アドバネクス Research Memo(6):今後、本格的な成長フェーズに入る

配信元:フィスコ
投稿:2020/01/06 15:36
■今後の見通し

1. 2020年3月期の業績見通し
アドバネクス<5998>の2020年3月期の通期業績は、期初予想が据え置かれた。売上高は前期比4.4%増の21,900百万円、営業利益が同396.1%増の330百万円、経常利益が同274.1%増の260百万円、親会社株主に帰属する当期純利益が50百万円(前期は107百万円の損失)である。新工場の先行投資負担が大きかったが、稼働率上昇に伴い徐々に損失幅が圧縮され、黒字化を予想する。

2019年6月にチェコ工場と埼玉工場二期工事が完了したことで、中期経営計画の工場拡張計画は終了した。これまでの経緯を踏まえ、インド工場とチェコ工場は賃貸として初期投資及び採用を抑え、創業赤字を圧縮する。2020年3月期の設備投資額は、前期の4,144百万円から1,982百万円へ減少する。減価償却費は、同1,008百万円から1,240百万円へ増加する見込みである。


投資回収期に入り、収益力向上に注力する
2. 収益改善策と工場別収益改善の取り組み
国内外の工場の収益状況は、開設もしくは買収後の経過年数で顕著な傾向が見て取れる。特殊要因を除けば、開始後5年以上経過する工場はおおむね黒字である。一方、5年未満の“未成年”工場は、総じて損失を計上している。

ここ4年間でメキシコ、インドネシア、チェコ、インドに新工場を開設し、17拠点、11ヶ国にまたがった生産体制を築いた。多極化によりリスクが分散され、顧客の生産地変更や世界情勢の変化に柔軟に対応できるようになった。反面、多額の先行投資により財務バランスが悪化した。今後の投資回収期では、収益力向上に一層力を入れる。

(1) 埼玉工場
2016年1月に開設した埼玉工場は、自動車部品専用の自動車関連事業の中核工場となる。まだ3年しか経っておらず損失金額が大きい。2018年7月に、ようやくIATF16949の認証を取得した。同認証は、ISO9001:2015に自動車業界固有の品質マネジメントシステムの要求事項を追加した規格であり、ISO/TS16949に取って代わった。当初はISO/TS16949の取得を目指していたが、認証規格が定義の変更や要求事項が倍増されるなど大幅な改定が成されたIATF16949に替わったことで想定以上の期間を要した。

埼玉工場(建屋面積5,000平米)は、2020年以降の需要拡大に対応するため、2019年6月に工場面積を3,670平米拡張する増設工事を完了した。生産スペースが2倍となったが、空いているスペースを急いで埋めるよりも、同社の要素技術が生かせる付加価値の高いもの、また、投資回収率の良いものにフォーカスして受注するようにしている。パワーコントロールユニット、インバーター、バッテリーなど多くの次世代自動車基幹部品向けを量産する。新製品の生産が軌道に乗れば、稼働率向上に伴い収益性も改善する。拡張工事の減価償却費の負担増があるものの、2年以内の黒字化を目指す。

(2) インドネシア工場
2020年3月期第2四半期に、インドネシア工場の収益が改善したことが、営業利益の増加に大きく貢献した。インドネシア工場は、通期の黒字化を見込んでいる。2017年1月に連結子会社化した同工場は、量産計画が遅れた上、材料費の高騰と現地通貨安を受けて、前期にのれん代67百万円を減損処理したことから、連結ベースで当期純損失に陥った要因の1つとなった。買収前の品質管理に問題があり、取引量を削減されたが、同社の生産管理や技術ノウハウを導入して顧客の信頼を回復したため、業績は上向いている。自動車業界からの引き合いも多く、国内市場のポテンシャルは高い。

(3) メキシコ工場
2016年4月に新たに操業したメキシコ・ケレタロ州にあるメキシコ工場は、既存建屋を賃貸することで、初期投資を抑制した。賃貸する面積は、3,038平米から始まり、6,000平米、9,000平米へと段階的に拡大している。2020年と2021年は、欧米Tier 1向けに利用面積が拡大し、2022年には日系Tier 1向けの生産を開始する予定にしている。米国政府の政策変更があり、競合先がメキシコ進出に躊躇したため、日系企業から想定以上の引き合いが同社に集中している。また、2018年に合意された米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により自動車部品のメキシコ国内製の比率を高めるインセンティブが働いていることも追い風となっている。品質マネジメント規格IATF16949を取得し、徐々に売上が増加している上、2021年3月期以降から大型プロジェクトが始まるため、1年以内の黒字化を見込む。2023年3月期に、稼ぎ頭になると期待されている。南米、日本、欧州へも輸出する。

(4) ベトナム工場
2018年11月に、旧工場の4倍の面積(8,000平米)の新工場に移転。2006年以来、ベトナムにおいて主にOA機器向けに線ばねを生産販売してきた。新工場では、新たにプレス加工を導入し板ばねの生産を開始する。将来的にはインサートモールド、深絞り加工品へと拡大する。日本や中国から生産移管されるOA機器向けの需要を取り込む。新工場への引っ越しにより固定費が増加しているも、2020年3月期第2四半期に計画を上回る収益を上げた。旧工場の収益を超えるのは2年以内と、1年前倒しの予想に改めた。

(5) インド工場
2019年4月に、自動車向けを中心に線ばねを生産するインド工場が稼働した。近年開設した他の新工場の立ち上がりが鈍く、収益状況が軒並み計画値を下回っていることに鑑み、インド工場は賃貸とし、面積も2,157平米と同社工場としては小さな規模から始めた。シンガポールとタイから生産品目を移管することで、立ち上げ時の仕事量を確保している。欧米系、日系、インド系の有力顧客から多くの引き合いが来ているものの、国内市場の減速でスタートは遅延した。稼働から1年以内に黒字化する見通しだ。

(6) チェコ工場
欧州では、イギリスに生産拠点を有するが、大陸では初の工場をチェコに開設する。2019年6月に完成したが、賃貸面積の7,700平米を当初からフルに使うわけではない。直近では、品質規格や顧客認定に注力している。投資先行で立上げコスト負担が大きくなったメキシコの二の舞を演じないよう、イギリスから医療用ばねを移管し、スタート時の生産量を確保することでマイナスのインパクトを軽減する。最終的には、欧州の自動車関連ビジネスの拡大を目指す。チェコには日系・欧米系自動車メーカーや自動車部品メーカーが多く、自動車産業の集積地として注目されている。同工場の立地は、ドイツへのアクセスも良い。黒字化は、稼働後2年以内を目標とする。

(7) アメリカ工場とイギリス工場
アメリカ工場とイギリス工場は、それぞれ工場を統合する。一時的な費用が発生するも、収益力を強化する。アメリカ工場は、メキシコ工場への一部生産移管などによる余剰スペースが発生したことから、プレス専用の第2工場を閉鎖する。イギリス工場は、EU離脱による需要低下への備えと、チェコ工場への一部生産移管をするため、第2工場の生産を停止する。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 瀬川 健)

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