S&P500月例レポート(2019年5月配信)<中編>

●トランプ大統領と政府高官、そして外交相手国

 ○モラー特別検察官による報告書を巡る論争が続いており、議会は報告書全文の提出を求める召喚状を発行する(そうなれば法廷闘争となります)構えを示しましたが、司法省に再考する時間を与えました(政治的な駆け引きと見る向きもあります)。

 ○トランプ大統領は、最近の金利引き上げに公然と反対意見を述べてきた元大統領予備選挙共和党候補ハーマン・ケイン氏を連邦準備制度理事会(FRB)の理事候補に指名する意向を示しました。しかしその後、ケイン氏の指名に反対する意見が増えたことから、同氏は4月中に指名を辞退しました。

 ○トランプ大統領はEUによるフランス航空機大手エアバスへの補助金(WTOで14年間係争中です)に対する報復措置として、EUからの輸入品112億ドル相当に追加関税を課す考えであることを示しました。

 ○米下院(民主党が過半数)は2015年の「ネットワーク中立性」規制(通信会社に対し、顧客や料金によってインターネットの通信速度を差別化することを禁止)の復活法案を可決しました。ただし、上院(共和党が過半数)はこの法案が上院で「否決されることは初めから分かっている」と指摘しました。

 ○米国と中国は貿易協議について新たな期限を設け、米国の代表が中国を訪れました。5月には中国の代表が米国を訪れ(暫定予定日は2019年5月6日)、5月末か6月の「合意」を目指して協議を続けます。

 ○公共政策を巡る議論は引き続き広がりましたが、市場に与える影響は依然として限定的でした(影響を受けたのは主にヘルスケア関連銘柄で、医薬品の価格規制や国民皆保険制度法案が背景となりました)。その一方で、トランプ大統領の弾劾手続きの可能性を巡る論争を通じた民主党内の抗争が注目を集めました。それに関連して(直接的ではありませんが)、下院監視委員会(民主党員が過半数を占めています)はトランプ大統領(共和党)の8年間の税還付に関して召喚状(5月6日期限)を発行しましたが、大統領は召喚状の取り消しを求める訴えを起こしました。

 ○トランプ政権はイラン産原油の輸入禁止に関して、現在8カ国に認めている適応除外を延長しないことで、取引禁止を強化する意向を示しました(180日間の適応除外は5月18日に期限切れ)。

 ○バイデン前副大統領は20人目の民主党候補として、2020年米大統領選への出馬を表明しました。同氏は民主党の中で支持率が最も高い大統領候補となっています。今後の予定は、2020年7月に大統領候補の正式指名(共和党候補の正式指名は2020年8月)、2020年11月3日に大統領選挙、2024年の大統領選挙の立候補の開始は2020年11月4日と続いています(少し休ませてください)。

 ○トランプ大統領と民主党は2兆ドルのインフラ投資計画で合意しましたが、その財源については議論されませんでした(支出するのは簡単ですが、財源の確保は容易ではありません)。

●各国中央銀行の動き

 ○国際通貨基金(IMF)は、2019年の世界経済の成長率予測を1月発表時の3.5%(2018年10月時点では3.7%)から、3.3%に下方修正しました。2018年の成長率は3.6%でした。国別では、米国が2.3%(2018年は2.9%)、19カ国からなるEUが1.3%(同1.8%)、中国が6.3%(同6.6%)となっています。

 ○欧州中央銀行(ECB)は政策理事会を開催し、現在の政策を維持して利上げの時期を遅らせることを表明して2019年に利上げを実施しないことを示唆する一方、マイナス金利について懸念を示しました。

 ○日銀は金融政策決定会合で予想通りに金利の据え置き(マイナス0.1%)を決定し、フォワードガイダンスでは、今後1年間、金利を現在の水準に据え置くことを示しました。

 ○米連邦公開市場委員会(FOMC)が公表した3月20日開催の議事録によれば、参加メンバーの過半数が2019年は金利が据え置きになると予想しています。

 ○地区連銀経済報告(ベージュブック)によると、FRBは米国の経済成長率を「小幅~緩やか」と予想しています。

●企業業績

 ○2019年第1四半期の利益予想は十分に引き下げられていた模様で(2018年末から7.1%下方修正)、発表を終えた289社の73.0%(過去の実績を見ると67%)に当たる211社(時価総額では71.1%)で利益が予想を上回り、売上高に関しては284社の57.0%に相当する162社が予想を上回りました。第1四半期の営業利益は前期比6.1%増、前年同期比1.8%増と推測されます。2019年予想は年初時点から3.9%引き下げられています。上半期の引き下げ幅の方がより大きく(予想は常に期待を反映します)、2020年予想はわずかに引き下げられています(統計的に無視できる0.3%の下方修正)。2019年は前年比で8.9%増、2020年は前年比12.5%となる見通しです(2019年と2020年の2年間では2018年から22.5%増)。

 ○自社株買いが追い風となり、個別銘柄の企業業績(そして株価)は2019年第1四半期に大幅に上昇しました。記録的な自社株買いの累積効果によって、これまでに業績発表を終えた銘柄の72.7%でEPSの計算に用いられる株式数が前年比で減少し、そのうち28.3%の銘柄で株式数の減少を受けて前年比で少なくとも4%の押し上げ効果がありました。

●個別銘柄

 ○ドラッグストアチェーンWalgreens Boots Alliance(WBA)は、処方薬事業の利益低下を理由にガイダンスを下方修正しました。

 ○資産運用会社大手BlackRock(BLK)は、将来の成長を見込んで大規模な組織改革を行うことを明らかにしました。

 ○航空機大手Boeing(BA)が発表した2019年第1四半期の受注機数は95機となり、前年同期の180機から大幅に減少しました。3月に737MAX(現在、世界全体で運航が停止)の新規受注がゼロだったことに加え、製造機数も20%減少しました。同社は737MAXの運航停止に伴う(初期)費用が10億ドルに上るとの見通しを示した上で、自社株買いの停止を発表しました。これとは別に、投資家が737MAXに関する情報開示を巡り、同社に対して集団訴訟を起こしました。

 ○総合エンターテインメント企業Walt Disney(DIS)は、新たなストリーミングサービスの詳細を明らかにしました。新サービスはNetflix(NFLX)と競合するとみられます。

 ○Apple(AAPL)と通信機器メーカーのQualcomm(QCOM、4月は51.0%高)は、両社間で係争中の全ての訴訟(既に裁判は始まっています)を取り下げ、6年間のライセンス契約(2回の1年延長オプションを含む)を締結することで合意しました。

 ○電子機器大手Samsung(SSNHZ)は新型の折り畳みスマートフォンGalaxy Fold(販売価格は2,000ドル)の発売について、機能上の問題を理由に延期することを発表しました。

 ○S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスはDowDuPont(DWDP)からスピンオフされたDow(DOW)をS&P500指数に追加し、代わりにBrighthouse(BHF)を除外しました。また、ダウ平均でもDowDuPontに代わりDowが採用されることになりました。

●注目点

 ○国際エネルギー機関(IEA)は、原油価格が2018年末時点の1バレル=45.81ドルから64ドルまで上昇している要因として(2017年末は60.09ドル)、供給懸念(石油輸出国機構(OPEC)による減産、イランへの制裁、リビア内戦)を挙げた上で、世界的な景気減速を背景とした需要側の問題が圧力を一部打ち消す可能性があるとの見方を示しました。

 ○パリのノートルダム大聖堂で発生した火災により屋根の大部分が焼け落ちましたが、多くの寄付が集まり始めています。通常これは経済問題ではありませんが、寄付金が早くも10億ドルを超え、フランス政府が再建計画を発表したことで、費用の使い方によって建設資材市場や労働市場が影響を受ける可能性があります。

 ○ビットコインは5,000ドル台を回復し(2018年10月以来)、一時5,633ドルまで上昇しましたが、3月末の4,113ドルから上昇して5,344ドルで月を終えました。2018年末の3,747ドルを上回っていますが、2017年末の1万3,850ドルからは下落しています。

 ○米社会保障局(SSA)は、現行の制度は2020年に支出が収入を上回り、基金に手を付けざるを得なくなるとの最新の調査結果を示しました。

●利回り、金利、コモディティ

 ○米国10年国債の利回りは3月末の2.41%から上昇して2.50%で月を終えました(2018年末は2.69%、2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。

 ○英ポンドは3月末の1ポンド=1.3081ドルから1.3038ドルに下落し(同1.2754ドル、同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは3月末の1ユーロ=1.1220ドルから1.1216ドルに下落しました(同1.1461ドル、同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は3月末の1ドル=110.82円から111.41円に下落し(同109.58円、同112.68円、同117.00円)、人民元は3月末の1ドル=6.7121元から6.7348元に下落しました(同6.8785元、同6.5030元、同6.9448元)。

 ○原油価格は3月末の1バレル=60.20ドルから上昇して63.38ドルで月を終えました(同45.81ドル、同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は3月末の1ガロン=2.701ドルから2.972ドルに上昇して月末を迎えました(同2.358ドル、同2.589ドル、同2.364ドル)。

 ○金価格は3月末の1トロイオンス=1,296.90ドルから1,282.70ドルに下落して月を終えました(同1,284.70ドル、同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は3月末の13.71から低下して13.12で月末を迎えました。月中の最高は14.39、最低は11.03でした(同25.42、同11.05、同14.04)。

<後編>に続く
 


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配信元: みんかぶ株式コラム