S&P500月例レポート(2018年11月配信)<後編>

●トランプ大統領と政府高官

 ○米連邦捜査局(FBI)は、最高裁判事候補のブレット・カバノー氏のセクハラ疑惑に関する調査を行いました。その後、同候補は上院で承認され、最高裁は保守派とされる判事5人とリベラル派とされる判事4人という構成になりました(従来は4人対4人)。

 ○トランプ大統領は閣僚らに対し、5%の予算削減案を策定するよう指示しました。

 ○マコネル上院多数党院内総務(共和党)は北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新通商協定「USMCA」について、年内に採決を行わず、承認は2019年になるとの見方を示しました。ただし、中間選挙の結果次第で状況は変わる可能性があります(民主党が上院か下院のいずれかで過半数を確保した場合)。

 ○トランプ大統領はネバダ州で開かれた政治集会で、中間所得層を対象とした追加減税を早期に実施する意向を示しました。

 ○トランプ大統領は、ホンジュラスを出発し、現在はメキシコ国内を進んでいる移民キャラバン(推定7,000人)が米国に到達する前に止まらない場合、当該国への援助を削減すると警告しました。米軍は国境地域に兵士5,200人を追加配備する予定です(当初の配備は800人)。

●貿易

 ○米国、カナダ、メキシコは1994年に発効されたNAFTAの見直しについて期日に合意に達し、新協定の名称をUSMCAに決定しました。この合意は議会の承認を得た後(米国では11月の中間選挙の結果を反映した議会によって、2019年に承認される見通しです)、2020年に発効します。変更予定の条項には米国で生産される自動車部品比率の引き上げと、時間当たり最低賃金(時給16ドル。2020年には自動車の30%が労働者の最低時給の平均が16ドルである工場で生産されなければならず、2023年にはこの比率が40%になります。この条項により、メキシコではコスト増が発生します)が含まれます。自動車価格への影響はそれほど明確ではありませんが、最低時給条項を満たすために、生産が米国内の工場に変更される可能性があることから、製品価格が上昇するという見方が大半です。この協定は6年後の見直しも規定しています。

 ○9月の中国の対米貿易黒字は過去最高となる341億ドルを記録し、1-9月の累計では2,258億ドルの貿易黒字となりました。

●各国中央銀行の動き

 ○パウエルFRB議長は米国の景気見通しが「非常に良好」で、失業率は低水準で維持される見通し(誰か「根拠なき熱狂」と言いましたか?)であると述べたことを受けて、米国10年国債の利回りは上昇して3.26%と、2011年7月以来の高水準を付けました。

 ○FOMC議事録(9月会合の記録。この会合で利上げが決定されました)によれば、FOMCは景気が好調で緩やかな利上げが容認されるという認識で合意しました。

 ○地区連銀経済報告(ベージュブック)は経済要因に対する見方を「力強い」から「控え目から緩やかなペース」に変更し、個人消費支出に対する評価が従来の「力強い」から「緩やか」に変更されました。

 ○欧州中央銀行(ECB)は従来の金利と金融政策を維持することを決定しました。量的緩和プログラム(QE)を12月に終了する意向であることを改めて表明し、現在のイタリア財政問題の見通しを示しました。

 ○日銀は金利を据え置き(-0.1%)、近い将来の金利引き上げの可能性を否定しました。

●利回り、金利、コモディティは引き続き活発な動き

 ○米国10年国債の利回りは9月末の3.06%から上昇して3.14%で月を終えました(2017年末は2.41%、2016年末は2.45%)。

 ○英ポンドは9月末の1ポンド=1.3034ドルから1.2769ドルに下落し(同1.3498ドル、同1.2345ドル)、ユーロは9月末の1ユーロ=1.1606ドルから1.1319ドルに下落しました(同1.2000ドル、同1.0520ドル)。円は9月末の1ドル=113.69円から112.91円に上昇し(同112.68、同117.00)、人民元は9月末の1ドル=6.8689元から6.9758元に下落しました(同6.5030元、同6.9448元)。

 ○原油価格は9月末の1バレル=73.53ドルから下落して64.96ドルで月末を迎えました(同60.09ドル、同53.89ドル)。米国のガソリン価格(EIAによる全等級)は、9月末の1ガロン=2.923ドルから2.896ドルに下落しました(同2.589ドル、同2.364ドル)。

 ○金価格は9月末の1トロイオンス=1,195.10ドルから上昇し、1,217.10ドルで月を終えました(同1,305.00ドル、同1,152.00ドル)。

 ○VIX恐怖指数は9月末の12.12から上昇して21.23で月末を迎えました。月中の最高は28.84、最低は11.34でした(同11.05、同14.04)。

●S&P 500指数

 S&P 500指数にとって、10月は困難で歴史的な月となりました。景気の鈍化(企業業績、住宅市場、個人消費)、原材料と労働コスト、世界貿易(中国)をめぐる懸念といった要素が相まって、10月としては2008年10月(-16.94%)以来の下落率(-6.94%)を記録し、月間の下落率は2011年9月(-7.18%)以降で最悪となりました。投資家はS&P 500指数の下落により10月に1兆6,500億ドルを失いましたが、この月の好材料を挙げるとすれば、同指数が月末最後の2日間に力強く上昇(1.09%と1.57%)した結果、年初来でプラスにとどまったことです(1.43%、配当込みのトータルリターンは3.01%)。一方、米国以外の大半の国ではより大きく下落しました(米国以外の市場は10月に8.48%下落、年初来では13.28%下落)。

 出来高は増加(9月から38%増)、ボラティリティは上昇(1%以上変動した日数は10日(5日が上昇、5日が下落)、それ以前の3カ月には1%以上変動した日はゼロ)しました。この動きは企業業績に関する材料を反映しており、利益と売上高は予想を上回りましたが、市場ではさらなる上振れを期待していたため、第3四半期に過去最高益を更新する勢いでも失望を招きました。一部の企業は業績予想を下回り、その要因としてコスト高と貿易問題を挙げたことが下落の流れを強めました。振り返ってみると、相場下落の全体的なダメージは手に負えないほどではなく、3%下落した2日間でさえ、相場は急ピッチで下げたわけではありませんでした。売り手が参入した時に買い手が直ちに市場から退出したことで、単純に売りの不均衡が起きたようです(買い意欲があっても、売り一色になってしまえば買いたい銘柄の株価は下がります)。

 結局のところウォール街では、市場が企業業績を先取りした可能性があるとみており、記録的な高水準となった企業利益に関しても、今では企業の内部成長ではなく減税に起因するものだと考えられています。その結果、資金の一部引き上げやポジション再構築が起きました。下落によって下値形成がなされたとすれば、今後は上昇に向けて徐々に値固めをしていくでしょう(十分な調整期間があったことから、実際にそうなると思われます)。

 小売企業の決算発表が始まる(ホリデー商戦に関する見通しも発表されます)ことから、企業業績は引き続き11月の相場の流れを方向付けると思われます。11月6日の米中間選挙に関する市場参加者の予想は、下院の支配は民主党に移り、上院は共和党が過半数を維持するというものになっています。市場予想と実際の結果が大きく異なれば(例えば、民主党が下院でより多くの議席を獲得するか上院で過半数を占める、または共和党が両院で過半数を占める)、2016年11月の状況と同様に、相場は直ちに反応する可能性が高いでしょう。

 S&P 500指数は9月に0.43%(配当込みのトータルリターンは0.57%)上昇、8月に3.03%(同3.26%)上昇した後で、10月に6.94%(同6.84%)の大幅下落となりました。3カ月間では3.71%(同-3.25%)下落しましたが、年初来では引き続き1.43%(同3.01%)の上昇となっています。過去1年間では5.30%(同7.35%)、大統領選当日以降では26.74%(同31.75%)上昇しています。10月のS&P 500指数は一時的に(2018年9月20日に付けた最高値から)10%以上下落して調整局面入りしましたが、月末の2日間は買いが優勢で(底値買い)、年初来では引き続きプラスのリターンとなりました。

 10月はボラティリティが上昇し、1%以上変動した日数は23営業日中10日で、5日が上昇、5日が下落となり、そのうち2日間は3%下落しました。1%以上の変動は2018年6月25日(-1.37%)以来です。10月の平均日中値幅(高値と安値の差)は9月の2.68%から12.92%に大幅に拡大し(8月は4.30%、7月は5.52%でした)、最近の最高である2月の11.97%を上回り、2015年8月に付けた13.16%以来の高水準となりました。1年平均は6.33%、10年平均は6.85%です。

 出来高は10月に38%増加しましたが、実際の営業日数調整後(10月の23日に対して9月は19日)では14%増となりました。前年同月比では22%増加しています(営業日数調整後で16%増)。

 セクター間のリターンの格差も同様の傾向を示しました。10月はパフォーマンスが最高のセクター(生活必需品、2.12%上昇)と最低のセクター(エネルギー、11.33%下落)の騰落率の差は13.45%と、9月の7.43%(8月は10.53%、7月は6.25%)から拡大しました。騰落率の差は1年平均では10.44%(9月は10.01%)、年初来では23.16%(同25.05%)となっています。

 10月は11セクター中2セクターが上昇し、9月の6セクター、8月の8セクター(7月は11セクター)を下回りました。短期的な市場心理も(買い手が存在したにもかかわらず)下落の流れに拍車をかけました。生活必需品セクターが2.12%上昇して全セクター中最高のパフォーマンスを示しました。同セクターは10月で5カ月連続の上昇となりましたが、それ以前に4カ月連続で大幅に下落しているため、年初来では3.53%の下落となっています。リスクオンの流れから公益事業セクターも好調で1.91%上昇しました。多少の配当があるかもしれません(株を売らなくても、収入を得られます)。10月の上昇で、同セクターは年初来で1.87%の上昇に転じました(S&P 500指数の平均の1.43%を上回っています)。

 10月に最も下落したセクターの1つは一般消費財セクターです。同セクターは今年のパフォーマンスが最も良いセクターの1つでしたが、消費と貿易をめぐる懸念(輸入製品のコスト上昇)と一部の利益確定売りから11.33%下落し(エネルギーを小数点3位以下でわずかに上回る)、年初来では5.94%の上昇となっています。資本財・サービスセクターは10.86%と2桁の下落率を記録し、複数の銘柄が業績見通しを下回った要因として原材料コスト増とドル高を挙げました。同セクターは年初来では7.89%下落しています。ヘルスケアセクターは6.78%下落し、最近の上昇が巻き戻されましたが、年初来では7.36%の上昇となっています。情報技術セクターは上昇ペースが速すぎたという懸念から8.05%の大幅下落となりました。この下落によっても、同セクターは年初来でなお9.90%上昇しており、全セクター中最高となっています。

 10月は値下がりした銘柄数が値上がりした銘柄数を大きく上回りました。103銘柄が上昇(平均上昇率は3.97%)しましたが、値上がり銘柄数は9月の253銘柄から減少しました(8月は315銘柄)。そのうち10%以上値上がりした銘柄数は4銘柄(平均上昇率は19.10%)と、9月の13銘柄(8月は41銘柄)を下回りました。一方、値下がりした銘柄数は400銘柄(平均下落率は10.13%)と、9月の251銘柄(8月は189銘柄)を上回りました。そのうち、10%以上値下がりした銘柄数は170銘柄(平均下落率は12.78%)と、9月の16銘柄と、8月の19銘柄を上回りました。

 年初来では、10月の結果を受けて値下がり銘柄数が値上がり銘柄数を上回りました。値上がり銘柄数は218銘柄(平均上昇率は17.75%)と、9月の297銘柄(8月は304銘柄)から減少し、そのうち97銘柄(9月は183銘柄)が10%以上、57銘柄(同98銘柄)が25%以上値上がりしました。一方、値下がり銘柄数は287銘柄(平均下落率は15.10%、同208銘柄)で、そのうち168銘柄(同97銘柄)が10%以上、52銘柄(同25銘柄)が25%以上値下がりしました。
 

 

 

 

 

 

 

[執筆者]
ハワード・シルバーブラット
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックス
シニア・インデックス・アナリスト

 このレポートは、英文原本から参照用の目的でS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス(SPDJI)が作成したものです。SPDJIは、翻訳が正確かつ完全であるよう努めましたが、その正確性ないし完全性につきこれを保証し表明するものではありません。英文原本についてはこちらをご参照ください。
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配信元: みんかぶ株式コラム