、同社の事業ポートフォリオは「細胞加工業」と「再生医療等製品事業」から成る。前者は医療機関で保険外診療(自費診療)として行われる治療用の細胞の加工・培養を行う特定細胞加工物製造業をはじめ、CDMO事業※1(開発・製造受託業)とバリューチェーン事業(施設設計から運用管理業務受託)に細分され、いずれも収益化が実現しているビジネスである。後者は、薬機法で規定された再生医療等製品を開発し、失われた臓器やからだの機能を修復させる製品として、保険診療で用いられることで収益となる再生医療ビジネスである。同社は「細胞加工業」で最新の再生医療を今必要としている患者に届け、「再生医療等製品事業」では、保険診療を通じてより多くの患者に再生医療を届けたいという想いを持ち、開発を行っている。一般的にはバイオベンチャーはハイリスク・ハイリターンである再生医療や創薬の一本足打法が多い中、同社は二兎を追う“両利きの経営”※2を実践する希有な存在である。
※1 CDMO(Contract Development Manufacturing Organization)とはバイオ医薬品の受託開発・製造企業を指す。
※2 “両利きの経営”:不確実性の高い「探索」(新結合のための試行錯誤)を行いながらも、「深化」(既存の深掘り、改善)によって安定した収益を確保しつつ、そのバランスを取って両者を高いレベルで実現していく。
1. 細胞加工業は事業構造改革により“黒転”化、早期のV字回復と真の収益の柱を目指す
同社は2018年9月期には「ACCEPT2021戦略」を掲げ、全国4拠点あった細胞培養加工施設の統合集約、連結子会社2社の吸収合併、大胆な合理化と早期退職募集の実施に取り組み、コア事業である細胞加工業は最大571百万円の赤字(2018年9月期)をわずか1年間で“黒転(黒字転換)”へと回復させている。
同社は今後、細胞培養加工のパイオニアとして細胞加工技術の多様化と安定受注体制を強化し、がん免疫細胞治療分野からほかの特定細胞加工物(各種の幹細胞など)まで幅広い細胞加工展開、細胞加工プロセスに関するバリューンチェーンのワンストップ受託サービス、中国、台湾など海外市場進出やインバウンド患者の受入など、これらの戦略を総動員して、業績の早期V字回復と真の収益の柱とすることを目指している。
2.“日本における自家細胞培養軟骨(開発番号 MDNT01)”の国内開発は足踏み状態。本件を踏まえ開発テーマの厳選と自社開発体制の整備・強化が急務
同社は2017年12月から米国ヒストジェニックス
※1 自家細胞培養軟骨NeoCart®は米国における登録商標
※2 開発番号MDNT01は同社による日本国内における開発番号
3. ニューノーマル時代に向けて、全社一丸となり意識改革と行動変容に取り組み、企業変革に挑む
現在、日本における各企業は新型コロナウイルスの影響により、“ニューノーマル(新常態)”に向けての企業変革に取り組んでいるが、今が「会社が変わる」絶好のチャンスでもある。同社はがん免疫細胞治療のファーストムーバー(先行者)ということで、新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発についての問い合わせが殺到しているという。確かに新型コロナウイルスの発症、治癒のメカニズムには免疫機能が大きく関与しており、免疫細胞を利用した治療薬やワクチン開発への応用といった面で、同社の動向に注目が集まるのだろう。同社では、現在、開発について検討状況にあるということで、今後適時適切に開示されることが期待される。こうした事例は、同社の経営姿勢でもある「患者さんのために、患者さんのQOLを最優先」をあらわす好事例である。同社は企業変革に向けて動きはじめており、経営姿勢を基に全社一丸となって、意識改革と行動変容への取り組みを行っていくとしている。
■Key Points
・細胞加工業は事業構造改革により“黒転”化、早期のV字回復と真の収益の柱を目指す
・“日本における自家細胞培養軟骨(開発番号 MDNT01)”の国内開発は足踏み状態。本件を踏まえ再生医療等製品の開発テーマの厳選と自社開発体制の整備・強化が急務
・ニューノーマル時代に向けて、全社一丸となり意識改革と行動変容に取り組み、企業変革に挑む
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
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