[資源・新興国通貨7/15~19の展望]トルコリラ:中銀総裁解任、S-400問題

著者:八代 和也
投稿:2019/07/12 13:45

トルコリラ

トルコ政府は7月6日、チェティンカヤTCMB(トルコ中銀)総裁を突然解任。理由は利下げをしなかったためと考えられます。

TCMBは2018年9月に政策金利を24.00%に引き上げて以降、その水準を維持してきました。一方、エルドアン大統領は“(高)金利の敵”と自称し、政策金利が下がればインフレ率(CPI上昇率)は下がると主張。TCMBに対して利下げするように圧力を加えてきました。

ウイサル新総裁(副総裁から昇格)は就任早々、難しい立場に置かれています。TCMBは7月25日に政策会合を開催します。そこで大幅な利下げを決定すれば、市場では中銀の独立性をめぐる懸念が一段と高まるおそれがあります。一方で政策金利を据え置けば(あるいは小幅な利下げの場合も)、エルドアン大統領は金融政策への介入をさらに強める可能性があります。ウイサル総裁はTCMBの独立性をめぐる懸念を払しょくし、かつエルドアン大統領が納得する決定を下す必要があると考えられます。

また、S-400(ロシア製地対空ミサイルシステム)が今週中にトルコへ納入されるとの報道があります。米国はトルコに対してS-400を導入しないように強く要請しており、導入を進めれば制裁を科すと警告しています。米国の対トルコ制裁が現実味を帯びた場合にはトルコリラが下落しそうです。トルコリラ/円は17.917円(6/20安値)へと下がる可能性があります。

豪ドル

豪州の6月雇用統計が7月18日に発表されます。RBA(豪中銀)は金融政策運営において労働市場の動向を注視する姿勢を示しているため、雇用統計の結果が豪ドルの行方を決める可能性があります。

雇用統計の市場予想は失業率が5.2%、雇用者数が前月比1.50万人増(いずれも本稿執筆時点)。市場ではRBAが11月に追加利下げに踏み切るとの見方が有力です。雇用統計(特に失業率)が市場予想より弱い結果になれば、11月利下げ観測が一段と高まるだけでなく、利下げが前倒しされるとの観測も浮上する可能性があります。その場合、豪ドル/米ドルは0.68323米ドル(6/18安値)に接近し、豪ドル/円は73.885円(同)に近づくかもしれません。

NZドル

NZの4-6月期CPI(消費者物価指数)が7月16日に発表されます。その結果がNZドルの動向に影響を与える可能性があります。

RBNZ(NZ中銀)は5月の金融政策報告で、1-3月期のCPIを前期比+0.6%、前年比+1.7%との見通しを示しました。市場ではRBNZが8月7日の次回会合で追加利下げを決定するとの観測があります。市場の金融政策見通しを反映するOIS(翌日物金利スワップ)が7月11日時点で織り込む、8月の利下げの確率は73.3%(据え置きは26.7%)。CPIがRBNZの見通しを下回れば、8月の利下げ観測は一段と高まり、NZドルが下落するとみられます。NZドル/米ドルとNZドル/円の当面の下値メドは、それぞれ0.65576米ドル(7/10安値)や71.417円(同)が挙げられます。

カナダドル

BOC(カナダ中銀)は7月10日、政策金利を1.75%に据え置くことを決定。据え置きは6会合連続です。声明では「最近の経済指標は、カナダ経済が予想通り潜在成長率へと回復していることを示す」としながらも、「見通しは持続的な貿易をめぐる緊張によって曇っている」と指摘。「現在の政策金利によって実現されている緩和の度合いは依然として適切」との見方を示しました。

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BOCは「緩和の度合いは適切」との見方を維持し、またポロズBOC総裁は会合後の会見で「逆風が強まるか弱まるまでは、本日(7/10)の政策金利設定に満足している」と語り、政策金利を当面据え置くことを示唆しました。

一方で米中貿易摩擦の影響に対する懸念を強めているようです。声明は「貿易摩擦の激化は世界やカナダの見通しにとって最大の下方リスクだ」と指摘したほか、持続的な貿易をめぐる緊張が見通しを曇らせているとしました。

ただ、BOCが近い将来に利下げ方向に舵を切る可能性は低いとみられます。米国やユーロ圏とは異なり、カナダのインフレ率は中銀の目標中央値近辺で推移しているためです。BOCのインフレ目標は+2%。カナダの5月総合CPI(消費者物価指数)は前年比+2.4%、BOCが総合指数以上に重視する3つのコアインフレ指標は共通値が+1.8%、トリム値が+2.3%、中央値が+2.1%でした。

金融緩和の可能性が高いFRB(米連邦準備理事会)やECB(欧州中銀)に追随することなく、BOCは政策金利を当面据え置くことを示唆しました。こうした金融政策の方向性の違いは引き続き、カナダドルの支援材料になるとみられます。米ドル/円が堅調に推移すれば、カナダドル/円は84.360円(4/17高値)に接近する可能性があります。

南アフリカランド

南アフリカランドは7月11日、対米ドルで約4カ月半ぶり、対円で約2カ月半ぶりの高値をつけました。外部環境(米FRBの利下げ観測、リスク回避の動きの後退)のほか、ラマポーザ大統領が10日にクガニャゴSARB(南アフリカ中銀)総裁の再任を決めました。それらがランドの支援材料となっており、ランドは引き続き堅調に推移する可能性があります。

SARBは7月18日に政策金利を発表します。5月の前回会合で据え置きの決定が僅差(3対2)だったことや南アフリカの1-3月期GDPの弱さ(前期比年率マイナス3.2%)を踏まえると、SARBは0.25%の利下げを決定しそうです。市場は0.25%の利下げを予想しており、そのため利下げをしたとしてもランド安材料にはなり難いと考えられます。

メキシコペソ

メキシコペソ/円(日足。2019/4/2-)
ウルスア・メキシコ財務相は7月9日、突然辞任を表明。後任にはエレラ副財務相が昇格しました。ウルスア氏は「多くの経済問題で政権内には意見の不一致があり、十分な根拠もなく政策が決定されている」と批判。「財務省の仕事に知識のない人物に(政策を)押し付けられるのは受け入れられない」としました。

ウルスア氏の辞任によって政権内の対立が浮き彫りとなっただけでなく、専門知識の乏しい人物によって経済政策が決定されている可能性も示されました。ウルスア氏辞任の報道を受けてメキシコペソが急落しましたが、それは一時的でした。知名度の高いエレラ氏が後任になったためです。市場は今後、新財務相の手腕を見極めていくと考えられます。

米国がメキシコの不法移民対策の中間評価を7月下旬に始める予定。米国は6月上旬に対メキシコ関税の発動を見送りましたが、あくまで期限を設けない「延期」であり、関税発動の可能性は残っています。中間評価に関する報道や米当局者からメキシコの移民対策に関する発言が出てくれば、それにメキシコペソが反応する可能性があります。

メキシコペソ/円は今月に入り、5.600から5.750円のレンジで推移しています。大きな材料が出てこなければ、引き続きこのレンジで上下動を繰り返しそうです。
八代和也
マネ―スクエア シニアアナリスト
配信元: 達人の予想