■中長期の成長戦略
1. 事業環境認識と目指す方向性
販売システム(レンタルサーバーやEC総合支援サービス「ショップサーブ」など)から事業をスタートし、直近では販促システム(「Eストアーコンペア」や「Eストアークエリー」)をリリースするなど、ITやデジタルを事業に活用するEストアー<4304>だが、成長戦略の中核には「アナログ戦略」を据えている。「アナログ」とは唐突だが、これを理解するには同社の現状認識を知る必要がある。
同社は、IT社会の進展は止まらないものの、需要側(消費者側)はIT(より正確にはIT化がもたらす情報供給量)に対し満腹感(膨満感)を感じていると分析している。こうした状況下にあっては、いわゆるビッグデータやAIを活用した需要予測を行っても有効性は低いと見ている。これに対して、企業側(同社にとっての顧客企業)と消費者との間にちょうど良い距離感、心地よさといった絶妙な関係を構築してこそ有効性を発揮する、と同社では考えている。同社はこれを「三河屋さん」と表現しているが、三河屋さんが個々の顧客に接するときのような絶妙な感覚を提供するのが「アナログ戦略」である。
同社の成長戦略に重要な影響を与えているもう1つの要素がデフレ経済だ。日本が人口減少社会に突入し、さらにはバブルを経験した世代が急速に高齢化する状況では、デフレ経済は今後も継続するというのが同社の認識である。そしてそれが、「消費社会(モノを消す・費やす社会)」から「持続社会(モノを持ち続ける社会)」への移行を促すと予測している。「持続社会」においてはモノが売れにくくなるため、既存客との絶妙な関係に根差した販売戦略、すなわち三河屋さん戦略(=アナログ戦略)がここでも重要になってくる。
デフレ経済はまた、販売手法においても企業に変革を迫ると同社は考えている。三河屋さん戦略を実践するには、モールなどの中間領域に頼らない販売戦略、すなわち直販へのシフトをせざるを得ないだろう、というのが同社の将来予測だ。
以上のような現状認識、将来予測から明らかなように、現在の3事業セグメントの中で、今後同社が特に注力する領域はサービス事業ということになる。もちろんシステムによるアプローチは重要だが、販売システムの中の「ショップサーブ」は競合の林立で徐々に非注力事業へと移行しつつある。販促システムは販促サービスの効率性アップに貢献すると期待され、販促サービス同様に注力分野になると考えられていたが、同社の販促システムに対して時期尚早という評価・反応が多いため、現状は無理押ししないでいる状況である。一方で、人の絡んだサービスを加えることで、消費者の機微を捉えることができるとするならば、販促・販売両面において人的サービスを厚くすることは必然性があると言える。
同社はこれまでも、社会状況の変化に合わせて自身の成長の方向性を徐々に変えてきたが、以上のような状況を踏まえて、ターゲットの企業サイズを、従来の中小・中堅から大企業へと移している。また、目指す収益も、販売システム・フロウ売上高(商規模連動料金収入)に当たる顧客売上高から、販促サービス事業におけるコンサルティングによるフィー収入などへとシフトしている。とはいえ、コンサルティングもその目的が顧客売上高の拡大にあることから、究極的には商規模連動料金収入の拡大にもつながるので、顧客売上高もコンサルティング収入と合わせて厚みを増すことは可能である。一方、コンサルティングフィーは一定以上の規模がないと支払うことが難しくなるため、コンサルティングへのシフトは大企業をターゲットとする戦略ともマッチする。
大口顧客シフトでストック収入からフロウ収入に切り替える
2.販売システム事業の成長戦略
事業の概要の項で述べたように、販売システム事業はその収入の性質から2つに分けられる。1つはEC総合支援のASPサービスである「ショップサーブ」そのものからの収入だ。これは月次利用料金が毎月入るストック型モデルの事業だ。もう1つは「ショップサーブ」の顧客企業の売上高拡大を支援し、その成果として「ショップサーブ」経由の売上高の一定割合を徴収する収入(商規模連動料金収入)だ。これはフロウ型モデルの事業となっている。同社は、これらストック収入とフロウ収入とに分けて管理している。
ストック型収入は減収基調が続いている。これは、同社同様のサービスが増加し競争が激化しているなか、同社は顧客の大口シフトを進めており、一方で同社の経営スタンスが一貫して「客数は追わない」ということになっていることから、一定割合で生じる解約(その多くは過去に獲得した個人商店や中小企業)に対して新規契約獲得が下回る状況が続いているためだ。一方のフロウ売上高も伸びが続かず、2019年3月期は一旦減収に転じた。大口顧客の新規獲得が計画を下回っているため、「ショップサーブ」の契約顧客数減少の影響をカバーできていないことが理由と考えられる。
一方、同社の思惑通り、1店舗当たりの売上高は概して増加している。1店舗当たり売上高の増加は、同一顧客における売上高増加と、大手シフトによる顧客構成の変化による増加に分けられる。同社が現在目指しているのは後者で、「良品良店へのシフト」をスローガンに掲げ、新規契約の獲得において大口顧客へのシフトを進めているのである。新規大口顧客の獲得は「客数は追わない」のでストック収入の増大につながらない。しかし、フロウ売上高においては、1店舗当たり売上高の大きい大口顧客へのシフトによる売上構成の変化で、今はまだ効果が薄いが、拡大が期待できる。これも、ストック収入からフロウ収入に切り替える取り組みと言うことができるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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1. 事業環境認識と目指す方向性
販売システム(レンタルサーバーやEC総合支援サービス「ショップサーブ」など)から事業をスタートし、直近では販促システム(「Eストアーコンペア」や「Eストアークエリー」)をリリースするなど、ITやデジタルを事業に活用するEストアー<4304>だが、成長戦略の中核には「アナログ戦略」を据えている。「アナログ」とは唐突だが、これを理解するには同社の現状認識を知る必要がある。
同社は、IT社会の進展は止まらないものの、需要側(消費者側)はIT(より正確にはIT化がもたらす情報供給量)に対し満腹感(膨満感)を感じていると分析している。こうした状況下にあっては、いわゆるビッグデータやAIを活用した需要予測を行っても有効性は低いと見ている。これに対して、企業側(同社にとっての顧客企業)と消費者との間にちょうど良い距離感、心地よさといった絶妙な関係を構築してこそ有効性を発揮する、と同社では考えている。同社はこれを「三河屋さん」と表現しているが、三河屋さんが個々の顧客に接するときのような絶妙な感覚を提供するのが「アナログ戦略」である。
同社の成長戦略に重要な影響を与えているもう1つの要素がデフレ経済だ。日本が人口減少社会に突入し、さらにはバブルを経験した世代が急速に高齢化する状況では、デフレ経済は今後も継続するというのが同社の認識である。そしてそれが、「消費社会(モノを消す・費やす社会)」から「持続社会(モノを持ち続ける社会)」への移行を促すと予測している。「持続社会」においてはモノが売れにくくなるため、既存客との絶妙な関係に根差した販売戦略、すなわち三河屋さん戦略(=アナログ戦略)がここでも重要になってくる。
デフレ経済はまた、販売手法においても企業に変革を迫ると同社は考えている。三河屋さん戦略を実践するには、モールなどの中間領域に頼らない販売戦略、すなわち直販へのシフトをせざるを得ないだろう、というのが同社の将来予測だ。
以上のような現状認識、将来予測から明らかなように、現在の3事業セグメントの中で、今後同社が特に注力する領域はサービス事業ということになる。もちろんシステムによるアプローチは重要だが、販売システムの中の「ショップサーブ」は競合の林立で徐々に非注力事業へと移行しつつある。販促システムは販促サービスの効率性アップに貢献すると期待され、販促サービス同様に注力分野になると考えられていたが、同社の販促システムに対して時期尚早という評価・反応が多いため、現状は無理押ししないでいる状況である。一方で、人の絡んだサービスを加えることで、消費者の機微を捉えることができるとするならば、販促・販売両面において人的サービスを厚くすることは必然性があると言える。
同社はこれまでも、社会状況の変化に合わせて自身の成長の方向性を徐々に変えてきたが、以上のような状況を踏まえて、ターゲットの企業サイズを、従来の中小・中堅から大企業へと移している。また、目指す収益も、販売システム・フロウ売上高(商規模連動料金収入)に当たる顧客売上高から、販促サービス事業におけるコンサルティングによるフィー収入などへとシフトしている。とはいえ、コンサルティングもその目的が顧客売上高の拡大にあることから、究極的には商規模連動料金収入の拡大にもつながるので、顧客売上高もコンサルティング収入と合わせて厚みを増すことは可能である。一方、コンサルティングフィーは一定以上の規模がないと支払うことが難しくなるため、コンサルティングへのシフトは大企業をターゲットとする戦略ともマッチする。
大口顧客シフトでストック収入からフロウ収入に切り替える
2.販売システム事業の成長戦略
事業の概要の項で述べたように、販売システム事業はその収入の性質から2つに分けられる。1つはEC総合支援のASPサービスである「ショップサーブ」そのものからの収入だ。これは月次利用料金が毎月入るストック型モデルの事業だ。もう1つは「ショップサーブ」の顧客企業の売上高拡大を支援し、その成果として「ショップサーブ」経由の売上高の一定割合を徴収する収入(商規模連動料金収入)だ。これはフロウ型モデルの事業となっている。同社は、これらストック収入とフロウ収入とに分けて管理している。
ストック型収入は減収基調が続いている。これは、同社同様のサービスが増加し競争が激化しているなか、同社は顧客の大口シフトを進めており、一方で同社の経営スタンスが一貫して「客数は追わない」ということになっていることから、一定割合で生じる解約(その多くは過去に獲得した個人商店や中小企業)に対して新規契約獲得が下回る状況が続いているためだ。一方のフロウ売上高も伸びが続かず、2019年3月期は一旦減収に転じた。大口顧客の新規獲得が計画を下回っているため、「ショップサーブ」の契約顧客数減少の影響をカバーできていないことが理由と考えられる。
一方、同社の思惑通り、1店舗当たりの売上高は概して増加している。1店舗当たり売上高の増加は、同一顧客における売上高増加と、大手シフトによる顧客構成の変化による増加に分けられる。同社が現在目指しているのは後者で、「良品良店へのシフト」をスローガンに掲げ、新規契約の獲得において大口顧客へのシフトを進めているのである。新規大口顧客の獲得は「客数は追わない」のでストック収入の増大につながらない。しかし、フロウ売上高においては、1店舗当たり売上高の大きい大口顧客へのシフトによる売上構成の変化で、今はまだ効果が薄いが、拡大が期待できる。これも、ストック収入からフロウ収入に切り替える取り組みと言うことができるだろう。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
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